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原作開始前:強化編
44:窓なぁあああい!!!
しおりを挟む私ティアラちゃん! 迷宮都市に帰ってきたらなんかギルド長に呼び出されたの!
え、どうしよ。心当たりしかないんだけど……。ロリコンとはいえ伯爵ぶん殴ったりしたでしょ? なんか襲い掛かって来た奴ぶっ殺しちゃったでしょ? ギルド会員になる前に勝手にダンジョン入って捕まったでしょ? わ。迷宮都市にいたころだけで沢山だぁ。
というか、この町以外も換算するなら地元近くの男爵ぶっ殺しちゃってるし、オリアナさんがだけど徴税官もやっちゃってるし……。たぶんバレていないことの方が多いだろうけど、思い当たりが多すぎて困る!
(ど、どうするオリアナさん!?)
(あ~。まぁ顔見せずに逃げるのだけはやめておいた方がいいだろ。)
まだいろいろ確定したわけじゃないのに、逃げ出しちゃうと誤解されたり罪が深くなる可能性があると指摘してくれる師匠。たしかに……。でももしヤバい感じだったらどうする? 『お前犯罪者だから逮捕ね』とかだったら! 間違ってはいないけど、ティアラちゃんダンジョンに入れないのとっても困る。
(もしそうなったらギルド長だけじゃなく、都市長も縛り上げて指名手配解除するまでタイタンに引きずらせるしか……!)
(余計に罪が重なりそうだからやるなよ? あとそろそろお前は暴力的な解決策以外を出せるようにしろ。十分考えられる頭あるんだから使っとけ。)
(えー! でもこっちの方が速攻で確実にレベリング再開できるよ! 最悪ギルド長たちを経験値に出来るし! ティアラちゃんからダンジョンを取り上げようとするのは極刑なのだ……!)
私がここまでダンジョンを求めるのには、もちろん理由がある。子爵領に行ったおかげで、この世界についてより詳しく成れたからね。
結論から言ってしまえば、レベリングに関してのダンジョンの性能はピカイチなのだ。だって階層ごとに出てくる魔物の強さ決まってるし、敵もクールタイムがいるけどほぼ無限湧き。しかも経験値だけじゃなくお金やアイテムも手に入る。もちろんイレギュラーとして下の階層からクソ強いのが上がってこないわけではないけど、その可能性は低いし、そのイレギュラー自体の強さも手が出せなくなるほど強いわけではない。
自分の適性階層で安全に効率的に経験値を稼げるのは、ここしかないのだ。
(一応紛争地帯の国境線、あそこに行けば敵兵とかいっぱいいるからレベル上げできなくもないんだけど……。)
聞いてる感じ、なんかオリアナさん・ナディさん級のバケモノが近所のおばちゃんレベルで出没してるみたいだからさ……。ダンジョンに比べたら危険度が段違いなんだよね。もちろん戦場に雑魚もいっぱいいるけど、殺せる数には限界がある。しかも殺し過ぎれば相手もそれを察知して、これ以上の損害を防ぐために強者を送り込んでくる。その中にはもちろん原作イベントで出て来た帝国将軍もいるわけで……。
まぁとにかくレベリング場として戦場が美味しくないことが解ったのだ。。
(だから何としてでもダンジョンの利用権だけは手元に残してないと……!)
と、とりあえず大人しくごめんなさいして『なんとかなれー!』するしかない? クソ、折角この町から『伯爵の伯爵もぎもぎティアラちゃん』の噂が消えかけてるってセルザっちから聞いたから帰って来たのに……!
「こちらです。お二人がいらっしゃった際には、人払いをするように言われておりますので私はここまでとなります。すでにギルド長がお待ちです。どうぞ。」
「ア、ハイ。ドウモ。」
結構ガチな対応を受け、そのまま去って行く受付嬢さんを見送る。え、この中に入るの……。なんか物々しくて嫌なんだけど。しかも部屋の中っていうか、この周囲になんか人の気配複数あるし……。『人払いしてる~』って言いながら『自分の手勢は手元に置いてる~』って言う奴じゃんかぁ! 絶対ただのお話じゃないよぉ!
「いるのか?」
「え、あ、うん。たぶん。」
「……いつも思うが、お前そのあたりの感覚鋭いよな。前世何してたんだ?」
え、会社員。手取りどんぐり半欠片。
「カイシャ……? まぁいい。その時はその時だ。入るぞ。」
そう言いながらドアを開けるオリアナさん。しかしこの部屋は二重扉になっていたのか、ドアを開けた先にもドアが。さすがに面食らうオリアナさん。明らかにこの部屋が何かと違うことを察した私たちは、意を決しながらもう一度ドアを開け、部屋の中に入る。
中に人は……、一人だけかな。
華美ではないけれど、整っていて清潔感のある部屋。応接室のような役割もあるのか、田舎の風景を描いた絵画が飾っており、その傍には座り易そうなソファも置いてある。けど、違和感。部屋の外と中で、明るさが違う。これは……、あぁなるほど。窓がないのか。二重扉にもなっていたし、内部での会話が外に漏れないよう色々と工夫しているお部屋っぽい。かなり守りが固いギルド長さんみたい。
そして視線は、自然とこの部屋の主に。私たちがこちらに来たことを察知しているであろうに、未だ椅子の背を向け続ける人物へ。……あ、社長さんとかが使ってる高くてクルクル回る椅子だ。ほしい。
「来たぜ、ギルド長とやら。」
「ティアラちゃんもいるぞ!」
私たちの声を聴き、ゆっくりとその椅子が、回る。
「たった一年半だが……、変わらねぇな。お前ら。」
何故か白猫を膝に乗せ、前よりも豪華な服を着たセルザさんが、そこにいた。
「……セルザさん大丈夫? ギルド長に怒られない? ティアラちゃん一緒に謝ってあげよっか?」
「ちげぇよ、今は私がギルド長だよ。出世だ出世。」
「あ、そうなの。……ほわぁぁぁああああ!?!?!?」
「驚き過ぎだろ……。」
「優秀だとは思ってたがそこまでいくとは……。警戒して損したか? まぁいい。とりあえずおめでとうでいいのか、セルザ。」
◇◆◇◆◇
「んで? お前はいつまでその変顔続けるんだクソガキ。というか何の顔だそれ。」
「え? ムンクちゃんの叫び。これ絵画にしておけば多分1億1990万ドルぐらいで売れるよ。まぁパチモン扱いされるだろうけど。……いやむしろティアラちゃんがこの世界のムンクに? この世界で芸術旋風巻き起こしちゃう?」
「何言ってんだお前……。 まぁいい。茶用意してやるから二人ともそこ座れ。」
「あ、ティアラちゃんあのいい椅子座りたーい!」
「別にいいが壊すなよ。」
社長椅子をみんなが座るであろう応接室の机みたいなところまで運び、飛び乗ってクルクルと回す。こういうのっていくつになってもやっちゃうよね……! まぁティアラちゃんもうすぐ7歳になる6歳だけど!
はしゃぐ私を見て呆れたような顔を向けていたセルザさんことギルド長は、オリアナさんも椅子に座らせ近くに置いてあったティーセットを持ってきてくれる。どうやらお茶を入れてくれるようだ。どんな茶葉使ってるのかなぁ、なんて思いながら眺めていると、私の鼻孔を優しい香りがくすぐる。ストレス解消に良さそうな香りだね。さっすがセルザっち、口は荒いのにセンスあるぅ!
……いやにしても受付嬢からギルド長ってマジでどうした? 出世しすぎじゃない? ティアラちゃんみたいにコロコロした?
「しねぇよそんな……。いやある意味社会的に消したってのは当たってるか。」
「……マジで何したの?」
「密告。前のギルド長やら、他の職員やらの汚職の証拠見つけちまってな。内容が内容だったもんで、都市長に報告したらこのポストにぶち込まれた。」
苦虫を噛み潰したかのような顔をする彼女。あ~、ご愁傷様?
聞いた話、私たちと別れた後。裏の情報網を確保しちゃったセルザっちはめきめきと成長。表の情報が集まりやすい受付嬢という立場と、裏の情報網を構築した彼女は最強の存在になっちゃった、って感じだそうだ。んでいまは身に余る責任や政治関連のごたごたに巻き込まれてストレスピンチ。アニマルセラピーに期待して白猫まで飼い始めちゃった始末。
「白くてモフモフして青いお眼々くりくり。タイタンには負けるけどかわぁい。ティアラちゃんやでー。仲良くしてなー。怖くないでー。セルザっち、この子の名前は?」
「さぁな。っと。出来たぞ、私の好きな銘柄だから口にあわねぇかもしれねぇが。」
「ご丁寧にどうも。」
流れるような手つきでオリアナさんにお茶を渡すセルザっち。なぜか名前を教えてくれなかったけど……。配膳の手つきとか滅茶苦茶エレガントだ。ギルド長してるからってことで貴族と話す機会とか増えてしんどいって言ってたけど、あんな感じのこと体に染み込むまでしないといけないのか。大変そ。
猫ちゃんも大変なご主人いやしてあげるんやで~、よちよち~。
「にしてもこの猫ちゃん、なんか誰かに似てるような……『かぷ』あ、嚙んだ。セルザさん~、この子今日の晩御飯にしていい?」
「ダメに決まってんだろ馬鹿。ったく傷薬はどこに置いたっけ。」
「あ、自分でやるから大丈夫。」
“空間”の中からぱっと消毒用の酒と包帯。あと『傷薬』を薄めた奴を取り出して机の上に置く。
子爵領にいたころ何かと怪我したから処置の方法とか色々覚えたんだよね~。にしてもティアラちゃんペガサスにも嫌われてたのに、猫にも嫌われるようになったのか? ……というかティアラちゃんの肌って猫の歯が貫通する程度の固さしかなかったんか。もっとDEF高めなきゃ。猫程度の牙、肌だけでへし折れるぐらいになっておかないと……!
「お前ソレどっから出した? ……まぁいい。とりあえず色々とお疲れ様。お前らが町から出てる期間だが、『ギルドからの特殊依頼』っていう体で処理をしておいた。なんでお前らの冒険者資格はそのまま使える。前と同様にカードを諸々で提示すれば大丈夫だ。好きなだけダンジョンに潜れるぜ。」
「ほんと! やったー!」
「それと、これがその『依頼』の報酬金だ。」
そう言いながら、ドンと机に紙束を置く彼女。これは?
「クソガキ、お前が前に言ってた“傭兵団”の情報だ。兵力がいるんだろ? この周辺を根城にしてる傭兵の集団だ。実力はピンからキリまでだが……。その資料の奴らは人間的に問題が少ないと判断した奴らだ。ま、傭兵やってる時点で何かしらの問題は持ってるからな。そこは勘弁してくれ。」
え、いやいやいや! 勘弁とかそういうレベルじゃないって! めっちゃうれしい! わー! ほんとに欲しかった奴じゃん! 貰っていいの! いいんだ! サンクスセルザっち! もうティアラちゃんキスしちゃう! ちゅっ、ちゅっー! え、近づくな? そんな恥ずかしがらなく「殴るぞ?」あ、はい。ごめんなさい。
というかこれ、パッと見た感じ各構成員の特徴まで調べてるかなり詳しい資料なんじゃ? 明らかに情報としての価値が高すぎる気がするんだけど……。資格失効を防ぐための全く内容のない依頼でさ、こんなの貰っちゃっていいの? 大丈夫?
「構わねぇよ。こっちとしてはお前らのおかげで色々と上手くやれたんだ。金と立場、そうそう手に入らないもんだぜ? ……まぁ金は貯まって行くばっかりで使い道がねぇし、そもそも使う時間もねぇ。立場は正直今すぐにでも投げ捨ててぇが……。まぁこれのおかげで利益を得てることも確かだ。それを考えればむしろ足りないくらいさ。」
「そうなんや……。んじゃありがたくいただくね!」
ちょっと闇が見えたが、とりあえずスルーしておく。今度時間作ってもらって思いっきり甘やかしたり褒めてあげる日が必要かもしれない。
っと、そんなセルザさんは置いておいて……傭兵だ。
今後戦場で戦っていく以上、どうしても私兵は必要になる。そんな素敵存在になってくれるかもしれない候補者たちの情報が、ここに。
後でオリアナさんと一緒に吟味しよっと。今後ずっと戦場でお世話になるかもしれない傭兵さんだからね~。団体じゃなくて個人で活動している人の情報もあるみたいだし、ちゃんとチェックして選ばなきゃ。今後やりたいことに、ナディさんに教えてもらった『空騎士部隊』の運用方法。そういうのも活かせる上に、私の信仰とかの周囲には明かしてはいけない情報の保持能力とかも考えないといけない。
できれば原作に名前出てない人だといいけど……、そもそもそんな素敵集団いるかな?
「あ、そうだ。手紙にも書いてくれてたけどさ。『私と伯爵』関係の噂ってどうなの? もう薄まった?」
「ん? あぁ、その件ならもう大丈夫だな。こっちでももみ消しも出来てるし、余所がお前を狙って何か仕掛けてくるってことはないだろうよ。実はこの部屋の外にも人を付けているんだが……。」
「あぁ、確かに。いたね!」
セルザさんの“影”とも言えるような人たち。彼らや他の構成員の人たちが別の噂を流したり、もっと人の興味を掻き立てるような噂を流して打ち消してくれたおかげか、そういうお話が外に出回ることはなく成って来たそうだ。
「ただ……、たまに伯爵本人がこっちに来ててな?」
「は?」
「まだお前のこと探してる。それも復讐じゃなくて、そっち関連の話で。」
は? あいつオリアナさんに息子潰されたはずなのにまだ私のこと追ってんの!? オリアナさん『棒どころか玉両方潰した』って言ってたのに!? あいつまだそういう癖持ったままなの!? 懲りてないの!? いや復讐されるよりも気味が悪いんだけど!!!
「いや、それがな……。奴がこの町に滞在してる際。娼館から人が消えてんだよ。伯爵の好みに合いそうな年齢の奴が。んで大体領地にお持ち帰りされてる。たぶん回復魔法かなんかで回復して、やることやってるんだと思う……。」
「…………ごめん、生まれて初めて悪寒したかも。」
オリアナさんも全然衰えてないし、私もちょっとは強くなってるから負けるようなことはないだろうけど……。ごめんちょっとアイツのこと生理的に無理になったかもしれない。今度顔合わせたらもう息子だけじゃなくて脳みそ丸ごと吹き飛ばしてあげた方が世界中のロリのためかもしれん……。
「とりあえずお前らがこれからこの町で生活するにつれ発生するであろう情報は、こっちで出来る限り消して置く。それに、あいつがこの町に来そうになったら伝えてやるさ。そん時はまた子爵領だったか? そっちに行くなり、他のとこで時間潰すなりしておけばいい。たぶんまた私のところに話を聞きに来るだろうが……。いい感じに誤魔化しておいてやるよ。」
ほんと!? 助かる……。
嫌にしても、マジか……。ちょっとこれは無理してでも急速にレベリングした方がいいかもしんない。
いつ伯爵に邪魔されるかわかんないし、あいつがより万全の状態で、あの時よりも強くなって襲い掛かってくることもあり得るだろう。正直、タイタンと一緒だったとしても、そんな伯爵相手に勝利を収められるかは怪しい。
当時の能力。初めて会ったときの能力値ですら私には高すぎたんだ。確かに多分オリアナさんやナディさんには劣るけど、騎士団の姉ちゃんたちよりは確実に強いのが伯爵。姉ちゃんたち相手に勝率五分五分の私が、現状勝利を確実に収められるとは思えない。
レベリングして無理矢理ステータスを上げて、もう一度顔を合わせても無傷で切り抜けることが出来るレベルで強く成っておかなきゃ……!。
(取り敢えず……、今の下級職『空騎兵』から、上級職『天馬騎士』に上がることを目標にやろう。)
「ま、伝えておくべきことはそんなもんか。前と立場は違うが、何かあったときはサポートしてやるよ。“階位”上げ頑張りな、クソガキ。」
「うん!」
「……あぁそれと、宿の方は前と同じにするつもりか? だったら少し覚悟しておいた方がいいだろうな。あそこの子、かなりお冠だったぞ。」
「あ。やっぱり……?」
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