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原作開始前:大戦編
64:こわれちゃった!
しおりを挟む時間は少し巻き戻り、ティアラが『溶岩弾』によって黒騎士配下を全て焼き殺したあたり。
自分に降りかかった溶岩から黒騎士は強力な魔法攻撃を受けたと判断、即座に攻撃が飛んできた方向を確認し、上空に100騎近い『空騎士』たちがいることを把握する。
通常空を飛ぶ者たちは、自身が騎乗するペガサスや竜の機動力などを維持するため限界ぎりぎりまでその重さを絞る。故にペガサスに騎手以外の魔法兵を乗せ、上から攻撃を放つなどこれまでの常識では考えられないことであったが……。
戦場では自分の常識よりも、目の前で起きていることの方が優先される。
自身の配下を殺されたという怒りはあれど、帝国最強という肩書が怒りに狂うことを許さない。即座に上空にいる存在。中でも極めて巨大なペガサスに狙いを定め、自身の配下たちであった者の武器を拾い投げつけようとしたが……。即座にそれをやめる。
「おっとッ! ちょっとそれは止めて貰おうかい。」
「ッ!」
黒騎士の行動を止めるように槍を振り下ろしたオリアナ。彼女の攻撃を即座に受け止め、相手の力量を判断する黒騎士。全力を出して押し切れば勝てる相手、だが空中。先ほどの攻撃の下手人にばかり気を取られているとさすがに不味い。さらに眼前には、もう一人。すでに空に上がり速度を乗せながら突撃して来る『天馬騎士』ナディーンがいた。
帝国最強、“上澄み”の中でもトップ層に位置する黒騎士でも、眼前の二人の攻撃を無視することはできない。
鎧の隙間から大きな呼吸音が聞こえ、馬上にて大きく槍を振るう。一旦あの下手人を他の“帝国十将”に任せ、自分は眼前の敵を屠る。そして敵本陣を破壊し王の首を取るべきだと判断したのであった。
(ま、そんなこと考えてるんだろうな。……普通に厄介な相手だ。)
正直に言って、ティアラからの攻撃は助かった。
ナディと連携しても勝てるか怪しい相手である『黒騎士』。単体であればまだ可能性はあった。相手の隙を突いたり、冷静さを失わせて潰したり。通用するかは解らないが、まぁ時間稼ぎぐらいはできるだろう。そういう認識が、私たちにあった。けれどそこに奴の配下精鋭2000が加わるってなると、話は別だ。
黒騎士の配下ってなりゃ黒騎士本人との連携もできるだろう。ただの2000なら問題はないがその合間合間に致死の一撃を放ってくるだろう黒騎士、それも相手もしなければならないってなると、難易度は跳ね上がる。いくらナディと一緒でも流石に死ぬだろうな、ってのが私の予想だった。
(けれど、あいつのおかげでそれがひっくり返ったんだから……。後で褒めてやらねぇとな。)
射出後に聞こえたあいつの悲鳴のようなもの。結構な無理をしたみたいだが、あの子は“神”の愛を一身に受ける存在だ。あの子が望めばそれ相応のサポートはするだろうし、死にそうになれば介入してきてもおかしくはねぇ。まぁ神ゆえに人の常識が当てはまらない相手、どこかで食い違っててもおかしくはないし、それが何なのかもわからない相手だからそこまで信用は出来ねぇが。
多分、大丈夫だろう。
残ってる問題は……、目の前のこいつを。どうするかってことだ。
「どんだけ力が有り余ってんだ、よッ! ナディ!」
「はぁぁぁあああああ!!!」
「甘いッ!」
全力の一閃を軽く受け止められ、拮抗すらせず押し込まれる。姿勢が不安定な騎上でこれだ。地面に立たれれば足の踏ん張りがきき、もっと強くその膂力を発揮されてしまう。それに距離を取られてしまえば、騎馬突撃で今の何倍もの威力の攻撃が飛んでくるだろう。
故に落馬させず、同時に距離を取られない様な、近距離で。
後先考えずに全力を込めて、敵の槍の穂を下へと叩き落とす。そしてその直後に黒騎士の鎧の隙間を狙って飛んでいくナディの斬撃。
しかしながら結果は最悪。即座に槍を持ち直した黒騎士によって迎撃され、ナディがペガサスごと吹き飛ばされる。追撃されぬよう即座に動き、ナディと奴の間に槍を滑り込ませるが……。
(こいつ、“単純”に強い!)
ナディが立て直す時間を稼ぐために、息を止めながら全力で槍を振るう。上下左右、この身に焼き付いた実戦の中で編み上げていった技術の全て。現役のころは武器の耐久度を考えて少し手加減する必要があったが、あの“アユティナ”を名乗る神からもらった【アダマントの槍】はそんなこと気にしなくていい。
ただ全力を以って、槍を振るう。
しかしそのすべてが、捌かれていく。騎上の奴を狙う攻撃も、真っ黒なその騎馬を狙う攻撃も。そのすべてが無意味。
(はっ! バケモンかよ。)
ティアラの様な才能と肉体が乖離している奴ではなく、肉体も才能もすべてが戦闘のためにあるような存在。その甲冑から表情どころか目の動きすら見ることはできないが、こっちの攻撃を全て視認し、最適な位置に槍を置き、確実に受け流せる、もしくは受け止めるだけの力を籠める。
寸分の狂いもなく動かされていく敵の槍。……こりゃ帝国最強を名乗るだけあるな。少なくとも全盛期の私より強いし、ここまで強いのを見るのは初めてかもしれねぇ。
「そこ。」
「姉上ッ!」
連続攻撃による息切れ、攻撃の隙間を縫うように飛んでくる敵の槍。体を逸らせてよけようとするが、ちと間に合わない。利き腕ではない方の腕を盾にして無理矢理受けるかと判断しかけた瞬間に、ナディの槍がそれを弾く。
「行くぞ!」
「はッ!」
私達に会話など必要ない、けれど気合を入れ直すために声を出し、“妹”と同時に動き始める。
一人ではできなくなったこと、肉体の衰えや、人体では不可能な攻撃。槍というリーチの長い武器を使用しているが故に生じる隙。その合間合間を互いで補い合う様に、一瞬でも相手に暇を与えないように、攻撃を叩き込んでいく。
私は強く踏み込み、力ある一撃を。ナディはペガサスの機動力を生かした、速度ある一撃を。
下から上への切り上げ。受け止められる。
反対側からナディの切り落とし、相手は騎馬を横に逸らすことで回避。
自身の手を伸ばしナディに引っ張ってもらうことで一旦空へと上がり、重力を受けての切り落とし。
下からの切り上げによって迎撃、そして空中に空いた私への攻撃。
頭を何とか動かし頬の横を擦っていった槍の根元を掴み、引く。
びくともしない。
即座にその槍にナディが叩きつけを行い、私を地面へ。
ナディに飛んだ攻撃をこちらで受け止め、妹を空に逃がす。
だが無理に入り込んだせいで姿勢を崩され、次の標的は私に。
馬上からの振り下ろしを何とか槍の柄で受けるが、耐えきれず地面に転がされる。
私への追撃を防ぐため、ナディがその槍を振るうが……。相手の攻撃に耐えられなかったのか、根元から粉砕される。
不味い。
「ッ!」
即座に【アダマントの槍】を持ち換え、その兜目掛けて投擲する。即座に察知され、相手の槍によって叩き落されるが……。それでいい。馬の下を滑り込むように動き、槍を回収しながら背後を切りつける。案の定回避されたが、ナディが離れる時間を稼ぐことが出来た。
「姉上っ!」
「もういい! いったん下がれ!」
武器を破壊された以上、妹に出来ることはない。そも技量も膂力も、相手の方が上だ。逆によくここまで持ったというべきだろう。私もアダマント製ではなく、鋼とかならすぐに壊されていただろうからな。
一瞬顔を曇らせたが、即座に離脱したナディを見送りながら、もう一度槍を構える。
「……妹を逃がしたか。」
「まぁな。」
「よいのか? 貴様一人では厳しいだろうに。」
「知ってる。」
そう吐き捨てながら、即座に距離を詰める。
距離を取らせてもいけないし、馬から落としてもいけない。それは解ってるんだが、普通騎馬兵にとって不利になるはずの近距離戦で、押し負けている。さっきまではナディのおかげで生き残れていたが……。流石に不味いかもしれん。
見るべき対象が私だけになったことで、より苛烈になった相手の攻撃を何とか耐えながら、打開策を探る。
けれどいい策は出てこない。ナディが撤退し後方に戻ったということは、時間さえ稼げば救援が見込める。あいつのことだ、武器を取りに行くだけでなく手勢を率いてきてくれるだろう。犠牲を許容する戦い方にはなるだろうが、私とナディ以外に思考を割かせることが出来れば、手傷を与えることぐらいはできるかもしれない。
だが……。
(ッ! 不味いな。)
奴の攻撃を受け止めた手が、しびれて来た。武器はまだ壊れる気配はないが、使い手の方にボロがきた。すでに受け止め損なってかなりいいのをいくつか貰っちまってる。致命傷は避けれているが、鎧のあちこちが砕かれてしまった。
「……“槍鬼”殿といえど、老いには勝てぬか。」
「まぁ、そりゃそうだが……、全盛期でもお前さんの方が強いだろう、よッ!」
「そうか。……ならばもう、付き合う必要はないな。」
奴がそう言った瞬間、槍が飛ばされる。
「見るからに黒く塗っただけの【鉄の槍】、しかしいくら叩き込んでも壊れぬ。故に何か自身の知らぬ技術を持っているのかと思ったが……。槍の方か。」
「はは、御名答。」
空を切りながら、落ちる私の槍。地面に突き刺さった位置から、後方約5m程度。……普通に手が届かねぇな。もう2,3短ければこいつが動く前に拾えたんだが……。確実に背中を切られる。『黒騎士』相手に徒手空拳とかふざけるんじゃねぇぞ。
……私の槍は、特別製だ。確か認識阻害用のカモフラージュもかかってるんだったか? そのせいでこいつは勘違いしてたようだが……。まぁ全身真っ黒野郎の考えることなんて知らなくても問題ないか。一か八かで懐に潜り込んで、拳を叩き込んで逆に相手の槍を奪う。確かに老いたがそれぐらい……、あぁ。なるほど。じゃあ頼むわ。
「ではな“槍鬼”殿。よき相手で……。」
「あぁ、そうだ言い忘れてた。上には気を付けろよ?」
「上? ッ!!!!!」
即座に振り返った黒騎士、その背後上空から降りかかってくるのは、二つの死体。敵の攻撃と判断し、即座に背後へと槍を振るう黒騎士であったが、その腕が止まる。そんな大きな隙を見逃すほど私も馬鹿じゃない。即座に後ろへと下がり、槍を回収する。
真面に戦えるかちょっと怪しいレベルまで消耗してるが、無いよりはマシだ。しっかりと両手で槍を掴んだ後、相手の出方を確認する。
「こ、これは! 『咆翼』殿に『堅肩』殿!」
「おーおー、可哀想に。二人とも珍しい死に方してんなぁ。」
「き、貴様らッ! 貴様らに誇りはないのかッ!!!」
「なんだっけ? 3000年だったか? 気が遠くなるほど殺し合いしてるんだぜ? んなもんあるわけねぇだろ。恨み積もって、どっちかが殺しつくすまで止まらなくなっちまってるのが私らだろうが。」
騎士の誇りとか、礼儀とか。まぁもうちょっと真面に死なせてやれとこいつはキレているのだろう。まぁ最初一騎討ちの様な形式をとれなくてすまない、なんて言ってたもんな。
私が知る戦場の普通は、お互い言葉なんて交わさず速攻に殺し合うものだ。それをわざわざ立ち止まって言葉をかけるあたり、相当“おやさしい”のだろう。まぁ戦場で自分を通せるだけの“強者”には変わりないんだが。
「それで、いいのかい? 私相手に騒ぐよりも、もっとやることがあるんじゃねぇか?」
そう言いながら、上を指差してやる。
ちょっと見上げてみればタイタンに乗ったティアラが敵本陣に向けて『溶岩弾』をたらふく吐き出してやがる。そしてちょうど黒騎士が上を見上げたあたりで、帝国の本陣、一際大きい帝国の天幕に着弾。火が上がる。
距離が離れすぎてるせいで“射出”としての威力はそこまで期待できないだろうが……、上から溶岩が降ってくれば、人は死ぬ。まぁ例外はあるがな? 軍の中枢がぶっ壊されれば誰でも動揺するもんだ。
「へ、陛下ッ!」
「へー、そっちの皇帝来てんのか。いいことを聞いた。……それで、いいのかい? ここでぼーっとしてたらお前さんの大事な皇帝サマが死んじまうぜ? 帰って守ってやらにゃ死んじまうんじゃねえの?」
「き、貴様ァ!!!」
「何私も鬼じゃ……、いや鬼だったな。槍鬼だし。まぁなんだ? 今お前が引くって言うんなら上のあいつに攻撃をやめるように言ってやるよ。まぁお前さんが帝国の本陣に到着するまでは続けちまうだろうが……。早く帰った方が身のためだぜ?」
「ッ!!! あの不届きな妖術を扱う者含めて! 地獄に叩き落してくれる!!!」
「そーかい。じゃあ二度と会いたくないね。」
兜越しにでも理解できる怒気、黒騎士はそう吐き捨てると急いで敵本陣へと戻って行った。
「……あ~、やば。」
相手がおそらくこちらに戻ってこないだろうと確信できるまで離れた瞬間。思わず気が緩み、槍から手を離し地面へと座り込んでしまう。
クッソ疲れたし、普通に死ぬかと思った。なんだアイツ、ティアラも相当だが黒騎士って世界の常識から逸脱してねぇか? 強すぎんだろ。若者の人間離れってこういうことかい? ほんとに“人間”から離れてるじゃねぇか、っていう。
そんなことを考えながら空を見上げていると、ちょっと上の方が騒がしい。どうやらウチのクソガキとその護衛の大隊たちが私の元に降りようと動き出しているようだ。えっと、ハンドサインはどうやるんだったか? 『無事、だから、そのまま。後、敵、もどったら。攻撃辞めろ。他の、狙え。』……伝わったか? 伝わったっぽいな。よし。
「姉上!」
「おー、ナディか。お疲れ。」
大丈夫ですかと飛んでくる彼女に向かい、軽く手を上げる。
どうやら本陣防衛のために残しておいた残りの『空騎士』を全部連れて来たらしい。次々と騎士団の奴らが地面に降りてきて、肩を貸そうとしてくれる。確かに何発はいいのを貰ってしまったが、死ぬほどではない。どちらかというと疲労の方がキツイ。
けれどまぁ大体顔見知りで、子爵領に居た時は揉んでやってたから“先生”なんて呼ばれてる。上からあのクソガキも見てることだし、情けない所は見せられない。手を貸してもらって何とか立ち上がりながら、ナディと言葉を交わす。
「ご無事で、ご無事で……っ。何よりです姉上!」
「そうそう死ぬタマじゃないのはお互い知ってんだろ?」
だからそう表情を崩すな。そう言いながら、戦場の情報を求める。戦が始まってからずっと『黒騎士』の相手をさせられてたんだ。周囲を伺う余裕なんてなかったし、上のあいつがどれだけ暴れたのか、ってのも気になる。
熱くなった体を大きく息を吸い込むことで冷やし、目元を軽くナディの肩を叩いてやりながら、おそらく上で飛んでた部隊からこっちに合流したのであろう『空騎士』の一人の報告に、耳を傾けた。
「まず、こちらの被害ですが、“帝国十将”の対応をしていられる諸将の方々には脱落無し。しかし本隊の方はこっぴどくやられたようで、崩壊しかけています。側面からユリアン様の部隊が支援しているおかげで壊走こそしておりませんが、これ以上の戦闘は厳しいとのことです。先ほど本隊を後方に下げるため、支援を要求されました。ですが……。」
「ですが?」
「上にいるティアラが暴れすぎたため、必要がなくなったとのことです。」
Oh……。そ、それで。帝国側の被害はどうなんだ? というかウチのガキはどれだけやったんだ?
「それがですね……。まずそこに何故か転がってる『咆翼』と『堅肩』の両名。“帝国十将”の内二人を撃破。そして先ほど確認したところ、最低でも10000の敵兵を殲滅しておりました。現在も『わーい! 皇帝ぶっ殺すぞー!』なんて言いながら攻撃を継続……、あ。今標的を変えましたね。まぁこのまま放置していると20000程の敵兵を一人で倒しそうなレベルです。」
私の死を覚悟していたのであろうナディ、さっきまでウルウルしていた奴の顔が、凍る。たぶん私も凍ってる。……は??? 2万? まじ?
「ま、マジです。そ、それと帝国側の士気ですが。ティアラが敵兵の死体を落して倒すことを思いついたため、一部恐慌状態に陥っています。まだ士気を保っている部隊もありますが、死体が消えたと思ったら上から降ってくる状況に士気が崩壊し壊走している部隊もあります。また、それを見た王国側の士気も一部崩壊し同様に撤退している模様です。」
「あー、うん。ありがと。」
「うわー。」
周囲に、なんとも言えない雰囲気が漂い始める。戦場のど真ん中というのに少し気が抜けた雰囲気。普段ならばこんなのありえないのだが、まぁ誰かさんのせいで両軍とも士気が崩壊寸前。撤退始めた部隊もいるってことなら今日の戦はもう終わりだろう。少しぐらいは……、思考と気持ちを整理する時間が合ってもいいだろう。
いや、ほんとに。
「……私の孫だけど、色々怖く成って来たぞ? いや、結果じゃなくて戦後が。もちろん誇らしいし、褒めてやりたいって気持ちもあるが、これ絶対上から声掛かる奴だろ。というかそもそも帝国からも確実に狙われるし……。やりすぎ!!!!」
つい、叫んでしまう。
誰が替えの利かない敵の“上澄み”である帝国十将を二人も倒して! 敵軍12万の内の2万。約17%も殺しちゃってるのさぁ! ほぼ2割だぞ2割! 一人で戦況変えてんじゃねぇ! 『三万ぐらいぶっ殺すー!』なんてふざけたこと言ってたけど実現するんじゃねぇよ! 冗談にしろそこは!
いやまぁ必要なことだってのは理解できるけどさぁ!!!
「ナディさ。これ何とかなる?」
「む、無理かと……。帝国からのヘイトはティアラを後方に下げることで何とかなるかもですが、味方の方はマジでどうにもならないかと。戦後ユリアンのおば様とちょっと頑張ってみますが、最低で国王謁見ですかね……。敵将討ち取っちゃってるんで。しかもネームバリューありありの帝国十将を。どんな教育施したんですか姉上。」
「勝手に育ったんだよ……、あとお前もソレ言えないからな?」
子爵領にいた時はお前も教育していたからな? というとナディの顔がきゅっと萎む。たぶん私も同じ顔してる。
どう考えても、そうだ。明らかに人の範疇を超えた戦果。その強さを囲い込むために五大臣は動くだろうし、最悪“教会”も動く。あいつ自分の能力隠したがってたわりに使い過ぎなんだよ。戦場になると頭弾けて楽しくなっっちゃったのか? ほんとにさぁ!
「私らで功績打ち立てて打ち消すか? 黒騎士討伐とか。……それにあの黒騎士の慌てよう、確実にあっち皇帝来てるぞ? 頑張れば何とかならね?」
「お、いいですね。皇帝殺しましょ、皇帝。」
お互い脳が疲れてきているのか、実現の可能性が薄い幻想を言葉にし、乾いた笑みを浮かべる。そして周囲の騎士団の奴らからも、私たちの心労を気にかけるような視線が飛んでくる。
なんかもう肉体的にも精神的にも疲れちゃったんだけど。どうしてくれるんだクソガキ。
「……あ。というかティアラの奴。さっきまで敵本陣に溶岩の弾ぶち込んでたよな。」
「です、ね。……姉上。もう考えるの辞めましょ? 私しんどいです。」
「言わなきゃダメだろ。……最悪。それで皇帝、殺しちゃってるかも、って。」
全身に謎の震えを感じながら、二人で顔を見合わせる。もしこれが事実なら、確実に面倒なことになってしまう。帝国からのヘイトはヤバいし、国からの囲い込みもヤバい。それにこっちは宗教的な話にはなるが、どう考えても王国教会が動く。だって敵の親玉の皇帝殺したんだぞ? 動くだろそりゃ。
「あ、姉上? もしそうなったら……。」
「あー、うん。王宮から呼び出されるやろ? 五大臣おるやろ? 私も恨みで殺しまくるやろ? ティアラも笑いながら参加するやろ? ……うん、確実に王都終わるな。五大臣と狂王両方いなくなるぞ。あと教会も。夫や子供どころか、孫まで持って行くなら流石に私は抵抗するぞガチで。」
「マジで異端者になっちゃうので最後のだけは抑えてください、こっちで何とかするので……! というか何とかするってどうやって? どうやって正当性……。あ、そうだ。もう国作っちゃうとかどうです?」
「おー。」
周囲に身内しかいないことをいいことに、とんでもない会話を交わす私たち。心なしか周囲の騎士団の奴らの顔が青くなってきてる。……ここで聞いちゃった以上もう逃げれんからな♡ ……今のティアラみたいだったな。もう若くないし、こういうの控えよ。
「戦力はティアラに姉上に私がいますしー、上手く行けば今の貴族連合もこっち側ですしー、後は……。あぁ、そうだ。確か地方に逃げられた第二王女のイザベル様なんかを連れてくればマジで国いけるんじゃないですか? ちょっと今から領土かえって夫と一緒に男の子作るんで。息子と王女くっつければ、もう新しい王国ですよ。」
「わーお、ナイスアイデア。国を蝕む五大臣と狂王を討伐しても、正統性あるから無問題。国の王になるわけだから教会どもには必要以上に口出しさせない『大事な臣下だから指一本触れさせんぞ!』、ってわけだな。」
「ですです。」
「「…………私ら天才か???」」
よーし。そうと決まれば話ははやい! ナディは子爵領で子作り、私は王女を探しにいこう! どうせあのクソガキだったら王女の場所知ってそうだし、旅支度しとけばいいだろ。きまりきまり。後ついでに私の復讐相手だけ先にぶっ殺しとこ~! あはは! こっかてんぷくたのしいなー!
るんらるんららん~!
「お、お気を確かに団長ッ!!!」
「目を覚ましてください先生~!」
「さすがに、流石にヤバいですって! いや私ら付いて行きますけど!!!」
「眼が! 眼が死んでるっす二人とも!」
「一旦、一旦休みましょ!? 絶対正常な考えじゃないです! 休んでから! 休んでからもっかい!」
「あ、だめ! この人たち無駄に力強い! おさえられん! 総員かかれー!」
「ふぃ。むっちゃレベル上がった。大隊長の姉ちゃんにそろそろやめとけって言われたから帰って来たけど……。およ? みんな何してんのー?」
「「「てぃ、ティアラァァァアアアアア!!!!!」」」
「え、こわ。マジで私なんかやらかしちゃった? と、とりあえずごめんちゃい☆」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇ティアラ
レベルがぐんと上がりウキウキだったが、なんかめっちゃ騎士団の姉ちゃんたちに怒られたから謝っといた。仮眠取った後オリアナさんから『第二王女の行方って知ってるか?』って聞かれたので普通に答えた。いやまぁゲームで描写されてたから知ってるけど、まだ会いに行かないよ? 原作開始直後に行く予定ではあったけど。
〇オリアナ
戦闘での肉体的疲労と、ティアラのやらかしの精神的疲労でぶっ壊れたが、寝たら回復した。けど普通にさっき言ってた策は実現したらいいなぁ、と思っている。上手く行けば王国どころか、王国教会すらも根元から破壊できるわけで、孫の危険がかなり減る。後日ナディと話を詰める予定。
〇ナディーン
オリアナよりは肉体的疲労は軽いが、姉が殺されたかもしれないという不安からの解放。その直後にティアラの戦果を聞き、ぶっ壊れた。(仮眠後回復済み)オリアナ同様普通に実行してもいいかな、と思ってるのでとりあえず領土に帰ったら夫を襲うことが確定した。やったねエレナ! 弟が出来るよ!
〇天馬騎士団の皆さん
戦闘らしい戦闘はしなかったのだが、本気で国家転覆しようとし始めた二人を止めて寝室に放り込むために400名全員死線を潜った。いやするならするでついては行きますけど、まともな時に考えて決めてくださいよ……。
〇死んだ人たち
『咆翼』
“上澄み”での実力は、中の上~中の下。相手を威圧し自身含めた見方を鼓舞する咆哮、これを発する喉の状態によってその実力が左右される。ナディが大体中の中ほどであるため、勝つ時もあれば負ける時もある、といった感じ。全ステータスが高く纏っており、その中でも極めてAGI(素早)が高いため正面切っての戦闘はお勧めしない。クソガキこと、戦闘時は常にハイテンションであり、空の存在に対しとんでもない特攻を持つティアラには叶わずぺちゃんこにされた。
『堅肩』
“上澄み”での実力は下の上。しかしながらそのDEFは驚異的であり、帝国最堅と名高い。防御が堅く魔防が弱い典型的な重装歩兵なため遠距離から攻撃したくなるが、そうすると類まれなる強肩から放たれる射程1~3ほどの投げ槍で爆破されるためそもそも近寄らない方が身のためである。近接戦闘もそれなりにでき、破壊力はないがそう安々と殺されることはないだろうと評価されていたのだが……、ティアラにやられた。
次回は帝国さん視点と、ティアラちゃんの成長関連の予定です。
あ、皇帝さんは死んでないです。さすがに。
感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いいたします。
また誤字報告いつも大変お世話になっております。
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