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四巻未掲載部分 決戦

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空を飛べるようになったリトネは、世界を飛び回っていた。
「あはは、面白いな。俺はまさに超人だ」
人間の姿で、雲の間を飛び回る。
地上にはロスタニカ王国の存在するローラシア大陸以外にも、未開の大陸が存在した。
「うーん。やっぱりここは地球とは違うなぁ」
あちこち駆け巡って、地球との違いを実感する。未開の大陸には人間がおらず、巨大な虫の楽園だったり恐竜などの大型爬虫類、あるいは大きいイカやタコのような軟体生物が地上を闊歩していたりしていた。
知的生物が作ったとおぼしき建造物や町の痕跡もあったが、すべて野生生物に蹂躙されている。
「もしかしたら開拓できるかとも思ったけど、大変な手間がかかりそうだな」
ざっと見て回ったリトネは苦笑する。未知の大陸の生物たちはローラシア大陸の魔物たち以上にパワフルに暴れまわっていた。
どうやら魔物たちと違って自我も知性もない、完全な動物であるらしい。
「よし。次はさらに上空に上がってみよう」
リトネは『雲竜拳』をさらに極めるため、大地から吹き上がる『気』流に乗って、雲を越え、高く高く駆け上がっていく。雲が存在する対流圏を越え、成層圏まで達しようとしていた。
上へ上へとあがっていくリトネの目に、巨大な塊が見えてくる。
「え?あれってもしかして……」
さらに近づくと、昔懐かしいアダムスキー型をしたUFOのような形をした人工衛星だった。
ただしサイズは馬鹿でかく、巨大な城ほどもある。
「これって、もしかして天空城ラビュターか?」
前世のキチクゲームで出てくる、勇者が魔王の城に出向く前に訪れるといわれている神の城がそこにあった。
「……面白いな。ちょっと寄ってみようか」
好奇心に惹かれたリトネは、入り口らしき扉の前に立つ。
「ええと、勇者はここに魔皇帝ダークカイザーの魂を封印するために必要なの魔法のデータを求めて来るんだよな。究極封印魔法『六星辰』だったっけ。地・火・風・水・光そして闇の守護石で六芒星を作って、魂を封印するんだけど……」
ゲームの知識を思い出しながら独り言をつぶやく。
「キチクゲームじゃ天空の馬車ペガサスウィングに乗ってきた勇者には、資格ありとして勝手に開いてくれるんだけど……俺はどうなんだろう?」
人間の姿に戻って超巨大な扉に立つと、突然金色の光がリトネを照らした。
「……ホウモンシャアリ……ショウカイチュウ……」
機械的な声が響いてくる。
リトネがおとなしく待っていると、再び声がした。
「ブンセキシュウリョウ。テンウンジンDNA17%フイッチ。ニュウジョウシカクナシ」
その言葉とと同時に光が消えて、機械音も収まった。
相変わらず堅く閉ざされた扉の前に放置され、リトネは憮然とする。
「やっぱり、俺は勇者じゃないから開かないのかな。いや、まてよ……変身」
リトネは黒いドラゴンの姿になって、再び扉の前にたつ。
「サイブンセキ……ドラゴンマスター、カクニン。ニュウジョウヲキョカスル」
次の瞬間、大きな音とともに扉は開かれるのだった


「なあ。魔族ってなんなんだ?そもそもなんで魔皇帝ダークカイザーは俺たち人間に戦いを仕掛けてくるんだ?同じ魔族でもメフィストさんはおだやかな人なのに……」
それを聞いたベルダンティーは、悲しそうな表情になる。
「それを聞くと魔族と戦いづらくなるかもしれまんが、よろしいですか?」
「構わない。いい機会だから、全部教えくれ」
リトネの問いに頷き、女神ベルダンティーはこの世界の創生秘話を話し始めた。
この世界は、数万年ほど前にこの世界に『神』が現れたことから始まるという。
「神が現れた?どこから?」
「こことは別の世界……すでに地球が滅んだ異世界からです」
ベルダンティーの目には、涙が浮かんでいた。
「つまり、ここは地球のパラレルワールドなんだ」
「ええ。ただ地質学的には地球の二億年前に相当しますね。逆に神々がもといた世界は、あなた方の世界の数百万年後にあたります」
この世界から少し離れたその異世界では、人類はリトネが元いた世界よりも数世代も進化を重ねていたといわれる。
文明は発達し、精神と肉体についても解明され、人は精神だけでも存在することができた。肉体が老化すれば新しい自分を作り出し、精神をインストールすることで若返ることができる。
また物質とエネルギーの関係も理解されており、世の理を精神の力でねじまげる事も可能だったという。まさしく不老不死を含めたすべての願いをかなえることができる、理想世界であった。
「へえ……まるで神様みたいだな」
「おっしゃるとおり、人類の進化は究極を遂げていたといえるでしょう」
しかし、その理想世界も一瞬で滅びの日を迎える。はるか宇宙の果てから飛来してきた彗星が地球にぶつかり、木っ端微塵に砕いてしまったのである。
地球ごとなくなってしまったので、さすがの彼らも存在し続けることが難しくなった。困った人々は、異世界へと避難することを試みる。
彼ら神々は、魂を機械にインストールして保存すると、各々新天地へと旅たつことになった、
「わたしたちは、平行世界(パラレルワールド)の存在も知っておりました。わたしたちの地球がなくなったので、平行世界への地球へ移住したのです」
その計画は成功し、いくつかの異世界へと神々は渡る。しかし、そこでひどく困惑することになった。
「困惑?」
「ええ。別世界の人類とは進化の度合いが違うため、われわれ神々は彼らの肉体に転生できなかったのです」
そこで初めて彼らの間では、意見の相違が生まれた。
とある異世界へと転移したものは、神として人類の上に立ち、指導を行うことで自分たちが宿れるレベルまで進化するのをゆっくり待つことにした。
またある者は、一から自分たちが転生するのに都合のいい生物を創りあげることにした。
「私たちのグループは。遅れている人類が進化するまで、数百万年も待つことを良しとしませんでした。そこで、何もない未発達の地球が存在する異世界に渡り、一からすべてを作ることにしたのです」
その意見に賛成する神々は、天空城ラビュッターに乗ってこの世界を訪れたという。この世界の地球は生物こそ存在しなかったが、暖かい気候と豊かな水を持ち、生物を育てるのに適していた。
「私たちはさっそく生命の種を捲き、一世代ごとに進化するように調整しました。その計画はうまくいき、わずか数千年でこの惑星に命が満ち溢れ、恐竜が闊歩する時代にまで到達できたのです。しかし、そこで思いもよらぬ事態が起こりました」
「それは?」
「恐竜たちの中に、知恵を持つものが生まれてしまったのです」
彼ら竜族をはじめとする『知恵ある獣たち』は独自の文明を発達させ、瞬く間に神々が持っていた世界に干渉する力-『魔力』に目覚めたという。さらに一部の固体は大地そのものに宿る魔力である『気』の操作ができるまでになり、固体で天変地異をもたらすほどの力を得てしまった。
「あわてた我らは、彼らの繁殖力を落とすという方法で制御したのです」
幸い竜族には神々や人間のような貪欲さがなく、種族が一定数維持できれば満足という本能も持ち合わせていたので制御は可能だった。彼らの本能に人間型生物への親愛を組み込むと、神々はさらに自らが転生できる生物を生み出そうと進化に介入する。
一万年前、彼らの努力のかいあって、ついに転生できるほど神々に近い姿をした生物-魔族が生まれるのだった。
「魔族が生まれて、喜んだ私たちはさっそく彼らに転生しようとしたのですが……そこでも思わぬ計算違いが起こりました」
「計算違い?」
「はい……彼ら魔族の進化のスピードは早く……その魂は私たち神々に匹敵するレベルに到達してしまったのです。その結果、神々の魂を受け入れることを拒否するようになりました」
創造物に反逆された神々は、激怒して強引に魔族の肉体を奪おうとする。
「今から考えれば、我ら神々は愚かな行いをしてしまいました。いかにわれわれに作られた種族とはいえ、彼らは独立した魂を持った生物だったのに。我々に肉体をのっとられそうになった魔族は、魔王ルシフィルの元、我らに反旗を翻しました」
ベルダンティーはため息をつく。
「それに対抗して、我々は人工生命体『天使』を作り出して魔族に対抗しました」
こうして、神々と魔族の肉体を掛けた戦いが始まる。
長い長い戦いの果て、ついに魔族は天使を打ち破り、天空城ラビュターに侵入してきた。
神々は彼らにおびえ、ラビュターのコンピューターの中に潜むことでやりすごしたという。
「ここにいたって、神々はついに決断しました。『魔族』は自らを越えかねない危険な生物であり、失敗作だと。最終手段として魔族に致命的な害をもたらす不妊ウイルスを感染させ、絶滅させることにしたのです」
意気揚々とラビュターから地上に戻った魔族は、寿命により死んでいく。
神々の創世はふたたびやり直されることになったのだった。

「神々は自らを超えかねない生物を作り出したことを後悔しました。そこで、今度つくる生物は、あえて力の劣る劣化した存在を創ることにしたのです」
新しい生物は、神々の魂を受け入れることのみを優先させる『器』として調整され、『自然の精』の制御方法を本能として脳にインストールさせなかった。
また試行錯誤が繰り返され、さまざまな亜人族が生み出された果てに、やっと「人間」が生まれたという。「人間」を創り出すと同時に神々も、自らの『魂』を人間の器に収まる程度に退化させた。
「こうして、やっと神々は肉体を手に入れることができるようになりました。後は魂の輪廻転生を管理するプログラム『ベルダンティー』をラビュターに残し、人間へと転生していったのです」
「管理プログラムだって。だとすると、アンタは……」
「ええ。女神と名乗りましたが、正確に言えば元になった女神の思考をコピーしたまがい物。ある程度の自我はありますが、人間を守るという役割をこなすだけのプログラムですわ」
女神ベルダンティーはさびしそうに笑った。
「こうして、数千年が過ぎました。神々の器『人間』は順調に数を増やして繁栄していきました。私は仲間の『天使』とともに天空城ラビュターからその様子を見守り、彼らを守ってきました。すべてうまくいっていると思っていたのですが、400年前、思いもしなかったことが起きました。転生制御装置『リンネ」がバグを起こしたのです」
「バグ?」
「ええ……魔族の魂は二度と輪廻転生できないようにブロックしていたのですが、研究用に捕らえていた一人の魔族の女の魂を、間違って『天使』にインスト-ルさせてしまったのです」
生まれ変わった魔族の女は『堕天使リリス」となり、天空城から逃げ出す。
そうして、大地に眠っていた魔族の王子ダークカイザーを目覚めさせたのだった。
リリスから神々が『人間』となって繁栄していることを知ったダークカイザーは激怒し、よみがえった仲間と共に人間を滅ぼすべく世界中で暴れまわったという。
魔皇帝『ダークカイザー』とその妻リリス改め『カイザーリン』は世界を席巻する。魔皇帝の影響によって各地の魔物は狂わさせ、無差別に人を襲うようになり、人間の数は半減した。
「この事態に竜族は、人間と魔族のどちらにも加担せず中立を守りました。魔族は竜族の生息領域を侵さなかったことと、すでに神々の魂が薄まり退化していた人間には、竜族を従わせるほどの力がなかったからです」
この事態を憂慮したベルダンティーは、万が一人間という種が絶滅の危機を迎えたときのために神々が残していた緊急用プログラムを作動させる。
「天空城ラビュターから精神に干渉するプログラムを世界中の人間に発信し、神々の魂を色濃く残す者に魔力の覚醒を促したのです」
「なるほど……それが貴族の祖先か」
リトネはなぜ人間の中に魔力もちとそうでない者がいるのかわかった。
「そうすることにより、魔力に目覚めた貴族が魔族と対抗できるようになりました。しかし魔皇帝ダークカイザーのもつ力は強大です。魔力を得たとはいえ、ただの人間には対抗できません。そこで私は、人間の中から神々に匹敵する力を持つ者『勇者』を生み出すことにしました」
「それが勇者アルテミック?」
「ええ。天使の一人に竜王の卵を盗み出させ、一人の平凡な少年に届けたのです。彼は生まれた子供を愛し育てました。やがてその親から認められ、人間を神へと進化させる薬『竜の血』を与えられた少年は、見事に六魔公を倒し、魔皇妃カイザーリンを捕らえて天空城に幽閉し、魔皇帝ダークカイザーを大地に封印したのです」
そうして世界には平和が戻り、ベルダンティーは通常の管理業務に戻った。

フェザードラゴンは、マッハを超えるスピードでデスマウンテンに向かっていた。
「急がねえと……奴は絶対に復活して真っ先に俺たち竜族を狙ってくる」
夢で見た、竜族にとって最悪の未来を思い浮かべる。それは魔皇帝率いる魔族がフジ山を急襲し、竜族の血肉を貪って強大な力を得る未来だった。
その未来では彼と仲間のドラゴンは善戦するも、途中参戦した闇の魔公マルコキアスによってリトネが捕らえられ、ダークカイザーがリトネの肉体を乗っ取ってしまう。
そして強大化した闇の力で竜族を全滅さてしまい、守護者を失った生き物たちは闇の王リトネカイザーによって征服されてしまうのだった。。
「坊主は本当にやっかいな奴だぜ。奴の動きひとつで世界の運命がきまっちまう」
フェザードラゴンは苦笑する。だからこそ、彼はマルコキアスに勝てるようにリトネを徹底的に鍛えた上、念のためにと魔皇帝との戦場に向かわせなかったのだった。
デスマウンテンに向かう途中で、フジ山に到着する。
「……よかった。まだここには魔族は来てねえみたいだな」
フェザーは山の『気』を探ってほっとする。フジ山にはダークカイザーの復活を感じ取って、支配されることを恐怖した各種族の魔物や亜人族たちが大挙して避難してきていたが、魔族の気配はなかった。
「……ベーコンレタス。ミルキー。そして名前も付けられなかったタマゴたち。達者でな」
その中に愛しい妻と子供の『気』を感じ取って、フェザーはつぶやく。マザーは卵を産んだ影響で大幅に力を使い果たして動けず、ミルキーは闇の波動に怯えて母親に擦り寄っていた。
そのままフジ山を去ろうとするフェザーの前に、複数の影が現れる。
「お館様!我らも戦います!」
そういってフェザーの周りに集まってきたのは、竜族のオスたちだった。誰もが覚悟を決めた目をしている。
しかし、フェザーは怒りの声を挙げて彼らを蹴散らした。
「馬鹿野郎。命を粗末にするんじゃねえ!」
フェザーの全身から緑色の稲妻が発せられ、彼らを打つ。
「ぐぇっ……い、痛い……な、なぜ!」
オスドラゴンたちは、体が麻痺して動けなくなった。
「ふん。せっかく最上種である竜族に生まれながら、怠けてダラダラ生きていたせいですっかり弱くなっちまったお前らに何が出来る」
「ですが!」
抗議の声を挙げるオスたちにもう一発雷を落として、黙らせる。
「今の手前らは、もと人間であるリトネの足元にもおよばぬ体たらくだ。一緒に来たって邪魔なだけだ。逆に魔族の餌食になってしまい、奴らに力を与えてしまう」
「……」
そういわれて、オスたちは沈黙してしまう。たしかに何の修行もせずに長い竜生を謳歌してきた彼らには、魔族に対抗できそうになかった。
「……てめえらはメスを守れ。悔しいと思ったら、今後は怠けずに修行を続けるんだな」
フェザーはそういうと、デスマウンテンの方向に飛んでいってしまう。
「お館様は……死ぬ気だ。たった一人で魔族の大群を食い止めようとしている。俺たちのために」
残されたオスたちは、フェザーの心を思って涙を流すのだった。

ロスタニカ王国王都 ロイヤルホープ
王都では、宰相イーグル・シャイロックが政務に励んでいた。
「ふむ。無駄な出費を抑え、手広く商売をしている大商人から営業税を取るようにして税収も伸びた。ようやく一息つけたのぅ」
財務官僚が提出した予算案を見て、イーグルは満足そうに笑う。予算は『入を計って出を抑える』の原則に従い、宮廷費や軍事費など現在の平和な時代にはあまり必要とされない予算を削り、商人たちからも広く税を徴収するというやり方で黒字化に成功していた。
他にも低利の国債を発行して国と取引している貴族や商人に引き取らせるなど財政健全化の手を打っている。
その効果が出て、財政にはかなりの余裕が見込まれていた。
「しかし、よろしいのでしょうか?。その、騎士たちを魔物の最前線に押しやってしまって」
財務官僚がおそるそる聞いてくる。以前国に借金を押し付けた大騎士たちは、俸給取りの騎士に格下げされた後、危険な魔物が生息する領域から町や村を守る最前線に配置されていた。
「かまわぬ。奴らは今まで騎士を名乗りながら、危険な仕事は兵士たちに押し付けて、王都で書類を弄ぶだけの事務仕事をして怠けておった。騎士としての本分を果たしてもらおう」
そうイーグルが邪悪に笑ったとき、いきなり地面が揺れる。
「な、なんだ?地震か?」
「た、助けてくれ~」
官僚たちが揺れる地面に浮き足立つのを、イーグルは一喝して沈めた。
「落ち着くがよい!!!!!。こんなものはただの自然現象じゃ!」
日本からリトネが召喚した書物を読んで、ある程度地震のシステムを理解していたイーグルは平然としている。
「し、しかし、この地面が揺れるなど只事ではありません。記録によると、魔皇帝ダークカイザーが神話の時代からの永い眠りから覚めた400年前にも、地震があったとのことです。もしや……」
「何を馬鹿なことを……」
イーグルがそういったとき、いきなり窓の外が暗くなる。
あわてて外をみたイーグルの目に映ったものは、一片の光も見えない暗い空だった。
「ば、ばかな!さっきまで晴れていて、蒼い月や星が見えていたはずだ。これはいったい……」
さらに目を凝らしてみると、遠くデスマウンテンの方角でとてつもない闇の魔力が立ち上っているのが感じられた。
「まさか!……本当に魔皇帝が復活してしまったのか?」
イーグルはどんどん不安になってくる。
「デスマウンテンを警備している騎士隊に使者を送れ!何が起こっているのか確かめさせるのじゃ」
イーグルの命令により、夜中にもかかわらず早馬が王都から放たれるのだった。

傷ついたフェザードラゴンは、体を癒しながら、自分の行動の結果、これから起こる未来のことを夢で見ていた。
「どうだ。俺は魔族を全滅させて、お前たちを救ってやったぞ!」
フジ山にある竜の村では、フェザードラゴンを称える祭りが竜の一族によってとり行われていた。
「お館様、俺たちを救ってくれて、ありがとうございます!」
「お館様、かっこいい!」
若いオスとメスから感謝される。
「……ふん。まあ、これで以前世界を滅ぼしかけた罪は帳消しじゃな。よくやったぞ」
マザードラゴンは冷たい口調ながら、夫を褒める。
「……きゅい!」
そしてミルキーは、フェザードラゴンの頭に載って機嫌よく鳴いていた。
「なに?お父さん、みんなを救ってくれてありがとうって。はっはっは。ようやく俺のことをパパとして認めてくれたのか。よしよし」
フェザードラゴンはデレデレとした顔になって、頭の上のミルキーを撫でていた。
そんな彼らを、少し離れたところでリトネとヒロインたちが見守っている。
「うう……ミルキーをフェザー様に取られたみたいで、ちょっと複雑な気分だ」
「……しょうがない。フェザー様は世界を救ってくれたんだから」
「そうだよ。もともと、フェザー様がミルキーちゃんのお父さんなんだし」
「あっはっは。旦那にはあたいたちがいるから、いいじゃないか」
ヒロインたちはそういいながら、リトネを慰めるのだった。
そんな情けないリトネをみて、フェザーはますますいい気分になる。
「ふふっ。まあ、てめえも頑張ったぜ。これからも油断せず修行して、俺の弟子として世界とムスメを守れ」
「はい。フェザー様」
リトネは感謝して、フェザードラゴンの前に膝をつく。
そのとき、天空から一筋の清らかな光が差し込み、美しい女神が降りてきた。
「……よくぞ世界を救ってくださいました。フェザードラゴン様、リトネ様」
「ふん。ベルダンティーか。神を名乗りながら、世界を見守っているだけのお前が、何しに来たんだ?」
フェザーは若干不機嫌そうにつぶやく。彼は以前から、この戦いを引き起こす原因となった神々に対して不信感をもっていた。
ベルダンティーはそんな彼に微笑むと、静かな声で話し始める。
『世界を救ったあなたに、お礼としてある真実をお伝えしに参りました」
「ほう、真実とは?」
「あなたの弟子である、「竜者リトネ」の正体についてです」
女神ベルダンティーは、いたずらっぽくつぶやいた。
「お、俺の正体ですか?」
「くっだらねえ。そいつはちょっと根性があるだけのただの人間さ」
動揺するリトネに、ニヤッと笑って酒を呑むフェザー。
しかし、次の言葉でフェザーは呑んでいた酒を噴き出した。
「リトネの前々世は、風の魔公に食べられて死んだ、あなたの最初に生まれた子供です」
「ぶへっ!ごほっ」
動揺して咳き込むフェザーの背中を、マザードラゴンがやさしくさすってあげた。
「……なるほどのう。なぜお主がわざわざこの世界に呼ばれたのか、よくわかったぞ。リトネはわが子のなれの果てというわけか」
「きゅい!」
マザーは面白そうに笑い、ミルキーはうれしそうに一声鳴く。
「そ、そんな。前々世のことなんか、俺は覚えていませんよ?」
「当然じゃ。そもそもお主に前世の記憶があることもおかしいのじゃからな。だが、よくワラワの元に帰ってきた。愛しい息子よ」
マザーは慈悲深い母親の顔になって、優しくリトネを抱きしめる。
「きゅい!」
ミルキーも嬉しそうにリトネに飛びついた。
「み、みとめねえぞ!坊主が俺の息子、リゾットの生まれかわりだなんて!え、なんだって?お兄ちゃん、大好きって?ううっ。ベーコンレタスぅ。ムスメぇぇ!俺のところにかえってこーーーーいーーー!」
妻と娘をリトネに取られた、フェザーの情けない悲鳴が響き渡る。
「リトネ君が、死んだあの子の生まれ変わりだって?」
「われらの王子だ!リトネ王子、万歳!」
竜の村に人々の歓声が響くのだった。


「これが俺の未来か。ふふ、悪くねぇ」
フェザードラゴンが苦笑を浮かべたとき、突然その夢が断ち切られる。
「な、なんだ?」
フェザーが目を開けると、ちっぽけな光と風が自分の体を切り刻んでいた。






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