クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:崩壊編

91:ティアラがいるよ

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「よっ、と! あぁいたいた。おーい、オリアナさーん!」

「……ん? あぁティアラか。」


全てが終わった後、呼び出された場所に向かってみれば無造作に開けられた窓。

もしやと思って“空間”を足場に上へと昇ってみれば……、王宮で一番高い塔の上でオリアナさんは腰かけ、夜景を眺めていた。も~! 一瞬飛び降りたかと変に勘ぐっちゃったじゃんか~! ……まぁオリアナさんが自然落下くらいで死ぬとは思えないけど。超カチカチだし。しかも魔力による肉体硬化でまだ防御力上げられたりするんでしょ? こわい。おばけ?


「はは! お前さんよりはマシだろ。……んで、お前。その頭どうした?」

「ナディさんに怒られた!」

「あ~、理解。」


いやね? 第二王子の演説の後、一斉に会場に武装した兵たちが乗り込んできて王子側と五大臣側との殺し合いが始まったんだけどさ。エレナが『せっかくだからどっちが多く無力化出来るか勝負しましょ! ……あ、空間は流石にやめてね、負けるから。』と言うことでぶっ殺しレースが始まったんですよ。

最初は私が塵取り役というか、逃げられないように蓋をする役目を担っとこうかなぁと思ったんですけど、エレナに勝負を挑まれれば受けないわけにはいきません。売り言葉に買い言葉で喧嘩を買って、私もエレナと同じ【アダマントの槍】をもって『ほわちゃー!』と殴りこんだわけです。

一応速攻で“空間”を使って簡易の檻を作り上げ、事前にもらってた似顔絵とか抵抗して来る奴をドカドカと殴りまして、まぁ無力化自体は結構簡単に終わったんだけど……。ステータスでまだ私が勝ってる筈なのにエレナと引き分けに成っちゃったんだよね。


『ティアラちゃんの方が多く仕留めたもんね~!』

『はぁ!? どうせ数え間違えたんでしょ! 私の方が上よ!』


それでこんな感じで、どっちが強いか喧嘩してる間に……、間違えてと言いますか、弾みで五大臣の一人ティアラちゃんが召しちゃいましてね? それを見たエレナも負けずとワンキル。流石にキレたナディママが突っ込んできて、その余波で最後の一人も死亡という凄い結果に成っちゃったんだよね……。

第二王子が『あ、あの。法の裁き。い、いや死罪でしたし、諸侯の前で処刑できたようなものなので良いんですがが、もうちょっとなんか……。あ、やっぱ何でもないです。』みたいな顔しながら遠い目してたのは面白かったよね、うんうん。実際後ろでずっと無表情だった王様もちょっと笑ってたし。さっすがティアラちゃんだぜ!

あ、それと五大臣の死体の残りは明日広場で展示されるんだって! う~ん、価値観が野蛮! 頭私か?


「まぁそこからナディさんにげんこつ貰ってガチ説教受けて、けちょんけちょんにされて……。なんかアレ凄い空気だったよね。ナディママ怒り過ぎて角出てたし、憤怒と化したママさんを止めようとパパの子爵様が出たら怒りの余波で壁に叩きつけられてたし、誰も止められないままずっと怒られてたからね……。」

「……相当絞られたみたいだし、今日の所は聞かなかったことにしてやる。」

「やった!」


そう言いながらいつも通りの笑みを浮かべ、彼女の横に座る。

月明りに照らされた王都。現代に比べると流石に灯りの数は少ないが、見下ろすだけで多くの人の営みが見える。ここまで登ってくるのに相当な筋力か航空能力がなきゃ来れない様な場所、王城にある塔のてっぺんみたいなところだけど……。いい所だね。王都が一望できるうえに夜景も綺麗!


「だろう? ……終わってみれば呆気なかったな。」

「そうなの?」

「あぁ。」


呟くようにそう言う彼女に、明るさを保ちながらそう聞く。……この人はとんでもなく強い人だけど、それでも人だ。どこにでもいる様な人間と同じように色んなことを思って、悩んで、苦しんでいる。会ってからまだ数年程度だけど、一緒に暮らせばこんな時彼女が何を望んでいるのか察することぐらいは出来た。

もっと沢山楽しもうよ、沈んでる暇なんてないよ。彼女の顔を覗き込みながら、沈もうとしている彼女を引き上げるように笑みを浮かべながら、次の言葉を待つ。


「お前と会ってから、まだ3年ちょいか。……思い返せばとんでもない毎日だったな。」

「だね~。色々あった! ……楽しかった?」

「……あぁ。まぁそれ以上に苦労させられたがな。」


あ、あはは。それはマジでごめん。

ダンジョンの攻略にレベリング、そこから急にやって来た変態と戦ったと思えば逃走を決め込んでペガサスを手に入れることに。そこからオリアナさんの旧友であったナディさんたちとも知り合った。んで迷宮都市に戻ってみれば仲間が増えて、またロリコンが攻めてきて、追い返して。そしたら次は連続で戦争と来たもんだ。皇帝は殺せてないけど、神殺しはしちゃったからねぇ。

う~ん、我ながら色々ヤバい人生送ってる。


「ま、退屈はしなかったな。……これからも、そうなんだろ。」

「…………復讐出来て、吹っ切れた?」

「いーや。……というか遠慮なしに突っ込んでくるんだな、お前。」


だってオリアナさんウダウダしてるの嫌いでしょう? 顔だってまだ話し足りない様な感じだったし。ほらほら。孫に好きなだけぶちまけてくださいな。もしアレだったら使徒として、聖職者として話を聞きますぜ? 今なら最高級の葉巻もついてくる!


「……メイドから聞いたのか?」

「うにゃ。ちょっと匂いしたからね、出してみた。これたぶん帝国の補給基地を略奪したときの奴だと思うけど……。たぶんいい奴だと思うよ? 皇帝用って書いてあったし。」

「なんでも入ってんなお前の空間。……少し気になるが、遠慮しとくよ。」


私の頭をいつも通り乱雑に撫でながら、そういう彼女。

ずっとそうしたまま、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。


「……もともと、どう足掻いても奴の権力が邪魔で直接殺せるような相手じゃなかった。だからこそ私は酒に逃げたんだ。もう何もする気力がなかったからこそ、酒に。だがお前と会ってから全部が変わった。……面白いもんだよな。」

「……うん。」

「今回の一件で、もうクソ野郎どもの顔も名前も聞くことはなくなるだろう。耳にするたびに胸の奥から上がってくるものを、抑え込まなくてもよくなる。実際にクソ野郎どもの泣き顔を見て、喚く姿を見て、死ぬ姿を見て。多少はすっきりするとは思ってたんだがな……。頭では理解してんだ、何をしようとも死んだ奴は帰ってこねぇってのは。」


亡くしてしまった人たちのことを思い出すように、何かに耐えるようにそう呟く彼女。自然と私の頭を撫でていた腕が止まり、声も少しずつ小さくなっていく。

……何も言わず、ただ彼女に抱き着く。鎧越しだからお互いの体温は解らない。けれど離さないように、強く。


「…………わるい、な。」

「いいよ。……私はオリアナさんの家族のこと知らないけどさ。早く死んで自分たちの所に来いって言うような人たちだった?」

「はっ! ……そんなわけねぇだろ。」

「でしょ。んじゃさ。もっともーっと、楽しくて大変なこといっぱーいしてあげるからさ。また付き合ってよ。せっかくならお土産話は多い方が良いでしょ? 安心してよ! 100年じゃ語りつくせないぐらいやらかしちゃうぜ?」

「……そりゃ、退屈しなさそうだな。」


でしょう? な~に、その辺りはティアラちゃんに任せてよ! なんてったってお家で普通にお茶飲んでるだけで厄介ごとが転がり込んでくるからね! しかもその質も最上級! 十中八九未だに0なLUKさんの様な気がするし、どうせコイツ一生上がらない様な気もしてるから多分死んでも続くと思うよ! 厄介ごと!

自分から問題も起こせるし、勝手に問題も起きる。もしかしなくてもティアラちゃんは最強だった……? あ、流石に自分でも問題起こすのはやめろ? それはそうね。ごめんちゃい!


「いつでも立ち止まっていいし、何かあったも私が一緒にいる。でもティアラちゃんはワガママだからね! 休んだ次の日は引っ張って振り回すから! お互いもう簡単に死にそうな体じゃないから、安心安全! どうせ私と別れてもやる事さんなないでしょ? せっかくならさ、目一杯全部! “一緒に”楽しもうよ!」






 ◇◆◇◆◇





「とは言いましたがロリコン案件は楽しめないです。はい。」

「あーうん。その件に関してはマジで同情するわ。」


にゃーッ! 最近会ってなかったから安心してたのにー! なんかもう流行り病とかで死んじゃえ変態ッー!

えっとですね、はい。オリアナさんと一緒に楽しむという“約束”をした次の日。色々あったと言うことで王宮にお泊りさせて頂いた私達だったんですが……、朝起きたら何故か部屋の中にメイドさんたちがいて、朝食の用意をしながら幾つかお手紙を渡してくれたわけです。

けどそのお手紙の中に、一つだけ百科事典レベルの厚さのものがありましてね……? 差出人を見てみれば、案の定伯爵の名が。そして差出人の所には、『我が天使ティアラへ』と無駄に達筆な文字が書かれている。あー! 読まずに破り捨てたいけど無駄に厚みがあるせいで無駄に難しいやんけクソ! あとなんでこんな呪物送ってくるんだ! ちね! ちんじゃえ!


「……というかそもそもなんで部屋にメイドさんたちいんの? というかさっきからあの人残像出してない? え、メイドってそういうもんだった?」

「流石に違うと思うぞ。というか昨日と同じ奴らだな……。」

「い、色々凄いね……。あ、どうも。」


この部屋にいるメイドさんは、おそらく5、6人。けれど何故か一人残像が出来るレベルで動いてる人がいる。いやティアラちゃん最上級職になってかなり動体視力も上がってるはずなのに、それでもまだ残像見えるとかよっぽどだよ? なにこの人。

というか驚いてたら、朝食の用意が出来たのか、部屋の中に出現した優雅な机と椅子に案内されたし……。


「あ、あの……。何と呼べば? あと朝食わざわざありがとうございます。」

「いえ、お気になさらず。それと我らはすでに名を捨てております。どうぞお好きにお呼びくださいませ。」

「あ、はい。……もしかして王家直属の暗部とかそういうので?」

「申し訳ございませんが、回答を控えさせて頂いてもよろしいでしょうか。」


そ、それもう答え言ってるようなものじゃんかー! やだー!

い、いや敵意とか一切感じないし、わざわざそういう言い回しをしたってことはほんとに王家直属の何か、なのだろう。第二王子あたりが護衛として付けてくれたのだろうが……。なんかすごい人材抱えてたんですね、王家。いやでも直接的な戦闘能力はそこまでなさそうだし、諜報とか専門、って感じなのかな? でも寝首掻かれたらまずそう。もしかして暗殺もしちゃう人たち?

……いやそもそも! なんで暗部の人がお部屋勝手に入ってるのさ! しかもなんで朝ごはん用意してくれてるのさ! あと暗部さんならこの特級呪物どっかに捨ててきてよー! 朝からこんなの見たくない!!!


「……あ、あの。ティアラ様。」
「危険物かと思い、内容はこちらで改めさせて頂きましたが……。」
「そ、その。大層刺激的なものでしたが、単純な恋文でしたので……。」
「メイドとして破棄するわけにもいかず……。」
「……ご愁傷さまです。」

「…………え、これ。読んだの? もしかして全部?」


その言葉で内容を思い出してしまったのか、それまで鉄面皮よりも固そうだったメイドさんたちの表情が、かなり曇る。すぐに元に戻ってしまったが……、相当なものだったのだろう。

昔一度、流石に目を通さずに捨てるのは悪いかと思い、軽く目を通したことがあるのだが……。このティアラちゃんをもってしても、1ページ読むだけで戻しそうになってしまう凶悪性能を持つのが伯爵の手紙だ。おそらく防諜などの観点から目を通してくれたのだろうが……。百科事典レベルの厚みがある呪物に、全部目を通したの……?

よ、よく正気を保って要られてるね。暗部すげぇ。


「あ、あの。ほんと何かあったら言ってね? ティアラちゃん力になるし。あ、あとこれ少ないかもだけど、慰謝料代わりに。お休みとかあるのか知らないけど、目一杯美味しいものこれで食べて? ほんと、気にせず納めてくれるとめちゃ助かるから……。」

「お気遣いに大変感謝いたします。……ティアラ様もぜひ何かあればお声がけください。王宮内でお呼びいただければ、いつでも我らが駆け付けます故。」


謎の結束が生まれ、メイドさん一人一人と固い握手をする私。彼女たちからはとてつもなく強い同情の念が送られてくるのが解る。私としても、成人している人たちの理解者が出来たことが酷く嬉しい。13以上ならこれ以上犠牲者が増えるのを避けられるからね……!


「そんなにやべぇのか、これ。いつもお前が読まずに捨ててたから、見る機会はなかったが……。ちと怖いモノ見たさで読んでみたい気もするな。」

「「やめとけ、マジで。」」


いやほんとに、やめとけ? お願いするから。なんかもう、すごいのよ。字は確かに綺麗だしとても読みやすい文章なのは確かなんだけど、そのせいで伯爵の脳内というか気持ち悪さというか、変態性というか、そう言うのが一気に脳に流れ込んでくるの。薄めてない原液が、ね?

直接思いが向いてないメイドさん達でもグロッキーになるんだよ?


「もう被害が拡大しない前に燃やすに限る。メイドさん。」

「こちらに。」


大きな金属製の皿と、灰を集めるための袋などをどこからか取り出してくれる彼女たち。後はもうその皿の中央に呪物を置いて、ティアラちゃんが神秘を込めた『火球の魔法』で燃やし尽くすだけだ。これで焼却とお祓いを同時に出来るわけだから、超便利だよね。


「……よし、跡形もなく燃え尽きたね。」

「処理はお任せください。」

「助かる。……っと、気を取り直しまして、それ以外のお手紙さんわ~、っと。」


劇物を取り扱う様に、灰の処理を始めてくれた彼女たちに礼を言いながら、それ以外の手紙を眺めていく。どうやら貴族の方々が送ってくれたものの様で、使徒としての私の説法とか宣教のご依頼だったり、先の帝国との戦争のお礼だったり、家に招きたいといった内容がほとんどだ。あ、あと筆が早いのか昨日のお掃除会についての礼とかも書いてる人いるね。


「……それ、全部受けるのか?」

「ううん、面倒だし時間かかりそうだから大体断ると思う。私は私でやる事あるし……、ちょうどいいって言っていいのか解んないけど、メメロさんがいるしね。使徒関連のお仕事は彼女に任せよっかなって。」


朝食のパンを片手に私にそう聞いてくるオリアナさん。普段通りの顔を見せてくれる彼女にそう返しながら、メメロさんのことを思い出す。なんかあの人凄い勢いで仕事というか、宣教してるんだよね……。王都に来てから昨日のお掃除会まで数週間程度時間があったんだけど、毎晩アユティナ様から『これまでと比べると、とんでもない速度で信者ふえてて怖い』というお話を聞いている。

メメロさんはいわば、神から直接許しを受けて宣教している聖職者だ。私も彼女と同様に、信仰の向きをクソ女神からアユティナ様に向けるよう仕向けるとか、まぁ改宗の手続きが出来ないわけではないんだけど……。やはりもと助祭というだけあって、手際が良い様子。


「私に洗脳されちゃった教会上層部の人もいるし、王国教会にシンパを作りながらどんどん増殖してるって話だからね……。彼女に仕事振ってあげたら喜んでやってくれるだろうし、任せよっかな、って。」

「最初は“しまう”つもりで動いてたのに、すごい出世だよなぁ。」

「だよねぇ……、んでこれが最後の手紙か。というか書類?」


そう言いながらぺらりとめくってみると、第二王子の名前と王家の紋章が刻まれた紙切れが。内容を見てみると、当初の予定通り、帝国や王国教会との戦争の恩賞。そして五大臣やその配下が消えたことにより空白となった領土の再分配を行う会議を本日午後から行う、とのことだ。


「私とオリアナさんも参加してー、だって。」

「まぁ戦功独占しているようなもんだからな。お前にぞっこんな王子のことだ、悪いことにはならないだろうよ。」

「だね。メイドさん、一応王子に再度参加するって伝えといてくれる?」

「かしこまりました。」


深い礼と共に、そう答えてくれるメイドさんたち。


「感謝! んじゃティアラちゃんもご飯食べよっかなー。」

「……ティアラ様、お食事されながらで構いません。少しお願いしたきことがあるのですが、よろしいでしょうか。」

「え、うん。いいけど、なぁに?」

「ぜひ、我らが王にお会いして頂きたいのです。」


……王様? 狂ってないあの人なら別にいいけど……、なんかあったの?
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