クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作崩壊後:神魔の覚醒

103:攻城戦

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「とまぁ転移で帝都近くまでやって来たわけなんですけど……。これ人住んでる? いや旗とか上がってるから居ないわけではないんだろうけどさ。静かすぎない?」


フアナの転移魔法により帝都付近の森林に転移した私達。別に奇襲をかける意味もないから、斥候ぽい奴を見逃しながら帝都までテクテクと歩いてきたんですけど……。あまりにも人の気配が感じられなかった。というか音がしない、と言った方が良い気がする。

不気味なほど風が吹かないせいで森林を通っていた時に木々が揺れて音が鳴る、ってこともなかったし、動物たちが動く音も聞こえなかった。でもまぁそれだけなら“たまたま”風が吹かなかったって考えることもできるし、結構な人数が森の中に出現したってことで驚いた動物たちが逃げてしまったと考えることもできるだろう。

けれど到着した帝都、その町からも、街を囲う防壁からも、それを守る兵たちからも一切の音が聞こえないというのは、明らかにおかしい。


(普通なら、もっと音が聞こえていいはずだ。)


帝国の首都である帝都と国境線は、結構な距離がある。それを無視して急に3000年間殺し合った王国軍が攻めて来たとなれば、普通住んでいる民たちは混乱するだろうし、騒いでしまうだろう。勿論兵たちも同様で、敵に対応するために走り回るだろうし、防衛兵器を動かすために怒号が聞こえてきてもおかしくない。

それが一切ないとなれば……、もう不気味を通りこして不安になってくる。


「これ、全部人喰われて改造とかされてんじゃない?」

「有り得そうなのがまた、な。……どうするティアラ。」


オリアナさんの声を受け、ちょっとだけ思考をまわす。

これから戦うことになる、女神ゴジケサは“補食と放出”を司る。この前倒した王国の女神同様、他者から何かを得て自己の強化、もしくは攻撃に転じることが出来る女神だ。そしてその補食対象は、この大陸すら含まれている。原作では軽く触れられた程度だったが、確か王国との戦争に勝った後はこの大陸どころか世界全てを捕食し、次の食料目掛けて他の世界に転移しようとしていた、とかそんなことを考えていた。

早い話、この周辺の大地も。動植物も。人も。全部喰われてる可能性が高い。

人だけはまだ利用価値があるのか、自分が食べた部分に、自身の神秘を入れ込むことでちょうどいい人形兼兵士にしている可能性が高いけど……。


(う~ん、普通に害悪。……この改造された人たち元に戻せるんかね?)


国境線にいた市民たちと比べると、明らかに普通の人間が受け止めれる神秘量を越えている。つまり“神にとって”余計な部分を切り取って、スペースを開けてる可能性が高い。それを考えると、女神を吹き飛ばしたとしても、元に戻ることは難しいだろう。アユティナ様の神秘を代わりに入れることもできなくはないだろうが……、それじゃ何も変わらないよね。


「消し飛ばして終わらせてやるか、神秘ぶち込んで無理矢理生きながらえさせるか。判断に困る。」

「……残してやる方針の方が良いんじゃねぇか? 何も残ってないより、いいだろ。」

「……まぁ、そっか。うん、じゃあその方針で行くね。」


ったくクソ女神め、面倒な手間増やしやがって。

そんなことを考えながら、帝都攻略戦。今から行われる戦いについて考えをはせていく。

こっちの総数は千程度で、相手は首都丸ごと一つ。普通に考えれば敗戦濃厚だが、それをひっくり返すだけの力はある。


(私フアナエレナの3人で動けば、殲滅が可能。それに後ろにオリアナさんとナディーンさんもいるから、滅多なことは起きないだろう。)


当初の想定では全部私達三人で吹き飛ばす予定だったが……、相手が市民を改造して人質みたいにするのならば、方針を変えなければならない。確かに私の“空間”連打と、フアナの魔法を使えば全部丸ごと吹き飛ばすっていう時短が出来るのは確かだけど、その後を考えればやらない方がいい。

けれどそうなると、ちょっと数が多すぎる。中にどれだけの人間がいるのか解らないが、王都と同様の規模となれば10万は下らないだろう。それ相手に攻城戦。しかもある程度殺さないようにするとなれば、正直面倒。後市民の中に隠れてそうな使徒とかに邪魔されて変な犠牲とか増えそうで嫌。


(こっちが市民を殺さないように動いてる、てバレたら『羽交い締めにしても時間を稼げ!』みたいな指示を飛ばされてもおかしくない。)


それを考えた場合、私達三人で完結させるより、仕事を分散した方がよさそうだ。

ちょうど、こっちの配下にはとっても優秀な兵がいることだし。

というわけでオリアナさん、任せてもいい?


「あいよ。ソーレ、ルーナ! 支度しろ!」

「「はっ!」」


背後に詰めていた二人が即座に動き出し、モヒカンズやその他の貴族の私兵たちに伝令を送っていく。

フアナはちょっと『魔力と神秘が混じってるみたいで、それが使徒なのか改造された人なのか判別がつきにくい』とのことだったが、エレナはなんか感覚で解るみたいだし、ティアラちゃんもクソ女神の嫌な臭いは簡単に解る。つまり空から戦場を駆け巡ることが出来る空騎兵の二人が使徒の殲滅を行い、フアナがそのサポート。

そして使徒以外の相手を彼女たちに任せ、使徒の殲滅終了後に私たちは敵の本拠地であろう城へと侵攻。皇帝を確保した後に、教会も落とす。そういう作戦で行こう。今はまだクソ女神が『追い込まれていない』判定をしているおかげでやってないけど、このまま攻め入ったら原作みたいに過剰神秘供給、人と神秘が無理矢理融合したバケモノを大量生産し始めてもおかしくない。

民を守るっていう方針で行くなら、真っ先に改造されそうな気がする皇帝を確保するのが良いだろう。……嫌だって、敵の王様がなんか暴走状態に入ってクソ強くなるってお約束じゃん?


「……そういうもんか? まぁいい。指揮はこっちで執るが、流石に全員無傷でってわけにはいかんぞ。味方の負傷は防げるが、逆は流石に無理だ。」

「あぁ、うん。理解してる。“可能な限り”でいいって伝えといて。」


連れてきてる貴族の私兵は知らないけど、ウチが抱えてる姉妹とモヒカンズ。あとナディーンさんところの天馬騎士団の練度は、かなり高い。たとえ相手が神秘持ちの改造兵であっても、無力化位簡単にこなしてくれるだろう。けれどあっちの数は未知数。無理をさせるつもりはない。

そんなことを考えていれば、どうやら準備が整ったようで姉妹たちが完全武装で戻ってくる。


「オリアナ様! ティアラ様! 準備できました!」

「全部隊から『いつでもいける』と。」

「あ、もう? んじゃ始めちゃおっか! 城門吹き飛ばす予定だから、初撃は私が貰っちゃうけど……。その後の一番槍、二人に任せちゃってもいい?」

「「はッ!」」


うむ! やる気があってヨシ!

んじゃま、仕事して参りますかぁ!


「実はちょっと面白いものを用意しててね……?」


空間を操作し、準備を始める。

実はティアラちゃん、前世でちょっと得意だったスポーツがありましてね? さすがにアマチュアレベルではあったけど、人から一目置かれるぐらいには得意だったんですよ。ちょうどいい“ピン”がある事ですし、ちょっとやってみようかなーって!

取り出すのは、巨大な岩の塊。直径10mほどの岩石を私の手によって綺麗な球体になる様に研磨し、大量の神秘を込めたマイボール。そしてそれに付与するのは、ルフトクロンになったことで取得した魔法能力、『火球の魔法』を付与する。

神秘と魔力が共に燃焼し、生み出されるのは巨大な白い火球。地上に太陽を生み出したのだ。

何度になっているか解らないけれど、明らかに内部の岩が消し飛んでいてもおかしくない火力。けれど神秘で保護されているが故に、壊れない。そしてさらに、フアナの師匠である“ヘイカ”から学んだ条件付けを、ここに追加する。


(こういうのはフアナの専売特許なんだろうけど……、私もちゃんと出来るようになっとかなきゃ、不味そうだからね。)


この巨大な太陽が破壊するのは、物質だけ。人は決して壊さず、むしろ回復させる。もっと細かい条件付けをして“縛れ”ば、威力の向上とかが望めるらしいが、別に要らない。今欲しいのは城壁の破壊と、まっすぐ突っ込める道の作成のみ。“ピン”だけ、倒せればいいのだ。


「ひっさしぶりだから下手になってるかもだけど……。目指せストライク! 行くぞボウリング! ティアラちゃんが第一投……、投げました!」


瞬間、射出される巨大な球体。

眼にも止まらず最外の防壁を破壊したそれは、帝都内の建物を踏み潰しながらさらに内側へ。色々なものを踏み潰し、どんどんと奥へと進んでいく。ピンの代わりは、城壁。次々とそれを破壊していき、帝城までぶっ潰せるかな、ってところで止まってしまう。

勢いが急に止まった感じ、誰かに止められたなありゃ。まぁいいや。投げ返される前に回収しとこッと。


「城壊せなかったし……、2本残りぐらいかな? う~ん、ストライクへの道はまだまだ遠いぜ!」

「……相変わらずスケールがデカいなぁ、オイ。」


まぁいいや! とりあえず道は出来たし……。突っ込めー!





 ◇◆◇◆◇




そんなこんなで始まった、帝都攻略戦。

王国の王都同様、複数の城壁と中央にある強固な帝城によって防御を固め、敵に出血を強要するのが帝国側の目論見だっただろうが……。ティアラのボウリングによってすべての城壁を踏み潰すように道が形成されてしまう。

そしてその“道”に最初に向かっていくのは、ティアラ旗下の姉妹。ソーレとルーナ。

両者ともに王国教会との戦いを生き抜き、その後も鍛錬を続けていた彼女たちは、確実にその力量を上げていた。老いてなお最盛期を維持しより上へと進み続けるオリアナの指導を受け、定期的に墳墓にいるヘイカが生み出したアンデッドとの実戦。ティアラたちの様な規格外には流石に及ばないが、オリアナが初めてティアラと会った時の彼女以上の能力を、保有し始めていた。

当時のオリアナですら、ロリコンの保有していた兵力を素手で完全に無力化出来る実力者。それほどの強さを手に入れ、同時に姉妹特有の息の合った連携を持つ彼女たちが、たとえ神秘に保護されていたとしても、帝国兵や帝国民に負けるはずがなかった。


「ルーナ!」

「うん!」


剣の腹によって敵兵の意識を刈り取り、その胴体を浮き上がらせた後に敵集団に向かって蹴り飛ばす。そして空いた手で敵の武器を奪い取り、敵の手の届かない城壁や建造物の壁に向けて投射し突き刺すことで、攻撃能力を奪っていく。それでもなお女神の命令を達成しようと動くものに対しては、腕や足の骨を折ることで、対処していく。

勿論、民衆の中に使徒が紛れていることもあったが……。


「姉妹~、それやろっか?」

「いえ、いけます! ルーナ!」

「うん! お姉ちゃん!」

「「はぁぁぁあああああ!!!!!」」


上空から問いかける主人にそう答え、同時に体内の魔力を叩き起こす二人。直後に放つのは、白と黒の斬撃。十分な威力を込められたそれだったが、神秘による強化を受けた使徒には大したダメージにならない。武器を持って、打ち消されてしまうソレ。けれど、二人にとってそれは想定済みだった。

何せ、自分たちの周りには神秘の使い手も、自分よりも何倍も強い人間がいるのだから。

防がれる前提で動いた二人は、斬撃の陰に隠れるように使徒まで移動。敵がその攻撃を打ち払うために武器を振るった瞬間に……。押し込む。

瞬間、使徒の体を突き抜ける。【白燕】と【黒燕】。

そのまま内部から両断することで、その肉体機能を停止させる。


「えっと。復活されると困るから一応首も刎ねといて……。」

「お姉ちゃん、それよりも奥方様に処理頼んだ方が良いんじゃない?」

「確かに。そっちの方が確実だね。」


そう言いながら後方で戦場を俯瞰していたフアナに支援を求める二人。

かなり機嫌の良さそうな彼女によって着火された敵使徒の死体が完全に消滅したのを確認した二人は、更に敵集団の無力化を行っていく。オリアナの元で指揮も学んでいた二人だ、自分たちに付き従ってくれるモヒカンズも上手く機能させながら、どんどんと作業を進めていく。

そんな彼女たちの様子を眺めていたティアラ、少々弱め。しかも複製体のため弱めの個体であったことは確かだが、簡単に使徒を撃破してしまった二人を満足そうに眺めた後。自分も仕事を始めていく。


(というかフアナって自分が私の妻って認められるとめちゃ機嫌よくなるのな。ついでにその人に対する好感度も上がるとか……。なんでこんなに私好かれてるんだろ? いや嫌ではないけどさ。まぁいい、いやよくないけど、とりあえず仕事しよ。)


用意するのは、神秘を格段に込めた【鋼の槍】。神との合一化を為した後。彼女の神秘操作技術は格段に向上している。つまり以前の聖戦では撃破できなかったような敵でも、槍一本での狙撃が可能となっていた。アユティナ神が感じている、女神ゴジケサに対する強い“愛”。憎しみなどを越えた強い感情が、ティアラにその力の持ち主がどこにいるかを、指し示してくれる。


「……明らかに市民に紛れてるよね、相手さん。クソ女神の差し金か? 性格クソじゃん。」


暴言を吐きながらふよふよと帝都の中央に向かい、狙撃を為していくティアラ。とんでもない速度で帝都中を駆け巡りながら直感だけで使徒を判別し、撃破していくエレナに獲物をとられることが何回かあったようだが、それでも順調に撃破数を増やしていく。

そして帝都中枢、帝城と帝国大教会が併設された区域にまで移動しようとした時。眼下から飛んでくるのは、鋼の槍。

ほぼ無意識でそれを“空間”で回収しながら下を確認すると、そこにいたのはティアラが一方的によく知る人物。彼女が知る存在よりもいくらか若く、同時にゴジケサの黒い神秘によって強化された皇帝が、そこにいた。

皇帝からすれば先の大戦における敗北、その元凶の怨敵がティアラ。いくら女神の神秘によって強化されていたとしても、倒すことはできないだろうと理解はしていたが、完全な無力化を決められたことに鼻を鳴らす彼。対してティアラからすれば『今後の占領改革的にも確保しといたほうがいい人材』が自分から出てきてくれたのである。手間が省けていいなぁとニコニコしながら、ゆっくりと地面へと降りていく


「わぁ、皇帝君じゃぁん。何その黒い瘴気みたいなの。そっちじゃそれを神秘って言ってんの? ファッションセンス尖ってるねぇ? とりあえず君の身柄は必要だからさ? そのうざったいのだけはぎ取って確保するけど、いいよね?」

「……構わぬ。だが、これでも帝国の主。悪魔よ、一太刀ぐらいは覚悟してもらうぞ。」

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