なんかファンタジーせかいのふわっとしたやつ

7

雨である。
しかも大雨。
雨が降らないと文句を言ったのが懐かしいほどに雨が降っている。


「隣村が大雨でヤバいらしい」


「こんな大雨が続いてたら大変だもんね」


村人総出で移住するとか。
宛てはあるのだろうか。


「失敗するだろうか」


「するんじゃないかな」


老人や女子供は大変だろう。
その決断を取らざるを得ないまで追い詰められたってことか。


「ここまで来るつもりだろうか」


「ここに来れるわけないよ。外周はとても危険なんだ」


そうでもないと思うがとても危険な場所らしい。
ここは外周の中でも比較的安全に違いない。


「中央を目指す若い衆もいるとか」


「労働力が更に減るんだ。ほとんどが死ぬだろうね」


俺もそう思う。
魔物も出るだろうし、家財だって運ばなけばならない。


「命を賭けた戦いだな」


「人生に一度くらいはあるだろうね」


命を賭けているのだから一度でも多いと思う。
そんな機会、できれば一生出会いたくない。


「移住と言えば左右の家が中央に移るんだとさ」


「こんな大雨の中を？」


普通は正気か疑うところである。
さっきまで話していたことも相俟って。


「竜籠で行くんだとよ」


「竜か。それは凄いね」


竜というのは魔物の上位種らしい。
外周でも安全、といえるわけではないが徒歩や馬車よりもマシなのだとか。


「遠い世界だな」


「そうだね。龍なら簡単に見つけられるけどね」


龍、それは魔物の頂点。
魔力流に住んでいる最強の生物らしい。


「竜とは違うのか」


「竜は魔物が進化した姿で龍は龍として生まれた存在だからね。規格が違うよ」


竜がさらに頑張って進化すれば龍に届くかもしれないらしい。
薬草とポーションの関係みたいなものだろうか。


「ふうん」


「興味ないって顔だね。まあ、いいんじゃないかな」


イコが嬉しそうに微笑んでいる。
ずっと一緒にいるが未だにイコの感情の機微がわからない。


「そんなものだろうか」


「どうしたの？」


いいや、なんでもないとイコに伝える。
母も俺に女心を理解するのは一生かかっても無理かもしれないと言っていたし無理なのだろう。


「今日のご飯はどうするか」


「バカ勇者が干し肉を持ってちゃったからね」


保存の効くモノを持って行くとかホントにやってくれる。
食べ物と思い出を同時に奪うとか悪魔の権化としか思えない。


「不敬罪とかじゃないのか」


「誰も気にしないよ。みんなそう思ってるもん」


まあ、家の物を勝手に持って行ったからな。
わざわざ危険らしい外周まで来て家探しとは勇者もツワモノだ。


「すまんな」


「君に謝って欲しくて言ったんじゃないんだけどな」


困ったように笑っている。
俺が謝ればイコはすぐに文句を言わなくなる。


「まあ、薬草の汁はたんまりあるから」


「それはどうでもよかったり。なんで赤くなってるの？」


俺は文句を言っている姿よりも笑っている姿を見たいのだ。
ちょっと恥ずかしいけれど。


「なんでもない」


「そう？」