戦国皇女の縁談話

ぬん

文字の大きさ
上 下
16 / 56

西国のおもてなし

しおりを挟む




「我が国のもてなしを東国の使者殿にお楽しみいただければ幸いでございます。それでは、何かありましたら何なりとお申し付けください」


そう言い残し、側近達は部屋を後にした。蒼波と二人だけとなった空間で、香月は漸く本音を漏らした。


「コレやっば……」


彼女が指す『コレ』とは、目の前に用意された食事の量だ。二個分の円卓の上に並べられている量と種類は、どう見ても二人分以上のものが用意されていた。


「これ何人前だよ。王の食事の時でもこんな種類ねーぞ。これあっしら二人で完食できるかな?」
「いける!!」


あまりの多さに絶句する香月をよそに、蒼波は嬉しそうに激しく頷いた。まあ齢 18の食べ盛りの男なら普段もの足りていない分、これは至極天国であろう。


「蒼波、大半は任せた」


念の為毒が入っていないか吟味しながら食すも、料理はどれも美味で、毒は愚か、使われている材料は何を取っても逸品だった。


「しっかし、妙だなぁ」
はひが何が?」


口いっぱいに頬張り、リス食いしたまま蒼波は聞き返した。


「ただの使者にこんな良いもてなしをする利益が西国にあるか?」
はひはに確かに
「あっしらに何か期待でもしてるのか?」
はほへば例えば?」
「さあ? でも強いて挙げるなら……借金?」
ひゃっきん借金?」
「強いて言えばね。無いだろうが。西国の財政が傾いているなんて考えられんし……まーでも、長年の財政安定が原因で贅沢し過ぎたって言うんなら話は別だけどさ」
「ふーん」
(あと別に……)


香月は、食事をしながら眼球だけで部屋の端を見渡した。


(蒼波は食事に夢中で気付いてないが、見張りとは別に何人かが陰からこちらを見ているな)







「お部屋はこちらになります」


食事の後は温泉にそれぞれ入れられ、脱衣所で用意されていた部屋着の襦袢に着替えた後、二人は今日の宿泊部屋へ案内された。
案内された部屋は、小洒落た可愛らしい畳部屋だった。蝋燭や障子にはウサギや花などの愛らしい絵が描かれており、客人をもてなそうとする西国人の暖かさが感じられる。女性客なら、誰でも気に入りそうな優しい雰囲気だ。


「何かあれば外に人がおりますのでお呼び下さい。それでは、おやすみなさいませ」


部屋は頼んで二人同室にしてもらった。同室にしたのは慣れない土地であるため、もし何かあった時に互いの状況が確認できなくなって行動しにくくなるのを防ぐ為だ。


「蒼波ー、明日朝早いから、ちゃんと起きろよ」
「目覚まし、よろしく」
「右頬一発でいいか?」
「鳩尾の方が目立たない」
「了解」


腑に落ちない所はいくつかあったが、明日の帰国に向けて二人は早く寝床についた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【R18】スパダリ幼馴染みは溺愛ストーカー

湊未来
恋愛
大学生の安城美咲には忘れたい人がいる……… 年の離れた幼馴染みと三年ぶりに再会して回り出す恋心。 果たして美咲は過保護なスパダリ幼馴染みの魔の手から逃げる事が出来るのか? それとも囚われてしまうのか? 二人の切なくて甘いジレジレの恋…始まり始まり……… R18の話にはタグを付けます。 2020.7.9 話の内容から読者様の受け取り方によりハッピーエンドにならない可能性が出て参りましたのでタグを変更致します。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

つがいの皇帝に溺愛される皇女の至福

ゆきむらさり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

処理中です...