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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達
#05 やっぱり漂流者は
しおりを挟む衣装合わせが終わった後、次の予定だったマニファニの取材に向かった。
そうそう、何故か俺も変装させられた…マリシアラのマネージャーってことにされて。
カッツと似たようなスーツ姿っぽい格好で、皆に付いていくことに。
俺はスキルがあるからそれで自由に動き回ろうと思ってたんだけど、最初からスキルを使ってると解除した時関係者じゃないって丸分かりだし、そこにいても違和感無い格好してた方が怪しまれないだろうし、スキルを使ったり解除するのも融通がききそうだから、これはこれで良しってことで納得することにした。
マニファニの取材は一時間程で終わり、その後リハーサルの為ステージのある場所へ直行、そこで俺達も新人としてマニファニの見学ということで関係者扱いにしてもらいパスを取得して、これで堂々と出入り出来るようになった。
カッツが事前に調整してくれてたこともあり、スムーズに事が運んだ。
リハまではまだ少し時間があるらしく、じゃあ楽屋で待とうってことになり、全員で楽屋に向かっていたら、途中でいろんな人─スタッフだったり同じステージに立つ出演者だったり─にすれ違う度こっちに視線が集中した…マニファニだけじゃなくマリシアラまで居るんだからいつもより倍は目立ってるんだろうな、と。
そんな中、俺達に声を掛けてきた一組のグループが。
「おっと…これはこれは。マニファニも明日のステージに出るのか?」
「げっ」
「あ、ガンバレ」
…ん?ファミが怪訝な表情してる。
ニアはいきなり応援しだしたぞ?
ちょっとイントネーションおかしいけど。
「チッチッチッ、ニアちゃん、違うっていつも言ってるだろう。俺達は『ガンズバレット・スナイパーズ』、ガンスナだって」
「そーだっけ?うーん、どっちでもいいよー」
「相変わらずだなぁ、ニアは。まぁ、そこがカワイイんだけどな」
応援じゃなくて目の前にいるイケメン三人グループの略称だった。
こいつ等も出演者ってことか。
如何にもバンドマンって感じの格好してる…見た目的にさぞかし女性ファンは多いんだろうな。
「響也君達も出るんだー」
「ああ。魅音達が出るとは思わなかったぜ。最近は単独ライブばっかだっただろ?」
「うん、そうだけどみんなとワーってやるのも好きだからっ」
「フッ、魅音らしいな。んじゃ今回は俺等も気合い入れてっかな。ところで、そっちのカワイ娘ちゃん達も出演者か?」
「あー、彼女達は出ないよー。まだ新人で今日は私達の見学なんだー」
「へぇ…新人、ねぇ…。だったら尚更気合い入れてかねぇとな。俺達のステージも見てけよ」
「そうだねっ、後で見せてもらおっかなっ?」
「おう、遠慮しねぇで存分に見てけよ。んじゃ、後でな」
そう言って立ち去っていったガンスナの三人。
ステージ見てけとか、よっぽど自信あるんだろうな…リーダーらしき男は名前からして漂流者っぽいし。
ちょっと姫達を舐め回す感じで見てたような気がしたけど。
話し掛けられたのはそれだけで、後は何事も無く楽屋まで辿り着いて、リハの出番までここで待つことに。
流石にこの人数で入るとちょっと狭く感じる。
席も全員分無いから俺達は壁際に立ったままだ。
ファミが席に着いた途端、グチっぽく零し始めた。
「はぁー…アイツらまで出るとか、テンション下がるわー」
「なして?」
「んー?あー、いや、どうもあの手の奴らは苦手でさ…。あからさまに見た目前面に押し出してるって感じな」
「演奏技術は凄いんだけどね」
「そーなんだよなー…そこがまた気に食わねーっつーか…」
「ファミは気にし過ぎだよーっ。別に普通だよ?響也君達は」
「わたしも特に気にならないかなー」
「そうかなぁ…。わたしもファミちゃんと同じでちょっと苦手かもぉ…」
うーん…魅音とニアは特に気にならないみたいだな。
ファミとニナが苦手意識持ってるっぽい。
俺も去り際のあの目がちょっと気になったな…。
漂流者だし一応注意しとこうか。
「さて、それじゃ俺はちょっと見回ってくるよ。みんなはマニファニのこと頼むな」
「了解。ちとこの格好がまだ慣れねぇけど…」
「付いてるだけなら何とかなるかな?」
「うん~頑張ってぇみるぅ~」
「……マスター、も……気を、付けて………」
「よろしく。リオもありがとな」
今日はリハーサルだから当然本番とは違うけど、建物の構造とか確認しとくのと、怪しそうな人が居ないか少し見ておこうかと、単独行動することにした。
マニファニの皆は姫達に任せて。
しれっとマネージャーです、って感じでいろいろ歩き回った結果、特にこれといって何も無かった。
建物内の造りもそれ程複雑なわけでも無く、スタッフや出演者も至って普通で、一番気になったのがガンスナだったっていう。
一通り回った後、楽屋まで戻って来たら誰も居なかった…多分リハーサルの順番が回ってきたからステージの方に行ったんだろう、姫達も一緒に。
俺もそっちに行こうかと思ったけど、ここにマニファニの私物が置いてあることもあって、念の為皆が戻って来るまでここで張っておこうと影躯隠で身を隠すことにした。
身を隠してから10分程経った頃だろうか…室内には特に異変も無く、流石に今日は無いかな?なんて思い始めてたら、楽屋の扉の開く音が。
リハが終わって皆が戻って来たんだろう、だったらもう隠れる必要は無いなってことで影躯隠を解除しようとしたら、入って来たのはマールと…ガンスナの響也って奴の二人だけだった。
ん?何でこの二人が?しかもマニファニの楽屋に…。
とりあえず様子を見る為このまま身を隠すことにして二人をよく見てみたら、どうもマールの様子がいつもと違う感じがして胸騒ぎが…。
そんな中、二人が話し始めて、俺は胸の鼓動を抑えつつ聞きに徹した。
「マールって言ったよな、お前等ホントに新人なのか?」
「う、ううん…違うぅよぉ~。わたし達はぁ音楽とかぁ出来ないぃしぃ~」
っ!?何でそんなすんなり応えてるんだマールっ。
やっぱり何かおかしいっ!
「へぇ…それじゃ、何でマニファニと一緒にいるんだ?」
「それはぁ…マニファニのぉみんなからのぉ依頼でぇ~、護衛してるからぁだよぉ~」
「護衛か、なるほどな。ってことは、お前等冒険者なんだな」
「…うん~」
「ふーん…そういうことか。あのマネージャーっぽい漂流者もか?」
「そう~、わたし達のぉパーティーのぉ~リーダーだよぉ~」
「そうか。ならこの依頼、もう必要無いってソイツに言いな。それは俺達の役目だってな」
何を言ってるんだコイツは。
なんでそれがお前等の役目なんだよ。
そんな命令、マールが聞くわけ…
「…分かったぁ~、言ってぇみるぅ~」
…は?おいマールっ、ホントにどうしちまったんだよっ!
これ絶対何かおかしい…っ!
「フッ、聞き分けのイイ娘は好きだぜ…」
「…んっ(ビクッ」
響也がそう言ってマールの頬に手を当てた。
マールはそれを何の抵抗もせずに受けている…。
ちょっと待て、俺は今何を見せられているんだ?
あのマールが、こんなすんなり俺以外の男を受け入れることって…あるのか?まさかそんな…。
「前払いだ、ここで少し可愛がってやるよ…」
「やぁ~っ、誰かぁ来ちゃうぅよぉ~…こんなぁところじゃぁ~ヤダよぉ……」
「大丈夫だって。マニファニのリハは始まったばっかりだし、な」
「でもぉ…ひゃうぅっ!」
響也が頬に当てていた手をマールの黒兎耳に持っていき、さわさわと撫でる。
マールは身体をビクつかせ、頬を赤く染めその感覚を耐えているように見える。
その時点で、俺はキレた。
アコぉっ!状況確認っ!!
[現在の状態および原因を表示]
【ステータス】
《識別》
名前:マールオリザロレッタ
状態:魅了(対象:相良 響也)
《識別》
名前:相良 響也
《技能》
固有:分割譲渡(-)
補助:魅了(2)
クッソ、何でこうロクでもない奴ばっかなんだよっ!
俺の嫁に手ぇ出すとか覚悟出来てんだろうなぁっ!!
すぐさま響也の後ろに回り、影躯隠を解除して肩に手を置きマールから引き剥がし、封闇陣を直接打ち込んだ…魅了を封印するために。
「そこまでにしとけよ…。それ以上やるなら俺も何するか分からないからな」
「「っ!?」」
いきなり現れた俺に二人共驚愕の表情を浮かべ、身体を硬直させた。
「なっ!お前、どこから…」
「そんな事はどうでもいいだろ。ほら、とっとと出てけよ」
「んだよっ、お前「出てけって言ってるだろ?」…くぅっ!」
肩を握り潰すように置いていた手に力を込めながら、響也を睨む。
耐えてはいるが苦痛に顔を歪める響也。
徐々に力を込めていき、やがて耐えられなくなったんだろう、響也が叫ぶように応える。
「ぐぅぅ…わっ、分かったっ!出て行くっ!出て行けばいいんだろっ!」
肩の手に力を入れたまま出口まで向かわせ、響也が扉を開けた瞬間、外へ突き出し勢い良く扉を閉めた…そしてその場で少し心を落ち着かせるため、目を閉じ軽く深呼吸をして、ゆっくりマールの方に振り向いて近くに歩み寄る。
マールは…顔面蒼白にしてその表情を歪め、身体をガタガタ震えさせながら近寄る俺を見ている。
「……わた…わた、し…は……何、を…………」
アイツの魅了を封印したことでマールに掛かっていた効果も切れたんだろう。
だけど、正気に戻っても自分の言動は覚えているみたいだった。
「っ!ナっ、ナオちゃんっ!違っ、アレは…っ」
我に返って自分が何をしたのか気付いた途端、俺に飛び掛かるような感じで寄って来て言い訳を始めようとするマール…相当動揺してるんだろう、口調も変わってる。
そんなマールを俺は抱き寄せて、胸でその口を塞いだ。
「…大丈夫。分かってるから……」
抱き締める力を少しだけ強くして、マールを落ち着かせようとそっと頭を撫でる。
俺も…フラッシュバックしかけたトラウマによって早鐘のように打っていた心臓を鎮めるために、マールを抱き締め、撫でている感触に集中した。
そんなに時間も掛からず、マールが嗚咽を漏らし始めた…胸に押さえ付けてるからくぐもった声で、ごめんなさい、ごめんなさい…と謝りながら。
暫くの間、お互いに落ち着くまでそうしていたら、泣き止んだマールがもぞもぞしだしたから、腕の力を少し緩めてあげると、顔を上げて俺を見つめてきた…瞳はまだ潤んだまま、目の周りを赤くして。
「……わたし、は…どう、すれば、いい…の……?」
「…何も。いつものマールでいてくれれば、それでいいよ」
「けどっ、ナオちゃんのことっ、裏切るようなマネして…っ」
「マールの本心じゃないって分かってるから。まぁ、かなり抉られたけど…」
あんな光景は二度と見たくないって。
生憎とそっちの性癖は無いので。
実際あれを見て逃げ出した俺は間違い無くチキンなんだろう…あの時どうやって家まで辿り着いたのか全く記憶に無かったんだよな…よく無事だったもんだ。
「ほらっ、やっぱりそうでしょう…っ。どうしたらいいの?わたし……」
また、くしゃっと顔を歪めて涙を零しそうになるマール。
このままじゃマールも収まらないんだろうな…かと言って、マールのせいじゃなくてスキルのせいだって分かりきってるし…。
仕方無い、ちょっと強引だけど…。
「えっと、じゃあさ。このイヤな胸のドキドキを、違うドキドキに変えてほしい、かな…」
「…違う、ドキドキ…?」
「うん。マールが、俺をドキドキさせてくれる?」
「それって、どうやって……あっ」
「多分それで合ってるよ。ただ、普通のじゃ中々変えられないかも」
「……それで、ナオちゃんは…許してくれる、の…?」
「許すも何も、最初からそんなものは無いよ。マールがそうしてくれると大丈夫になるってだけで」
「………うん、分かった…。わたしが、ナオちゃんのドキドキ、変えてあげる…ね」
そう言って、マールが俺に顔を近付けて…俺の唇を塞ぐ。
誰も居ない二人きりの楽屋で、長くて深いキスを交わし…俺の胸の鼓動をトラウマから解放してくれた。
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