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01. つい先日知ったばかりなんですが…。
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この広い世の中に、同性同士で婚姻する事があるらしい。
と、この言い方は差別的なものではなく、あくまでも自身とかけ離れたものとしての視点であって、あくまでも物語とか遠い異国とか近場であれば隣国とか、もっと近場であれば過去にあったホントの話とか関わり合わない自国の貴族とか。
あくまでも自身と確実に一線を引いたものてまある。
そう、あくまでも。
それが自分自身に降り掛かってこようとは、知ってた神のなんて罪深いものだ。
言ってはなんだが不敬だろうが、ノアンにとっては万死に値する。
そのくらい怒っている。
でも大差をつけて怒っているのは神を呪う事よりも……。
「ノアン。はっきり言おう、俺は白いのは嫌だ」
「僕もはっきり言う。黒いのは嫌だ」
「何故黒」
「白と言えば黒だろう。それとも赤か。赤か」
「何故赤」
「赤と言えばお祝いとして白色と最強のコンビ色じゃないか」
「お祝いなのか」
「誰がお祝いだ。……しかし黒か。黒い結婚か……腹黒そうだとか曰く有り気そうだとか犯罪感が半端ないなぁ」
「黒色は悼みとしての白色と最強コンビだろうが」
「確かに死んでるな」
ノアンがシーヴァルトの言葉に頷いた。
「どっちもどれでも嫌な事は間違いない」
「黒も赤も駄目ならいっそ違う色にしてみたらどうだ。そうだな、やはりここはピンク色とか」
「ピンク?桃色とでも言いたいのか!」
「新婚なんたから別にいいだろう?」
「やめろ、ゾッとする」
ノアンがふるふると自身を抱き締めて首を横に振る。
「この凶行を桃色に例えるとか有り得ん」
「新婚だからな」
「お前は前向きでなくて、もっと嫌がれ」
もう何度目かのしかめっ面でノアンはシーヴァルトを睨み付けた。
「桃色は桃色でも、あの誰だか分からないが不埒者の指により押されて黒ずんだ場所だろう」
「ノアン。私怨がこもっている」
「当たり前だ。愛しい僕の大桃は愚かな家族によって汚されたのだ」
「すぐ上の兄だったのだろう?」
「報復済みだ。問題無い。いや、それよりも桃色は絶対無い」
ちなみにこの大桃を巡る件はノアンが幼少期の頃に当たる。取っておきの大桃はシーヴァルトの領地の特産品で、ノアンの生家の伯爵家に譲られたものの中からノアン宛に届けられた一品だった。この時からシーヴァルトは頻繁にノアンの家に遊びに来るようになったので、あれはご挨拶の一品だったのだろう。一目惚れした大桃は妬まれて傍若無人にされた。ノアンは報復しても記憶界隈からこの時の歴史を忘れはしない惨劇だった。問題ない、とは真っ赤な嘘であった。
思えばあの兄は何故だかノアンを羨む傾向にある気がする。両親から贈られた物はことごとく取られたりした。ただ彼はシーヴァルトの生家である公爵家から贈られた物にはあれ以降、手を出さなかった。強請っていないのだが、『こういうのが欲しいなー』と思っていると公爵家から贈り物が届くのだ。多分、『うちの息子がお世話になってます』と献上されるのだろう。奪われる心配のない贈り物はノアンの宝物になった。何でもない日に受け取ったそれらにノアンは歓喜し、シーヴァルトによく抱きついた。なお、今は恥ずかしくてやらないし、兄は学院を卒業して領地に追いやられ……じゃない、領地で一族に監視され……じゃない、領地経営の一端を担うべく修行に励んでいるらしい。
「桃色は色としては口に出しては憚る感じだ」
「何を警戒している」
「とにかく無い」
「では紫色ではどうだ」
「何故紫色」
今度はノアンがシーヴァルトに問い掛けた。
何なのその選択。
「ノアン、紫色芋が大好物だろう」
「理由はそれか」
笑いたくなったが笑ってはいけない。ノアンが口元をきりりと引き締めた。
「紫栗とか紫かぼちゃとか」
ぷっと吹き出してしまい、慌てて顔を引き締めた。でも、若干口元が締まり切っていない。残念だがここは目を瞑ろう。
「紫色もない」
「何故だ」
「…………お前、わざと言ってるだろう」
「何を」
ノアンの深いオーシャングリーンの瞳が頭一つ分高いシーヴァルトを見上げ、射抜く。
美形で有名な伯爵家当主と可憐な伯爵家令嬢だった母との間に、両親の良いとこ取りをして生まれてきたノアンの容貌は女顔めいていて、美形だが可愛いっぽくて可憐なのである。良いとこかは不明だが体毛も薄い。実は本人はこれをコンプレックスとして気にしている。
「紫色と言って何を連想する?」
「ノアンの大好物の芋栗かぼちゃ。で作った菓子類」
ノアンが頷く。脱線が予想されたが、ここも致し方無い。
「紫でそれを連想するとは、ちょっと不安なんだが……。お菓子達に罪は無い。早く食べたい三色モンブランの大ツリーケーキと三色ミルフィーユのビアジョッキデザート」
目を閉じて片手を顎に当て、ノアンは記憶の淵に沈み込んだ。
三色モンブランの大ツリーケーキとは紫の芋栗かぼちゃをペーストにして樹に見立てて作った巨大ケーキである。色味が違う紫色をグラデーションにして層を重ね、中にホイップクリームとスポンジケーキが段々で入っている。
三色ミルフィーユのビアジョッキデザートとは、またまた芋栗かぼちゃをペーストにしたものをガラスの器の中にパイやスポンジケーキにホイップクリームや粒つぶにして食感を変えたものを地層の如くしていく、見た目にも楽しい一品である。
どちらも公爵家の領地の特産品から出来たもので、ノアンはこれらの収穫期にシーヴァルトの家に遊びに行くのが楽しみだった。本来はもっと小さく上品な食べ物だったのだが、ノアンの為に公爵家の料理人が巨大でも品良く見えるように工夫をこらしたらしかった。
ちなみに公爵本家には王都の邸宅からの移転門から直通である。
「紫色と言えば…」
ノアンは迷った。口ごもる。
色については解釈が所属する国によって分かれるのである。そしてノアンが口ごもったのは、とある国の解釈の一つについて知ってしまったからだ。こちらの国では貴色の一つであるから、ノアンからみて凶行以外の何物でも無い事でも、シーヴァルトからしたら違うかも知れないと思い至ったからだ。何故そう思ってしまったかと言えば前述のシーヴァルトの発言からになる。
『ノアン。俺は白いのは嫌だ』
白い結婚は嫌だ。
彼はそう言ったのだ。
何を言ってるのかと、ふざけた事を口にするなと初回で絶叫した。
つまり、今繰り広げられている会話は初回では無いのだ。
と、この言い方は差別的なものではなく、あくまでも自身とかけ離れたものとしての視点であって、あくまでも物語とか遠い異国とか近場であれば隣国とか、もっと近場であれば過去にあったホントの話とか関わり合わない自国の貴族とか。
あくまでも自身と確実に一線を引いたものてまある。
そう、あくまでも。
それが自分自身に降り掛かってこようとは、知ってた神のなんて罪深いものだ。
言ってはなんだが不敬だろうが、ノアンにとっては万死に値する。
そのくらい怒っている。
でも大差をつけて怒っているのは神を呪う事よりも……。
「ノアン。はっきり言おう、俺は白いのは嫌だ」
「僕もはっきり言う。黒いのは嫌だ」
「何故黒」
「白と言えば黒だろう。それとも赤か。赤か」
「何故赤」
「赤と言えばお祝いとして白色と最強のコンビ色じゃないか」
「お祝いなのか」
「誰がお祝いだ。……しかし黒か。黒い結婚か……腹黒そうだとか曰く有り気そうだとか犯罪感が半端ないなぁ」
「黒色は悼みとしての白色と最強コンビだろうが」
「確かに死んでるな」
ノアンがシーヴァルトの言葉に頷いた。
「どっちもどれでも嫌な事は間違いない」
「黒も赤も駄目ならいっそ違う色にしてみたらどうだ。そうだな、やはりここはピンク色とか」
「ピンク?桃色とでも言いたいのか!」
「新婚なんたから別にいいだろう?」
「やめろ、ゾッとする」
ノアンがふるふると自身を抱き締めて首を横に振る。
「この凶行を桃色に例えるとか有り得ん」
「新婚だからな」
「お前は前向きでなくて、もっと嫌がれ」
もう何度目かのしかめっ面でノアンはシーヴァルトを睨み付けた。
「桃色は桃色でも、あの誰だか分からないが不埒者の指により押されて黒ずんだ場所だろう」
「ノアン。私怨がこもっている」
「当たり前だ。愛しい僕の大桃は愚かな家族によって汚されたのだ」
「すぐ上の兄だったのだろう?」
「報復済みだ。問題無い。いや、それよりも桃色は絶対無い」
ちなみにこの大桃を巡る件はノアンが幼少期の頃に当たる。取っておきの大桃はシーヴァルトの領地の特産品で、ノアンの生家の伯爵家に譲られたものの中からノアン宛に届けられた一品だった。この時からシーヴァルトは頻繁にノアンの家に遊びに来るようになったので、あれはご挨拶の一品だったのだろう。一目惚れした大桃は妬まれて傍若無人にされた。ノアンは報復しても記憶界隈からこの時の歴史を忘れはしない惨劇だった。問題ない、とは真っ赤な嘘であった。
思えばあの兄は何故だかノアンを羨む傾向にある気がする。両親から贈られた物はことごとく取られたりした。ただ彼はシーヴァルトの生家である公爵家から贈られた物にはあれ以降、手を出さなかった。強請っていないのだが、『こういうのが欲しいなー』と思っていると公爵家から贈り物が届くのだ。多分、『うちの息子がお世話になってます』と献上されるのだろう。奪われる心配のない贈り物はノアンの宝物になった。何でもない日に受け取ったそれらにノアンは歓喜し、シーヴァルトによく抱きついた。なお、今は恥ずかしくてやらないし、兄は学院を卒業して領地に追いやられ……じゃない、領地で一族に監視され……じゃない、領地経営の一端を担うべく修行に励んでいるらしい。
「桃色は色としては口に出しては憚る感じだ」
「何を警戒している」
「とにかく無い」
「では紫色ではどうだ」
「何故紫色」
今度はノアンがシーヴァルトに問い掛けた。
何なのその選択。
「ノアン、紫色芋が大好物だろう」
「理由はそれか」
笑いたくなったが笑ってはいけない。ノアンが口元をきりりと引き締めた。
「紫栗とか紫かぼちゃとか」
ぷっと吹き出してしまい、慌てて顔を引き締めた。でも、若干口元が締まり切っていない。残念だがここは目を瞑ろう。
「紫色もない」
「何故だ」
「…………お前、わざと言ってるだろう」
「何を」
ノアンの深いオーシャングリーンの瞳が頭一つ分高いシーヴァルトを見上げ、射抜く。
美形で有名な伯爵家当主と可憐な伯爵家令嬢だった母との間に、両親の良いとこ取りをして生まれてきたノアンの容貌は女顔めいていて、美形だが可愛いっぽくて可憐なのである。良いとこかは不明だが体毛も薄い。実は本人はこれをコンプレックスとして気にしている。
「紫色と言って何を連想する?」
「ノアンの大好物の芋栗かぼちゃ。で作った菓子類」
ノアンが頷く。脱線が予想されたが、ここも致し方無い。
「紫でそれを連想するとは、ちょっと不安なんだが……。お菓子達に罪は無い。早く食べたい三色モンブランの大ツリーケーキと三色ミルフィーユのビアジョッキデザート」
目を閉じて片手を顎に当て、ノアンは記憶の淵に沈み込んだ。
三色モンブランの大ツリーケーキとは紫の芋栗かぼちゃをペーストにして樹に見立てて作った巨大ケーキである。色味が違う紫色をグラデーションにして層を重ね、中にホイップクリームとスポンジケーキが段々で入っている。
三色ミルフィーユのビアジョッキデザートとは、またまた芋栗かぼちゃをペーストにしたものをガラスの器の中にパイやスポンジケーキにホイップクリームや粒つぶにして食感を変えたものを地層の如くしていく、見た目にも楽しい一品である。
どちらも公爵家の領地の特産品から出来たもので、ノアンはこれらの収穫期にシーヴァルトの家に遊びに行くのが楽しみだった。本来はもっと小さく上品な食べ物だったのだが、ノアンの為に公爵家の料理人が巨大でも品良く見えるように工夫をこらしたらしかった。
ちなみに公爵本家には王都の邸宅からの移転門から直通である。
「紫色と言えば…」
ノアンは迷った。口ごもる。
色については解釈が所属する国によって分かれるのである。そしてノアンが口ごもったのは、とある国の解釈の一つについて知ってしまったからだ。こちらの国では貴色の一つであるから、ノアンからみて凶行以外の何物でも無い事でも、シーヴァルトからしたら違うかも知れないと思い至ったからだ。何故そう思ってしまったかと言えば前述のシーヴァルトの発言からになる。
『ノアン。俺は白いのは嫌だ』
白い結婚は嫌だ。
彼はそう言ったのだ。
何を言ってるのかと、ふざけた事を口にするなと初回で絶叫した。
つまり、今繰り広げられている会話は初回では無いのだ。
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