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(01) 事の起こり。これも婚約破棄とか言うのでしょうか?
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皆さんは生まれる前の記憶ってあるだろうか?
稀に、そういう人がいるよね?胎児だった頃とか。もっと前、前世の記憶とか。
じゃなくて。
俺はその前段階の記憶を持っている。
神様の作業ミス。究極の凡ミス。
消し忘れ。
生まれる前の出生先についての面談で、神曰く、本来なら担当が説明のみで良いだけのはずだったんだけど、緊急事態が発生して責任者たる自分自ら面談をする運びになったとの事。
いや、知りませんけど。
と思ったけど席が設けられて座らされた。ちなみに座り心地は悪くない。
神様は座った執務室らしき空間に置かれた実務用机で溜め息ばかり吐いている。机に肘を付き、組んだ指に額をくっつけて重苦しい空気を背負っていた。
何だろう。神様背景が黒い。絶望色が漂っている。
で?緊急事態とは何ぞや?
ご丁寧にもお茶が出され、俺はそれを飲む。
ああ、なんて美味い。
お茶の味知ってる俺って何。
多分、神様が飲んでる物と同じ物らしいから、先入観。うん。
して?緊急事態とは何ぞや。
「あの」
俺に話し掛けられて神様はびくっと身を震わせた。こちらから声を掛けるのが不敬だとか忘れていた。
怯えている。
「あの、俺が神様に呼ばれた理由って何ですか。緊急事態って何の事やら」
「そそそそそそーなんです。緊急事態であああ」
その狼狽えぶりに、もう無言になる。
取り急ぎ席は設けたものの、神様はいろいろ覚悟が決まって無かったらしい。
いいんですけど?まだ生まれる先も決まってないし。
取り敢えず、もっかい茶を飲んでみた。冷めてる、でも美味しい。
神様は冷め切ったお茶を一気飲みして、ぷはーっと息をついた。飲み方が酒。とても高級茶の飲み方でない。荒ぶっている。ちなみに酒と言った俺、謎。
「お待たせしてすみません。心の準備が整わず」
「いえ」
「本来であれば生まれ先ミーティングの席では候補から選んで貰って成立した時点で準備して頂くというのが定番ルートなんです。ですが、あなたの場合はそれがなく、すでに決まっていた出生先の説明をして、それで終りなはずでした」
「はい質問」
「はい何でしょう」
神様だろうが臆せず挙手をした。
「という事は今、定番ルートとやらではないんですね?」
「あなたには定番ルートはない設定です」
「不公平ではないですか。他の人にはあって、何故俺には無いのでしょう」
「それはあなたが"決められた運命の人"だったからです」
「"決められた運命"の人って何でしょう」
「その使命の為だけに世界に望まれて生まれる事が決まっていた存在と言いますか」
つまり選択権なし、な。
「なら他の人の話、しなければ良かったのに」
「はっ!ごもっとも。ご指摘有難う。で、本題なのですが」
神様が秘書らしき存在にお茶のお代わりを所望した。
「世界に望まれたあなたには対になるはずの存在がおります。いや、おりました。あなたは、その対の為だけに世界が産み出した存在なのです」
という事は。その存在ありきの俺って事で。
「ここでイレギュラーが発生しまして」
神様が苦悶の表情を浮かべた。
「その者から辞退の申し出がありまして、受理される事と相成りました」
「え?出来るんですか、だって世界が」
「そうです。その者は世界が望んだ者。その者だけしか成し得ない使命があるのです」
俺は頷いた。
「その者は生まれる時にいつも対になる存在がおりました。その者が生まれるのは世界の想定内で、世界の均衡が崩れる未来予想表に基づく時期でした。ところが今から五百年前にある者が起こした事件で出張せざるを得なくなりまして、そのまま、その時代に居着く事になりまして」
「あれ?対になる存在ってやつは?」
「.........誠に言いにくい事なんですが、その時代に生きていた対だった方に一目惚れしてしまい......」
押しかけ夫になりました。もう、いそいそと過去に生まれ直して転生済みでして。
「え?時系列的におかしくないですか。だって、その時代の対には、その時代の対たる伴侶だった対がいるはずでしょう」
「いますね」
「許されるんですか、それ」
「すでに亡くなった後でしてね。言ってみれば未亡人みたいな」
「でも今の対って俺なんでしょう?だったらそっちに行くはずないんじゃないですか」
「通常であれば、それが正しい道です」
「どういう事ですか」
「事の起こりは未亡人さんが来世、それ以降の転生の拒否を強く願い受理されいた事から始まります。あの男はもう金輪際ご免だと」
それを押し付けられそうになってたのか知らなかった。一体何をしたのだろうか?
「強く強くつよーく願った際に、たまたま私の出張してた時に代理でいた者が、よく精査もせず簡単に受理しちゃいまして。取り消しもきかないんで、仕方無いんで、世界が産み出したのがあなたでした」
「と言う事は」
「未亡人さんはその者と縁を切ったのです」
斬れ味超抜群!断面美麗!すぱっと爽快!な縁切りが実現しましたー。
「いいんですか、それ!」
「だってもう、どうもなりません。世界がその願いを否としなかったし。最終的な所は世界が意思なので」
「神様は」
「世界の意思の管理者といいますか、そんなものなので。意思に抵触しない範囲で好き勝手しております。あ、これ神様業務秘なので」
「ええと、なら本来であれば俺の対が縁のない未亡人さんとは関わるはずがなかったと」
「そうです」
「どうしてそんな事に」
「出張するに当たってですね?この魔族は殺しちゃダメですよ、と未亡人さんの画像を見せた訳で」
「必要無いと思いますけど」
「あるんです。ええ、何でか魔族に転生してまして、ええもう。あなた方の生きる時代は魔族は殲滅されるのが当たり前の存在になるのですが、未亡人さんの時代は違います。誰かれ構わずではなくて、まして、唯一を殺してしまったなら世界を救いに行ったのに世界を滅ぼしかねません。なので、こいつ殺しちゃダメですと教えた訳です」
ここで神様はフッと自嘲の笑みを浮かべた。ムダに格好いい。
「そしたらあの野郎、いえあいつ。画像見て一目惚れしたらしく。出張するならアレをよこせと言ってきまして」
俺は黙って聞いている。
「いやいやアレはダメですよ、貴方とは縁のない方ですよ、貴方には貴方の唯一がちゃんといますので勘弁して下さいねと言ったんですが」
「ですが」
「じゃあ行かない。そんな剣で魔王を斬る刺すだけならお前がやれ、とゴネました」
ゴネました、が何だか子供みたいに聴こえる。え、魔王?
「俺の対って」
「勇者です。あれ?言ってませんでしたっけ?」
「ません」
「勇者しか聖剣を扱う資格がないんですよね。勇者候補も扱えなくはないです。ただし魔王は仕留める事は出来ません。何故なら真の覚醒というプロセスを踏んだ者しか出来ない、お一人様限定作業なのだから」
「その時代の勇者は」
「いなかったんですよ。候補は何名かおりましたが、全員真の覚醒までは至りませんでした。で、彼にお願いした訳でして。そしたらこんな事に。今にして思えば、これが良くなかった。画像見て、がっつりやられたようです。縁が無くなっていたのに、魂の奥底では忘れていなかったんでしょうかね」
黒髪と黒紫の瞳の綺麗な可愛めよりの美貌の魔族らしい。俺は見せて貰えなかった。
「こちらも譲ってばっかりも癪だったので、事実突き付けつつ反撃を。いつの時間軸に移動しようとも、お前が望むものはお前の前世のものだから、移動しても手に入らないと。元々、縁が切れているのだから、お前が望んでも手に入らないのだと告げてやりました」
はっはー、ざまー見やがれ。
心の声が聴こえる。
「そしたら野郎、なら、そいつ、ああ前世の自分ですね、がいなくなった後でいいとか抜かしまして。未亡人さん、長生きな魔族だったんですね」
なんて言うか、こう。
「そもそも縁を切りたいと思ったのは自分の所為でないのに、何故自分の所から無くなるのか納得行かん!と反発を。モメまして、縁が無いなら作れ!出来ないのか、無能!とまで。もう、あんな人間初めて」
なんと。勇者によるパワハラが。
さめざめと泣く....泣かなかったけど、心中いかばかりか。神様がまた、出されていたけど飲まず、冷め切ったお茶をぐびーっと飲み干した。
「過去には無理なんです。未来だって、もう糸は紡がれて織られています。無理なのは確定後の世界だからです。勇者が時間軸を移動するのも予定外で各部署忙しいのに。その上、未亡人の所に自分の糸を繋げろとか。仕方無いんで、こっそり繋げてやりました。ただし、通常よりか細く、結び目も安定しない出来ないものを。意地悪でなく、本当に過去には無理なんです。色も付いていません。何とかしたかったら自分でしないとなりません。後々、ペナルティが付くかも知れないが、と話しました。そしたら彼は笑顔でいい、と。報われないかも知れないとも言いました。でも笑顔でした」
なので心からのお詫びを。
俺は世界に望まれたはずなのに、世界が望んだ対には望まれなかった。
瞬間、俺の心の中は無風となった。
彼の心に躊躇はない。一目惚れした前世の対を自分も手に入れる事しか頭にない。本来の対たる自分の事など塵ほども考えていない、思わない。
いっそ清々しい。
「あ、今なんか映像が」
「それが勇者の姿です」
仕立ての良い細身で三つ揃えのスーツに身を包んだ金髪の男が敵を剣で一閃させて薙ぎ払っていた。剣を露払いする姿も格好いい。顔色一つ変わらない。淡々と殲滅させてゆく。あれが自分の対だったなんて信じられない。
そうだ。過去形だった。
「前置きが大変長くなってしまい、すみません。それで、あなたには」
「いえ、大丈夫です」
もう気を遣うとか、頭が回らなくて考えられなくて、神様の言葉を折った。
「大丈夫です」
何だろう。恋愛する前から失恋した感じがする。プラスで勇者の為だけに産まれてきたはずの俺は、一度も省みられる事無く置き去りにされた。現世に生まれる前だけど結婚してる様なものだったのに。なら許嫁?婚約者?婚約破棄っていうのかな?よく分からないけれど。
「大丈夫です。独りでも俺は生きて行けます。多分」
稀に、そういう人がいるよね?胎児だった頃とか。もっと前、前世の記憶とか。
じゃなくて。
俺はその前段階の記憶を持っている。
神様の作業ミス。究極の凡ミス。
消し忘れ。
生まれる前の出生先についての面談で、神曰く、本来なら担当が説明のみで良いだけのはずだったんだけど、緊急事態が発生して責任者たる自分自ら面談をする運びになったとの事。
いや、知りませんけど。
と思ったけど席が設けられて座らされた。ちなみに座り心地は悪くない。
神様は座った執務室らしき空間に置かれた実務用机で溜め息ばかり吐いている。机に肘を付き、組んだ指に額をくっつけて重苦しい空気を背負っていた。
何だろう。神様背景が黒い。絶望色が漂っている。
で?緊急事態とは何ぞや?
ご丁寧にもお茶が出され、俺はそれを飲む。
ああ、なんて美味い。
お茶の味知ってる俺って何。
多分、神様が飲んでる物と同じ物らしいから、先入観。うん。
して?緊急事態とは何ぞや。
「あの」
俺に話し掛けられて神様はびくっと身を震わせた。こちらから声を掛けるのが不敬だとか忘れていた。
怯えている。
「あの、俺が神様に呼ばれた理由って何ですか。緊急事態って何の事やら」
「そそそそそそーなんです。緊急事態であああ」
その狼狽えぶりに、もう無言になる。
取り急ぎ席は設けたものの、神様はいろいろ覚悟が決まって無かったらしい。
いいんですけど?まだ生まれる先も決まってないし。
取り敢えず、もっかい茶を飲んでみた。冷めてる、でも美味しい。
神様は冷め切ったお茶を一気飲みして、ぷはーっと息をついた。飲み方が酒。とても高級茶の飲み方でない。荒ぶっている。ちなみに酒と言った俺、謎。
「お待たせしてすみません。心の準備が整わず」
「いえ」
「本来であれば生まれ先ミーティングの席では候補から選んで貰って成立した時点で準備して頂くというのが定番ルートなんです。ですが、あなたの場合はそれがなく、すでに決まっていた出生先の説明をして、それで終りなはずでした」
「はい質問」
「はい何でしょう」
神様だろうが臆せず挙手をした。
「という事は今、定番ルートとやらではないんですね?」
「あなたには定番ルートはない設定です」
「不公平ではないですか。他の人にはあって、何故俺には無いのでしょう」
「それはあなたが"決められた運命の人"だったからです」
「"決められた運命"の人って何でしょう」
「その使命の為だけに世界に望まれて生まれる事が決まっていた存在と言いますか」
つまり選択権なし、な。
「なら他の人の話、しなければ良かったのに」
「はっ!ごもっとも。ご指摘有難う。で、本題なのですが」
神様が秘書らしき存在にお茶のお代わりを所望した。
「世界に望まれたあなたには対になるはずの存在がおります。いや、おりました。あなたは、その対の為だけに世界が産み出した存在なのです」
という事は。その存在ありきの俺って事で。
「ここでイレギュラーが発生しまして」
神様が苦悶の表情を浮かべた。
「その者から辞退の申し出がありまして、受理される事と相成りました」
「え?出来るんですか、だって世界が」
「そうです。その者は世界が望んだ者。その者だけしか成し得ない使命があるのです」
俺は頷いた。
「その者は生まれる時にいつも対になる存在がおりました。その者が生まれるのは世界の想定内で、世界の均衡が崩れる未来予想表に基づく時期でした。ところが今から五百年前にある者が起こした事件で出張せざるを得なくなりまして、そのまま、その時代に居着く事になりまして」
「あれ?対になる存在ってやつは?」
「.........誠に言いにくい事なんですが、その時代に生きていた対だった方に一目惚れしてしまい......」
押しかけ夫になりました。もう、いそいそと過去に生まれ直して転生済みでして。
「え?時系列的におかしくないですか。だって、その時代の対には、その時代の対たる伴侶だった対がいるはずでしょう」
「いますね」
「許されるんですか、それ」
「すでに亡くなった後でしてね。言ってみれば未亡人みたいな」
「でも今の対って俺なんでしょう?だったらそっちに行くはずないんじゃないですか」
「通常であれば、それが正しい道です」
「どういう事ですか」
「事の起こりは未亡人さんが来世、それ以降の転生の拒否を強く願い受理されいた事から始まります。あの男はもう金輪際ご免だと」
それを押し付けられそうになってたのか知らなかった。一体何をしたのだろうか?
「強く強くつよーく願った際に、たまたま私の出張してた時に代理でいた者が、よく精査もせず簡単に受理しちゃいまして。取り消しもきかないんで、仕方無いんで、世界が産み出したのがあなたでした」
「と言う事は」
「未亡人さんはその者と縁を切ったのです」
斬れ味超抜群!断面美麗!すぱっと爽快!な縁切りが実現しましたー。
「いいんですか、それ!」
「だってもう、どうもなりません。世界がその願いを否としなかったし。最終的な所は世界が意思なので」
「神様は」
「世界の意思の管理者といいますか、そんなものなので。意思に抵触しない範囲で好き勝手しております。あ、これ神様業務秘なので」
「ええと、なら本来であれば俺の対が縁のない未亡人さんとは関わるはずがなかったと」
「そうです」
「どうしてそんな事に」
「出張するに当たってですね?この魔族は殺しちゃダメですよ、と未亡人さんの画像を見せた訳で」
「必要無いと思いますけど」
「あるんです。ええ、何でか魔族に転生してまして、ええもう。あなた方の生きる時代は魔族は殲滅されるのが当たり前の存在になるのですが、未亡人さんの時代は違います。誰かれ構わずではなくて、まして、唯一を殺してしまったなら世界を救いに行ったのに世界を滅ぼしかねません。なので、こいつ殺しちゃダメですと教えた訳です」
ここで神様はフッと自嘲の笑みを浮かべた。ムダに格好いい。
「そしたらあの野郎、いえあいつ。画像見て一目惚れしたらしく。出張するならアレをよこせと言ってきまして」
俺は黙って聞いている。
「いやいやアレはダメですよ、貴方とは縁のない方ですよ、貴方には貴方の唯一がちゃんといますので勘弁して下さいねと言ったんですが」
「ですが」
「じゃあ行かない。そんな剣で魔王を斬る刺すだけならお前がやれ、とゴネました」
ゴネました、が何だか子供みたいに聴こえる。え、魔王?
「俺の対って」
「勇者です。あれ?言ってませんでしたっけ?」
「ません」
「勇者しか聖剣を扱う資格がないんですよね。勇者候補も扱えなくはないです。ただし魔王は仕留める事は出来ません。何故なら真の覚醒というプロセスを踏んだ者しか出来ない、お一人様限定作業なのだから」
「その時代の勇者は」
「いなかったんですよ。候補は何名かおりましたが、全員真の覚醒までは至りませんでした。で、彼にお願いした訳でして。そしたらこんな事に。今にして思えば、これが良くなかった。画像見て、がっつりやられたようです。縁が無くなっていたのに、魂の奥底では忘れていなかったんでしょうかね」
黒髪と黒紫の瞳の綺麗な可愛めよりの美貌の魔族らしい。俺は見せて貰えなかった。
「こちらも譲ってばっかりも癪だったので、事実突き付けつつ反撃を。いつの時間軸に移動しようとも、お前が望むものはお前の前世のものだから、移動しても手に入らないと。元々、縁が切れているのだから、お前が望んでも手に入らないのだと告げてやりました」
はっはー、ざまー見やがれ。
心の声が聴こえる。
「そしたら野郎、なら、そいつ、ああ前世の自分ですね、がいなくなった後でいいとか抜かしまして。未亡人さん、長生きな魔族だったんですね」
なんて言うか、こう。
「そもそも縁を切りたいと思ったのは自分の所為でないのに、何故自分の所から無くなるのか納得行かん!と反発を。モメまして、縁が無いなら作れ!出来ないのか、無能!とまで。もう、あんな人間初めて」
なんと。勇者によるパワハラが。
さめざめと泣く....泣かなかったけど、心中いかばかりか。神様がまた、出されていたけど飲まず、冷め切ったお茶をぐびーっと飲み干した。
「過去には無理なんです。未来だって、もう糸は紡がれて織られています。無理なのは確定後の世界だからです。勇者が時間軸を移動するのも予定外で各部署忙しいのに。その上、未亡人の所に自分の糸を繋げろとか。仕方無いんで、こっそり繋げてやりました。ただし、通常よりか細く、結び目も安定しない出来ないものを。意地悪でなく、本当に過去には無理なんです。色も付いていません。何とかしたかったら自分でしないとなりません。後々、ペナルティが付くかも知れないが、と話しました。そしたら彼は笑顔でいい、と。報われないかも知れないとも言いました。でも笑顔でした」
なので心からのお詫びを。
俺は世界に望まれたはずなのに、世界が望んだ対には望まれなかった。
瞬間、俺の心の中は無風となった。
彼の心に躊躇はない。一目惚れした前世の対を自分も手に入れる事しか頭にない。本来の対たる自分の事など塵ほども考えていない、思わない。
いっそ清々しい。
「あ、今なんか映像が」
「それが勇者の姿です」
仕立ての良い細身で三つ揃えのスーツに身を包んだ金髪の男が敵を剣で一閃させて薙ぎ払っていた。剣を露払いする姿も格好いい。顔色一つ変わらない。淡々と殲滅させてゆく。あれが自分の対だったなんて信じられない。
そうだ。過去形だった。
「前置きが大変長くなってしまい、すみません。それで、あなたには」
「いえ、大丈夫です」
もう気を遣うとか、頭が回らなくて考えられなくて、神様の言葉を折った。
「大丈夫です」
何だろう。恋愛する前から失恋した感じがする。プラスで勇者の為だけに産まれてきたはずの俺は、一度も省みられる事無く置き去りにされた。現世に生まれる前だけど結婚してる様なものだったのに。なら許嫁?婚約者?婚約破棄っていうのかな?よく分からないけれど。
「大丈夫です。独りでも俺は生きて行けます。多分」
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