クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:聖戦編

77:王子の脳焼いちゃった……

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さて、後光についての話をしよう。

そもこれは王族が生まれながらに持ち、少し意識することで纏うことが出来る“覇気”とは少し違う。いやもっと正確に言えば、“覇気”の元が、“後光”だったというべきだろうか。そもこの世界の“正当な王族”は一つだけであり、その起源はアユティナ神の信仰が失われる3000年前よりもずっと以前に遡る。

墳墓に眠る不死王の血族、その祖先に存在するいわゆる“統一王”はアユティナ神が世界を見守っていた時代に、この大陸の制覇を成し遂げた。神はそれを『人の新たな時代、種族としての進化』と捉え、その“統一王”に“王権”を神授したのだ。ティアラが現在神から受けている寵愛よりは幾分か劣るが、それでも人の身が新しいモノへと進化する程度には大きい愛。“統一王”は意識すれば常に後光を出せるようになり、その威光を以って統治を確固たるものにしたのである。

そしてその“威光”は、遺伝した。

かなり薄くなってしまい“威光”から“覇気”にまで下がってしまっているが、現在の王国の王族。現国王や第二王子フェルナンド、メインヒロインにして第二王女のイザベルや原作主人公も、意識すれば光を纏うことが出来る。王国では『王族は常に王族たれ』という教えから、幼少期にその“覇気”を常に展開できるよう訓練が施され、今回ティアラと対峙したフェルナンドも、ほぼ無意識で展開していたのだが……。


それがティアラの気に障った。


アユティナに深い信仰を捧げており、半ば狂信者とも呼べる彼女は、感覚で王族特有の“覇気”をアユティナ神経由のモノであると理解した。けれど“神授”から何千年も経過しており、数百世代を経過したその覇気は薄れに薄れており、アユティナ神にとって最盛期とも呼べた時代に手渡した加護と言っても、すでに何か違うモノへと変移してしまっていたのだ。

つまり純粋な加護を持つティアラからすると、元は同じとは言え何回もコピーを繰り返してガビガビになった映像みたいなもの。ゲームに例えると普段のフレームが120fpsで超ぬるぬる世界を楽しんでいるところに、急に知らない奴が『僕の凄いだろー!』って言いながら0.0001fpsの存在を見せつけてくるような感じである。


(は? ティアラちゃんの方が凄いが???)


フェルナンドからすれば無意識だったのでそんな意図は全くなかったのだが……、まぁ沸点が色々とおかしいティアラ。変な方向にキレたというべきか、対抗意識を燃やしたというべきか……。こいつは本気で“後光”を発してしまったのだ。

3000年ぶりにして、世界での最初の信者。そして初めから高い信仰度はすでに狂信者のレベル。神からの寵愛を一身に受け、この下界における“神の代わり”として振舞うことを許された“使徒”である。その背には神の紋章が刻まれており、普段の状態でも彼女が強く意識すれば背に強い光と神の紋章が浮かび上がる程にその身に宿す“神秘”の量は異様に多い。

ほぼ毎日神と念話で話し、何度も神の御許に遊びに行き、大量の加護を授かったティアラという存在はすでに歴代の使徒の保有する“神秘”を軽く上回っている。そして本人の異様なセンスの良さから、神秘という存在への適性は高く扱いの上手さも歴代上位。


(アユティナ様パワー全開ッ!)


そんな彼女が神から授かった神衣を纏い、さらにその神衣が“後光”などの向上効果が刻まれており、対抗意識を燃やしながら無駄に全力で光ったとなれば……。


(ティアラちゃん、最大出力ーッ!!!)


世界が、光に包まれる。

その神の光は圧倒的な光量を誇り、物理的に人類の眼球を吹き飛ばし、視神経を焼失させ、脳に到達する。単なる光であれば一時的な失明や視力低下なので済んだかもしれないが……。人類よりも圧倒的格上に位置する、“神”の光である。たとえ目を閉じていようとも、光に触れた瞬間直接脳へ、そして精神、魂へと到達する。

事態を楽しそうに眺めていたアユティナ神が『へー、あの子の血族かな? まだ生きてたんだ……、ちょ! ティアラちゃん!!!』と慌てながらその“威光”をシャットアウトしたため、元からある程度の耐性が合ったりそもそもの精神が強かったりすれば、その影響は最小限で済むだろうが……。

そのレベルに達していたのは、何回か直接神に出会いティアラの暴走を何度も経験しているオリアナと、圧倒的な精神力(性癖)によって何故か耐えきったロリコン伯爵くらい。


まぁ早い話……。


その場にいたティアラの以外の5名のうち、3名。至近距離にいた第二王子フェルナンド、元宰相マンティス、天馬騎士団団長ナディーンは耐えることが出来ず、脳を焼かれてしまったと言うことである。


「……あぁ、神はここにいらっしゃったのですね。」
「儂は、儂はなんということを……! 神を人の政事に利用しようとは! は、腹を切って詫び申す……!」
「あ、あ、あぁぁぁ!!!!!」


静かに神の存在を理解し見えなくなった目で血涙しながら、跪いて祈りを捧げるフェルナンド。普通に政治に利用しようとしてティアラたちに声をかけていたことを深く恥じ、後悔からか腹を切って死のうとする元宰相。なぜ私は初めてアユティナ神と出会ったとき、あの場で信仰を変えなかったのかと強く後悔し蹲りながら声を上げてしまうナディママ。


「あ、あちゃー。」
「お、おま。なんつーもんを……。」
「くっ! 我が天使がいなければ即死だった……!」


今更自分がやってしまったことを、アユティナ様から神秘をシャットダウンされたことで理解するティアラちゃん。即座に目をつむり同時に強く精神を保つことで耐えれはしたが、もう少し出力が上であれば確実に自分も飲まれていただろうと考えるオリアナ。そして自死しようとしている元宰相を押さえながら、なんか耐えちゃってるロリコン伯爵。

もう色々とカオスである。


「え、これ……。ティアラちゃんヤバい?」


逆にどう考えたらヤバくないと思えるので?








「大丈夫かナディ。」

「姉上……。はい、すみません取り乱して。」


えーっと。どうも、ティアラちゃんです。一応ティアラちゃんフラッシュ自体は成功したんですけどね? まぁ威力が強すぎたと言いますか……。完全に常人寄りだった第二王子が完全失明。昔戦場に出てたらしい元宰相さんは視力低下、それ以外はちょっとお眼々を痛めた程度の被害を出してしまいました。

まぁそれはまだ何とか回復可能ではあるんですけど……。


(せ、精神汚染しちゃった……。いやでも、“正しい”信仰に目覚めたってことだし、良かったのでは?)

【ティアラちゃんさぁ。気持ちは嬉しいけど、信仰の自由をこっちから奪っちゃダメでしょ。私たちのスタンス思い出して? 神や使徒は見守り導くのが役目だぞ?】


帝国との戦争時点ですでに強者であり、迷宮でのレベリングでさらなる強みを得たナディさんですら立ち直るのに時間が掛かってしまった。それほどの強さを持っていない元宰相や第二王子さんは酷いモノで……。まだ宰相さんは腹を切って詫びようと暴れてるし、第二王子様は静かに泣きながら私に祈りを捧げている。

あー、うん。明らかにやり過ぎちゃったわね。

アユティナ様の神としてのスタンスは、“見守る”こと。自分から信仰を強要することもないし、他の信仰を持つ者を批判したりもしない。途中で信仰を切り替えることも神は『まぁそうゆうのもあるよね、気が向いたら帰っておいで~』と仰る方だ。信仰の自由を、大事にしていらっしゃる。

故に私の行為は神の想いから逸脱してしまった行為だ。


(申し訳なさでへこむ……。でもこっちの方が色々良かったのでは? どっちみち信仰変える予定だっただろうし。)

【ティアラちゃん? ……はぁ、とりあえず私が治してあげるから全員に手をかざしてあげて? ティアラちゃん経由で治癒の力飛ばすよ。あともう最大出力は使っちゃだめだよ? もう兵器レベルになってたし。】

(……戦闘なら使っていいですか?)

【もちろん。】


ということで背中に刻まれた神の紋章を強く意識し、自身に宿った神秘と魔力を糧に神と私の体を繋げる。この身が神秘を巡って行き、右手に宿るのは、おそらく“治癒”の能力。淡く緑に光ったその手をナディさんに翳してみれば、即座に顔色が良くなっていく。

同様に他の人にも手をかざせば、今回の光で受けてしまった影響が即座に改善されていく。第二王子は至近距離で喰らっていたせいで眼が完全に逝かれてしまっていたのか少々時間はかかったが、まぁ無事修理完了。なんとか全員の精神を落ち着け、会談が始まることになった。






 ◇◆◇◆◇





「とりあえず全員……、落ち着きましたな。本来であれば時間を置き休息をとるべきでしょうが、敵増援が到着する前に勝負を決めねばなりませぬ。故に今より情報共有を含めた軍議を始めさせていただく。このリロコが進行を務めるが……、よろしいかな?」


ロリコンが何とか立ち直った全員の顔を眺めた後、机の上に地図やいくつかの資料を置いていく。ちょっと資料を手に取ってみれば教会勢力に忍び込んでいる間者からの報告書の様で、かなり細かな情報まで上がってきている。とりあえず諜報戦においてはこっちが勝っている、ってことでいいのかな?

軽く流し見した感じ、私たちが力を貸すことになったマンティスの一派が兵を集めていることは露見してしまっているようだが、私たちの情報は完全に隠しきっている。そして教会側に『なんか大変そうだから兵集めて救援送るね』という書状まで送っているようだ。


(教会側は完全にそれを信じているみたいだし……、ほんと無駄にこのロリコン優秀だな。)


そんなことを考えながら伯爵が用意していた机の上を軽く覗いてみると、広げられた地図は王都近くにある墳墓、その周辺の地形を表している様だった。そんな場所に並べられるのは白い駒たち、これが教会勢力を表しているのかな? 結構あるね。


「その通りだ我が天使よ。……此度の戦、私も含めマンティス殿の派閥の貴族たちが兵を出しているため“総兵力”で考えればこちらの方が多いのだが……。ことがことだ、『信仰心が薄く』、なおかつ『忠誠心の厚い』兵となると数が限られている。」


そう言いながら黒い駒、おそらく私たちを表すのであろうものを並べていく伯爵。彼の言う通り、相手は王国教会だ。王国民すべてが信仰している宗教であるため、もちろん貴族たちの抱える兵も信仰している。つまり中途半端に信仰深かったり、また忠誠心が薄いと自軍内で寝返られる可能性が高いのだ。

“総兵力”で考えるとこちらの方が多いのだが、“実働”を考えると明らかにこちらが下。更に教会側は周囲の貴族家に『兵出さなかったら破門するけどいいの?』という脅しが使えるため、兵の質を気に掛けなければ延々と兵力を共有し続けることが出来る。

つまり、圧倒的な兵力差を抱えたまま勝負をしなければならなかったのだが……。


「私が殲滅能力を示したことで、前提がひっくり返る。上澄みを抑えるための数、という考え方が通用しなくなったため、勝ち筋が見えて来た、って感じかな?」


そう言いながら伯爵に視線を向けると、気持ち悪い笑みを浮かべながら頷きを返してくる。……会議の進行のために話しかけているのであって、お前と話したくて発言したわけじゃないからな? ここにいる王子とか元宰相への申し訳なさがまだ残ってるからそうしてるだけだからな? だからマジで調子乗るな変態。

強く睨んでも奴にとってはご褒美、しかしまぁ司会進行を引き受けた以上仕事はするのだろう。淡々と言葉を述べていくロリコン。


「当初の作戦では、数の差を我が天使ことティアラに埋めてもらい相手を恐慌状態に陥らせる。その後敵の根城とも呼べる大聖堂に攻め入り、神の相手をティアラたちに。それ以外を我らが対処する予定だったのだが……、相手が墳墓に攻め込み壊滅したことで話が変わった。失われた兵力は全体の約4分の3。我が軍の実働部隊とほぼ同量だ。」


白い駒を配置し直すロリコン。先ほど並べた黒い駒と同数になったソレ。確かにこれで数的不利はなくなり、勝負しやすくなったと言えるだろう。私やナディさんはペガサスに乗っているため室内よりも外で戦う方がやりやすい。つまり大聖堂……、っていうの? そんな室内よりもこの墳墓傍の草原で勝負を決めた方がいい、って考えなんだろうね。


「それに、弱っている時こそ“人の善意”ってのは信じたくなるもんだ。『救援』って言っておけばギリギリまで近づいても敵とはバレないだろうね。……ほんと、嫌なこと考えるよ。」

「戦場では誉め言葉故な、それに我が天使よ。同じことを思いつく時点で其方もこちら側ではないのかね? ……さて、これで“数”の問題はほぼ解決したようなものだが、まだ厄介なのが残っている。敵強者の存在だ。」

「え? 王国の強者ってここにいる以外全員死んだんじゃ……?」


先の帝国との戦い。あちらも帝国十将のうち8名が死亡したが、その代わり王国側の強者も黒騎士に全員真っ二つにされたのは記憶に新しい。というか自分の眼で丸ごと真っ二つにされるの見たし。

なんで国内に残っている強者はこの場に残る4人だけ。私としてはこの4人で女神と殺し合うつもりだったんだけど……(どさくさに紛れて伯爵も消すか、もしくは生殖機能を失わせるつもりだった)


「あぁ、我らもその予定だったのだが……。教会に放っていた間者から報が入ったのだ。数えきれない程の“使徒”を確認した、とな。」

「……は?」


使徒って……、私と同じ?


「あぁ、王国教会における“今代の使徒”のみならず、歴代の使徒全員があの場にいたらしい。どのような理屈でそうなっているのかは解らないが、死んだはずの使徒の肉体を蘇らせて兵として使用しているそうだ。」

「…………マジかよ。」

「そして教会上層部にいる者の話からすると、敵全軍は“神の指示”の元に動いているらしい。考えるに、その“使徒”たちは女神が復活させて動かしており、もしかするとこの墳墓の周囲に討つべき神がいるのではないか、という話だ。」


え、え、どうしよ。使徒って……、ティアラちゃんと同じ使徒だよね? ティアラちゃん級が数えきれないくらい? さすがに私レベルで無茶苦茶加護貰ってる奴とかはそうそういないだろうけど……。え、歴代の使徒ってことは3000年分? この世界の平均寿命短めだから大体50年で代替わりと考えたら60人? “上澄み”さんが60? いやよくよく考えたらもっといてもおかしくない???

はぁー???


「まだ安心できる要素として、その使徒たちも墳墓にいる“何か”によって討伐され消滅した使徒もいるそうなのだが……。間者の話によると、先日消滅したはずの“使徒”が再度復活したことを確認したらしい。あちらでは“神の奇跡”として大々的に報じることで士気の崩壊を防いでいるようだ。」

「あ、安心できないじゃん!?」

「いや、総数自体は確実に減っているため、回数制限などがあるとは思うのだ。まぁそれを削り切るまでは復活するのだと思うが……。」


いやそれでも流石にちょっと……。

帝国十将の中で下の方が60人くらいだったらティアラちゃんでも行けるよ? でも相手クソ女神の使徒ってことは、多分絶対黒騎士級が複数人いるじゃん! いくら私たち(ティアラちゃん除く)が底上げしてきても無理なもんは無理だって! さすがに数が多すぎるって!!!

あ、アユティナ様! 多分正面切っては無理です! こそこそ暗殺しまくるか、全部聞かなかったことにして逃げるか、どっちかに方針転換してもいいですか!!! 


【……いや、むしろちょうどいいね。ティアラちゃん、ここタイマンしよう。】

(ま、マジですか!?)

【マジだとも。確かに今の状態で突っ込むのは危険だし、ティアラちゃんの可能性がそこで閉じてしまう恐れがある。けれどだからこそ、私が介入できるってことさ。】


……あッ! な、なるほど! アユティナ様は基本見守りだけど、初期の私みたいにどう足掻いても無理じゃんって状況は『進化や成長を助ける』って名目で介入しても“権能”的にOK! ちょっと無理矢理な感じはするけど、今なら無料配布『成長の宝玉』とか! その他の加護とかでパワーアップが可能ってことですね! さっすがアユティナ様! 賢いし太っ腹ぁ!


【そゆこと~。……それに、多分“アイツ”はそこにいない。けれど使徒を全滅でもさせれば、下界に降りてくるか、そこかの使徒を復活させてそこに自身の精神を宿すはず。昔の私ならまだしも、信者の総数で圧倒的に負けてるこの現状なら、私のことを嘗めてるアイツなら、絶対に出しゃばってくるはずだ。……うん、んじゃちょっと色々用意して来るから! また会議終わった後ぐらいに念話するねー!】

(あ、はいー! お疲れ様ですー!)


少し独り言の様なものを垂れ流していた神が急に念話を切る。準備するとは仰っていたけど……、なんかあるんですかね? いつものアユティナ様なら私が欲しい物とか、必要な物を秒で用意してくださる。けどそんな神が準備に時間をかけるってことは、何か相当なものが出てくるはずだ。

ちょっと楽しみ~。


「……我が天使よ、口が緩んでいるが何かあったのかね?」

「うるさい黙れロリコン、私の楽しい時間を即座に終わらせるなボケが。……アユティナ様からゴーサインを頂いた。当初の予定通り“対強者”はこっちの担当。それ以外はそっち、っていう割り振りでいいよ。」





 ◇◆◇◆◇




まぁそんな感じで色々会議が終わった後。用意された別室でアユティナ様からの配給を受けるためオリアナさんとナディママさんと一緒に廊下を移動していると……、後ろから走ってくる音。振り返ってみればさっき失明させちゃった第二王子がこちらにやってきていた。一瞬気が付かなかった振りでもして逃げるか? って考えたんだけど流石に相手は王族。今後色々お世話になるだろうし、立ち止まっておくことにした。


(ティアラ、解ってると思うが同じこと二回もするなよ?)

(わ、解ってるってお婆ちゃん……。)


背後にいるオリアナさんに釘を刺されながら、第二王子の方へと向き、軽く一礼。さっき色々と“使徒”としての振る舞いが出来なかったので、それ相応の口調で応対することにする。

ようやく私の前に到達し、おそらく鍛えていない肉体故に荒くした息を整える王子。そんな彼を少しだけ待ってから、先に謝罪の言葉を口にしておく。


「この度は大変申し訳ございませんでした。治ったとはいえ王子に大変失礼なことを……。」

「いえ、こちらも配慮が足らず……。しかしあの光をこの身で受け、強く理解しました。アユティナ様こそがこの世界の正統な神であり、我らが信仰を捧げるべき相手であったことを。急になり大変申し訳ないのですが……、我が信仰を捧げさせてもらってもよろしいでしょうか?」


え、急。

そう謝れば、なぜか好感度高めに帰ってくる第二王子からのお返事。……アユティナ様? あ、治療自体はちゃんと終わってるんですね。でもガチな信仰がこの第二王子から送られてきている、と。肉体も精神も魂も修復済みだけど記憶は消してないからその影響かもしれないんですね。

な、なるほど……。

あ~、うん。これ自由な信仰ってやつじゃないですよね。と、とりあえず冷静になってもろて。信仰ってそう簡単に変えるもんじゃないですし、ウチのモヒカンズみたいに勢いで決めるもんでもないですよ?


「あー、あのですね? 信仰自体はありがたいし、いつでもウェルカムなんですが、先ほどのアレが記憶に残っているせいで正常な判断が出来てないかもしれません。お望みならば記憶の方を操作させていただく、と神も仰っていますし……。消しましょうか?」

「とんでもないっ! むしろ目も治して頂かなくても良かったほどです。いえ、そう言ってしまえば神に失礼ですね。治して頂いたこの眼を以て、神に仕える所存です。」

「……これほんとに大丈夫か???」


思わず王族の前で素を出してしまう私。流石にちょっと不敬だったので後ろにいたオリアナさんに視認できない速度で軽く小突かれる。いちゃい。ま、まぁ治さなくていいならそれでいいですけど……。んじゃまぁパパッと信者としての儀式しちゃいますか。うちはいつでも出て行って大丈夫な奴ですし。

光を抑えながら後光と、背に刻まれた神の紋章を顕現させる。

そして使徒としての声に切り替えまして、んんっ!


「そこに。」


ゆっくりと立ち上がりながら私の前に跪くように指示をすれば、すぐに言う通りにするフェルナンド。第二王子というだけあって所作の一つ一つがキレイだ。少し芝居がかっているといってもいい。

彼に応えるように私も“空間”から【オリンディクス】を取り出し、軽く振るう。


(アユティナ様への信仰は、人が意識した瞬間に発生するもの。故に儀式などは必要ない。けれど人の意識を切り替えるための“儀式”は必要だ。)


私の槍が切り取るのは、彼の頭上。

これまで彼が捧げていたのであろう王国の女神へと信仰を断ち切る様に振るう。もちろん信仰の線など存在しないが、彼の意識を切り替えるという点では有用だった。もう一度軽く槍を振るい、空間へと戻す。そして使徒しての役割を強く意識しながら、手を彼の頭へ。


「貴方がその信仰を我らが神に向ける以上、神は貴方を見守っています。常に自身の可能性を信じ、前に進み続けてください。人としての成長、進化、そのすべてを神は応援していられます。貴方がそれを意識し続ける限り、私も貴方を見守りましょう。……信徒フェルナンド、今日から貴方は私たちの仲間です。」

「……神に、そして使徒様に、感謝いたします。」


あ、あのさ。

すっごい今更だけど……。

こういう儀式って廊下でしてよかったのかな???

ま、まぁいいや! ティアラちゃん知~らないっ! んじゃフェルナンドちゃんや! 今からティアラちゃんアユティナ様とキャッキャうふふの楽しい時間過ごしてくるから! ばいばい! また機会が合ったら会おうね!!! んじゃぴ!


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