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西国のおもてなし
しおりを挟む「我が国のもてなしを東国の使者殿にお楽しみいただければ幸いでございます。それでは、何かありましたら何なりとお申し付けください」
そう言い残し、側近達は部屋を後にした。蒼波と二人だけとなった空間で、香月は漸く本音を漏らした。
「コレやっば……」
彼女が指す『コレ』とは、目の前に用意された食事の量だ。二個分の円卓の上に並べられている量と種類は、どう見ても二人分以上のものが用意されていた。
「これ何人前だよ。王の食事の時でもこんな種類ねーぞ。これあっしら二人で完食できるかな?」
「いける!!」
あまりの多さに絶句する香月をよそに、蒼波は嬉しそうに激しく頷いた。まあ齢 18の食べ盛りの男なら普段もの足りていない分、これは至極天国であろう。
「蒼波、大半は任せた」
念の為毒が入っていないか吟味しながら食すも、料理はどれも美味で、毒は愚か、使われている材料は何を取っても逸品だった。
「しっかし、妙だなぁ」
「はひが?」
口いっぱいに頬張り、リス食いしたまま蒼波は聞き返した。
「ただの使者にこんな良いもてなしをする利益が西国にあるか?」
「はひはに」
「あっしらに何か期待でもしてるのか?」
「はほへば?」
「さあ? でも強いて挙げるなら……借金?」
「ひゃっきん?」
「強いて言えばね。無いだろうが。西国の財政が傾いているなんて考えられんし……まーでも、長年の財政安定が原因で贅沢し過ぎたって言うんなら話は別だけどさ」
「ふーん」
(あと別に……)
香月は気付かれないように、食事をしながら眼球だけで部屋の端を見渡した。
(蒼波は食事に夢中で気付いてないが、見張りとは別に何人かが陰からこちらを見ているな)
・
・
・
「お部屋はこちらになります」
食事の後は温泉にそれぞれ入れられ、脱衣所で用意されていた部屋着の襦袢に着替えた後、二人は今日の宿泊部屋へ案内された。
案内された部屋は、小洒落た可愛らしい畳部屋だった。蝋燭や障子にはウサギや花などの愛らしい絵が描かれており、客人をもてなそうとする西国人の暖かさが感じられる。女性客なら、誰でも気に入りそうな優しい雰囲気だ。
「何かあれば外に人がおりますのでお呼び下さい。それでは、おやすみなさいませ」
部屋は頼んで二人同室にしてもらった。同室にしたのは慣れない土地であるため、もし何かあった時に互いの状況が確認できなくなって行動しにくくなるのを防ぐ為だ。
「蒼波ー、明日朝早いから、ちゃんと起きろよ」
「目覚まし、よろしく」
「右頬一発でいいか?」
「鳩尾の方が目立たない」
「了解」
腑に落ちない所はいくつかあったが、明日の帰国に向けて二人は早く寝床についた。
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