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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達

#31 攻盾と護剣

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 客間まで案内を受けてゆったりとした大きなソファーに俺達黒惹華と、向かいに訓練していた勇者達が座り、使用人がお茶を運んできてくれて話す準備が出来た。
 黙って付いてきたランとイアはというと、俺の両隣に座ってるラナとリオの膝上にいたりする…リオメインの話になるだろうから、イアは俺の上でいいだろって言ったら、イアは無言でリオの上がいいって訴えるし、リオも「……大丈、夫………平気……」とか言うからこうなった。
 まぁ喋らないし黙って座ってるだけだろうから、いいっちゃいいんだけど。

「ようこそ鼠人族領へ。私がここの領主、ジェリルラートミィよ。この娘の母でもあるわ。旦那は外出中でいないのよ、ごめんなさいね」

 まずはここ鼠人族の領主であるジェリルさんが名乗ってくれた。
 そっか、鼠人族は女性が領主なのか…姫達の所は皆男性が領主だったから、ここもそうなんじゃないかと勝手に思い込んでしまった…。

「ちゅ?今、母ちゃまが領主で珍しいとか思ったっちゅね?」

 あ…いかんいかん、顔に出ちゃってたか、俺…。

「すみません、昨日会った領主は全員男性だったので…ちょっと思っちゃいました」

「そうね、珍しい方だと思うわよ。私と、あとは猫人族の領主…シャーミィくらいだし」

「にゃーのマミーも領主なのにゃっ」

「私達鼠人族とシャーミィ達の猫人族は大婆さま、ラビィとアーメルが居たからね。勇者パーティーの一員として魔統王を討伐した功績を讃えられて領主になったのよ」

「…っ!……ラビィ、と…アーメル…は、今………」

「……二人共天寿を全うして逝ったわ…この娘達の顔を見た後に、ね。最期まであなたの事を気に掛けていたわよ……」

「……………」

 そうか…二人はもう亡くなってたのか…。
 獣人も俺達人種に比べればそれなりに長寿なんだろうけど、竜人ほど寿命は長くないらしい。
 それじゃ、リオのかつての仲間はもしかしてもう…。

「あなたが閉じ籠った後も何度か訪ねてたみたいよ。早く誰かに見つけてほしいって、地図まで作っていたらしいわ」

「地図…って、もしかしてあれじゃねーの?」

「あっ!ニル婆に貰ったやつかいなっ。確かまだ魔法袋に入れっぱなし…お、あったっ、これやなっ!」

 アーネの一言で思い出したシータが、腰に着けている魔法袋を漁り、そこからニル婆に貰った地図を引っ張り出して目の前のテーブルに広げた。

「…うん、大婆さまの字ね。役に立ったみたいで良かったわ。大婆さま達も喜んでくれてるんじゃないかしら」

「お二人が作ったものだったんですか…。これ、俺達からしたら今となってはもう宝の地図ですからね」

「うんうん~。リーちゃんっていうぅ~素敵なぁ宝物を~見つけぇられたしぃねぇ~」

「……宝、物…………」

「そう、宝物…だよっ。でもそっか、あの時の依頼でこれも手に入れてたんだ…」

「あぁ。ニル婆がな、持ってけって言うから貰っといたんだよ」

 たまたまニル婆が思い出してくれて、譲ってくれたんだよな…ただ、地図としては大体あってたけど罠の位置とかの記載は無かったから、その点はちょっと役に立ってなかった。

「確か兄さんがそれなりの罠を仕掛けてきたって…あの程度の罠を抜けられないようなやつにリーオルは任せられないとか言って」

「あー、そういやそんなこと言ってたねぇ、攻にぃが」

 やっぱりそういう意図があったんだ…あの封印の文言からして何となくそうじゃないかと思ったのは的外れってほどでもなかったか。
 それなら罠の位置まで書かれてなかったのは納得出来る。
 まぁ、あの時はアコのおかげで何とかなったしな…余計なことはしてたけど。


[対象者:遊佐 尚斗に対する親密度を一覧


 それのことだよっ!思い出させるなっての!
 あとは姫達が発動させてたよな、お前のこと…いや、今考えるとホント余計なことしかしてないなお前はっ。


[対象者:遊佐 尚斗に対する好感度を一覧


 やかましいっ!最近構ってなかったからここぞとばかりにってバレバレだわっ!


[本当に見なくてもよろしいのですか?後悔しますよ?]


 何がだよっ、そんなもの見て順位付けなんてされても嬉しくないわっ!


[メンバーほぼ同列なため、順位付けするには小数点以下5桁表示しなければなりません]


 細かいなっ!?え、なに、そこまでしないと差が出ないほどなのっ!?


[堂々の一位はなんとまさかの


 いらんわっ!!そんな情報は求めてないっ!!
 序列なんて付いた日にゃどうしたらいいか分からなくなるだろーがっ!!
 ……気っ、気になんてならないからなっ!?
 っていうかちょっと黙ってて、今はこっちの話が先なんだよっ!


「あー、うん、あの洞窟にあった文章見て、そうなんじゃないかなって思ったよ…」

「えーっと、おにーさんがリーオルを連れ出した、でいいんだよね?」

「そうなる…かな。正確に言うとここにいる仲間のうちの三人と一緒にだけど。っと、そうか、ごめん。俺は遊佐 尚斗、多分君達と同じ日本から来た転生者だよ」

「あ、やっぱりそうだったんだー。ボクは楯 攻瑠美、護の勇者だった堅護の妹だよっ。ボクは攻盾の勇者なんだってっ」

「私は攻の勇者、攻輝の妹で御剣 護璃です。私は護剣の勇者ってことになってるみたい」

 攻盾と護剣…だからあんな戦闘スタイルだったのか。
 どういう基準でそうなったのか…あれか、名前から取ったとかそういう感じ?
 堅護と攻輝は氏名からそのままってのは分かる。
 盾で護る、剣で攻めるって素直にそうなったんだろうな。
 それでいくと二人は名前の方に攻めると護るが入ってるのか。
 なんだかなぁ…まったくどういう喚び方したんだか、エクリィは。

「チュチュと母ちゃまは、コウキちゃまの血を受け継いでるっちゅよー」

「私達はコウキ様の子孫にあたるのよ。なんでも大婆さまがコウキ様との別れ際に無理矢理子種を強請ったらしくって…」

 む、無理矢理…攻輝がラビィに襲われたってこと?
 でも確かにそれくらいしないとダメだったのか、居なくなるって分かってるのに、そんな無責任なことは出来ないって思うだろうしな…。

「そんなことはなかったみたいですよ。最後はちゃんとお互い納得してって言ってましたし。ただ妹に妄想で童貞捨てたとか言ってくるのはどうかと思いましたけど」

「あはは…えっと、二人共全部知ってるのかな?」

「大体は聞いてるよー」

「そうですね、大体は。最初に話を聞いた時は頭大丈夫?って思いましたけど」

 そりゃまぁそうだよな…異世界行って魔王倒して帰ってきましたーなんて、それ、なんてラノベ?って俺でも思うし。
 けど護璃って娘は中々辛辣だな…頭大丈夫とか思いながら黙って聞いてたんだ…。

「よく信じたね…」

「いえ、ほとんど信じてませんでしたよ。けど作り話としてはよく出来てたし、それなりに面白かったから覚えてたってだけです」

「ボクたちがこっちの世界に来て、あー、おにぃ達の言ってたことは本当だったんだなーって」

 なるほど、そうゆうことね。
 こんな話、そう簡単に信じられるものじゃないだろうしな。
 二人でほぼ同じ妄想して…お互い綿密に話し合って創り上げた物語って、向こうの世界に居たらそう考えちゃうよなぁ。

「……ケンゴ、と…コウ、キは……今、どう…してる、の……?…………」

「兄さん達は今、二人で同じ大学に通ってますよ」

「恋人はいないみたいだけどねー、どっちも」

「そっか。じゃあ二人共元気に過ごしてるんだ」

「私たちがこっちに来る直前までだと、そうですね。今は分からないですけど」

「まー、ボクたちがいなくなったのはこっちの世界に喚ばれたからって思ってるかもねー」

 二人共こっちの世界を知ってるわけだし、そう思っててもおかしくはないか。
 出来れば自分達がまた喚ばれたかったって思ってるかもしれないけど。

「二人共異世界経験者だから、そうかもしれないな」

「……二人、共……元気、なん…だ……。………よかっ、た…………」


 それからはリオが、元の世界に戻った後の堅護と攻輝がどうなったのかを妹二人から具体的にいろいろ聞いたり、かつての仲間だったラビィやアーメルのことをジェリルさんから聞いたり、合間にお互いの仲間の紹介をしたりと、結構な時間話してた。

 ジェリルさんの娘はチューチュナーデっていう名前で、皆からはチュチュって呼ばれてる。
 お母さんとはまた違って、頭には結構大き目な丸耳、世界的に有名な某ネズミ…程ではないかもだけど、それに近い感じの耳で、両頬からピンッとした三本ヒゲが生えてて愛らしい顔付きに似合ってると思う。
 身体付きはさっき見た感じだと子柄…もし俺のメンバーになったとしたらミニマム組確定くらい。
 いや、もしもの話であって吸い込まないよう十分気を付けますけど。
 語尾にちゅっちゅ付けてるところも容姿と相まって愛くるしさが割増しされてるんじゃないかと。

 猫娘の方は名前がペルーチカマーシャ、ペルって呼ばれてて、同じネコ科のアーネと良く似た風貌だ。
 耳と尻尾は白、黒とグレーのマーブル、目付きは若干ペルの方が柔らかいかな。
 少し落ち着きが無さそうなのと、クルックル変わる表情が猫っぽさを感じさせる。
 にゃーにゃー言ってるのもテンプレだけど似合ってて可愛い…今度アーネにもにゃーにゃー言ってみてってお願いしてみようかと思うくらいには。
 皆の前じゃまずやらないだろうけど、二人っきりの時とかならやってくれそうな気がする。
 …照れた顔で「にゃ…にゃー……」とか無理して言ってくれるアーネ…ヤバいな、想像しただけで萌える。
 まぁ、意外と開き直って普通ににゃーにゃー言ってくれそうな気もするけど、それはそれでいいな。

 ちなみにペルもチュチュも姫達とは会ったことがあるみたいなんだけど、小さい頃だったから覚えてないらしい。
 姫達も同じで記憶には残ってないそうだ。

 と、いろんな話題を切れ間無く皆で話し込んでる最中に、もの凄い勢いでこの部屋へ突入してきた人が…。



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