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間一章 ガルムドゲルンの日々

#04 素敵な職場(SIDE:リズ)

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□■□■□





「ふんふふ~ん♪」

「ご機嫌ねぇ、リズってば」

「当然でしょ!ミオンちゃんの歌声聴きながら仕事ができるなんて、もう最高としかっ!レミだってそう思わないーっ?」

「まぁ、ね。気分はアガるわねぇ」

「でしょでしょー!」


 冒険者ギルド、ガルムドゲルン支部の受付カウンター内まで流れてくるマニファニの音楽。
 今の時間はミオンちゃん達がギルド前で路上ライブの真っ最中。
 ワタシにとってはもうそれはそれは素晴らしい職場環境になったのよーっ!同僚のレミ…レミルフィニアもBGMとして満更でもなさそうで、笑みを浮かべながら同意してくれてるし。
 それもこれも全部ナオトのおかげなんだよねっ!
 いやぁーホント、ワタシの目に狂いは無かった!ナオトに飛び込んでいって大正解っ、もうずっと離れないからねっ、覚悟しときなさいよーっ!

「ご機嫌で気分が上々なのは分かるけど、やることはしっかりやりなさい二人共。新人に任せっぱなしとか許さないわよ」


「「はーい」」


「まったく…いつまでもそんな感じならライブ場所変更してもらうわよ?」

「ちょっ!?それはナシでっ、チーフーっ!」

「リズ、必死過ぎぃ」

 そりゃこんな素敵な仕事場になって、毎日楽しくなったんだからそう簡単に手放すわけにはいかないでしょっ!必死にもなるってば!

「だったらほら、ユリカの4番窓口行ってきなさい。レミも3番窓口でフォローして」


「「ハイっ!」「はーい」」


 ガルムドゲルン支部受付業務のチーフ、クリスリティシス…クリスさんがワタシとレミに纏めて発破をかけてくる…相変わらず厳しい。
 まぁ、ワタシ達がユルーい感じで仕事してるからであって、言われてることは至極真っ当なわけで。
 でもこの環境…ミオンちゃんの生声が耳から入って心を揺さぶる幸せ空間と化した受付カウンターで、いつも通り仕事をしろっていうのはワタシにとって無茶な注文なんですけどねーっ。


「──はい、では登録してまいりますので少々お待ちください」

「ユリカ、それワタシがやるよっ」

「あ、リズさん、ありがとうございます。すみませんがよろしくお願いします」

「あいさー」

「それでは当ギルドの説明を──」


 丁度登録手続をしていたユリカの作業を引き継ぎ、ギルドカード専用魔導具があるカウンター奥に戻る。
 ユリカはそのまま登録に来た冒険者への説明を始めたみたい。
 うん、来た頃に比べると大分受付嬢も様になってきたねー、これならもう任せっぱでも大丈夫なんじゃない?って言うとチーフから手抜いちゃダメだって叱られるんだよ…ちょっと納得いかないっ。

 ユリカはその柔らかいおっとりとした雰囲気と丁寧で優しい応対で、この短期間にも関わらず今やギルド内の人気ランキング上位に食い込む程の受付嬢になっている。
 ユリカの窓口に並ぶ冒険者の数から見ても一目で分かるくらい。
 ホント冒険者ってのは単純で分かりやすい人達ばっかりなんだから…ま、こっちとしては目に見えるようになってるからやりやすいって部分もあるんだけど。
 溜まった列を捌くように隣の窓口に入ったレミがフォローしてる。
 それを見たチーフがうんうん肯いてるってことは、これでいいってことなんだろう。
 時々こういう風に気を引き締めないと、ワタシやレミはちゃんと動かないって思われてたり…ちょっと申し訳なくなるけど、ずっとじゃなくて今の時間、ミオンちゃんの美声がフロア内を包んでる間だけなんだから少しは見逃して欲しいと思う今日この頃。

 しばらくそんな調子で受付業務を熟していると、やがてマニファニの音楽が止んでいつものギルドに戻った…ワタシのゴールデンタイムが終了してしまったぁ、くぅぅ。

 なんて、実はそんなに悲観はしていないの、なぜなら──


「ふぁーっ!今日も歌ったぁーっ!」
「楽しかったー」
「聴いてくれる人も増えてきたよね」
「だな。なんか初心にかえった感じじゃね?」
「そうだねぇ、なんだか懐かしい気持ちになるよぉ」


 ──マニファニ(ギルドに入って来た順にギターヴォーカルのミオンちゃん、リードギターの『蒼竜』ニアネスラヴィアことニアちゃん、ドラムの『冴悪魔こあくま』マミーナシャリーナことマミちゃん、キーボードの『呶天使だてんし』ファミールレティルことファミちゃん、ベースの『小気狸しょうきり』ニナストリィミアことニナちゃん)の皆は、演奏が終わったらすぐここへ顔を出してくれるから。
 場所を提供しているせいか、毎回律儀に挨拶をしに来るのがお決まりになっちゃってるのよ。
 それだけじゃなくて多分ワタシがいるからってのもあるんだろうけど、ね。

「みんなお疲れさまー!今日も最高だったよっ!」

「えっへへーっ、ありがと、リズりんっ」

 真っ直ぐ受付カウンターまで来た皆に労いの言葉をかけると、楽しそうな笑顔を向けて返してくるミオンちゃん…いやぁー癒やされるわぁ。
 まぁ、ワタシだけじゃなくて受付カウンターで順番待ちしてる冒険者達もなんだろうけど。
 男どもなんか、にへらっとしながらミオンちゃん達のために黙ってカウンターまでの道を譲るくらいだし。
 演奏する時間はキッチリ決まってるわけじゃないんだけど、マニファニの皆が演ってる時は心なしか待合所とか酒場にいる人数が多いのは気のせいじゃないと思う。
 

「お疲れさま。どう?大分慣れたかしら?」

「んー、まぁボチボチってとこかな」

「フィルさんとショーさん、クリスさんには本当に感謝してます」


「うんうん、ありがとー」
「ありがとうございますぅ」


 カウンター越しにチーフがマニファニの皆へ声をかけてきた。
 ここ、ギルド前で演奏したらどうかって提案したのはワタシなんだけど(私欲丸出しで)、それならギルドマスターのフィルトリッツァ、フィルさんとサブギルドマスターのショークラディネント、ショーさん、そしてチーフに挨拶するってマニファニの皆が来てくれたんだー。
 で、もうそれからうちのギルドではすっかり顔馴染みになったってわけ。

「そんな大層なことはしてないわ。わざわざ場所の使用許可なんて取らなくても大丈夫なのに」

「いやいや、その辺はちゃんとしないとダメだろ」

「そんなことないわよ。皇都ではどうだったか分からないけれど、この街ではそんな細かいことを気にする人はいないもの。どこで演っても喜ばれると思うわよ」

「そーそー!あ、でも外の所へは行かないでねー」

 チーフの言う通りこの街では余程の迷惑行為にならない限り文句を言ってくる人はほぼいない。
 中央広場では吟遊詩人や大道芸人を見かけない日はないし、露店だって好きな所で広げてる。
 たまーにちょっと通行人の妨げになってるかなーって人がいても、大体皆温かい目で見逃してる感じだし。
 そんなわけで、このギルド前で演奏したって入り口さえ塞がなければ誰も何も言いっこないんだから、ずっとここで演っててほしいんだけど、ワタシのためにっ。

「んー…でももうちょっと歌いたいかなぁ……」

「わたしももうちょっと演りたいー」

「もっと聴いてもらえると嬉しいかな、わたしも」

 まだまだ歌い足りないミオンちゃん、演り足りないニアちゃん、マミちゃんでした。
 場所に不満は無さそうで良かったけど…他で演るなら中央広場くらいかなぁ?なんて思ってたら…

「ならここで演るか?」

「ひぅっ!?」

「あー、大丈夫だってニナ。そんなに驚くなよ」

 …併設酒場のマスター、ヴォルドガルドさんがニナちゃんの背後からいきなり会話に混ざってきた。
 強面アイパッチで長身だからニナちゃんの頭上から声が降ってきたみたいで怖がってファミちゃんの背中に隠れちゃってる…ファミちゃんは全然平気そう。

「ここでって…どういうこと?マスター」

「ん?あぁ、そこのスペースあるだろ。そもそもそういう目的で作ったんだがな、演る奴がいなかったから今は席にしてるだけだ」

 マスターが顎を揺らしてその場所、酒場端で段差になっているスペースを示したら、マニファニの皆とワタシ達の視線が一気にそこへ向いた。
 そういえば前々から妙な段差があるなぁとは思ってたけど、確かにちょっとしたステージっぽく使えそうな感じ。
 マスターの話だと元々そういう意図で使用するためだったらしいけど、演り手がいなかったと。

「言われてみれば…なんか丁度いい感じのスペースじゃない?ねぇーっ」

「んー…けど、ちょっと狭くね?」

「機材置いたらちょっと余裕なさそうだね…」

「で、でもぉ…出来なくはなさそうだよぉ」

「うん、いけるいけるー」

 これは…もしかしてもっと近くで皆の演奏が聴けるってこと!?ヤバい、ちょー嬉しいけど絶対仕事にならないっ!チーフに怒鳴られる毎日が始まってしまう…っ。

「演るなら用意してやる。そうだな…奴らが戻ってくる夕方くらいからだな。どうだ?」

「ハイハイっ!演りまーっす!!」

「あー、こりゃ決まりだな…」

「やったー、もっと弾けるー!」

「そうだね、やってみよっか」

「マ、マスターさん…いいんですかぁ…?」

「あぁ、構わん。奴らも喜ぶだろうしな」

「ちょっ、まさかそんな夢みたいなこと…」

 マスター…そんなナリしてとんでもない素敵提案してくれるとか……マニファニの皆も演る気スイッチ入っちゃってるみたいだし、もうどうしようっ!ホント仕事なんかやってる場合じゃなくなるよっ!?

「ふぅ…(フルフルっ。リズの監視が大変になるわね……」

「チーフ…頑張ってください」

「そこは私もフォローしますとかじゃないの?レミ」

「えっとぉ…が、頑張ってください……」

「……まぁいいわよ。そのかわりあなたはしっかりやってちょうだい。リズ以外までとか面倒見切れないし」

「はーい、善処しまーす」

「それでそれでっ、いつからっ!?もう今日から演っちゃう!?」

 チーフとレミがなんか言ってるけどそれどころじゃないっ、演るなら早く早くっ!

「馬鹿言え、準備とかあるだろうが。うちの奴らにも言っとかないとマズいからな…明後日くらいからだ。それでいいか?」

「全っ然問題ありませーっん!やったぁーっ!」

「んじゃアレだな、帰ってセトリとか考えねーと」

「練習もしないとねっ」

「ふふっ、楽しみができたよぉ」

「はい、じゃあ帰るよー。早く早くー」

 あー流石に今すぐとはいかなかったかぁ…残念。
 けど演ってくれることは確定だからワタシも楽しみにしておこうっと!

「それじゃマスターっ、明後日からよろしくお願いしまーっす!」

「おう」

「じゃーねー」

 早々に帰って行ったマニファニの面々…やる気出してくれて嬉しいんだけどちょっと寂しかったり。
 ま、家帰ってからも会えるんだけどねっ。

 さて、それじゃ今後のためにちょっと本腰入れて頑張りますかねっ、チーフには悪いけどミオンちゃん達がここで演るようになったらメッチャ文句言ってくるってのは確定だろうなぁ…でもそこは目を瞑ってほしいっ!それ以外のトコロでしっかりやるからーっ!




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