売られた少女とヤクザの息子

ぬん

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 僕が松田組に売られて、2日が経った。


「菊乃ちゃんには、二つお仕事してもらう事にしたわ」


 ついに、僕の借金の返済方法が決まったらしい。
組長は、バカな僕に分かりやすいように言葉を噛み砕いて仕事内容を伝えてきた。


「1つは、この前のパーティーみたいに『しっぽ』になって『要らんもんの処分』をすること。
2つ目は、春詠のボディーガードや」
「若、何か危ないの?」
「危ないで~。あの子は周り中が敵だらけや。敵はどこからやってくるか分からん。
せやからもし、春詠の敵が現れたら、この間みたいに戦って春詠を守ってほしいねや」


 『しっぽ』になる事は、パパとママと一緒にいた時によくやっていたから慣れているし、若のボディーガードだってこの前のようにするだけでいいのなら頑張れそうだ。
 きっと、組長も僕の事をよく考えて、僕にできる仕事を決めてくれたのだろう。まあ、子どもの僕にできる事は限られているから、当然の事と言えば当然の事か。


「で、報酬やねんけど……おい」
「へい」


 組長は後ろで立っていた高明おじさんを顎で使うと、高明おじさんは大きな紙袋を机の上に置いた。そして高明おじさんは、中に入っている現金の束を丁寧に一つ一つ並べ始めた。
 次から次へと中から出てくる札束に、僕は目を丸くした。札束どころか、一万円札を見るのも人生で幾度目かだ。こんな大金が並ぶ光景なんて当然、生まれて初めての出来事だ。


「これから菊乃ちゃんには1人処分する毎に100万払おうと思う」
「え?」
「で、これは昨日26人分仕事してくれたから、その分の報酬や」


 1人につき100万円……僕の借金は確か1億6000万円。


「あと134人。気張って借金返しや」


 あと134人って……多いのかな?少ないのかな?
自分の借金返済までの尺度すら測れない僕に、134という数字はどれくらいの壁なのだろうか。








「ええんですか?  頭」


 菊乃が部屋を出た後、高明は恐る恐る組長に尋ねた。


「処分はともかく、あんな頭がイカれたちっこいガキに若の護衛任せてしもて。何より、若は護衛付くこと自体、ええ顔してまへんで」
「相変わらずアホやのう。そんなんやからいつまでも出世出来へんねん。俺が何の為に2日掛けたか分からんか」
「すんません」
「調べさしたんや。菊乃個人の経歴を。
そしたら面白いもんがホイホイと出てきよったわ」


——調査して分かった事は全部で3つ。

 1つは、菊乃のあの脅威の暴走性。
あれはあの子の爺さんが生み出したもんやった。

 ほんでその爺さんが2つ目の鍵。
菊乃の爺さんは、昔、よう世間を騒がしよった連続殺人犯シリアルキラー張本人やったらしい。
 とはいえ、彼は一度たりともムショにぶち込まれた事がない。謎の連続殺人に当時警察が厳戒態勢やったにも関わらず、捕まらへんかった大きな理由が、爺さん自体が現役警察官やったかららしい。

 そんな爺さんが犯罪も仕事も引退して山ん中で隠居生活をしとった時、仕事を言い訳に娘から菊乃を押し付けられた時期が続いたそうや。
 話し相手もおらへん暇を持て余した爺さんは、単なる菊乃に自分の技を継承させたんや。

 連続殺人犯シリアルキラー直伝の英才教育が、あの子の強さの秘密や。


「3つ目は?」
「あの子な、どうも生まれつき軽度の障害があるみたいでな。空気読むんが苦手やったり、言われた事通りしか動けへんみたいやわ。ルールや命令に固辞したり、集中力が偶に偏ったりする事があるらしい」
「はあ……」
「言葉の意味を従順に受け止める子が、あの親の言い付けをずっと守ってきたんやで?」


 まとめたら、祖父が育てた攻撃性と、毒親から植え付けられた防御力自己犠牲心
 菊乃は矛にも盾にもなる、最強の武器や。


「これ程までに都合のええボディーガードはどこ探してもおらん」


——捨てるか使うか、全部春詠が決められる


「……」


組長の悪魔のような笑みと思考に、高明は一瞬体が引けた。


「菊乃の教育係は御笠がええやろ。チャカの使い方も教えたれ」








「そういうことになりましたので」
「いらんわ、そんなもん」


 僕は今日、昨日若のボディーガードになる事を若に伝えに来た。
 とはいえ、付き添いで来てくれた僕の教育係の御笠  大和がほとんど若に報告してくれたのだが……1秒足らずで若に『いらない』と言われてしまった。


「なんでわざわざ俺がアホ猿を引き取らなあかんねん。
知っとる? そいつ、野郎の血がついた食いモンに平然と手ェ出す程のアホやねんで?」
「まあそう言わずに。
アホでもいざとなった時の肉壁にはなりますんで」


困った御笠先生はなんとか若を説得しようとするが、若は耳を傾けようとはしなかった。


「おいアホガキ。
ええか? お前は俺の半径1キロ以内に入ってくんな」
「なんで?」
「お前のアホが俺にうつったらどうする?」


アホって移るの?


「そんなこと言っても、組長のご命令ですので。
菊乃の護衛は主に学校帰りや外出時で、それも若の後を歩くだけですから。若の学校生活や、ご学友関係への影響は与えないかと」
「付いてきたら殺す」
「高倉の護衛よりマシでしょう? 見た目が如何にも堅気ではない彼とは違い、菊乃は子どもです。不自然ではないでしょう?」
「いや、どう見たって不自然やろ?!
小学生に迎えに来られる中坊がどこに居んねん!!」
「とにかく、これは決定事項ですので諦めて下さい」
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