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第一章 転生、そして冒険者に

#04 情報開示局

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―・―・―・―・―・―・―・―





 歩くこと数十分程かな?水晶球にクロスした羽根ペンの看板を発見。
 二階建のかなり大きめな建物だな。
 よし、入ってみるか。

 ドアを開けて中に入ってみると…うん、結構賑わってるな、そこそこ人がいる。
 ここでもやっぱりジロジロ見られるのね…。
 
 奥の方にあるあそこが受付カウンターかな、それなりに人が並んでるし。

 ……ん?1箇所だけ並んでない受付がある。
 なんでだろ?ちょっと聞いてみるか。

「あの、すみません」

「はい、なんでしょうか」

「えっと、こちらの受付は使用出来ますか?他と違って人が並んでいなかったようなので」

「こちらの受付は漂流者専用窓口となっております」

 おぉ、専用窓口があるのか、それはありがたい、是非使わせてもらおう。

「漂流者専用でしたか、なるほど。ではこちらでお聞きしても大丈夫ですか?見ての通り漂流者なのですが」

「そのようですね。ただ規則がありますので身分証を提示してもらえますか」

「あ、はい。と、その前に…利用料とかは発生しますか?」

 まずはこれを聞いとかないと…借りたお金で足りなかったとか洒落にならない。

「漂流者の方は初回利用に限り無料となっていますので、安心してご利用ください」

 おぉ、初回無料とか漂流者特典か、ここでも助けられてる。

「よかった…正直ほっとしました。来たばかりなので…では遠慮なく利用させてもらいます。身分証の提示でしたよね。仮証明しかありませんが…これです」

 スッと受付窓口に門番のエドさんから受け取った仮証明を出して、それを受付嬢が手に取って確認してた。
 それから、受付嬢が仮証明を魔導具の上に置いて何やら操作しだした。
 仮証明に漂流者っていう情報が登録されてるのかな?

「お名前を教えていただけますか?」

「はい、遊佐尚斗と申します。姓がユサで名がナオトです」

「ナオト・ユサ様ですね、ありがとうございます」

 様付けって向こうじゃ無かったからな、なんか変な感じがする。
 そんな大層なやつじゃないんですよ、俺。

「はい、確認が取れました。ガルムドゲルン情報開示局へようこそ。漂流者専用窓口、わたくしファルシェナが担当いたします。よろしくお願いしますね」

 うわ…よく見るとスゴい美人だなこの人…メチャクチャ笑顔が爽やかだ。
 長い紫髪がサラサラとしてて、整った目鼻立ちに合った少し切れ長の目…でも全然キツそうじゃなくて、何ていうか、こう、相手を引き込むような魅惑的な感じがする。


[対象者:ファルシェナのステータスを簡易表示]

【ステータス(簡易)】
《識別》
 名前:ファルシェナ
 種族:夢魔族
 属性:闇
 位階:4
 状態:正常
《技能》
 固有:夢幽潜捕アストラルダイブ(―)
 物理:操鞭術(1)
    飛行術(2)
 魔法:属性魔法・闇(2)
    ・ブラインダーク(1)
    ・ダークブリッツ(1)
 補助:肉体変幻ファントムライン(3)
 一般:事務(3)
    言語翻訳(1)


 やば、よく見ちゃったから分析解説発動した…勝手に見るのはやっぱり失礼だよな、気を付けないと。
 後でこいつの常時発動何とかしないとなぁ…せめて俺の任意発動にして欲しい、出来るとは思えないけど。

 あー、人じゃなかったんだ…夢魔族って確か…サキュバスだよな?スキルで見た目人にしてるってことか、まぁ何か理由あるんだろうな。
 何となく感じた目元の印象がそれほどかけ離れてなかったわ、種族的に納得。
 でも、なんでこんな美人さんが専用窓口に…って、あぁそうか、普通の窓口にいたら凄い列が出来るからか、多分そういうことなんだろう。
 とりあえず、見なかったことにして、と。

「ありがとうございます、何分右も左も分からないことばかりで…本当に助かります」

「いえいえ、その為の窓口ですから。では、ご用件をお伺いします」

「はい、まずはこの世界と自分がいるこの場所について、大雑把で構いませんので教えてもらえませんか?」

「この世界についてですね、分かりました。この世界はミクシディアと呼ばれていて、創造神エクリィータ様と眷属たる六柱の神、生命神ヴィーラフィタル様、大地母神マイガザーア様、魔導神ウィーサラード様、武闘神ウェーバワーポルトン様、技能神ステクキーニックル様、財商神マービネージス様が創造されたと伝えられています」

 へぇー、何かファンタジー感がひしひしと伝わってくる、いいなぁこういうのは大好きだ。
 創造神か…俺の固有スキルと何か関係あったりするのかな?この世界に来た時、特に会ったりしてないからそんなことは無いか。

「ナオト様が今来られたこの街、城塞都市ガルムドゲルンは、この世界にある7つの大陸の内、マーリレンス大陸の東方に位置する国の一つである、ブラストヘルム皇国に属する街です。ここから東寄りに北上すると皇都グラウデリアがあります」

 皇国内の都市の一つね、ここもそれなりに大きな街だと思ったけど、皇都はもっと大きいのかな?その内行く機会もあるといいな。

「なるほど、大体理解できました。今のところはそれだけ分かれば何とかなりそうです、後は必要に応じてまた教えてもらいに来ます」

「はい、分かりました。その他お聞きになりたいことはありますか?」

「ええ、とにかくまずは身分証を持ちたくてギルド登録しようと思っているのですが、どのようなギルドがありますか?」

「ギルドの種類ですね。ここガルムドゲルンで登録出来るギルドは、冒険者ギルド、商人ギルド、鍛冶ギルド、魔導ギルドの4種類となります」

 とりあえず冒険者はあったか、よかった。
 この街で登録出来るのが4つということは……。

「この街で、ということは他にもギルドがあるんですか?」

「はい、皇都に行けば錬金術ギルドや魔導具ギルド、迷宮都市には探索者ギルドがありますね」

 なるほどね、まぁ、今すぐ必要なものはなさそうだからいいか。
 迷宮都市ってのはダンジョンとか抱えてるんだろうな。
 ダンジョン潜るのは探索者ってところか。
 いつか行ってみたいかも。

「分かりました、ありがとうございます。一先ずこの街で生計を立てたいと思ってるので、冒険者になろうと考えているのですが」

「そうですね、漂流者の方は特殊なスキルを持っていることが多いので、冒険者になられる方も多いですね」

 やっぱりみんな考えることは同じだな。
 チート持って無双はある意味夢だもんなぁ。
 俺は調子乗って悪目立ちする可能性大だからやるつもりないけど。

「では冒険者ギルドの場所を教えてもらえますか?これから登録してこようと思いますので」

「冒険者ギルドですね、分かりました」

 ファルシェナさんが引出し開けてガサゴソしだした。
 そこから1枚の紙を取り出してペンで印を付け、その紙を俺に渡してきた。

「こちらがこのガルムドゲルンの主要場所を記した地図になります。この印を付けた所が冒険者ギルドになります」

 印って…♡かよっ、お茶目さんだな、ファルシェナさん。

「えっと、ありがとう…ございます?」

「あ、あれ?皆さん結構喜んでくれるんですけど…この印。お気に召しませんでしたか?」

「あぁ、いえ、そんなことはないですよ。ただちょっとびっくりしただけで…自分がいた世界ではこのマーク、愛情表現とかによく使われるものでしたから」

 何だ、皆に使ってるのか。
 なんか特別な意味がある…って普通に考えたらそんなわけないか、初対面なのに。
 って、あれ?なんでそんなに顔真っ赤にしてるの?ファルシェナさん……?

「え、え?これってそういう意味があったんですか…?うそ、やだわたし何も知らずに使ってた!?」

「あー、誰も教えてくれなかったんですね。女性ならともかく、男性の方は喜ぶっていうか、ニヤニヤって感じじゃなかったですか?」

「あぁぁ言われてみればそうだった気が……やだ恥ずかしい………っ」

 可愛い反応するなぁファルシェナさん、なんかほっこりする。
 でもあなた夢魔族ですよね?いいんですか、その反応…。

「いや、自分は和みましたよ、効果抜群です。ありがとうございます」

「あぅ…す、すみません、取り乱してしまって……えと、教えてくださってありがとうございました。次からは気を付けて使うようにします………」

「まぁ、そこまで気にするほどでもないと思いますよ。これからもバンバン使っちゃってください」

「はぅぅ……」

「ははっ、あ、そうだ、もう二つほどお聞きしたいことがあるんですが、いいですか?」

 あぶないあぶない、忘れるところだった。
 これ聞いとかないとお金返せなくなる。

「は、はい、なんでしょうか…?」

「ここに来る途中、親切なご婦人に今日の宿を提供してもらったんですが、場所はこちらで教えてもらえると伺ったもので。『精霊の歌声亭』という宿屋なのですが」

「『精霊の歌声亭』の婦人というと、メルさんでしょうか…それなら情報開示局と提携している宿屋ですけれど。場所は…」

「あ、これにまた印を付けてもらっていいですか?」

 さっき貰った紙にまた印を付けてもらえばこれだけで事足りるからな。

「はい、分かりました。えっと『精霊の歌声亭』は確かこの辺り…」

「また♡マークでお願いしますね」

「はわわっ!」

 ははっ、一瞬で真っ赤になってるよ。

「もぅ!そんなにからかわないでくださいっ!」

「あははっ、すみません、つい…あまりにも可愛かったもので…ははっ」

「か、かか可愛いって!こ、ここはそういう場所ではありませんっ!」

「え、そういう場所って……あ」

 言われてみれば確かに…正直に思ったこと言ってただけでそんなつもりは毛頭無かったんだけど…。

「あんまりそういうことすると、次からは利用出来なくなりますからねっ!」

「わ、分かりました……すみません、気を付けます………」

 ヤバい、調子に乗り過ぎた…反省。
 でも、ファルシェナさんが可愛過ぎるのがいけないと思います。
 美人さんなのに異性慣れしてない感じがとっても好感持てます。
 種族的に演技かもしれないけど、俺はコロッと騙されます、はい。

「はい!印付けておきましたから後で確認しておいてくださいねっ!」

 ちょっと粗めに渡された…うーん怒らせちゃったかな。
 イカンな、ちょっと気が緩んできた、引き締めよう。

「えっと…その、すみませんでした。反省しますので、許していただけませんか…?」

「あ、えと、いえ、その…こちらこそ……ちょっとやり過ぎました、すみません………」

「あ、いや、ファルシェナさんは何も悪くないと思うんですが…自分が調子に乗ってしまっただけなので」

「いえ、元はと言えばわたしが書いたその、印が原因なわけですし…あと、あまりこういったやりとりには慣れてないといいますか…ゴニョゴニョ」

 んん?なんか段々と尻つぼみになって、何言ってるか分からなかったぞ…?

「あの、最後の方ちょっと聞こえなかったのですが…」

「な、何でもないです!何でも!そ、それよりまだ聞きたいことがあったのでは!?」

「あ、はい、そうでした!この世界の通貨単位と硬貨の種類を知りたいのですが、教えてくれませんか?」

 宿屋の女将さんに貸してもらった銀貨がどれくらいなのか分からなかったからな…大金だったら大変なことになるし。
 返すあてがなくなって途方に暮れるようなことは回避しないと。

「通貨についてですね、分かりました。えっと、確かこの辺に…あ、あったあった」

 また引出し開けてガサゴソしだしたファルシェナさんがもう1枚紙を渡してくれた。
 どうやら通貨単位と硬貨種類の一覧のようだ。

「こちらの紙もお渡ししておきますね。通貨について書かれたものです。一応口頭でも説明しますね」

 一覧にも書いてある通り、要約するとこうだった。

 通貨単位:セタル
 硬貨種類:
  銅貨 10枚=青銅貨1枚
  青銅貨10枚=銀貨 1枚
  銀貨 10枚=大銀貨1枚
  大銀貨10枚=金貨 1枚
  金貨 10枚=大金貨1枚
  大金貨10枚=白金貨1枚
  白金貨10枚=魔銀貨1枚  

 単位がセタルで1セタルが銅貨1枚か…あとはそれぞれ10枚桁上がりで硬貨の種類が変わる、と。
 意外と細かいのと、種類は分かったけど相場が分からんな…。

 宿屋の女将さんから借りたのは銀貨1枚だから、100セタルってことか。
 何となくだけど、それ程大金ってわけじゃなさそうな気がするから、どうにかなりそうかな?

「なるほど、大体分かりました。ちなみにここの利用料はいくらなんですか?」

「通常の利用料は一律50セタルですね。ナオト様も次回以降はこちらが必要になるので、気を付けてくださいね」

「分かりました、ファルシェナさん。今回はとりあえずここまでで大丈夫そうです。いろいろとありがとうございました」

「いえいえ!ご用の際はいつでも来てくださいね」

「了解です、その時はまたよろしくお願いします。では早速冒険者ギルドに行ってきますね」

「はい、またのご利用をお待ちしています!」

 いい笑顔で手を振って見送られたぞ……何か周りからの視線が入ってきた時より多い気がするけど、まぁ漂流者だからということにしておこう。



 ──さて、と、このまま冒険者ギルドに向かうとしようか。
 貰った地図の♡の位置は…と、あれ?
 ♡が2つ……ははっ、ホントに宿も♡で印付けてくれたんだな。
 ファルシェナさんやるなぁ、やっぱり可愛いじゃないか。
 意外と調子に乗って正解だったかも?
 今度お礼に何か差入れでも持っていこう、うん。

 で、改めてギルドの場所は…と、なんだ、この広場内か、丁度情報開示局の対面辺りだ。
 これは分かりやすいな、距離も近いし。


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