TS剣闘士は異世界で何を見るか。

サイリウム

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剣闘士編

24:二度目の

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眼が、覚める。

ここは……、ッ!


すぐに自身の体の状態を確認する、周りの確認もするのも大事だけど、先に自分に何が出来て、何ができないかを把握しないと対策を練るのも難しい。それに最悪な状態にあったとき、テンパって自分の体が動かないのに無理やり動かしてしまう、そう言うのも避けないといけない。長年の経験というか、裏の世界にいた時に如何にして襲われても対処できるかを考えていたら、自然と身についてしまった習慣だ。

両手、異常なし。両足も、異常なし。

体のどこかが痛いとかそう言うのもないし、思考に変なノイズが入るとかもない。普段通りの、私。服装も剣神祭に出るためにあつらえてもらった鎧一式と、普段通りに剣も下げている。


……ん?


疑問は残るがまぁ万全の状態だ。それを確認した後、ようやく外部の情報を得るために思考を割く。










「……市役所?」


いつの間にか座らされていた黒の長椅子がたくさん置いてあって、視線の先には窓口がたくさんある。ご丁寧に窓口の上には番号が振ってあるし、置かれている機材とか明らかに前世の物だ。発券機とか久しぶりに見たよ。あと窓口の隣にある、番号を表示する奴。懐かしい。

これだけ見るといきなり前世の世界に帰って来たのかと思ってしまうんだけど……、明らかに違うだろうといえる存在が見えてしまう。それもたくさん。

窓口に座っている職員の方々、それにその奥でお仕事をしているであろう人たち。全員がまぁ、なんというか……。天使みたいな恰好をしている。服装は明らかに前世の事務職員の方々、みたいな感じなんだけど頭に浮かんでいる輪っかというか、背中に生えてる羽というか、もう明らかに天使じゃんか、という特徴をたくさんお持ちでいらっしゃる。あと単純に纏っている雰囲気がアレだ、なんか神聖っぽい。

……破壊されたはずの右足が元に戻ってて、さっきまでいたはずの世界ではありえないような現状。




「あはは…………、そっか。」




うん、そう言うことだよね。

深く息を吐きながら、空を見上げる。真っ白な空間。職員の天使たちが使っているデスクや、窓口以外は全部白。あからさまに天国とかそういう奴なのだろう。そこに私がいるってことは……、ダメだったということだ。

加速の倍率に耐えられずに死んでしまったのか、それともあの異形が頭部破壊だけじゃ死ななかったのか、自分の死因という奴を考える。どっちにしろ私がここにいる時点で、あの試合で負けたってコトだろう。勝てなかったことに対する悔しさがないわけではないが、自分が死んでしまったということに対してまだ実感が持てない。そっちの気持ちの方が強い。……あぁ、でも。あの世界に来たときは何の説明もなく奴隷なわけだったし、それを考えれば今回はちゃんと考える時間をくれている、ということだろうか。そうなのであれば感謝しておこう。

自分が死んだとわかった時。もし考える力が残っていればもっと泣き叫んでしまうと思っていたが……、常に覚悟していたせいか嫌なほどに冷静になってしまっている。



「アルには……、謝るのも無理か。」



あの世界で初めて家族と呼べるような存在である彼女にも、もう声をかけることはできない。一人残してしまうことに対しての謝罪とか、最後の言葉とか、教えたかったこととか、私のことは忘れて自由に生きて欲しいとか、いろいろ言いたいことはあるけど……。死人に口なし、だ。私がこの市役所みたいなところに送ってきた奴らと同じように、順番が来てしまったとでも言おうか。

……ただ、まぁ。私が死んだときのことも、一番の出資者だったヘンリエッタ様とか、タクパルに任せてある。一応オーナーにも。私が死んだときはヘンリエッタ様の元でアルの奴隷解放の手続きと、市民権の獲得。それと私が残した財産の相続。タクパルには私が教えられなかったこの世界で生き残る術をできるだけ教えて欲しいと頼んでいる。変に心が落ち着いてしまっているのは、後のことを任せてしまっているからだろうか、それともすでに私には人の心がなくなってしまったのか。


「タクちゃんとの契約はどっちかが死んだときに、お互いの弟子の面倒を見る。だったけど……、私の方が先かぁ。」


別に、泣き叫ぶことが良いわけじゃない。だけどこう、自分が死んだことをすぐに理解してしまって、後を任せているが故に彼女の今後は悪いようにはならないことを確信してしまっているということに。やきもきしてしまう。彼女の心のことをちゃんと考えてあげれてないし、私が教えてあげたかったこともたくさんある。……もう、無理なのか。



「……アル。」



もう名前を呼んでも、彼女の声は聞こえてこない。


























「31番でお待ちのお客様~。」


窓口の方から声が響き、思考が遮られる。それと同時にあたりを見渡すが……、私以外に死人はいないみたいだ。声のした方の窓口を見れば、女の天使がコクコクと頷きながらこちらを見ている。どうやら31番ってのは私の事みたいだ。感傷に浸る時間はそこまでくれないのね。……まぁ見るからにあっちもお役所仕事だろうし。仕事場で泣き叫んだり、感慨に耽ったりするのも失礼か。

色々と溢れ出そうな気持ちに無理やり蓋をし、呼ばれた窓口の方へと足を進める。これは自分の問題だし、できなかったのは私が弱かったというほかにない。もう彼女に見せることはないけど、ずっとアルにとって恥ずかしくない師として、大人として、背中を見せてきた。死んだからと言ってそれが覆るわけじゃない。他人に迷惑かけることが解ってて、抑えないのは私がするべきことじゃない。


「そちらの席の方にお座りください~。」

「……はい。」


言われた通りに、前世の世界でよく見た丸椅子に腰かける。対面にいる彼女は、服装こそどこかの市役所にいそうなものだが、その無駄に艶の良い金の髪や、その上に浮かぶ輪っか。少し小ぶりの羽を見れば明らかに人類とは違う存在に見える。


「えっと、まずは生を全うされたことと、無事神の元に召されたことをお祝い申し上げます。人生の方、お疲れ様でした。」

「はい、どうも。」

「お気づきかと思うのですが、ここは天国みたいなものでして。次の生へのご案内だとか、天国への居住のご案内や新規死後就職などのご案内をさせて頂いております。」


彼女が指さした方には、前世の市役所とかでよく見るポスターだったり、届け出の出し方について書かれた紙が貼られている。

……うん、ここほんとにお役所な感じなんだね。


「では早速ご案内の方させて頂きたいのですが、お名前の方お聞きしても大丈夫でしょうか?」

「……あ~。あの、すみません。私親から名付けられた名前とか解らないんですけど……、そう言った時はどうすればいいでしょうか?」

「でしたら普段お使いになっているお名前の方を教えてください。あ、複数ある場合は全部お願いしますね。そこから検索して、次の生命などのご案内の方させて頂きますので。」


全部……、となると。


「ジナと、ビクトリア。……それと■■■■。」

「あ、転生者の方だったんですね。それはまたお疲れさまでした。どうでした、こちらの世界は?」


目の前の天使は手元にあるタブレットを操作しながらそんな雑談を始める。聞きたいことは色々あるけど……、お役所仕事な彼女に聞いても知りたいことが帰ってくる可能性は少ないだろう。手続きが終わった後に私が死んだ後のこととか、残してしまった彼女のことを聞いてみることにする。この空間に留まることができる時間が長ければ、それを聞いてみることにしよう。


「まぁ、色々ありましたけど……。楽しかったです。」

「それはそれは。私たちとしてもありがたい限りです。」


……うん。

最初は色々悲惨だったけど、楽しいことも嬉しいことも。なかったとは言わない。大切な人にであうこともできたし、その子に残すこともできた。自身の死はずっと覚悟してきたけど……、最初いた地獄みたいな裏の闘技場でもなく、オーナーに使いつぶされるわけでもなく、大事な人が出来て、少しだけだけど彼女に私という存在がいたことを知ってもらっている。いずれ忘れられてしまうかもだけど……、それでもいいや。

やり残したことはたくさんあるけど、これまでやって来たことに悔いはない。


「…………あれ? ないな。」

「…………?」

「すみません、ちょっとお待ちくださいね!」


私がこれまでの生を振り返りながらしみじみしていると、目の前の職員さんがとても慌てだす。というかないって? もしかして転生とかそう言うのこっちの世界ではない感じ? いやでもさっき転生者だったんですね~、とか言ってたし……。

そんなことを考えていると、こちらに一礼した後ふわふわと飛びながらさっきまで操作していたデバイスをもって後ろの方に飛び去って行ってしまう。その先には明らかに上役みたいな顔をした天使。そのデバイスと私の顔を見比べた後血の気がどんどん消えていく。あ、この感じ前世で見たことあるわ。プロジェクト終盤に全部をひっくり返してしまうような致命的なミスが発覚した時の雰囲気とすごく似てる。

もしかしてアレか? 私転生時に何も説明なかったのが今になって判明したとかそういうの?

上役天使の動揺はそこで働いていた天使ちゃんたち全員に広がり、一気にパニック状態に陥る。なんというか私が来たせいでこうなってるわけだからすごく居心地悪いんだけど……、何か私がやらかしたわけではないよね? 大丈夫だよね?

結構不安になってきたと同じ時、何やら覚悟を決めたらしい天使の上役さんがこちらに飛んできて私にこう言った。


「すみません! ちょっとついてきていただけますか!」


……あの、やっぱりなんか私やらかしましたかね?














 ◇◆◇◆◇












「うにゃ? 手違い? めずらしいねぇ……、んでどうするのこの子?」


何段か高さが上乗せされた台に設置された豪華な椅子に彼女は座り、背後には何故か菓子類が山のように積み上げられている。

金の髪に、一房だけ水色のラインが入ったその頭部からは暖かな光の様なものが漏れ出しており、見た目と反して明らかに人間ではない。

目の前にいるのは、明らかに見たことのある人物。というか教会に置いてあった女神像と瓜二つの人物、というかもう神。思いっきり頭をへこへこ下げながら謝罪する天使たちの声を興味なさそうに聞きながら、前世でよく見るようなクリームたっぷりのケーキを口に運んでいる。


「我々が頂いている裁量では解決できない案件でして……。」

「あ~? そうだっけ? そこらへんわすれちった。……まぁいいや、下がっていいよ。あ、あとこの子のお茶も持ってきて~。……あ、やっぱお前じゃなくてあの子。」


そう言いながら、天使たちを下がらせる彼女。彼女の能力か、天使の能力かは解らないが彼女が手を軽く振った瞬間天使たちの姿が掻き消える。そして先ほどまで口に運んでいた菓子を全て口に放り込み、飲み込んだ後。

その眼は、こちらに向けられる。



「……。」

「……。」



目が合ったまま、沈黙が続く。……ど、どうすれば? これなんか私から話した方がいい奴か? いや待てさっきの天使はともかくあの世界の神ぞ、目の前にいるの神ぞ! 相対した感覚的に天使はまぁまだいけるか? って感じだけどコレは無理だぞ! 格が違い過ぎる! 剣闘士としての私が『逃げる事すらできないからどうにか媚び売って生き残れ』って泣き叫んでる! なんか背後からよくわからん光出てるし! 教会にあった像と顔一緒だし! 後何よりもその雰囲気が明らかに人間とは違う! 目の前にいるのはマジで手を振るうだけでこっちの存在を消滅させられる!


「……ふ~ん。ねぇ、お前。名前は? 好きなの名乗り。」

「ジ、ジナ、です。」

「自分でつけたの?」

「は、はい。」


そんなことを聞きながら、値踏みをするようにこちらのことを観察し続ける彼女。その一挙手一投足が私の心に格の違いを叩き込んでくる、生物を超えた存在としての格の違い。明らかに圧倒されている。どうしようもなく勝てない相手、逆らえない相手なのに、剣闘士としての性か、その一つ一つの動きを目で追ってしまう。


「……うん、気に入った。ジナだっけ? それともビクトリアと呼んだ方がいい? もしくは前世の名か。……まぁ短いからジナにしよう。お前が置かれている状況については理解してる?」

「………すみません、ほとんど解ってないです。」

「正直でよし。普段ならその頭に直接叩き込むけど……、たまには不便も楽しもう。それ、お座り!」


彼女がそう言いながら手に持っていた菓子用のフォークを振ると、私の傍に椅子が出現する。明らかに犬にいう感じのノリだったが、とりあえず言われた通りに腰を下ろすと、彼女がもう一度軽く手を振る。その瞬間目の前の空間が裂け、机とその上に置かれた菓子。いつの間にか高台から降りてきた彼女が、対面に座っている。教会で受けた説明では彼女は創造神であり絶対神。……たぶん私のことなんか全部お見通しなのだろう。


「この菓子はお前がいた世界からの貢ぎ物~、別に一人でも食えるんだけど食い過ぎるとあの天使たちがうるさいのよ。ダイエットしろとか? 神としてふさわしいフォルムをとか? もう、うるさくて敵わないって感じ。だから好きなだけ食え食え、四六時中送られてくるからお代わりはし放題だぞ。」

「ど、どうも……。」


明らかに『食べろ』という雰囲気を醸し出していたため、急いでそれを口に運ぶ。茶色い薄く柔らかいパン生地の中に、黄色いクリームが込められている菓子。シュークリームに似ているが、サイズがホールケーキほどあるし、違うものなのだろう。置かれたフォークで恐る恐る口の中に運ぶ。……あ、普通においしい。というかシュークリームをイメージしてたから柔らかいと思ってたんだけど、結構硬めのクリームなんだね。食べたことなかったけど好きになりそう。


「前世住んでいた日本だったか? あそこほど食文化が進んでるわけではないが菓子文化はこっちも負けてない。いや経過時間を考えれば進み過ぎてる? こっちまだ中世入ったばっかりみたいなもんだし。全能たる偉大な私としては? 正直砂糖だけでもいいんだけど、あいつら無駄に手が凝ったものを送ってくるからなぁ、舌は肥えたが腹が出てくるから困る。」

「そうなんですね……。」


対面した神に急に雑談を振られた時の私の感情を答えよ。正解はなんて返したらいいか解らん。


「まぁ喰いながら聞いとけ。えっと、それで何だったっけ……。あぁ、そうだ。キミの状況だったな。」


そんなことを言いながら菓子を食べ進める神、一人で全部食べれるというのは間違いないようで。いつの間にか机いっぱいに並べられた菓子を次々に口の中に放り込んでいく。頬が綻んでいるのを見るに、話通り甘いものが好きな神様なのだろう。というかそんなに勢いよく食べるからふと




強烈な殺気。



あ、すみません。考えるのやめます。


「よろしい。……ま、簡単に言えばキミの転生するときに踏むべき工程を全部スルーして転生しちゃった、って感じ。ウチの天使たちが考案したんだけどね? 本来は異世界で問題なく生活できるように簡単な説明会と研修を受けてもらった後に、『新生活応援パック』っての渡してるのよ。けどキミはそう言うの全部なしで送っちゃったんだって。書類確認したら研修会とかそう言うの全部受けてない、ってことになってるのに死人となってこっち来てるから大問題ってわけ。」

「は、はぁ……。」


説明を進めながら彼女がホログラムみたいなのを出現させる、そこには大体三時間ぐらいで作ったのであろうチラシが映っていた。『新生活応援パック』と書いてあるし、その告知用のチラシだったりするのだろう。……なんというか天使と聞いて超位存在かと思っていたけど明らかにやってることが人間と同じだ。


「まぁ天使って私の仕事手伝わせるために死んだ人間を採用してるだけなんだよね。」

「あ、そういう……。」

「だからミスもする。というかミスとかなかったら面白くないでしょ? 私だって意図的に抑えてるし。全能とか普通につまらん。」


というかさっきから思ってたんだけどやっぱり思考読める感じですか?


「そだよ? 私、創造神だし。できないことなどない! めんどいからやらないだけ~。まぁ話戻すけど、そん時にスキルとか特別な武器とか上げるんだけど、それなしで転生させちゃって。そんな君が本来生き残れたであろう場面で死んで、こっちに来ちゃったわけだから思いっきりこっちの不始末なわけ。でも勝手に生き返らせるとかそう言う権限は与えてなかったから私のとこに話持ってきた~、って感じ。お判り?」

「お判りです。」

「で? どうする? 色々選択肢あるけど。」


そう言いながら彼女はまた手を軽く振る。そうすると自身の目の前にさっきとは違う映像が浮かび上がってきた。


「まずはこのままこっちで生活するルート、一応ここ天国だけどキリスト教的な楽園じゃなくて、私の仕事を手伝う場所なんよ。天罰のシステムが正常に動いてるか確認したり、人に与える試練の調節したり、善と悪のバランス調節したりと……。まぁ色々? 君の言う市役所みたいなとこで仕事する感じね? OLって感じ。」

「つぎは大体他の奴と一緒で、輪廻の輪の中に戻る感じのルート。ウチも日本みたいに輪廻転生を採用しててね? 普通に次の生命へのご案内~、とかやってる。」

「最後! 死んだと思っていたユーを生き返らせるついでに、本来プレゼントするはずだったスキルとかを上げて……、あ。これね。OKOK。」






「……え、まだ何も言ってないんですけど。」

「そう? もう思考読むまでもなく最後がいい、って顔してたけど?」


いやまぁ生き返れるなら絶対そっちの方がいいな、って感じですけども。最後まで説明してくださっても……。あ、時間の無駄? さいですか。あ、あと因みになんで私がこの世界に来たとかは、元の世界とかでなんで死んだとかは……。あ、教えてくださらない。了解です。いや確かにおっしゃる通り普通にあの子のいる世界に帰れるのなら帰るつもりでしたし、元の世界のことも知らなくても生きていけますけど……。あ、しつこいのは嫌い。失礼いたしました。


「うむ! じゃあ生き返るタイミングだけど……、お? ちょうど今いい感じに治療とか受けてる感じか。じゃあこのぐちゃぐちゃになった体をいい感じに弄りましてぇ! スペース開けてぇ! うし、お直し完了。後はここにいる君をぶち込めば完了!」

「……速いっすね。」

「神ですから! ……あ、ちなみに君の体がどうなってたか聞く? 見た目はまぁまだ原型保ってたけど、腕とか粉砕骨折を超えた粉塵骨折になってた。後一番ひどいのが脳みそで、負荷がすごすぎて水風船みたいになってたよ。」

「ヒエッ」


え、『加速』の二十倍ってそこまで負荷高かったんですか? ……もう使わんとこ。


「というか今の剣神祭ってかなり野蛮な感じになってるんだねぇ……、昔は剣舞だっけ? それするだけだったのに今じゃ普通に殺し合いしとるし。何千年も放置してたらそうなるのかねぇ? ……まぁどうでもいいや。んでジナち? ユーはどんなスキルが欲しい? ほんとは転生するときに渡すはずだった奴だけど……、詫びも込めておまけしちゃうよ!」

「え、じゃあ……。」


何が欲しいか、と言われればやっぱり……。アレですよね。


「魔法で。」

「やっぱり? いいよね魔法……、ほい、っと! うん、いい感じにおススメ適正付けといたよ。なぁ~にあなたにちゃん、っと! ベストな適性をこの神様が付けてあげたのだから安心したまえ! 帰ったら誰だっけ、この婆ちゃん……、あぁヘンリエッタね。この人にでも頼んで勉強しな。あと教会で見た才能の輪っかあったでしょ? それも最新版に変更しといたから見て置くように。」


彼女がさっと手を振ると、私を水色の光が包み込む。その瞬間に体の中で何か新しいモノが生まれた様な感覚を得る。おそらく、いや絶対にこれが魔力。魔力だ! 魔法の元! 魔法、魔法、魔法! 使える、使える!

生き返って彼女にもう一度会えることと、魔法が使えるようになったことのダブルパンチでテンションが上がってきた。



……本当に、もう一度彼女と会えるんだ。ただいまって言えるんだ。……ッし!



「うんうん。喜んでいるようで何より。………あ、そうだ。ここで見たこととかの記憶とかは消さないけどあんまり口外しないようにね? やらかしたら普通に聖女ルートか背教者ルートで、教会の奥に押し込められるか悪魔の子として処刑されるだろうから気を付けてね? あの世界私の一神教の子しかいないから元の世界の神様のお話しとかもしないこと。地球の方にも迷惑かけることになるから……。」

「あ、ハイ。」

「まぁ別に私の手伝いしたいのなら聖女ルートでもいいけど……、お。来た来た。」


こっちこっち~、と神が手を振る方を見てみると天使とはまた違う存在。というか人間がこちらに向かって歩いてきていた。高齢の女性で、修道服に身を包んだ彼女は茶が乗せられた台を手にやって来ている。


「この子、今代の聖女ちゃんね。……ちょっというかかなり年行ってるけど。なんかあったらこの子のところに行けば多分何とかしてくれると思うよ、死んでなければ。」

「第198代目の聖女を務めさせていただいております、ユアと申します。ビクトリア様ですよね? お噂はかねがね。」

「あ、これはご丁寧に。」


丁寧にお礼をしてくれる聖女様に返礼する。というか聖女様でも野蛮な剣闘士のお話し知ってるのね? ビクトリアちゃんびっくり。……というかなんでいるの?


「ほら、私そろそろ天に召されそうな感じでしょう? 聖女って生を全うしたらそのまま天使として神に仕えるのが決まっているのよ。だからこうやってたまにお邪魔して、お仕事の手伝いをしているの。たしか……、インターンでしたっけ?」

「あってるぞ。」


……つまり死んでからも働かされるってこと? 悲しいね。というか死んだ後の就職を考えてインターンってこと? 終活じゃなくて就活?



「効率的でしょ? 私がサボるために定期的に人員を増やす! ……っと、まぁこんな感じかな? それでは聞きたい事はあるかなジナ君! まぁ聞かれても答えないけどな! 自分で解ける謎は自分で解くべし! 君の体のこととか、ね!」

「あ、はい。なら大丈夫です。頑張ります。」




「よし! ……じゃ、今後も私の世界を楽しんで。」



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