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第二章 冒険者稼業の始まり

#11 順番待ちにて・意気込み新たに

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「はぁぁ…まさか朝からマーちゃんのあの目を見るとか…今日一日ツイてないかも……」

 あ、バカ、またそんなこと言ったら……。

「ウェナちゃぁんん~?それはぁ~、どういう意味かなぁぁ~?」

 再燃させてどーすんだよ、まったくウェナのその自爆癖、どうにかしろって。

「うひぃっ!ウ、ウソっ!ウソだからそんなことないからっ!」

「はいはい、キリ無いからもう行くで。ウェナもシャリーもまた今度ゆっくりマールに遊んでもらいや」

「こんな命懸けの遊びはもうしない…」

「マーちゃんに遊んでもらうとか、命幾つあって…じゃない!うんっ、また今度ゆっくり遊ぼうねっ、マーちゃんっ!」

 お、少しは学習したか?危なかったけど。
 その反射的に思ったこと言うっての治さない限り、マールの魔眼に怯え続ける羽目になるな…まぁ、ウェナには悪いけど見てる分にはこっちに被害無いし、命懸けで遊んでくれとしか。

「あ、そや。お代払ってなかったわ。幾らや?」

「知らん」

「いや、知らんて…」

「作った本人しか知らんわ、こんな特注サンドイッチなんて。店にだって置いてないし」

「え、そうなん?」

「んじゃ誰が作ったんだよ、これ」

 アーネの言う通り、誰が作ったんだ?シャリーじゃないのは分かってるけど…まぁ、普通に考えたら調理担当の人だとは思うけどさ。

「あ、4人分で200セタルでいいよー」

「「え?」「ん?」「は?」」

「うん?だから200セタルだよーって」

「えっとぉ~……ウェナちゃんがぁ、作ったのぉ…?」

「そうだよー。なに?なんかおかしい?」

 シータ、俺、アーネが同時に疑問符浮かべちまった…いやまぁウェナも店員なんだからホールだけじゃなくて調理しててもおかしくはない…のか?

「ウェナって…ウェイトレスなんじゃねぇの?」

 やっぱりそうだよなー、アーネもそう思ってたみたいだし。
 制服とか昨日の仕事振りからしても、そうとしか思えなかったしなぁ。

「うん?そうだけど?」

「でも、これ作ったって…」

「そりゃ姫達のお願い事だもん、作ってあげるに決まってるでしょー」

 そっか、調理もするんだ、ちょっと意外だった。
 しかもこんな美味そうなサンドイッチ…余計に意外だって思っちまった。

「ウェナちゃんったらぁ~…本当にぃ~いい娘なんだからぁ~、ふふっ」

「ウェナ…ありがとな、嬉しいわ」

「へぇー、こんな美味そうなもんウェナが作れるとはなぁ」

「うん、俺もそう思った。意外だったけど…誰かさんと違ってちゃんとしたもの用意してくれて、ありがとな」

「へへー、これくらいお安い御用だよー」

「チッ、ウェナのくせに…」

「ふっふーん、悔しかったらシャーもちゃんとしたもの作ってみればぁ?あ、言っとくけどこれは食べないからね、シャーが責任持って片付けてねー」

「なん……だと………」

 バゲットサンドのような何かを指差してクスクス笑ってるウェナ、何ていうかどんなことでも全力で楽しんでるなぁって感じを受けて好感が持てる…自爆癖さえなければ。
 ま、今回の件はシャリーの自業自得だし、ウェナの一人勝ちってことで。

「ほな、これ。ほんまありがとな、ウェナ。またお願いしてもええか?」

「もっちろんっ、みんなの為ならいつでもっ」

 シータが銀貨2枚をウェナに渡して次もまたお願いしてた、これからクエスト行く度ここへ寄ることになりそうかな?まぁ、こんな美味しそうなものを用意してくれるんだったら、こちらとしても願ったり叶ったりだし、いいんじゃないかな。
 間違ってもシャリーお手製の何かが出てこないことを祈る…その内使った材料は変えずに見た目だけ整えてきそうでちょっと怖い、頼むからちゃんと味も整えてくれと。

「ほな、行ってくるわ。二人ともまたな」

「んじゃな、二人とも。フザケてばっかいねぇでちゃんと仕事しとけよー」

「そんなこと姫達以外にはしない」

「ふふっ、二人ともぉ~仲良くねぇ~」

「それはシャー次第かなぁー」

「まぁ、ほどほどにしときなよ。俺達が言えることじゃないけど、他の客に迷惑掛けない程度に…な」

 多分だけど今まさに迷惑掛けてるであろう俺達…俺も大概アーネのこと言えないな、棚上げに関しては。
 二人は相手が姫達だからこそこういう感じになるんだろう、なら大丈夫だな、とは思うけど。

「それこそいらん心配だな。兄さんこそ姫達のこと頼んだぞ」

「そだねー、しっかり姫達のこと見てあげてねっ、お兄さんっ」

 逆にこっちがお願いされたわ…二人からしたら姫達が心配なんだろう、そりゃ当然か。
 さっきのやり取り見てただけでも気兼ねなく接して巫山戯ることが出来るくらい、仲が良いのは一目瞭然だしな。

「そうだな…初めてのパーティーだし、しっかり見ておくことにするよ。それじゃ、行ってくるな」

 そう言って軽く手を上げて二人に挨拶をして外に出た、姫達も同じように手を上げたり振ったりして店から出てきた。

 さて、いよいよ初クエストに出発だな…って言ってもまずはお花摘みなんですけどね。
 あぁ、そういや食料受け取ったのはいいけど、手に持ったままでまだしまってなかった…このままだとすぐ傷んじまう、折角ウェナが姫達の為にって作ってくれたのに。
 ってことで、シャリーに押し付けられたウェナお手製サンドイッチを無限収納へ。
 ちゃんと確かめたわけじゃないけど、ディモルさんのとこに持ち込んだ収納墓地の亡骸は傷んでなかったし、無限収納も同じ原理だと思うから大丈夫だよな、多分。

「よし、じゃあクエストに行こうか」

「だなっ、気ぃ引き締めていくかっ」

「せやな、今日の相手は格上やし、気ぃ抜かんでいかんようにせな…」

「私もぉ~、頑張るからねぇ~」

 気持ちは充分、この調子なら大丈夫じゃないか?と思いながら、クエストに向かうため外壁門まで歩く三獣姫プラス俺。
 そうそう、出ていく時に仮証明返さないとな、ちょっとだけ門番のところに寄っていこう。

 中央通りを真っ直ぐ進むこと暫く、外壁門に到着したらそこそこ人が並んでいた…荷馬車もあるから商隊だろうか、周りには冒険者らしい姿も見えるし。
 他には俺達と同じような冒険者パーティー、多分これからクエストに行くんだろう、後は…豪奢な飾り、紋章が入った馬車もある…こっちは貴族だろうな、護衛の兵士姿もある。

 とりあえずみんなで列の最後尾に付いて順番待ち、と。


「やっぱり朝やしそれなりに並んどるな」

「そうだねぇ~。もうちょっとぉ~掛かりそうかなぁ~」

「まぁ、急いでるわけじゃないし、いいんじゃないか?あぁそうだ、悪いんだけどちょっと門番のところに寄っていっていい?」

「そら別に構わへんけど、何か…て、あぁ、仮証明返すんか」

「そう、それ。ギルドカード手に入れたしね」

「そういやナオトって来たばっかなんだよな…んー、なんだろ、この変な感じ…」

「あ~、アーちゃんもぉ~そうなんだぁ~…私もぉ何かぁそんな感じがぁ~するんだよねぇ~……」

 ん?変な感じ…?何だろ?俺は別に何も感じないけど…アーネとマールにだけ感じる何かがあるのか?

「それって…ナオトはんのことやないか?」

「多分そうなんだよなぁ…けど、なんて言ったらいいんだ?この感じ……」

「なんかねぇ~…会ったばっかりってぇいう感じがぁ~しないんだよねぇ~……」

「あー、それな。なんつーか、馴染みすぎっつーのかな…前から居たみたいな、居て当たり前っつーか……」

「何となくアーネの言いたいこと分かるわ…ウチもそんな感じするしな……」

 え、何それ、俺は正真正銘昨日来たばっかりだぞ…いや、でも、俺もまさかこんなに早く姫達と打ち解けられるっていうか、馴染めるとは思わんかったけど…まぁ、まだ若干ドキッとする事もあるけど、雰囲気は悪くない…よな?でも、そう思ってるのは俺だけ…なのか?やっぱり……。

「それは…姫達には良くない感じ…なのか?やっぱり俺じゃ「「ちゃうよっ!」「ちげーよっ!」「違うよぉ~!」」…うわっ」

「あっ、ちゃうねん、えっと、その…なんや、こう…一緒にいるとな?居心地がいいっちゅうか…」

「なんつーか、こう、どんなバカやっても全部受け容れてもらえるっつーか…」

「えぇっとぉ~…そのぉ~……側にぃ居るだけでぇ~、安心出来るというかぁ~…」

 マジか…会ったばっかなのにそこまで?って、あぁ、だから前から居た、居て当たり前みたいな感じだったのか…。
 変な感じって違和感だったってことね、一瞬焦ったわ…さっきパーティー組んだばっかなのにもうクビかと思った……でもあれだ、もうそこまでの感じになってくれてるっていうのが、何より嬉しいな。
 まだ大した事してないのに、結構な信頼勝ち取ってるんじゃないか?いや、でもここで油断したらダメなパターンだな、これ。
 先は長いんだし、いつもの俺でいいみたいだからこの調子でやっていこう、うん。

「そっか…うん、ありがとな…みんな。改めていうのもなんだけど、これから一緒にいろんな冒険していこう…な」

「…うん、ウチも、ナオトはんと一緒なら、やっていけると思う…」

「あー、うん、アタイもだな…。ナオトとなら上手くやっていけそうだぜ」

「私もぉ~…ナオちゃんがぁ一緒ならぁ~…安心してぇ冒険出来ると思うよぉ~……」

「よしっ、んじゃ、これからみんなで冒険頑張っていくかっ!」

「「うん!」「おぅ!」「はぁいぃ!」」

 おっ、3人とも素敵な笑顔で元気な返事を返してくれたぞ。
 こっちまで嬉しくて俺も多分笑顔になってるな。
 さっきも思ったけど、この調子ならクエストも上手くいきそうだ、俺も頑張るかっ。


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