6 / 72
第一章:あの日、再び
猫舌とケチャップ
しおりを挟む「まだ俺の分残ってる?!」
「…ギリギリ、ね。」
バタバタと玄関から戻ってきたアオ兄。
すっかり息が上がっている。…本当に、焦って戻ってきたらしい。
「セ~フ!なんだ、ヨウったらやっぱり優しいのねん。」
…「あと1分、遅かったら食べてたよ。」
え~。ヨウ君ったらつめた~い。
なんて口を尖らせつつ。アオ兄はニコニコと手を洗って、俺の正面の椅子に腰掛けた。
「いっただっきまーす!
...うん、冷めても美味しい!いや、やっぱ冷めてるから美味しい!」
とっくに冷めた野菜スープを、嬉しそうに頬張るアオ兄。
そんな姿を見て、
「ぶっ。」
ついさっき、全く同じ感想を持った猫舌の自分を思い出し
(やっぱり兄弟だな)
と、我慢できずに笑ってしまった。
「え?何?俺顔に何か付いてる?」
不機嫌だったはずの俺に突然笑われ。
アオ兄は、焦ったような困ったような顔になった。
…それがまた面白くて
「付いてるよ。思いっきりケチャップが。」
今朝の一連のイジワルを思い出し、ちょっとした仕返しを続けた。
「えー!?どこどこ?どこについてんの?!」
近くにあった布巾で、ゴシゴシと顔を拭うアオ兄を見つめる。
アオ兄…
…最近ますます、死んだ父さんに似てきたな。
「そんなんじゃ…いつまで経っても、取れないよ。」
幼い頃に死んでしまった母さんの顔は、正直あんまり覚えていないけど。
7年前のあの日、黒の悪魔による大惨事、リビ山での【黒の誕生】に巻き込まれて死んだ…父さんのことは。今でもはっきりと覚えてる。
…今のアオ兄の目元なんて、まんま父さんのそれだ。
「もうさすがに取れたよね?ね?」
アオ兄は、チカラも見た目も性格も…すべて揃った”完璧なお兄さん”って、周りは言うけど。
実際のアオ兄は、俺より少し子供っぽい所があって。
…いや、少しどころじゃないかも。
そんな、俺の前では”完璧な兄”だけではないアオ兄を見ながら、
俺はいたずらが成功したような、満足した気持ちになった。
「はいはい、ケチャップ…だったっけ?取れた取れた。
それはそうと…早く食べなきゃ、昼までに薪割り、終わらないよ?」
そう、にこやかに告げて。ひとまず、
”顔面ケチャップ探しの旅”からは、解放してあげた。
「…はっ!
今日って、薪割り担当も俺じゃん!?」
新しく出てきた”薪割り”というワードに、ハッとしたアオ兄は、
俺に追いつかんばかりの勢いで、必死にパンに食らいついた。
ーーーー【黒の再来】まで、あと9時間と58分ーーー
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる