黒の悪魔が死ぬまで。

曖 みいあ

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第一章:あの日、再び

分け与えよ

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「っ!パンの、良い匂いする!」

(アオ兄が当番の日は、パン率高いよなぁ~)と、
直近の朝食を、ぼんやり思い出しながら。1階キッチン横の、食卓の椅子に腰掛けた。

だけど…

…「あれ?」

”アオバ様特製の朝食”はテーブルに並んでいるが。
ついさっき朝食に呼んだ、”アオバ様”本人の姿は、どこにもなかった。

「アオ兄は食べないのー?」
どこにいるかも分からないが、そう広くない家だ、少し大きめの声で呼びかけてみる。


「昨日、街で頼まれた仕事、朝食前に終わらせとこうかと思ってさ!先食べちゃってて~!」

そう返事が聞こえたのは、さっきまで自分が訓練していた庭の方からで。

「はいよ~。」

そう、返事をしつつも…。

…こっそりテーブルから離れ。
庭に面した小窓から…身を乗り出して、庭を覗いてみた。

大して大きくない庭の中央、唯一ドカンと生える1本の木のそば。
木に向き合うようにして、アオ兄が立っているのが見えた。

そしてゆっくりと…

…アオ兄は、右腕の半袖を肩までまくっていく。

そして、そのまま右腕を…木に向かって、真っ直ぐに突き出す。


手のひらは地面に向けられる形となり。
袖がまくられ、あらわになった右肩下…つまり上腕付近。
右の上腕が太陽にさらされて、その日光で輝き始め…


…”チカラ”が、”発現”する。



「勅令(ちょくれい)するーーリュウマ、分け与えよ」



アオ兄の”勅令(ちょくれい)”を合図に。

アオ兄の周りが…”深緑色のモヤ”で、覆われていく。

兄”アオバ・オリーヴァー”のカラーズは、”深緑色”、なのだ。

そうして薄く張られた深緑のモヤの中。
上腕付近が、さらに光輝いていくのが見える。

そうして集まった光の塊の中…。より深い緑色に輝きだして…。


その輝きの中心から…



…あっという間に、手のひらサイズの、”深緑色のドラゴン”、が飛び出した。



「リュウマ、今日もよろしくね。」

アオ兄は、笑顔で声をかけ。

”リュウマ”と呼ばれた深緑色のドラゴンは、軽々と空中で一回転して見せた。

この”リュウマ”は、カラーズから具現化された、
通称、”溢れ出る色素ーーOVER COLORS(オーバーカラーズ)”と呼ばれる存在(モノ)。

だいたいは略称で、”OVER(オーバー)”と呼ばれている。

この、アオ兄の”オーバー”であるドラゴンのリュウマは、
空中を優雅に一回転した後…

すぐそばの大きな木に向け

「バオォ~。」
と、自身の体色よりやや薄い緑色の炎を吐き出した。


リュウマの口から出た炎は、みるみるうちに大きな木全体を包み込む。

「すごい…綺麗だな。」

何度見ても、飽きずに同じ感想を抱いてしまう。
やっぱりアオ兄…発現者って、かっこいい。

俺に、そう何度も思わせてくれる緑色の炎は、数秒の後、
何事もなかったかのように消えていった。


木に効果が現れるのは、もう少し後なのだが、

「うん!今日もかんっぺき!リュウマ、ありがとね。」
アオ兄は、上手くいったと確信しているみたいだ。

手のひらに戻ってきたリュウマの頭を、嬉しそうに撫で。
リュウマも、満足げに

「バオッ。」

と一声鳴き。
現れた時と同じように、空中を泳いで、そのまま空へと溶けて消えていった。



「さてっと..。

…あれ?また見てたのかぁ~。」


げっ。目が…合ってしまった。

「ま、まぁね…。」

ほんの30分前、
『アオ兄の力は借りない!』

…なんて。
ちょっとクールな弟を演出したのに…。


こっそり見ていたことも取り繕えず。
バツの悪い表情の俺に、

「先に食べてて良かったのに。
待っててくれたの?ヨウは優しいなぁ~。

ふふふ、何だかんだ俺のこと、大好きだもんね。」

アオ兄は、得意のニンマリ顔で。
容赦なく畳み掛けてくる。

「あ!それとも...。
アオバ様の超一流で華麗すぎる技から、チカラの発現に関するヒントを得ようと...?」

今度は大げさな素振りで腕を組み、真面目な表情で考える仕草をする。

…もはや本気なのか、茶化しているのか…。


お茶目すぎる兄の本心は、俺には分からなかったが

「…そうだな。うん、分かった。


…アオ兄の分まで、パン、食べたら。
なんかちょっと、発現できる気がしてきたな!うん。いっただっきまーす!」

ひとまず思いついた反撃のセリフを吐き。
庭を覗いていた小窓から、颯爽と身を引っ込めた。


「ちょ!冗談言い過ぎた!ごめんって~!」


(…やっぱり!冗談だったのかよ!)
と、心の中でツッコミ。

その少し焦った情けない声には、返事をすることなく。
すぐに1人で食卓の椅子に座った。

「...今度こそキツめに、だもんな!」
今朝、イジワルされた時の決意を思い出し。

戻ってくるアオ兄を待つことなく、美味しそうなパンへと手を伸ばした。



ーーー【黒の再来】まで、あと10時間と10分ーーー
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