クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:迷宮編

18:入ったら逮捕ォ!

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「おほー! たんのしー! ……とはならないなコレ。作業じゃん。」


そう言いながら“空間”を制御し、銅の棒を射出する。

瞬間放たれたそれは芋虫の魔物の胴体を貫通し、破壊しつくす。ゲームみたいに魔物の死体がポンと消えたり、地面に吸い込まれる様な事はない。気味の悪い緑色の体液をまき散らしながら爆散する芋虫ちゃん、いや~虫は例のG以外はそこまで嫌いじゃないんですけど、大型犬ぐらいのサイズがあるときついっすね。キモイ。


「しかも剥ぎ取り作業がなぁ。“空間”でズルしようにも範囲選択がむずいし……。」


冒険者ギルドで魔物素材を買い取ってもらうには、ギルド側が欲している魔物素材をはぎ取って持ち込む必要がある。

ゲームならそのままドロップ品を持ち込むだけでよかったのだが……、現実となると例の狩りゲーみたいに剥ぎ取りの必要が出てくるってわけね。流石に全部覚えているわけではないけど、何となくどこの部位がドロップ品として扱われて、買い取ってもらえるのかは頭に入ってる。けど……。


「この生暖かいのに手ぇ突っ込んでナイフで切り切りする作業。……心が無になりますね。」


しかも手が虫の体液でねちょねちょ。空間に大量の水を保管しているので、いつでも手洗いすることは可能なんだけど……、嫌なものは嫌だ。というかこれ石鹸使っても不快感残るやつ。

あ~! 最初はゲームと同じように敵倒したらドロップ品だけ残ってくれる不思議仕様だと思ってたんだけどなー! 普通に死体残るってどういうことかなー! R18は18でもGの方の18になってるよコレ! いずれ人型のモンスターの刈り取りもしなきゃいけない訳でしょう!? ヤダー! ティアラちゃんお家帰るゥ! 帰れないけどォ!


「レベリング効率はいい方なんだけどねぇ。……そう簡単にお金を稼ぐのは難しい、ってことなんでしょうか。」


現在迷宮の一階層、出てくる敵はでっかい芋虫。

確か『ジャイアントうねうね』とかそんなふざけた名前だっけ? 最初に出てくる敵として相応しい弱さで、攻撃パターンは隔ターンごとに突進をしてくるという簡単なもの。突進前のチャージ中に攻撃して十分に倒せる相手であり、そもそもの攻撃力防御力ともに低い。ま、その分ドロップ品もクソ安いんだけどね。

そんなクソよわ芋虫君でも、経験値の入りは結構いい方。まるで『この倒しやすい敵を倒してレベリングしてから下にもぐってね♡』と言わんばかりの親切設計になっている。ま、二階層から敵の数とか難易度とかかなり上がるから『お、ダンジョン余裕じゃーん! さっさと次の階層行こ』っていうプレイヤーにとっては軽い心折設計かもしれんけど。


「さて、レベル上がったら下に行こうか。マッピングはある程度済んだし。」


そんなことを言いながら手元の紙に図を書き込む。そ、マッピングだね。

現在いるのは石造りの壁に囲まれた迷宮。ゲームではオートでマッピングをしてくれたが、こちとらたった一人の気軽旅。誰の視線も気にしなくていいという利点はあるが、逆に言えば全部自分でしないといけないっていうことでもある。魔物の処理は“射出”で楽に可能だが、こういった細々としたところは自分でやらないとね……。


「冒険者に成ればマップの情報共有とか受けられたのかもしれんけど……、まぁいいや。っと、ご新規さんいらっしゃーい!」


石の床を歩きながら角を曲がると、新たな芋虫を発見。即敵殺ということですぐさま銅の棒を射出する。

いや~、にしてもただ体の中央を狙うだけじゃダメってのもめんどいよね。

芋虫こと『ジャイアントうねうね』君のドロップ部位は、頭部中央の内部に埋まっている謎の球体。

緑色の野球ボールみたいな奴なんだけど、コレを茹でて薬草と合わせて煎じたら、いい感じの傷薬になるんだって。けど少しでも傷が付いたら買い取ってもらえないから、倒すときはいい感じの角度を付けて射出しないといけない。これが結構ストレスなのだ、もっと盗賊みたいに適当にぶち当てて血肉まき散らしたいよー!


(……我ながらヤベェこと考えてるな。)


そんなことを考えながら、銅の棒によって地面に突き刺された芋虫に近寄る。死亡確認のために【オリンディクス】ちゃんで少し突き、反応がなければ『空間』から取り出したナイフを芋虫の頭部に突き立てる。後はいい感じに開いて、中から気持ち悪いネバネバとした体液にまみれたボールを取り出せばおしまいだ。


「このボール、結構硬くて重いのよね。中まで餡子ぎっしりちゃんか?」


後はこれを“空間”へとぶち込んで、倒した魔物を端に除ければお仕事終了だ。あ~、手がべちょべちょする。この汚れだけを“空間”にぶち込めたらいいんだけどねぇ……。

まだ不慣れなせいか『物体に付着したものを排除するために物体を回収する』は出来ても、『物体に付着した、付着したものを入手するために回収する』は出来ないんだよね。どうしてもくっついてる物も一緒に入っちゃう。つまり手を対象にしたら、おてて持ってかれる。

たぶん一つの物体として私が認識出来てるかどうか、が基準なんだろうけど、こういったネバネバしてるのって広がって場所によってはあんまりついてないところもあるせいか“一つの物体”として認識できないんだよね……。今後の習熟でどうにかなればいいんだけど。


「大人しく水で手を洗うしかないか、っと。さっきのでレベル上がったよね~、確認確認!」


川から汲んだお水を大量にぶち込んだ“空間”の一角、そこに軽く繋げることで蛇口を捻ったときと同じように水を抽出する。後はそれでおててをキレイキレイしまして、洗った清潔な布で手を拭き拭き。後はステータスを眼前に表示するって感じ。

お! うんうん、やっぱレベル上がってたよね~!



〇ーーー〇

ティアラ 空騎兵 Lv1→2

HP (体力)10
MP (魔力)6
ATK(攻撃)6
DEF(防御)6
INT(魔攻)5→6
RES(魔防)7
AGI(素早)8
LUK(幸運)0

MOV(移動)4(7)

〇ーーー〇



「しょっぱ!」


現状というか、かなり後になるまで必要のないINT。最上級職になるまで必要のない数値が上がりやがった。

しかもそれ以外なし。しょっぱすぎるじゃんか……。いやINT君もいらないわけではないよ? でもどっちかというとATKとか上がってほしかったな、って。というか『空騎兵』のステ上昇ボーナス君仕事してます?

というか! そもそもLUK! お前どうした! コンビニでアイス買うって言ってたじゃんか! ちゃんと帰るって言ったじゃん! ママずっと心配してるんだよ! 早く帰って来なさい! あと一個150円のじゃなくて、300円ぐらいの良いアイス買って来てよ! ハーゲンダッツだからね! 約束だからね!


「……ま、ここは数重ねて地道にレベリングしていくしかないか。さ~、芋虫にも飽きたし。次の階層に行くぞォ!」








 ◇◆◇◆◇







「うにぃ……、やっぱ剥ぎ取りめんどぉ。」


さて、気持ち悪い死体から品をはぎ取る間。このダンジョンについての解説をしちゃいましょう。多分この思考アユティナ様に筒抜けだろうし、神への説明も兼ねて、ね?

まずこのダンジョンは現在この大陸の中で唯一発見されている迷宮だ。

内部には魔物がうじゃうじゃいて、冒険者やプレイヤーはその魔物を狩って、そのドロップ品を売ることで莫大な富を得ることが出来る。階層は1~100まで存在していて、10階層ごとに景色や出てくる魔物、宝箱から出るお宝の内容が変化していくって感じ。1~10階層は石造りかと思ったら、11~20階層は森になるって形だね。

奥に行けば行くほど強くて高く売れる魔物が待っていて、同様にお宝のランクも上がっていく。

出入りは簡単で、階層のスタート地点とゴール地点に存在する宙に浮かぶ真っ黒な穴。それに手を突っ込んで『次の階層に行きたい~』とか、『5階層に行きたい~』とか、『入口に行きたい~』とか念じればすぐに連れて行ってくれる形だ。あ、行ったことのある階層しか行けないけどね?


「ちな、10の倍数階層。もしくは91~100の階層にはボスがいて、そのボスを倒さないと次にいけないってシステムになってる。」


ま、よくあるダンジョンってことだ。

適性レベルの魔物を狩って、ドロップ品を剥いで、適度に狩ったら引き返すか奥まで行って帰る。それがデキる冒険者、ってワケ。出来なきゃ魔物に殺されてモグモグされるか、その場に死体放置だからデキる冒険者しか残らないっていう意味でもあるけど。

でも出来ない冒険者(死体)がなんの役にも立たないってわけじゃないよ?

持ち物とかは次に最初に発見した奴が好きに持って行っていいからね、死んでも他の冒険者の養分になることが出来るのだ! う~ん、ブラック! ちなみにギルド入会時にもらう“識別証”は回収してあげて、ギルドに提出するとちょっとだけ評価が上がるので捨てずに持って帰りましょう!


「ゲーム内じゃ『死体の山』と書いて『罠のない宝箱』って呼んでたけど……、まぁ今も変わらないか。とりあえずそんな感じですね、っと! “射出”~!」


そう言いながら新しくやってきたお代わりに向かって“小石”を発射していく。

私の“射出”って便利な上に攻撃力も高いんだけど、音がねぇ……。銅の棒とか使ってると地面とか壁にぶつかった時に滅茶苦茶大きな音出しちゃうのよ。ほらこの辺り全部石造りでしょう? そのせいか魔物がよって来てめんどい! 銅の棒を全部使いつぶしてまたあのクソ狼みたいなことになるのも嫌だし、小石に移行して処理進めてます。

レベリング的には相手から集まってくるのはウマ味なんですが……、数増えると剥ぎ取りがね? めんどいのよ。


「なんだろ、気が付いたらSAN値が0になってそうな気がするの私だけ?」


いつの間にか血まみれになっちゃった両手を眺めながら、そんなことを呟く。

現在私が探索中の2階層、ここを含めた1~10階層は計四種のモンスターがポップする。

一階層はこいつだけしかポップしない芋虫こと『ジャイアントうねうね』
頭に付いた長い角で突き刺してくる『突撃角ウサギ丸』
牙がでっかすぎてなんかもう他の生物に見えるネズミの『出っ歯ちゅん助』
最後にイタチに近い顔つきの子供サイズの亜人って言ったらいいのかな? ちゃんと下半身に息子が付いてる『コボルト』

この計四種だね。


「名前が頭狂ってるのはアレね? 私が名付けたんじゃないんだからね。公式がふざけて名前つけたせいだから。絶対酒飲みながら決めた名前だから。というか、この世界じゃ全員が真面目な顔で『ジャイアントうねうね!』とか言うんだけどさ……。」


このモンスターたちの剥ぎ取り部位は、芋虫が体内にある虫玉。ウサギが毛皮と角。ネズミが尻尾と出っ歯。コボルトが下半身にあるボール二つ……、うん。玉です。うん。ゴールデンね?

ウサギの腹とか掻っ捌いて皮にするのはまだいいんだけどね? ちょっとそれに触るのは嫌と言いますか……。いやちょっとお高めに売れるのは知ってるんですよ? 後今後ゴブリンとかオークとかオーガとか出てくることも、そいつらの売買部位もタマであることも。それを考えればさっさとコイツで慣れておくべきってことも理解はしてるんですけど……。


「誰が悲しくて人様のソレ触らないといけないのさ。いや魔物だし、もう死体だけど。」


R18でお決まりの素材であることは理解してるんだけどね……、普通触りたいと思う? 思わんよね。それが普通。錯乱したヒロインみたいに白いのぶっかけられて恍惚としてる方がおかしいの。というわけでエッチなのはダメ! 死刑! 射出! 爆散!


「『コボルト』はミンチで廃棄処分。それ以外を捌いてるわけね?」


あ、ちなみに『突撃角ウサギ丸』ことうさちゃんは、鍋にするとうまいらしいので何体かお土産に持って帰る予定だ。

こいつ芋虫と同じように動きがワンパターンでね? 突撃しかしてこないもんだから、かる~く避ければ石壁に激突。脳震盪起こしてる時に首を掻っ捌いて、血抜きして置けば食材として使えるんですよね。今後世話になるだろうし、ペペちゃんもお肉食べたいって言っていたからちょうどいいだろう。


「ゲーム内ではフレーバーテキストでしか“食用”って書かれてなかったし、プレイヤーからすれば単に敵モンスターとして倒すだけの存在。それが今となっては貴重な動物性たんぱく質、面白いよねぇ。」


そんなことを口ずさみながら剥ぎ取りを進めていく。

正直さ、この肉をナイフで抉って部位を外していくっていう感触? すっごいしんどいし、心がえぐれていく感覚があるのよね……。絶対5歳児がやる仕事ではない。芋虫はまださ、色が緑色でまだネチャっとした体液だったから耐えられたけど、ウサギとかネズミとか哺乳類だからなぁ。血は真っ赤だし、肉はまだ温かい。


「……あ~、そういえばこういった血で感染症とかかかることあったんだっけ。次からは手袋してやろ。あと帰ったら石鹸買って念入りに手を洗わないと。」


石鹸がいくらするのか解らないが、まぁ高そうなのは間違いない。だがよくわからん病で死ぬぐらいなら、潔く金を出した方が賢明だろう。ある程度魔物素材も集まったことだし、まとまった金になるだろう。町に帰ったら色々と散財させていただきましょうか。


「あと仮眠したとはいえ、夜の間ずっと活動してたせいか普通に眠くなってきた。思ったより捗ったし、そろそろ引き上げるかぁ……。」


運のいいことに二階層の終点である出入り口となるゲートはすでに発見済み。

レベリングと素材集め。後はマップ埋めのためにウロチョロしていたが……。音を立てず向かえばエンカウントせずに帰宅することが出来るだろう。時計とか持ってないので正確な時間は解らないが、すでに日が昇っていてもおかしくないような時間。帰って宿に戻りひと眠りするのにはちょうど良さそうだ。

と、いうわけで撤退!

今日の収穫は……


<魔物素材>
虫玉 ×22
兎角 ×18
兎革 ×5
鼠尾 ×17
鼠牙 ×8

<食材>
兎  ×5

<廃棄処分>
コボルトだったモノの山(52匹分)



「ま、こんなもんか。初日にしてはいいんじゃないの?」


因みに今日の戦利品は盗賊さんたち(故人)が使っていた革袋にぶち込んで肩に背負ったり、鋼の槍の先っぽに巻き付けたりして運ぶことにしました。

空間にぶち込んだ方が早いんだけど売るときに『どこから取り出したの!?』ってなるからね。【オリンディクス】ちゃんも普通に神器なので持ってるのがバレるとヤバいってことで先に空間へと帰って頂いた。んでその代わりに今日は何の仕事もしなかった【鋼の槍】を天秤棒、ほら昔の商人さんとかが物を運ぶときに使ってた棒ね? 肩に乗せてる奴。アレの代わりにするわけです。


「んじゃ迷宮ちゃん、ばいば~い。また会いましょうね♡」


そう言いながら黒丸、虚空に浮かぶゲートに手を突っ込み外に出たいと念ずる。そうすればパッと全身が吸い込まれて行き、気が付けば迷宮都市にご到着ってわけだ。来た道引き返すとかのめんどい方法で帰らなくていいからすごい楽だよね~。

あ~、外もう朝になってんじゃん。朝日がまぶし……






「お~う、夜番お疲れー。」

「お疲れっすー、センパイ早いっすね。」

「そりゃなぁ、朝から潜らせろって冒険者の奴らが騒いだら面倒だろ?」

「あ~、まぁ夜の間締めてますもんねぇ。潜る時間がそのまま稼ぎになるわけですし、朝は人少なくて空いてますから。」

「だな。……というかお前さん。なんかあったんか?」

「あ。解っちゃいます? 実は昨日の夜、仕事中でっかい犬が来ましてね?」

「イヌぅ? ここら辺飼ってる奴いたか? まぁいい、それで?」

「そいつらが遊べ遊べってじゃれて来てくれたんですよ。いや結構デカい犬種みたいで、最初はサイズにビビりましたけど滅茶苦茶人懐っこくて……、かわいかったなぁ。干し肉上げたんですけど、お手してくれたんですよ! ありゃ、賢すぎて“かしこちゃん”ですわ。」

「あ~……、そういやお前犬派だったか。そりゃよろしいこって。」

「先輩にも見せてあげたかったっすよ!」

「へいへい。機会があればな、んじゃさっさと仕事…………。」
















目を開ければ、さんさんと輝く真っ赤な太陽。

そして朝日と共に動き出した町。その安全を守る衛兵さんがお仕事をしていないはずもなく。目の前には、軽く10は下回らない衛兵さんたち。


「お嬢ちゃん、どっから入った?」


あ、スゥーーーーーーー



やらかしちゃった♡ おいLUK、お前のせいだぞ? お?

え、衛兵のおっちゃん? これには訳が……。あ、詰所までついてこい? あ、あはは……。





ティアラちゃん、逮捕ォ!


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