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故郷章

32:ララクラですって奥様

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「ぬぐ、ぬぐぐぐぐぐ!」

「どーお? 調子は。」


大自然の中で一泊した後、私たちは馬の背に乗りながらララクラという都市を目指している。昨日の夜はお香のおかげで魔物はやってこなかったし、都市に近づくにつれ魔物の襲撃自体も減ってきた。『やっぱり都市に近づくと掃討されてるのか絶対数が減るのかね?』とそんなことを思いながらアルの方を眺める。


「さっきからず~っと唸ってるけど進展はあった?」


朝起きた時も、朝食を取っている時も、私が魔物たちを処理している時も、アルは正に百面相といった感じでコロコロ表情を変えながらうんうん唸っている。何をしているのかと尋ねてみれば、魔法の練習だという。私と同じように虚空にルーン文字を描いても魔法が発動することはなかった、故に体内にある魔力をどうにかして指先に集中させることで、魔法を使用してやろうと考えているみたいだが……。


「グリリリリリ!」

「無理そうだね……。」


本から得た知識と、自身の感覚的なもの。胸の中央あたりに感じる温かいものを全身に循環させるような形でルーンを描けば成功する、ということは伝えているのだが……。どうやらまだ難しいようだ。私には"前世の人類"というくくりにはなってしまうが、心臓の形や循環器の簡単な仕組みってのは義務教育のおかげで頭に入っている。あの神からもらった適性とやらの効能もあるかもしれないが、そこら辺のイメージはこの世界の人間に比べると掴みやすい。

けど、それを理解できるように誰かに伝えるってのは話が別。彼女にそれを伝えてもあまり要領を得ていないようだったし、そもそも体内に存在する魔力の様なもの自体を把握することは出来ても、それを動かすことが如何にもできないらしい。

さっきからずっと何とかして循環させる、動かそうと頑張っているみたいだが……。


「ふぬぬぬぬぬ!!!」


うん、お察しの通りだ。私個人としては彼女の色んな表情を見れて万々歳なのだが……、そろそろ準備した方がよさそうだね。


「アル、見えてきたよ。」

「え? ……あ! ララクラです! ララクラ!」


薄い赤茶色のレンガによって積み上げられた城壁、多角形の内部に存在する都市が、見えてきた。


「さ、アル。外套とヘンリ様からもらった書類を出しておいて。あんまりファンサに時間を取りたくないからね。」

「はい、すぐに!」


コピアの背に纏められている荷物から私の言ったものを取り出そうとする彼女。帝都じゃ大体の人間に顔を知られている私だ。いくら違う都市と言えどもここは帝都から結構近いし、そもそも剣神祭は帝国中からいろんな人間が集まっていたお祭りだ。そこで私のことを知った奴がいてもおかしくない。

今は一応お忍びで来てるからね、ファンとの交流は大事だけど、変に時間を掛けたくないってわけだ。





 ◇◆◇◆◇




外套のフードを深く被りながら、順番待ちの列に並ぶ。後ろにいる人や少し前にいる馬車の人が悪態をつきまくっているが、私は正直何とも思わない。まぁさすがに順番抜かしをされれば警告とともに剣ぐらいは抜くが、待ちながら並ぶのは慣れたもんだ。日本人ですので。

変なことを考えながら、顔が露出しないように気を付けながら城壁を眺める。

帝都を守る様に作られた城壁は常に整備されていて、真円に近い塔とそれを直線でつなぐ城壁で形成されていたが、この都市を守る防壁はそうでもないようだ。塔の高さは疎らだし、円を作ろうとしたことは解るのだがどっちかというと多角形と言った方が正しいだろう。城壁も上の方は少し塗装が剥げているし、かなり凸凹している。帝都が魔法で作られた時代に合わぬ壁とするならば、ここは時代相応と言うべきだろうか。

このあたりは魔物の総数が少なく、また弱いのかもしれないが私が本気で蹴れば倒壊しそうな城壁だ。帝都の奴は一目で『堅そう』とわかるが、ララクラのモノは見ていてすごく不安になってくる。


(まぁ一言でいうとそんなにお金なさそうって感じ?)


まぁその国の頂点である首都と、その付近にある比較的大き目の街を比べるのが可哀そうということにしておこう。正直異国感というか、異世界感は帝都で十分味わったし、前世の生活を恋しくなることはあるが、この生活に慣れてしまった今、私の基準は全て帝都になっている。その帝都よりもレベルの下がった街を観るにしても……、何かこの都市独自の資源や名所があれば話は別だろうが、期待しない方がよさそうだ。


「あ、動きました! もうすぐですね!」

「そうだね。」


そも、この世界は魔法や神の存在があるとはいえ、魔物という明らかに人類よりも強い化け物がうじゃうじゃいる。もちろん私のように、そのうじゃうじゃいるのを粉みじんにできる人間も存在するが、まぁ数が少ないのだろう。つまり普通の民は魔物から身を守る為に街をつくり、壁を築き、生きていかなければならない。帝都のように人や戦力が集まっている都市ならまだ余力があり、その分を娯楽に費やすこともできるだろうが私が蹴れば穴が開きそうな防壁しか持たぬ都市には難しそうだ

ま、そもそも今回の利用目的は物資供給のための中継だ。観光に時間を使うつもりはないし、余計なことは考えないようにしよう。なにかよさそうな名所があれば、帰りに少し寄るぐらいで。


「っと、次か。」


城壁の話から観光資源についての話と、よくわからない風に脱線してしまったがその意味のない妄想のおかげでいい感じに時間を潰せたようだ。町の中に入っていく馬車を見送りながら、この都市の門番たちとようやくご対面だ。帝都の衛兵たちがしている装備よりも何段か質の低いものに、まったく整備されていない槍を持った男が声をかけてくる。


「身分証を出しな。あとウチは怪しいモンは全部牢にぶち込んでいいことになってるからよ。痛い目見たくなかったら、さっさと顔をみせたらどうだァ?」



おぉ、柄悪いねぇ。30代ぐらいで無精ひげ、軽装鎧の下の服からは清潔感は感じられない、姿勢も悪いし態度も悪い。口から唾も飛び出してるし、お近づきには成りたくないお方だ。

上司に言われてるから嫌々丁寧におしゃべりしている感じが語尾から痛いほどに伝わってくる。まぁ大変な仕事だろうし、面白みのないお仕事なのだろう。その上危険もあるとなれば、悪態つきたくなっちゃうのかね?


「了解した、だが先にこれを。」


彼からギリギリ見えるレベルで、外套の下にある鎧を見せつけながら書類を手渡す。私が知る限りこの世界で最上の紙を丸め、糸で縛ったもの。それを開いてみればあら不思議、この国で頂点に近い元老院議員様からの『この人怪しくないから通してあげてね♡ あとこの人にイジワルしたら我が家への侮辱とみなす。……から気を付けてね♡』という文字。


「……え、えッ。」

「問題なければ、返してくれるかな?」


貴族であっても結構な出費になるミスリルの全身鎧に、貴族の頂点ともいえる元老院からの『お願い』。明らかに顔が強張る門番くん。たった二つの要因ではあるが、片方の書類はヘンリエッタ様の家紋が刻まれている。魔法的なものでその権威を保証しているらしいし、偽造は一族郎党磔刑だそうだ。まぁつまり私の身分を"貴族、もしくはそれに類するもの"と勘違いさせてしまう最大の理由であり、ミスリルの鎧がそれを後押しする。


「お、おッ。」


明らかに顔から生気が抜けていく彼、まぁこの世界の貴族ってのはマジで"尊き者"だから、一般市民からすれば天災以外の何物でもない。彼らの気を損ねれば確実に消される、運が悪けば親類縁者全滅だ。ヘンリエッタ様ならデコピン程度で許しそうなものだが……、彼が『やらかしてしまった』と勘違いしてしまうのはしかたないのかもしれない。

あまり清潔ではないので少し忌避感はあるが……、声が纏う雰囲気を高貴なモノへと変えて。彼の耳元にこう、囁いてやる。


「実は"とても"、急いでるんだ。キミは普段通り、何もなかったかのように私たちを通すだけでいい。キミやキミの親族に"悪い"ことは起きないし、私も時間を取られず幸せだ。あぁ、何も言わなくていい。怖い思いをさせてしまったね……。」


言葉を紡ぎながら、銀貨。100ツケロに当たるものを二枚握らせる。通行料の相場より大分高いが……、あまりは好きに使うといい。怖がらせてしまったことへの謝罪も兼ねている。


「ど、どうぞ。お通りください。」

「ありがとう。」


唾を飲み込みながらなんとかその言葉を紡ぐ彼。顔色はだいぶ良くなったが、冷汗はすごいし震えは止まりそうもない。う~ん、変に時間取られた上に身バレするよりはいいけど、悪いことしちゃったかな? まぁいいや。

ひらひらと軽く手を振りながら中へと入っていく、城壁を越えるとそこは……、うん。普通の街って感じ。帝都に比べて内陸部に存在するせいか木造の建築物が増えているし、町の中央部に重要機関が集まっているのも想像通り。道が全くまっすぐじゃなかったり、地震が起きれば即崩壊しそうな建物たちがすぐにお迎えしてくれる。


「愛弟子、どうだい? 懐かしい?」


アルは一度、奴隷としてこの町を訪れている。故郷の村で買われた後、このララクラという都市で教育を受け帝都にやって来た。故に奴隷という身分であってもこの町を見る機会はあっただろうと思い、聞いてみる。


「う~ん、そこまでですかね。基本商館の方にいたので、町中を見て回ったことはあんまり。」

「そっか……。さて、じゃあここからは別行動だ。」


乗っていたルぺスから飛び降り、アルの乗るコピアの方に近づく。彼女の両脇を抱えた後は、宙ぶらりんのアルをルぺスの背に移動させる。


「ちょっと今から冒険者組合の方に情報集めに行ってくるから、アルは物資の補給をお願い。財布はコピアの背にあるから、そっから使う様に。好きな物買っていいけど、あんまり使い過ぎないようにね?」

「わかりました! 食料とかを買っておきますね。……あと家族へのお土産とか探してもいいですか?」

「もちろん。ルぺスとコピアは悪いけどアルに付いてってもらえる? 護衛と荷物持ち。もし変な奴がいたら好きにしてくれていいから。」

『任せて、不審者は蹴り飛ばすわ。』

『了解です~。』


外套の中で口角を上げながら、全員の頭を撫でる。アル一人だったら不安でいっぱいだったんだけど、彼女たち二人がいれば私がその場に到着するまでの時間稼ぎをしてくれるだろう。アルも私を心配させないためか、持たせた防犯の魔道具を取り出して見せてくれる。


「じゃ、お願いね。」





 ◇◆◇◆◇




アルと別れた後、一人で冒険者組合のある場所を探す。話によると、こういった地方都市では町の重要機関を中央に置くことで何かあったときの対策としているそうだ。だから町の中央に向かって歩いていけばいずれ見つかるはずなんだけど……。


(お、あったあった。)


二本の剣をクロスさせた看板を発見し、そちらの方へと足を進める。向かいには騎士団の詰所に、教会も見える。帝都じゃ結構分散させてたけどここはほんとに全部集めてる感じだね。にしても冒険者組合か……、闘技場で戦った奴は大体三倍速にも付いて来られないような奴ばっかりだったし、帝都を歩いててたまに見かける冒険者で『結構やりそう』と感じたのは片手で数えられる程度。


(まぁ帝都じゃ力ある奴は基本軍とか貴族の私兵になるからなぁ……。)


ここはどんな感じだろうかと思いながら、組合の中に足を踏み入れる。別に強い奴と戦いたいっていう戦闘狂なわけではないが、単純にこの町が抱える戦力ってのは気になるところだ。視界に入れた人間の力量とか無意識の間に判別とかしちゃうし……、職業病って奴かも。もう剣闘士じゃないのにおかしいよね。


(というわけでお手並み拝見……、んん?)


馴染みの居酒屋に入る様に、気楽に入室してみたのだが自身に視線が集まる。外套は被ってるし、顔は見えていない。鎧は隠しているけど全部覆いかぶせてるわけではない。となると……、単純に顔を隠したよくわからん奴が急に入って来たから警戒してる感じ?

とりあえず内装は、大きめの丸テーブルと長めのテーブルがいくつかあって、そこに冒険者らしき武装した奴が20人弱座ってる感じ。その奥にはカウンター席みたいなのが並んでて、その奥には厨房。うん、酒場兼用タイプの組合みたいだね。んで肝心の冒険者組合の受付は……。


「おうおうおう! えらくお高い鎧なんか着ちまってよう! ここはお貴族様の遊び場じゃねぇぜ!」

(わぁ、テンプレ。)


急に大声を上げながら、若干酒の匂いがする武装した男が木製のジョッキ片手に距離を詰めてくる。ある程度鍛えてはいるみたいだが、特筆して強そうな雰囲気は纏っていない。口調や態度は少々"無理やり"なほどに荒っぽいが、装備の手入れは素人が見ても丁寧になされていることが解る。しかも結構身ぎれいにしてるね、キミ。


「お前さんどこの出だァ? ここは俺らみたいな荒くれ者の溜まり場だぜぇ!? 間違えたんならさっさと回れ右して帰んな!」

「いや、間違ってはないよ。」


ちょっと低め、男性にしたら高めの声でそう答える。

彼以外にも冒険者やそこで働くような人間はこちらのことを認識しているが、声をかけてくる様子はない。絡まれている人間を可哀そうに見る視線ではなく、これから起こることを楽しそうに待つにやけた顔ばかりだ。いいねぇ、私こういうの好きだよ。乗れるところまで乗ってあげよう、というわけで名も知らぬ冒険者さん? ダンスのお相手を願うよ。


「……あん? その体形、お前さんもしかして……、女か?」

「あぁ、そうだとも。なんだい? 女性は入ってはいけなかったのかい?」




「別にそういうわけじゃねぇが……、その面! 拝ませてもらおうかいッ!」




そう言いながら私の外套を奪おうと踏み込む彼だが……、遅いね。『加速』せずに十分対処できる。

本気で"踊る"気はなかったけど、面白いし、やってやろう。伸ばして来た手をそのまま受け止め、手を合わせた状態で高く掲げる。踏み出した足は、軽くひっかけてこちらに姿勢をずらす。奴隷解放後に社交界用に覚えたこっちの世界のダンスがあるが……、アレはどっちかというと静かな踊りだ。あんまりウケはよくないだろう。もっと激しく動くのがいい。ってなるとこっちで学んだのと前世で見たことあるのを混ぜ混ぜしてアドリブ全開だ。

というわけでお手を拝借。あ、私男性役しか練習してないから振り回すよ。


「は?」


うろ覚えのメロディを口ずさみながら、彼を女性役とし、踊り狂う。加速を使わずとも、私の方が力も強いし全身鎧のおかげで私の方が重い。故にいくら彼がもがこうとも、抜け出せるはずがない。


「ちょ、おま、はな、はなせ、離せって!」

「♪~」


1,2,3。1,2,3、ほらほら足がもつれてるよ! というか身長も私の方が高いね! なんで私に喧嘩売ったんだろ? 彼からは演技の香りがしたし、見慣れない奴にはそうする決まりがあるのかな? ほら不審者対策とか、初心者の選別とかそういうの。

そんなことを考えながら私を中心に無理やり回転を始める。片手を高く掲げながら、強く握りしめたもう片方の手をそのままに彼の腰に回す。今歌ってるメロディの覚えてる範囲が終わりそうだから無理やり〆るよ、ほら回転!


「おわぁぁぁぁアアアアア!!!」


遠心力で、彼の腰が思いっきり反る。一応折れないように支えてあげているが、さっきまで酒を飲んでいたせいか顔色が非常に悪くなってきている。う~ん、この状態で戻されるの嫌だし、放り投げちゃえ。

残り数拍というところで、彼を勢いのままに天井へと放り投げる。軽いステップを踏みながらその場から退避し、天井に激突した瞬間に首元で柏手。


「グゲッ!」


彼が背後でよくわからない断末魔(死んでないはず)を上げた瞬間に、回転しながら優雅にお辞儀。


「お目汚し、失礼しました。」







 ◇◆◇◆◇






「というわけでルぺスにコピア! 今からお買い物に行きます!」

『はいです~。』

『何が"ということで"なのかはわからないけど、了解。』


ルぺスの背に乗ったまま、町の外周を周りながら市場を目指します。ルぺスが私を運ぶ役で、コピアが荷物持ちです。この前のお使いは失敗しちゃいましたが……、今回は頼れる妹分が二人もいます。これは成功間違いなしでしょう! たぶん!


『それで? まず何から買いに行くのかしら。』

「食料品から行こうと思います。保存食は朝見た時まだ残ってたんですけど、村までの距離を考えると頼りないのでそっちの補充もします。」


ルぺスにそう答えながら、頭の中で買うものを思い浮かべていく。確かララクラから出て少し行ったところには川の上流があったと思うので水の補給は問題なし。となると今日明日ぐらいまでなら持つ生鮮食品あたりと、塩漬けとか砂糖漬けとか干物系を買っておく必要がありそう。あ、あとパンもいるかな。


「8、いや余裕をもって10日分くらいいるかな?」

『……ねぇアル。確か目的地って往復で4日程度よね? そんなに必要なのかしら。』

「あ、はい。師匠滅茶苦茶食べるので。」


宿舎にいたころからそうだったが、師匠は滅茶苦茶食べる。もう、かなり引くレベルで。いや私も師匠に詰め込まれたせいで同年代と比べるとかなり食べる方だが、師匠は別格だ。大の大人が満腹を感じるレベルの食事5人前を軽く平らげた後でも、けろっとしている。まぁ胃の内容物を圧縮できる人間かどうか怪しい人だ、食べる量がおかしくても仕方ないだろう。

まぁ未来の私も同じ様になるんだがなッ!


「……なんか今変な声が聞こえたような?」

『ん~? どうしたんですか~?』

『いつものじゃないの? それよりもアル、そろそろよ。』

「あ、はい。」


二人が移動してくれたおかげで、いつの間にか市場がある通りまで来ていた。さ、お買い物と行きましょう。ルぺスの背から飛び降り、持ち物や腰の剣を確認してから皆で歩き始める。声や値札を見る限り、相場は帝都より少し高いくらいだろうか。ちょっと出費が多くなるかも。


「あ、果物の砂糖漬けだ。おじさん、これいくらですか?」

「一つ20ツケロさ、瓶を返してくれたら半額返すぜ?」

「なるほど……、じゃあそこの三つください。」


しっかりと握った財布から銀貨を一枚取り出し、少し驚いたおじさんから40枚の銅貨と瓶を三つ受け取る。うひひ、砂糖だ。村にいたころはお祭りの時ぐらいしか食べたことなかったけど、今なら買っても全然怒られない。師匠も私も好きだし、長期保存に向いてるから目的にも合ってる。……もし他によさそうなのがなかったら家族用のお土産としてもっかい買いに来ようかな?


「まいど! お使い頑張ってな!」

「はーい!」


そんな感じで市場を巡る、さっきみたいに露店形式のお店もあれば、家の中にお店があるところも。野菜やパン、後塩漬け肉を買いながらどんどんコピアの背に詰め込んでいく。ちょっとだけ私用のおやつに小さなパンと、ルぺスとコピア用にニンジンを買ってしまったが、師匠は多分許してくれるはずだ。


「よし! とりあえずはこれで大丈夫なはずです! あとはお土産ですね!」

『コピア、それ大丈夫なの?』

『……ちょっとこれ以上は過積載ですね~。潰れます。』


お土産、どうしようか。最初に見た砂糖漬けは絶対喜んでくれるし、外れようがない。けどなんか、こう。もうちょっと意外性を入れたい気もしている。それに砂糖漬けは食べたらなくなってしまう、やっぱり形に残る物がいいよね……。

師匠は色々考えてくれているみたいだけど、私は故郷に残るつもりはない。両親に何を言われようが、私の居場所はもうあそこではない。もちろん家族のみんなには会いたい。パパの顔は見たいし、ママの声は聞きたい。お姉ちゃんには帝都のことを教えてあげたいし、妹や弟たちはどれだけ大きくなったのかを抱っこして確かめたい。……けど、それは一度会えば十分だ。

元々一生帰れない覚悟で村を出たんだ、今更帰りたいなんて虫が良すぎる。師匠にはまだ色々返せてないし、多分だけど私が一番成長できるのはあの人の隣だ。


(剣だって、魔法だって、あの村じゃ学べない。)


となると何がいいだろうか、こういう時に師匠がいれば何かアイデアをくれそうだけど、ここにはいない。あんまり師匠に頼りっきりなのは悪いし、脳内のイマジナリー師匠は『こういうのは自分で考えて選んだ方がいい気がするなぁ、タコスッ!』って言ってる。……たこすってなに?


「というわけでちょっと工芸品とかを扱っている場所まで移動しますね。」

『りょ、了解です~。ルぺス、色々頼みます。』

『はいはい、任されたわ。』


二人を引き連れながら食料品を扱っている店舗が集まる地点から、鍛冶屋などが集まる場所へと移動をする。ほんとは自分で稼いだお金で買うべきなんだろうけど、今の私が個人でお金を稼ぐことは不可能だ。もう少し体が大きくなった後、自分で色々できるようになった後に返すことにしよう。


「ちょっともやもやしますけど……、次いつ会えるかなんてわかりませんから……。」

『(あの人なら望めばすぐに連れて行ってくれそうなものだけど……。)それで、どんなのがいいのかしら。コピアはアレだし、相談ぐらいなら乗れるわよ。まぁセンスには期待しないで欲しいけど。』

『重いです~。』

「お願いします。」




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