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第六章 激震、マーリレンス大陸

#22 帰還(皇都へ)

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 俺達がこのパレミアナ平原の掃討戦を終わらせた後ファルから念話がきて、ガルムドゲルンに向かっていた魔物達は冒険者達と防衛隊で討伐することが出来たとのことだった。
 数は2000~3000程度の集団が二組、時間差で襲って来たらしく、これが最初から一気に来ていたら危なかったと言っていた…各個撃破出来たから何とか死守することが出来た、と。
 他の街も似たような感じで、規模的にはガルムドゲルンに来た集団よりは小さかったらしく、何れの街も無事だって…やっぱりこんな世界に生きている人達だけあって、日々魔物達の脅威と対峙しているんだからそう簡単に敗れることはない、ってわけなんだろうな…俺が一人であんなに焦るようなことも無かったんだな、と。
 でもアレだな…いつの間にかもうホント嫁達絡むとすぐカッとなっちゃうくらい大切な存在に…未だに嫁達っていう部分の違和感が完全に拭い去れていないんだけど…。

 一先ずファルの報告で安心は出来た…後はもうここを騎士団に任せて早くガルムドゲルンへ戻りたいところなんだけど、コイツらの扱いはどうなるんだろうか?

「……お前、さえ……いなければ………。…僕はまだ、この世界でやりたい事が腐る程あったのに……っ………」

「……申し訳…ありません………ケージ様……………」
「ごめんなさいぃ……ケージぃ…………」

 そう言えば力が奪われた魔王って前の大戦時でもどうしていたんだろうか…?このまま放置でいいのか?ちょっと気になったのでこの二人に聞いてみた。

「シルファ、リオ、前大戦時ってこうやって力を削いだ魔王はどうしてたんだ?」

「え?別にどうもしてないけど」

「………放、置……………」

「そ、そうなんだ……。いや、それで大丈夫なのか…?力を奪ったとはいえ魔王だろ?」

「いや、だってもうそこの人は魔王でも何でもないし。ただの魔人種よ」

「……力を…奪った、うえ…に………封じて、ある…から………」

「…ということは……一般人と変わらないってこと…?」

「一般人って程ではないと思うけど…腐っても魔人種だし。でもまぁ、そんなところでしょうね」
「………(コクっ………」


 あ、そうなの…やっぱり勇者ってだけあって凄いスキル持ってるのね……魔王を一般人に成り下がらせるとか。
 それじゃ本当に放置しておいても害は無い…こともないか、中身が変わったわけでもないし、力は無くなってもまた何か悪さをするかもしれない…。
 魔人種だから魔物達に襲われるような事は無いにしても、冒険者達からは狙われたりはするかも…まぁ、この大陸ではそんなことないだろうけど、ケージがいた大陸だとどうだか分からないしな…。
 っていうか、魔王不在の大陸って魔王側として何も問題無いんだろうか…。

「オーガ、魔王がいない大陸ってあっても大丈夫なのか?」

「ソレは…我にモ分からンな。恐らくダが魔統王はそこマデ細かく管理シているワケでもないだろウ…ほぼ魔王任セだからな。タだ負の感情の供給量くライは把握しテいるはズだ。それと今回ノ件で確実に勇者の存在ガ把握されタだろう…だカらと言って何かしてクルわけでも無いがな。精々見つケ次第排除しろくらイカ」

「…勇者固有の力を使ったからか…。それじゃ、これから本格的に魔統王討伐の旅に出なきゃいけなくなるな……」

 今回の件を見ると、まだ実力的に不安要素が満載なんだけど、だからと言って俺がずっと付いて行くってのもなぁ…。
 もうちょっと実力付けてからの方がいいような気がするし、別大陸に行く為には脚が必要だから、もう一人仲間が…騎竜になれる竜人が居ないとダメか?あー、いや、リオも最初っから騎竜だったわけじゃないから、大陸間移動は普通に海路使ってたのか。
 んー…どうしたらいいんだろうか、とか考えていたら烈華絢蘭の四人がケージに近付いていった…何やら神妙な顔付きで。

「……君は……竹名、なのか…?」

「………だったら何?」

「やっぱり…そうだったんだ……」

「竹名君…でしたの…?」

「そんな……なぜ君が魔王なんかに………」

「なぜ?ハッ、君らがそれを言うのか?どうせ見て見ぬふりどころか他の奴らと一緒になって笑ってたんだろう?僕が虐められてるところを見てさぁっ」

「そんな、こと…は………」

「まぁ、君らのその様子だと、僕がいなくなってからも何一つ変わらなかったんだろうね。あぁ、アイツらは標的がいなくなって残念くらいには思ってたかな?すぐ次の標的を見つけてよろしくやってるんだろうけどさっ」


「「「「………」」」」


 …想像通りやっぱり虐めにあってたのか。
 こっちの四人はそれを止めもせず傍観してたってところか、一緒になって虐めてたわけでは無さそうだけど…。
 でもその腹いせにこっちの世界の人達を虐げるのは俺的にどうあっても許せることじゃない、やられたらやり返したいって気持ちは分からなくもないけど、その相手が誰でもいいって…こっちの世界に来ちゃったんだから、どう頑張っても虐めてた奴らには返せないだろうけど、それでもそれを無関係な人達に返すのは無しだろう。
 …コイツの居た大陸が今どうなってるのかも気になってしまう…そこまでは俺もこの目で確認したいから攻瑠美達に付いて行くのも有りかな…。

「…虐められてた事には同情するけど、だからって関係ない人達に虐め返すってのはどう考えてもおかしいだろ」

「……煩いなっ!虐められた事が無い奴に僕の何が分かるっていうんだっ!」

「分かるわけないだろ、そんなの当事者にしか。けどお前がやったことは間違ってるってのだけははっきり分かるぞ」

「……煩い煩い煩いっ!僕はこの世界での魔王なんだっ!この世界の奴らだって、そんなの覚悟の上で生きているだろう!だから僕は何一つ間違ったことはしていないっ!」

「それ、は………」

「…ナオト、ソイツの言う通りだぜ。アタイらはそんなの生まれた時から覚悟の上で生きてんのさ」

「何があってもおかしくない世界やからな…。ナオの言う事も分かるんやけど、理由はどうあれそういうもんやってのは理解出来とるよ」

「ナオトさんは多分同じ漂流者がそれをやってるってところに抵抗があるんじゃないかな、って…」

「…けど、たとえどんな相手であれ、ナオちゃんには人の命だけは奪ってほしくないって……」

「お前ら漂流者ってのは、そういう人同士の命の奪い合いみたいなとこあんだろうけどよ…こっちはそんな事してる余裕なんかねー世界で生きてんだよ。魔物相手で手一杯なのに同じ人同士で、んなことやってる場合じゃねーことくらいバカでも分かるっての」

 ……根本的に考え方が違うってのは何となく分かってたけど…こういう考え方だから、皆俺の所に来てくれたってのもあるんだろうなって…。
 人同士の…命を掛けるようないざこざなんて起こして何になるって…だからこの大陸は戦争とかが一切無いんだろう、そんなことしてたらあっと言う間に魔物達に襲われて終わりだって誰でも分かってるから。
 だから人の命を奪うってことに過剰反応するんだろうな…忌避感が半端ない、皆を見てると。
 俺だって当然そう思ってるんだけど、それでも大切な人達に何かあったら多分黙っていられないだろう…今回みたいに。
 けど、それでも皆は俺にそうして欲しくないって、必死で止めてくれたんだよな…多分俺がそうするところを皆に見せてたら、離れていってしまうってのはよく分かった。
 そうならない為に、どんな状況になっても皆を護れるようになっておかないと駄目だってことが、今回の件では一番の収穫だったんだろうな、と。


「あー、そりゃ分かったけどよ…んじゃどーすんだ?コイツら」

「…一先ズ我が預ろウ。ゼクトが怒り狂うかモシれんが、我ガ何とカ宥めてミる……」

「…そうかよ。んじゃコイツらの事は頼むわ。お前ら四人も関係あんならオーガに手ぇくらい貸してやれよ」

「………分かった、そうさせてもらうよ………」

「話は纏まったか?」

 ケージの事について話をして、一旦どうするか決めたところで騎士団の人、多分指揮官クラスと思われる人が話し掛けてきた。

「エルムか。ああ、一先ずハな」

「そうか。我等はこれから皇都へ戻るが…オーガ達はどうする?」

「…Hum……戻ルのなら早い方がイイか。ナオト」

「……おい、まさか………」

「フッ、話が早くテ助かるナ。でハ頼む」

「お前な…いや、そりゃ多分出来るだろうけど、この人数で仲良く手を繋ぐってどうなのよ?」

「…?何の事だ?」

「あァ、コヤツの転移デ戻ろうかト、な」

「……この人数を転移だと?そんな事が可能なのか…?」

「可能か不可能かデ言えば可能ダロう。まぁ多少手間ダろうがナ」

「……間接的にでも俺に繋がっていれば、多分上限無しで転移出来ると思います…流石にこの人数はやったことありませんけど」

「そうなのか…。ではよろしく頼むとしよう、こちらとしても早く戻れるに越した事は無いからな。全員手でも繋いでおけばいいのか?」

「あ、はい…」

「我はコヤツらヲ連れて行く。そッチは任せタぞ、ナオト」

「……分かったよ。ええと…」

「ん?あぁ、私はエルムットジスタ・テラ・フォアレメナント、総騎士団長をやっている。エルムでもエルでも好きな様に呼んでくれて構わない」

「それじゃ、エルムさん。全員どんな形でも構いませんので触れていてもらえますか。終わったら声かけてもらえれば」

「了解した。少々時間を貰うぞ」

「ええ、お願いします」

 オーガがとんでもないこと振ってきた…軍隊一斉に転移とか、いや、まぁ出来るんだろうけど、俺の転移には向いてないぞそれ…。
 こういうのは範囲指定だけで出来る転移だろう、普通は。
 俺のは間接的にでも俺に繋がってるものしか転移出来ないんだから、大所帯は向いてない…って、いつもそれなりの人数で転移はしてたけど、流石に万単位ではやろうとも思わなかったって。

「なら俺らも別で行くか。シータちゃん達とシルファ達、あと攻瑠美達も俺と一緒に行くか?」

「いや、ウチらはナオと一緒に行くで?」

「あぁ、当然な。こればっかりは譲れねぇ」

「「うんうん(~)」「「「……(コクっ……」」」」

「あ、そう…。シルファ達は?」

「そうね…カインとアベルをお願いできるかしら?私はナオトと一緒に行くから」

「あーハイハイ、分かりましたよ。ってことでヒロシ頼むわ」

「しゃーねーなぁ…んじゃちっとはサービスしてやるか。知美、カインとアベル頼むわ…っていい加減カノン戻せよっ」

「はぁ~い…カノンちゃん、またよろしくねぇ~っ」

「はいニャー!」

 ポンッ

「……あ、あのわわ、私でよければ、ど、どうぞ……」

「……あ、あぁ…よろしく頼む、トモミ……(落差が…)」

「んで?攻瑠美と護璃達は?」

「えっ、と……」
「私、は……」

「にゃー達はどっちでもいいにゃよ?」
「クルミ達の好きにするといいっちゅ」
「別に分かれたって構わねーぞ?」
「………異論は無い」

「え、あっ…ど、どうしよっか?護璃……」
「く、攻瑠美こそ、どうしたいの…?」

「んだよ、俺に気ぃ遣ってんのか?お前らの好きにすりゃいーんだよ、こんなの」

「そうだぞ、ヒロシのフォローは私達に任せておけばいい」

「そうそうっ、それはアタシ達の役目なんだからねっ!」

「こんなんでフォローしてもらうことなんかねーわっ。ダチの妹に手ぇ出すほど俺は飢えちゃいねぇってのっ」

「いや、ただ転移するだけでどうしてそんな話になる……」

 あれか、もう転移って抱き付いてやらなきゃダメみたいな決めになってるからか?いつからそんなルールに…って最初からか。
 いや、勝手にルールにしたの皆だろう、俺は一言もそんなことしろとは言ってない…はず。
 っていうか、攻瑠美と護璃は何でそんな風になっているのかと。
 自分達でも転移は使えるけど、皇都には行ったことが無いだろうから今回は使えないってのは分かってる。
 俺でも弘史でもどっちでもいいと思うんだけど…あれだったら知美ちゃんでもいいだろうし。
 悩むようなことなのか?これ。

「クルミ、マモリ、遠慮しねーでコッチ来いよ」

「そうそう、こっちの世界では素直になったもの勝ちよ?」

「私たちとぉ~一緒じゃぁ嫌かなぁ~?」

「そっ、そんなコトはないよーっ」
「そうです、それはないですよ……」

「ほなええやんか、遠慮せんとナオにくっつき?」

「……気持ち…いい、よ………」

「「……(コクコクっ……」」

「え、そういう話なのこれっ?」

「それしかないやん。クルミ達は漂流者やからな、多少抵抗があるんやろ?」

「そ、そうなの…か……。じゃ、じゃあ、俺と一緒に行こうか…?攻瑠美、護璃……」

「「あ…うんっ!」「は、はい……」」

「それじゃ、チュチュ達はヒロシにお願いするっちゅっ」
「ヒロシーよろしくにゃーっ」

「っ!?マジかっ!!やっべ超嬉しい俺っ!!」

「そう言えば忘れてたな、これ……」
「……アタシだけじゃ足りないとかあからさま過ぎよっ、まったく……」

「俺らはトモミちゃんにお願いしてもいいか?」
「………それが妥当だろう」

「おうっ、それで構わねーぜっ!」

「ひ、弘史さん…私のあ、扱いざざ、雑じゃないです、か……?」

「んなことねーって!んじゃよろしくなっ!」


 と、何故か誰と転移するかで揉めたりしつつ、騎士団の方も準備が出来たところで全員纏めて転移で皇都まで帰ってきた。
 で、俺達はそこからガルムドゲルンへ帰ろうとしたら、オーガやエルムさんに問答無用で引き摺られ…結局全員で登城する羽目になりました。
 早く帰って皆の顔が見たかったのに……。




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