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第2章 不幸な子、幸運の子
16話 後ろ姿の正体は
しおりを挟む「ミスアイ、大丈夫ですか?」
麗しい笑顔で優しく尋ねてくるマリア様。
震える唇でなんとか大丈夫です、と答えると今度は安堵から涙が溢れ出す。
助かった、とほっと息を吐くと、マリア様の手元に深く切れ目が入った分厚い聖書があるのが目に入った。
なるほど、私を死へと誘う予定だった刃はあの本によって受け止められたのか。聖書が分厚いからこそできる荒業すぎる。
「ミスターヒロ、どうしてこんなことをするのですか。このことは決して神はお許しにならないでしょう」
どうやらさっきの男はヒロというらしい。
マリア様が冷ややかな笑顔を例のヒロさんに向けている。顔が美しい分、笑っていない目が怖い。
冷ややかな怒り、そして憐れなものを見る目だ。向けられたヒロさんはぶるりと身震いをする。
向けられてない私も、恐怖のあまりぷるぷると震えてしまう。
マリア様には絶対逆らわないようにしよう。
「そうだぞ、ヒロ。この小娘には魔力を感じない。確かに素直に魔力のない人間とは言えないが、俺に危害を加えることは出来ないだろう。結果を破ったのもたまたまだろうし。そんなピリピリすることでもないだろ」
あ、忘れてた。この不審者極まりないキツネ面男。
存在を思い出したと同時に、キツネ面男に次々と怒りが湧いてくる。
さっきまでずっと黙って見てただけのくせにわかったようなことを偉そうに喋りやがって。そう思ってたならさっさと止めなさいよ。もっと早くそう言ってくれたら私はあんな目に合わずに済んだのに。
しかもこんな緊張感溢れるこの場で、そんな軽口叩いて。空気も読めないのか、この男は。
……おっと、ついつい口が悪くなっちゃった。まあ、口に出してないだけまだマシだよね。
と思いつつも、少しも怒りは収まらないからキツネ面をキッと睨む。そんな私の視線を気づいていないのか、それとも気づいていてわざとスルーしているのかわからないが、平然としているのも腹立たしい。
「……ミスターイマイラ、貴方もですよ」
「へ、俺?」
「見過ごしていた貴方も同罪です。ミスターヒロと、謝罪と共に神の怒りを受け入れてください」
「うへぇ、マジか。その神の怒りって何なの?怖いやつ?」
「さぁ?神の御心まではわかりかねます」
……なんだろう、この茶番は。さっき私死にかけたんですが??
マリア様が私の気持ちを察してか、イマイラさん(?)に我慢できなかったのか、そう言ってくれて救われたけど。怒りを通り越して呆れてきた。
マリア様ですら、最後にはもう関わらないでおこうと思っていそうな発言をしている。ある意味すごい人だ。
「……帰りましょう、マリア様」
後ろでイマイラさんがグダグダ言ってるのをスルーして、マリア様の腕を無理矢理引っ張ってその場を後にした。
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