上 下
135 / 214
第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達

#06 茶番劇阻止

しおりを挟む


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


──ガンスナ楽屋


 バンッ!


「くそっ!何なんだアイツは…っ!おいっ正典!居るんだろっ、出て来いよっ!」


 ……スウゥゥ……


「…ど、どうしたの?響也くん……」

「予定が狂っちまったっ。魅音達、ボディーガード雇いやがった!」

「え…」

「もうこうなったらチマチマやってる場合じゃねぇ、多少強引にいくっ。正典、このナイフで魅音を襲えっ」

「っ!?そっ、そんなこと僕出来ない…」

「フリだけだ、俺が助けに入るまでのな。間違っても傷付けるんじゃねぇぞ」

「で、でも…」

「お前のスキルなら簡単だろ?背後取るなんて。なに、ちょっと後ろから押さえ付けてこのナイフを目の前にチラつかせるだけでいい。後は…俺が上手いこと助けに入るから適当に合わせてくれ」

「そんなことしたら、僕が捕まっちゃう…」

「それこそお前のスキルで簡単に逃げられるだろ。頃合い見て逃げりゃいいんだよ。俺のスキルが欲しいんならやってくれるよな?」

「うっ…。……うん、分かったよ…」

「(っつっても、もうやれねぇけどな。さっきステータス見たら魅了チャームも分割譲渡も使えなくなってやがったし。クソっ、アイツ何しやがったんだ…)……よし、んじゃ行くぜ。魅音達のリハが終わったら仕掛けろよ」

「………(コクっ」

「(待ってろよ魅音…スキルでなんか手に入れても意味が無いからな。これで俺がカッコよく助けに入りゃ、いくら魅音でもコロっと落ちんだろ。絶対お前をモノにしてやるからな…くくっ)」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 キスでお互いに立ち直った俺達は、終わった後もまだ抱き合ったままだった…マールは俺の胸に顔を埋めてる。
 裸見られるのは平気そうなのに、キスは恥ずかしいのかと、どういう基準なのかよく分からなくなった…接触は羞恥心が伴うってこと?
 って、まぁそれは今考えることじゃないか。

 とりあえず、どうしてこうなったのか確認しないと。

「マール、もう大丈夫か…?」

「……もう、ちょっと、だけ…待ってぇ………」

「あ、うん…」

 まだ恥ずかしいんだろうか、顔を更に埋めて黒いウサ耳をへたりとさせてる…首筋まで真っ赤にして。
 そういやマールをお姫様抱っこした時もこんな感じだったかな?
 あの時は勝手にやっちゃってごめんって気持ちが強かったけど、今はもうあの時とは違うからな…可愛いって思っちゃう…。

 いや、けど本当にここで待機してたのは運が良かった…もし違う場所でこんなことになってたら、と考えただけで恐ろしくなった。
 あんな奴の手にかかるとか想像しただけでハラワタが…って、俺も本気で皆のことをこんなに大切だと思ってるんだな、やっぱり。
 こうなると他の皆も心配だ、早く行った方がいい気がする。

「マール、他のみんなは大丈夫だと思うか?」

「あっ…もしかしたら、私と同じことになってるかも…っ」

「だとすると心配だな、アイツはもう何も出来ないけど、まだ二人いたしな…」

「ナオちゃんっ、早くみんなの所へ!私みたいなことになる前に…っ!」

 マールが素早く俺から離れて扉へ向かう。
 皆が心配なんだろう、自分と同じような事にはなってほしくないって。

 勿論俺もそう思ってるからマールと一緒に皆の元へ急いだ。



 ステージ袖に着いた時にはマニファニの皆はまだリハの最中だった。

 それを見ているカッツとシータ達と…やっぱり居たガンスナの残り二人。
 響也の姿は見当たらない。
 サッと見た感じ何事も無さそうなんだけど、何となくシータの様子が少し変な気がしたから、皆の状態を確認することに。
 アコ、頼む。


[現在の状態および起因要素を表示]


【ステータス】
《識別》
 名前:シータフィオラシス
 状態:困惑(弱)


《識別》
 名前:アーネルミルヴァ
 状態:魅了(対象:レンディミオン)


《識別》
 名前:ラーナミラルティア
 状態:魅了(対象:カイナノルグ)


《識別》
 名前:リーオルエレミネア
 状態:高揚(微)


《識別》
 名前:カッツェトランザ
 状態:興奮(微)


《識別》
 名前:レンディミオン
《技能》
 補助:〔譲〕魅了チャーム(1)


《識別》
 名前:カイナノルグ
《技能》
 補助:〔譲〕魅了チャーム(1)



 …コイツ等も響也とグルってことか…。
 スキルを見た感じだと響也がメインなのは間違いなさそうだ、魅了チャームを分割譲渡してもらったっぽいしな。
 シータが困惑してるってのは、響也の魅了チャームの効果が切れたからだろう。
 確か響也のスキル見た時レベルが2だったはずだから、1レベルにつき対象1人ってところか。

 リオとカッツはマニファニ見て普通に盛り上がってるだけだろう、リオもこういうのに興味が無いってわけでもないんだな…まぁ、言うまでもなく表情には一切出てないけど。

 っと、それよりこの状態を早く解除しないと。

 レンとカイってやつのスキルを封印するため、背後から二人に少し近付いて封闇陣シルクワイトを放つ。
 二人に闇が吸い込まれた直後、アーネとラナがマニファニを見ながら、二人して頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げだした。
 どうやら封印成功して状態が解除されたっぽい。
 
 マールだけ連れて来られたのは、俺達の事を聞き出すためだったってことか。
 二人がマールみたいなことになってなくて良かった…。

 このままマニファニのリハが終わるまで様子を見て、何か動きがあったらすぐ対処出来るように身構えていたらアコが、


[後方の物陰に、相良 響也の反応があります]


 
 と、響也の気配を捕まえた。
 すぐさまこの場に顔を出さないのは、俺がいるからか、もしくは他に何か企んでいるからか。
 
 油断しないように、それと俺が気付いてることに気付かれないよう意識しながらマニファニを見ていたら、曲が終わり少しスタッフらしき人と会話した後、俺達の居る方へ引っ込んできた。


「ふぁーっ!やっぱりステージは最っ高ーっ!」

「今日もノリノリだったねー、ミオン」

「リハなんだけどな。ま、本番でもその調子は変わんねーんだろーな」

「そこがミオンの凄いところだよね」

「ミオンちゃんが引っ張ってくれる感じ、わたしは好きだよぉ。うふふっ」


 なんて話ながらマニファニの皆がステージ脇のちょっとした階段を降りきったあたりで、それは起こった。


「よぉーっし、この調子で明日も…っ?あれ?動けな「…ぜ、全員動かないでっ!」……きゃっ!?」

 魅音が急に動きを止め、動けなくなったと伝えようとした瞬間、魅音の背後からいきなり人がスウゥゥっと現れる。
 左腕を魅音の身体に巻き付けて身動きを封じ、右手に持ったナイフを魅音の顔の前に持ってきた…見せ付けるように。

 それを見て短い悲鳴を上げる魅音。


『『『『『っ!?』』』』』


 魅音の声を聞いて振り返り、息を呑む他のメンバーと、ナイフを突き付けられた魅音を見て、同様に息を呑むカッツとマリシアラの皆。

 更にそれとほぼ同時に後ろの物陰に隠れていた響也が飛び出してきて、魅音へ一直線に向かって行く。

「てめぇ!魅音にな「いや、お前らが動くなよ」……ぐっ!なっ…に……」

「あ、れ…?動、け…ない……」

 
 俺も魅音の背後に人が現れたのと、響也が動き出したのと同タイミングで、影操縛シェルトバインを発動し、二人を拘束した…ついでにレンとカイも。

 魅音を襲った奴はアコでも気付かなかったらしい、どんなスキルなのか気になったからアコに見てもらった。


[対象者:宇薄 正典の技能を表示]


【ステータス】
《識別》
 名前:宇薄 正典
《技能》
 固有:認識遮断(-)


 阻害じゃなくて遮断なのか…完全に認識外になるってことか?
 それならアコにも分からなかったのは頷ける。


[あれは反則です。卑怯です。即封印を実行してください。アコの為に] 


 いっちょ前に悔しがってるのか?まぁ、こんなことにスキル使ってる時点で封印確定なんだけど。
 それより先にやることやらないとな。

 魅音の目の前に晒されているナイフを、影を操り正典とかいうやつの右手ごと、ゆっくりと魅音から遠ざける。
 それと、魅音に巻き付いていた左腕も同じ様に魅音の身体から引き剥がす。

「なっ…んで、勝手…に……動、く………の…………」

「くっ…そ……こっち、は……指一本、動…かせ、ねぇ………」


 響也は何とか魅音の元へ行こうと足掻いているけど、固まったままピクリともしていない。
 多分だけど正典もグルだろうから、何をしようとしてたのか何となく予想は付くけど、そんな下手な芝居なんか打たせるわけ無いだろ、マールにあんな事しといて。


「魅音、ゆっくりこっちにおいで」

「あっ…うん、分かった…っ」


 正典の拘束を完全に外して自由となった魅音に、慌てないでこっちに来るよう指示を出す。
 魅音は素直に俺の指示に従い、ゆっくりと正典から離れて俺の方に歩いてきた。

 俺の目の前まで来たところで、魅音の頭にそっと手を置いて撫でながら一応無事を確かめる。

「…うん、大丈夫そうだな。無事でよかった」

「えっと、ちょっとびっくりしただけで、何ともないよ…」

「そっか。それじゃ、みんなの所へ行っておいで」

「うんっ、ありがとっ」

 にっこり笑ったところを見ると本当に大丈夫そうだ。
 俺に礼を言ってメンバーの所へ寄っていった魅音。


「ミオンっ!無事かっ!」

「だだ、大丈夫!?ミオンちゃんーっ!」

「あははー…。ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよーっ」

「よ…よかった……。もうこっちの心臓が止まるかと思ったよ……」
 
「わたし達だけじゃヤバかったねー」

「うん、そうなんだよねー。尚斗君達がいなかったらどうなってたか分かんないよ…」


 皆に無事迎えられて、そっちは大丈夫そうだと確認出来たから、次はこっちだな。
 まずはスキルを封印する為に封闇陣シルクワイトを正典に向かって放つ。
 これで姿を消す事も出来なくなっただろう。
 アコもこれでいいだろ?


[はい。これで問題ありません。私の為にありがとうございます、マスター]


 いや、別にお前の為ってわけじゃ無いんだけどな…まぁ、結果的にそうなっちゃっただけで。


[ありがとうございます。私の為に]


 …分かったよ、もうそれでいいよ。
 さて、これからこいつ等の話を聞くとするか。
 大体分かるけど、皆の前で白状してもらうってことで。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...