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1巻
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そして若い二人は身分違いの恋をしてしまい、当主であるイーグル・シャイロック金爵から逃げるように、ズークの故郷であるロズウィル村に帰ってきた。
そんな彼を迎えたのは、温かい言葉ではなく、故郷の期待を裏切った罵声であった。
「あはは、粋がって村を出ていったのに、尻尾巻いて帰ってきやがった!」
「俺は畑仕事で一生を終える人間じゃないって大口叩いて、このざまか!」
「手に入れたのは奴隷女一匹! たいした成果だな」
子供の頃は自分の子分だった村人たちが、馬鹿にしてあざ笑ってくる。
昔いじめていた奴がいつの間にか親のあとを継いで村長になっていたことも災いし、ズークに対する風当たりは強く、ほとんど村八分状態になってしまった。
そして今では、実の息子にさえ怯える有様である。
「くそっ!」
つばを吐きながらふらつく。そのときいきなりあたりが暗くなった。
「なんだ?」
思わず空を見上げた彼の目に、黒いマントを着た女の姿が映った。
「だ、誰だてめえは!」
腰が引ける彼に、その男装の麗人は優しく問いかける。
「失礼。今宵の出会いに感謝を。私は魔皇妃カイザーリン。以後お見知りおきを」
そして宙に浮いたまま、馬鹿丁寧に礼をする女。しかし、その顔にはあざけるような笑みが浮かんでいた。宙を浮く女を見て、ズークは恐怖におののく。
「ま、まさか貴様は! 魔族?」
逃げようと思っても、その美女の赤い目に見つめられると動けなくなる。
カイザーリンは硬直するズークに、優しく問いかけた。
「リトネという少年を探しているのだが、知っているかな?」
「リトネは俺の息子だ……」
赤い目に射抜かれ、夢うつつとなったズークは正直に答えてしまう。
カイザーリンが冷たく笑って告げる。
「それなら都合がいい。私は我が夫を助けたいのだ。だから君に協力してほしい。我が夫の予知によると、君の息子リトネ君は、将来我が魔族にとってきわめて重要な役割を果たす宿命を背負った人物なのだ」
「重要な宿命?」
「そう、彼は、勇者に対抗できる人物……くくく」
カイザーリンの赤い目が、ズークの心を狂わせていく。
「実の父である君に、彼を墜としてほしい……」
カイザーリンはそう言うと、優しくズークに口付けをするのだった。
† リトネの家
自分の寝床になっている屋根裏部屋で、リトネは一人で愚痴っていた。
「やれやれ……転生して以来ずっと苦労しっぱなしだなぁ」
女神ベルダンティーの話に乗ってこの世界に来てみたものの、生まれ変わったのは悪役として名高い、「ヒロイン奪い野郎」ことリトネ。最初はこんな人物に転生させられて腹が立った。が、よく考えたら、勇者を牽制する人物としては最適であるとも言えた。
しかし、貧乏暮らしと父親による毎日の暴力には、ほとほと辟易していた。
「まあいいか。俺は全部知っているんだ。そのうち大貴族である祖父さんが迎えに来るんだから。親父はクソ野郎だから放っておくとしても、母さんとリンは一緒に連れていってやろう」
そう思って毎日をがんばっている。さらに、リトネはその先のことも計画していた。
「俺はヒロインたちを奴隷になんかしないし、勇者に勇者の剣を取りに行かせたりもしない。魔王の封印を解いてしまうなんてまっぴらだ。幸いヒロインの一人、リンは懐いてくれた。他のヒロインたちとも出会ったあとは親切にしてやって、徐々に仲良くなっていけばいいだろう」
一人でハーレムを妄想してにやけるリトネ。
彼のこれからの計画は、そもそも勇者に剣を抜かせないこと。万一魔族が復活してしまった場合は、勇者にとっとと伝説の武器でもアイテムでも押し付けて、ぼっち状態で魔皇帝を倒してもらうエンディングに誘導することだった。
「あともう少しの辛抱だろう。キチクゲームの物語が始まる十五歳の時点では、リトネは金持ち貴族のお坊ちゃんだった。母さんには祖父さんに会いたくない何か後ろ暗い事情があるんだろうけど、なんとか説得して祖父さんと和解してもらおう」
そんな見通しを立てて、リトネは安心していた。
ちなみにリトネの祖父、イーグル・シャイロックは、国で一番の金持ちで財務大臣。おまけに貴族の爵位の中でもっとも権力がある金爵である。
ゲームで魔公を次々と倒して強くなっていった勇者が、敵対するリトネに簡単に手を出せなかったのも、シャイロックの影響力が強かったからであった。
「えっと……今十二歳だから、遅くてもあと三年でこの生活ともおさらばだな」
リトネがそう考えたとき、村の中心のほうから騒ぎが聞こえてきた。
「キャーーーー! グールが出たわ!!」
「逃げろ!! 食われるぞ!」
ただならぬ叫び声に、急に冷静になるリトネ。
「何かあったのか? もしかして魔物の襲撃? やばいな! 魔物は魔力持ちを特に好む。もしリンが傷つけられたら!」
リトネは家から出て、一目散に村長の家に向かって走っていった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ。……ドコだ……」
村で一番大きな建物の前で、村人たちを襲いながら怪物が叫んでいる。真っ白い顔をして白目を剥きよだれを垂らす、その魔物の正体は、変わり果てたズークであった。
「ばかな! こんなところにグールが出るなんて! ランクCの魔物だぞ!」
「くそっ。ズークの奴、グールになりやがった! どこまで人に迷惑かけやがるんだ!」
逃げ惑う村人たち。グールと化したズークは以前よりはるかに強化されており、村人を見ると手当たり次第に襲って殴り倒していった。
「逃げろ!」
村人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
グールとは魔物の呪いが込められた元人間で、瘴気を吹き込まれることでグールになると言われていた。力が強く、訓練を受けた騎士が三人がかりでやっと互角に戦えるレベル、ランクCの魔物である。
つまり、どうあがいても村人たちだけでは勝てる相手ではなかった。
「きゃっ!」
家を破壊しながら暴れ回るグールに捕まってしまったのは、慌てて逃げ出してきたリンである。
それを目撃したリトネが急いで杖を振る。
「リン! 召喚!」
すると、グールの腕の中からリンの姿が消えて、リトネの側に現れた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「リン、逃げろ! こいつは並の魔物じゃない!」
リンを後ろにかばい、リトネは杖を構えてグールと相対した。グールはよだれを垂らし、憎悪に燃えた目でリトネを見つめている。
(落ち着け……生まれてから今日まで、さんざん訓練を重ねてきたんだ。俺に与えられた「召喚」という力を使いこなすために。今こそ、修行の成果を見せるときだ!)
初めての実戦である。緊張する心を制御しながら、リトネは杖を高く掲げて、周囲の気配を探る。そして目当てのものをすぐに見つけた。
「召喚! ありったけのスライムよ! ここに来い!」
目の前のグールに向けて、召喚魔法を使う。
次の瞬間、何百匹ものスライムが現れ、グールの体を覆った。
「グオォォォォォォォォ」
スライムにたかられたグールは滅茶苦茶に暴れるが、体に取り付いたスライムは簡単には離れてくれない。
そしていっせいに消化液を出され、グールの体は溶け始めた。
「ガァァァァァ……リトネ……」
ボロボロになったグールが、力尽きて倒れる。
同時に、リトネも魔力を使い果たし、へなへなとその場にへたり込んだ。
「はあ……やった。倒した……」
相手を完全に倒したと思ってほっとするリトネ。
「お兄ちゃん! すごい! かっこいい!」
後ろにいたリンが歓声を上げる。
「へへ……そうか?」
リトネは後ろを向くと、照れくさそうに頭を掻いた。
しかし次の瞬間、倒れていたグールが、ばね仕掛けの人形のように跳ね起きた。
「グオッ! リトネ!」
最後の力で、リトネの首筋めがけて飛びかかる。
「キャッ!」
リンが悲鳴を上げる。が、すべての魔力を使い果たしていたリトネに動く力は残っていない。為すすべもなく噛み付かれようとした瞬間、リトネとグールの間に、何者かの影が割り込んだ。
「あなた! やめて!」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
グールの勢いは止まらない。割り込んだ影に噛み付く。
振り向いたリトネは悲鳴を上げた。自分の身代わりとなってグールに噛み付かれたのは、母ジョセだった。
「母さん!」
「あなた……一緒に逝きましょう……」
ジョセはグールとなったズークに噛み付かれながら、優しく微笑む。そして、その手に持っていた小さな杖を振って告げる。
「召喚」
ジョセの杖から現れたのは、小さな短剣である。柄は黄金でできており、キラキラと輝く刃には何かの紋章が入っていた。
「さようなら……」
消え入りそうな声でそう言うと、ジョセは最後の力を込めて、ズークの首を掻き切った。
ズークは地面に倒れ込む。
ジョセも首から血を流しながら、ズークともつれ合うように倒れた。
「母さん! そんな……」
倒れた両親を見て、リトネは言葉を失っていた。そしてすぐに駆け寄ると、父親には目もくれず、母親を抱き起こした。
「母さん……なぜ……」
「親が子供をかばうのは、当たり前……でしょ?」
ジョセは苦しそうに息をしながら、無理に笑みを浮かべた。
「母さん……嫌だ! 死ぬな!」
「残念だけど……もう力が残っていないの。でも、びっくりしちゃった。あなた……自力でここまでの召喚魔法を使えるようになっていたのね」
ジョセはリトネの手を握って微笑む。
「母さんは反対してたけど、もっと魔法を使えるようになりたくて、隠れて特訓していたんだ。ごめんなさい」
「いいのよ……これなら、父上もあなたを認めてくれるかも……この短剣を……」
先ほどジョセが召喚した短剣をリトネに渡す。
「最後のお願いよ。私が死んだら、ベッドの下に……父上への手紙があるわ。それを出して……父上にこの短剣を見せればきっと……」
ジョセのリトネの手を握る力が、どんどん弱くなっていく。
「母さん! 死んだらなんて嫌だ! 一緒に祖父さんのところに行こう!」
「聞き分けがない子……ね。おねがい……します」
「……わかった。そいつを下がらせろ」
突然、後ろから声をかけてきたのは村人たちである。
いつの間にか、リトネの近くに村人が集まっていた。彼らはリトネを無理やりジョセから引き剥がした。
「な、なにをするつもりだ!」
「グールに噛み付かれた者は、グールになる。だから首を切り落とすしかないんだ」
そう言う村人の顔には悲痛な表情が浮かんでいたが、決意は固いようであった。倒れているジョセの前に立つと、大きく斧を振りかぶる。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「やれ!!」
こうして、速やかに処置が行われた。リトネはただ叫び、狂ったように暴れることしかできなかった。
† リトネの家
あれからリトネは暴れ続けた。そのため、仕方なく村人たちによって押さえつけられ、自宅にぶち込まれた。
「……母さん……あんな死に方をするなんて……」
家の中で、リトネは蹲って震えていた。前世の記憶持ちとはいえ、彼にとってジョセはこの世界に産み落としてくれて、今日まで育ててくれた母であった。
心から慕っていたジョセの死を悼んで、ただずっと泣き続ける。
どれくらい泣いていたか、時間の感覚もわからなくなった頃、人の気配を感じてリトネは顔を上げる。
いつの間にか、リンが来て、リトネに寄り添っていた。彼女も涙を流している。
「お兄ちゃん。お母さんのこと……ごめんなさい。私のせいで……」
リンもリトネに負けないくらいジョセの死を悲しんでいた。その死の原因は自分にあると感じていたのである。
リンを見つめていると、リトネの心が落ち着いてきた。
「……リンのせいじゃないさ。俺はもう大丈夫だよ」
無理に強がってみせるリトネ。そうして泣いているリンの頭を撫でて、彼はベッドの下を探る。ジョセの遺言の手紙を探すためである。
ジョセの最後の言葉通り、そこには祖父イーグル・シャイロックへの手紙があった。
親愛なるお父様。あなたの意思に背いて、平民の男と駆け落ちした私など、今さら娘と名乗る資格はないのかもしれません。
一時の激情に流され、貴族の義務に従わず逃げ出した私は、世間のことを何も知らない愚か者でした。
しかし、生まれた子供に罪はありません。
どうか、我が子リトネをお引き立ていただけますように、お願い申し上げます。
ジョセフィーヌ・シャイロック
さんざん迷ったのか、ところどころ文が乱れていた。また、涙のあとがあった。
(……俺を祖父さんのところに預ける気だったのか。せめて俺だけでも貴族に戻そうとしたんだな)
手紙からは、若気の至りで家を飛び出したことの後悔、そしてせめて息子だけでも平民の苦しい生活から救い出そうという愛情を感じた。
その手紙を読んで、リトネはだんだん冷静になっていった。
(でも、やはり愛だけじゃだめだな。幸せな生活はちゃんとした経済基盤あってのことだ。それがないから親父は堕落し、母さんは苦しんだ。貧乏なままじゃ、世界どころかリン一人ですら救えない)
そう考えて、リトネは隣にいるリンを見つめる。妹も同然の愛しいリン。彼女は泣きながらリトネに寄り添っていた。
(俺は絶対、親父のようにはならない。自分の力になるものならなんでも受け入れてやる。キチクゲームの勇者の敵役で、甘やかされたお金持ちのお坊ちゃんだって? 上等じゃないか。俺は祖父さんの元に行って、『貴族のお坊ちゃん』になる!)
母からもらった短剣を取り出して見つめ、リトネはそう誓うのだった。
そのとき、いきなり家のドアが開かれる。入ってきたのは村長と数人の村人。彼らは全員武器を持ち、怒り狂った顔をしていた。
「この糞餓鬼を捕らえろ!」
村長がそう命令すると、男たちはリトネを殴りつけ、縛り上げて床に転がす。
「お父さん! お兄ちゃんに何するの!? ひどいことはやめて!」
リンが慌てて頼み込むが、村長は冷たかった。
「リン! こいつはお前の兄ちゃんなんかじゃない。村人を襲ったグールの息子だ! まったく、昔からこいつの親父のズークは気に入らなかったんだ。ただ強いだけの役立たずが、俺を差し置いて村の代表気取りで都会に行きやがって! それで兵士を首になり帰ってきたと思ったら、よりによってグールになって村人を襲うとはな!」
村長の顔には憎しみが浮かんでいた。リトネを拘束している村人たちも同様である。彼らはズークによって怪我を負わされた者たちだった。
怒り狂う村長に、リトネが尋ねる。
「それで、俺をどうするつもりだ」
縛り上げられているのにもかかわらず、ふてぶてしい態度を取るリトネに気分を害し、村長はますますいきり立つ。
「ふん! 親も気に入らないが、お前はもっと気に入らねえ! どこの馬の骨かも知らない奴隷女の子供の癖に、俺の可愛いリンに手を出しやがって」
村長はさらにリトネを痛めつける。それでもなお、怯むことなくリトネは告げる。
「……こんなことをして、あとで後悔するなよ」
いたたまれなくなったリンが泣いて父親に懇願する。
「やめて! お父さん! お兄ちゃんを離して!」
「だめだ! こいつは奴隷商人に売り飛ばしてやる!」
村長の命令で、リトネは地下牢に連れていかれるのだった。
村の外から遠視の魔法ですべてを見ていたカイザーリンは、にんまりとほくそ笑む。
「ふふふ……うまくいったな。これで奴は人間を信じなくなる。満たされない思いは奴を邪悪へといざない、勇者と敵対し、人間そのものを内部から滅ぼす我らの駒となるのだ」
笑みを浮かべるカイザーリン。
やがて、彼女に強烈な眠気が襲ってきた。
「くっ……もう夜明けか。また眠りにつかねばならぬ」
忌々しげに沈みかけた青い月を見て、カイザーリンはつぶやく。
「魔皇帝様……かならず、魔族を復活させ、世界の支配を……」
高笑いしながら、カイザーリンは消えていった。
もちろんそんなことが起きていようとは知る由もないリトネは、牢の中でじっと考え事をしていた。
そのとき、誰かが地下牢の前にやってくる。
「お兄ちゃん……」
リンはふらふらと入ってくると、冷たい牢の床に座り込んだ。
「ごめん……なさい。あのとき、私が声をかけなければお兄ちゃんのお母さんは死なずに済んだのに。それに、お父さんがこんなことをして……ほんとうに、ごめんなさい! これを持ってきたの」
リトネの前で頭を下げて、取り上げられていた短剣と手紙をリトネに返す。
リトネは優しい笑みを浮かべた。
「……リンのせいじゃないよ。僕が油断したのが悪いんだ」
リトネは牢の鉄格子の間から手を伸ばして、リンの頭を撫でる。
「でも……」
「……僕にもっと力があれば……大切な人を守れたのに。もうこんな失敗を繰り返したりしない。リンは俺が守ってみせる」
リトネは、すでに母親の死から立ち直っていた。
カイザーリンの作戦は成功したように見えたが、二つの点で誤算があったのである。
一つは、リンという彼を愛する存在がいたこと。大切な人がいる限り、どんなにひどい仕打ちを受けてもリトネは人間に絶望したりはしない。
もう一つは、リトネの精神年齢は十二歳の未熟な少年ではないということ。今のリトネは前世の記憶を継承した三十オーバーの大人なのである。
子供ならば絶望したかもしれない。しかし、彼は大人である。どうしてこんな悲劇が起こったのか、その原因が自分の無力さにあることをちゃんと受け止めることができた。
そして、自分が今置かれている状況を冷静な目で見ることもできる。
(やれやれ。ほんとリトネの人生ってハードモードなんだな。子供のときにこんな悲惨な経験してたら、歪んで育つのも無理ないか。でも、これはたぶん祖父さんと出会うフラグなんだな)
未来を知っているリトネは、この状況を客観的に見る余裕もあった。
(大貴族である祖父さんに気に入られるためには、どういう態度を取ればいいかな……)
リトネは狡猾な大人らしく、これからの作戦を練るのだった。
リトネを捕まえた村長が、嬉々として知り合いの奴隷商人と会っている。
「村を騒がせた鼻つまみ者の少年を売りたい」
「……そいつの親の許可は得ているんだろうな?」
いかにも奴隷商人といった、暗い目をした男が慎重に確認する。
「そんなものは必要ない。親はすでに死んでいるからな。その親というのも村を襲った罪人だ!」
村長は憎々しげに、村を襲ったグールの事件を話した。
「親は死んだ罪人で、本人も目障りなごくつぶしなんだ。さっさと連れていってほしい」
「……わかった。とにかく見させてもらおう」
村長と奴隷商人が村の地下牢に行くと、そこでリトネは静かに瞑想していた。彼の体からは、真っ黒い闇の魔力が立ち上っている。
「こいつは……魔力持ちか?」
「そうだ。魔力持ちの奴隷は価値があるんだろ? 高く買い取ってくれ」
そう言いながら物すごく嬉しそうにする村長に対し、奴隷商人は慎重な態度を崩さなかった。万が一奴隷にした人間が貴族につながりがあったりすると、身の破滅だからである。
そんな彼を迎えたのは、温かい言葉ではなく、故郷の期待を裏切った罵声であった。
「あはは、粋がって村を出ていったのに、尻尾巻いて帰ってきやがった!」
「俺は畑仕事で一生を終える人間じゃないって大口叩いて、このざまか!」
「手に入れたのは奴隷女一匹! たいした成果だな」
子供の頃は自分の子分だった村人たちが、馬鹿にしてあざ笑ってくる。
昔いじめていた奴がいつの間にか親のあとを継いで村長になっていたことも災いし、ズークに対する風当たりは強く、ほとんど村八分状態になってしまった。
そして今では、実の息子にさえ怯える有様である。
「くそっ!」
つばを吐きながらふらつく。そのときいきなりあたりが暗くなった。
「なんだ?」
思わず空を見上げた彼の目に、黒いマントを着た女の姿が映った。
「だ、誰だてめえは!」
腰が引ける彼に、その男装の麗人は優しく問いかける。
「失礼。今宵の出会いに感謝を。私は魔皇妃カイザーリン。以後お見知りおきを」
そして宙に浮いたまま、馬鹿丁寧に礼をする女。しかし、その顔にはあざけるような笑みが浮かんでいた。宙を浮く女を見て、ズークは恐怖におののく。
「ま、まさか貴様は! 魔族?」
逃げようと思っても、その美女の赤い目に見つめられると動けなくなる。
カイザーリンは硬直するズークに、優しく問いかけた。
「リトネという少年を探しているのだが、知っているかな?」
「リトネは俺の息子だ……」
赤い目に射抜かれ、夢うつつとなったズークは正直に答えてしまう。
カイザーリンが冷たく笑って告げる。
「それなら都合がいい。私は我が夫を助けたいのだ。だから君に協力してほしい。我が夫の予知によると、君の息子リトネ君は、将来我が魔族にとってきわめて重要な役割を果たす宿命を背負った人物なのだ」
「重要な宿命?」
「そう、彼は、勇者に対抗できる人物……くくく」
カイザーリンの赤い目が、ズークの心を狂わせていく。
「実の父である君に、彼を墜としてほしい……」
カイザーリンはそう言うと、優しくズークに口付けをするのだった。
† リトネの家
自分の寝床になっている屋根裏部屋で、リトネは一人で愚痴っていた。
「やれやれ……転生して以来ずっと苦労しっぱなしだなぁ」
女神ベルダンティーの話に乗ってこの世界に来てみたものの、生まれ変わったのは悪役として名高い、「ヒロイン奪い野郎」ことリトネ。最初はこんな人物に転生させられて腹が立った。が、よく考えたら、勇者を牽制する人物としては最適であるとも言えた。
しかし、貧乏暮らしと父親による毎日の暴力には、ほとほと辟易していた。
「まあいいか。俺は全部知っているんだ。そのうち大貴族である祖父さんが迎えに来るんだから。親父はクソ野郎だから放っておくとしても、母さんとリンは一緒に連れていってやろう」
そう思って毎日をがんばっている。さらに、リトネはその先のことも計画していた。
「俺はヒロインたちを奴隷になんかしないし、勇者に勇者の剣を取りに行かせたりもしない。魔王の封印を解いてしまうなんてまっぴらだ。幸いヒロインの一人、リンは懐いてくれた。他のヒロインたちとも出会ったあとは親切にしてやって、徐々に仲良くなっていけばいいだろう」
一人でハーレムを妄想してにやけるリトネ。
彼のこれからの計画は、そもそも勇者に剣を抜かせないこと。万一魔族が復活してしまった場合は、勇者にとっとと伝説の武器でもアイテムでも押し付けて、ぼっち状態で魔皇帝を倒してもらうエンディングに誘導することだった。
「あともう少しの辛抱だろう。キチクゲームの物語が始まる十五歳の時点では、リトネは金持ち貴族のお坊ちゃんだった。母さんには祖父さんに会いたくない何か後ろ暗い事情があるんだろうけど、なんとか説得して祖父さんと和解してもらおう」
そんな見通しを立てて、リトネは安心していた。
ちなみにリトネの祖父、イーグル・シャイロックは、国で一番の金持ちで財務大臣。おまけに貴族の爵位の中でもっとも権力がある金爵である。
ゲームで魔公を次々と倒して強くなっていった勇者が、敵対するリトネに簡単に手を出せなかったのも、シャイロックの影響力が強かったからであった。
「えっと……今十二歳だから、遅くてもあと三年でこの生活ともおさらばだな」
リトネがそう考えたとき、村の中心のほうから騒ぎが聞こえてきた。
「キャーーーー! グールが出たわ!!」
「逃げろ!! 食われるぞ!」
ただならぬ叫び声に、急に冷静になるリトネ。
「何かあったのか? もしかして魔物の襲撃? やばいな! 魔物は魔力持ちを特に好む。もしリンが傷つけられたら!」
リトネは家から出て、一目散に村長の家に向かって走っていった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ。……ドコだ……」
村で一番大きな建物の前で、村人たちを襲いながら怪物が叫んでいる。真っ白い顔をして白目を剥きよだれを垂らす、その魔物の正体は、変わり果てたズークであった。
「ばかな! こんなところにグールが出るなんて! ランクCの魔物だぞ!」
「くそっ。ズークの奴、グールになりやがった! どこまで人に迷惑かけやがるんだ!」
逃げ惑う村人たち。グールと化したズークは以前よりはるかに強化されており、村人を見ると手当たり次第に襲って殴り倒していった。
「逃げろ!」
村人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
グールとは魔物の呪いが込められた元人間で、瘴気を吹き込まれることでグールになると言われていた。力が強く、訓練を受けた騎士が三人がかりでやっと互角に戦えるレベル、ランクCの魔物である。
つまり、どうあがいても村人たちだけでは勝てる相手ではなかった。
「きゃっ!」
家を破壊しながら暴れ回るグールに捕まってしまったのは、慌てて逃げ出してきたリンである。
それを目撃したリトネが急いで杖を振る。
「リン! 召喚!」
すると、グールの腕の中からリンの姿が消えて、リトネの側に現れた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「リン、逃げろ! こいつは並の魔物じゃない!」
リンを後ろにかばい、リトネは杖を構えてグールと相対した。グールはよだれを垂らし、憎悪に燃えた目でリトネを見つめている。
(落ち着け……生まれてから今日まで、さんざん訓練を重ねてきたんだ。俺に与えられた「召喚」という力を使いこなすために。今こそ、修行の成果を見せるときだ!)
初めての実戦である。緊張する心を制御しながら、リトネは杖を高く掲げて、周囲の気配を探る。そして目当てのものをすぐに見つけた。
「召喚! ありったけのスライムよ! ここに来い!」
目の前のグールに向けて、召喚魔法を使う。
次の瞬間、何百匹ものスライムが現れ、グールの体を覆った。
「グオォォォォォォォォ」
スライムにたかられたグールは滅茶苦茶に暴れるが、体に取り付いたスライムは簡単には離れてくれない。
そしていっせいに消化液を出され、グールの体は溶け始めた。
「ガァァァァァ……リトネ……」
ボロボロになったグールが、力尽きて倒れる。
同時に、リトネも魔力を使い果たし、へなへなとその場にへたり込んだ。
「はあ……やった。倒した……」
相手を完全に倒したと思ってほっとするリトネ。
「お兄ちゃん! すごい! かっこいい!」
後ろにいたリンが歓声を上げる。
「へへ……そうか?」
リトネは後ろを向くと、照れくさそうに頭を掻いた。
しかし次の瞬間、倒れていたグールが、ばね仕掛けの人形のように跳ね起きた。
「グオッ! リトネ!」
最後の力で、リトネの首筋めがけて飛びかかる。
「キャッ!」
リンが悲鳴を上げる。が、すべての魔力を使い果たしていたリトネに動く力は残っていない。為すすべもなく噛み付かれようとした瞬間、リトネとグールの間に、何者かの影が割り込んだ。
「あなた! やめて!」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
グールの勢いは止まらない。割り込んだ影に噛み付く。
振り向いたリトネは悲鳴を上げた。自分の身代わりとなってグールに噛み付かれたのは、母ジョセだった。
「母さん!」
「あなた……一緒に逝きましょう……」
ジョセはグールとなったズークに噛み付かれながら、優しく微笑む。そして、その手に持っていた小さな杖を振って告げる。
「召喚」
ジョセの杖から現れたのは、小さな短剣である。柄は黄金でできており、キラキラと輝く刃には何かの紋章が入っていた。
「さようなら……」
消え入りそうな声でそう言うと、ジョセは最後の力を込めて、ズークの首を掻き切った。
ズークは地面に倒れ込む。
ジョセも首から血を流しながら、ズークともつれ合うように倒れた。
「母さん! そんな……」
倒れた両親を見て、リトネは言葉を失っていた。そしてすぐに駆け寄ると、父親には目もくれず、母親を抱き起こした。
「母さん……なぜ……」
「親が子供をかばうのは、当たり前……でしょ?」
ジョセは苦しそうに息をしながら、無理に笑みを浮かべた。
「母さん……嫌だ! 死ぬな!」
「残念だけど……もう力が残っていないの。でも、びっくりしちゃった。あなた……自力でここまでの召喚魔法を使えるようになっていたのね」
ジョセはリトネの手を握って微笑む。
「母さんは反対してたけど、もっと魔法を使えるようになりたくて、隠れて特訓していたんだ。ごめんなさい」
「いいのよ……これなら、父上もあなたを認めてくれるかも……この短剣を……」
先ほどジョセが召喚した短剣をリトネに渡す。
「最後のお願いよ。私が死んだら、ベッドの下に……父上への手紙があるわ。それを出して……父上にこの短剣を見せればきっと……」
ジョセのリトネの手を握る力が、どんどん弱くなっていく。
「母さん! 死んだらなんて嫌だ! 一緒に祖父さんのところに行こう!」
「聞き分けがない子……ね。おねがい……します」
「……わかった。そいつを下がらせろ」
突然、後ろから声をかけてきたのは村人たちである。
いつの間にか、リトネの近くに村人が集まっていた。彼らはリトネを無理やりジョセから引き剥がした。
「な、なにをするつもりだ!」
「グールに噛み付かれた者は、グールになる。だから首を切り落とすしかないんだ」
そう言う村人の顔には悲痛な表情が浮かんでいたが、決意は固いようであった。倒れているジョセの前に立つと、大きく斧を振りかぶる。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「やれ!!」
こうして、速やかに処置が行われた。リトネはただ叫び、狂ったように暴れることしかできなかった。
† リトネの家
あれからリトネは暴れ続けた。そのため、仕方なく村人たちによって押さえつけられ、自宅にぶち込まれた。
「……母さん……あんな死に方をするなんて……」
家の中で、リトネは蹲って震えていた。前世の記憶持ちとはいえ、彼にとってジョセはこの世界に産み落としてくれて、今日まで育ててくれた母であった。
心から慕っていたジョセの死を悼んで、ただずっと泣き続ける。
どれくらい泣いていたか、時間の感覚もわからなくなった頃、人の気配を感じてリトネは顔を上げる。
いつの間にか、リンが来て、リトネに寄り添っていた。彼女も涙を流している。
「お兄ちゃん。お母さんのこと……ごめんなさい。私のせいで……」
リンもリトネに負けないくらいジョセの死を悲しんでいた。その死の原因は自分にあると感じていたのである。
リンを見つめていると、リトネの心が落ち着いてきた。
「……リンのせいじゃないさ。俺はもう大丈夫だよ」
無理に強がってみせるリトネ。そうして泣いているリンの頭を撫でて、彼はベッドの下を探る。ジョセの遺言の手紙を探すためである。
ジョセの最後の言葉通り、そこには祖父イーグル・シャイロックへの手紙があった。
親愛なるお父様。あなたの意思に背いて、平民の男と駆け落ちした私など、今さら娘と名乗る資格はないのかもしれません。
一時の激情に流され、貴族の義務に従わず逃げ出した私は、世間のことを何も知らない愚か者でした。
しかし、生まれた子供に罪はありません。
どうか、我が子リトネをお引き立ていただけますように、お願い申し上げます。
ジョセフィーヌ・シャイロック
さんざん迷ったのか、ところどころ文が乱れていた。また、涙のあとがあった。
(……俺を祖父さんのところに預ける気だったのか。せめて俺だけでも貴族に戻そうとしたんだな)
手紙からは、若気の至りで家を飛び出したことの後悔、そしてせめて息子だけでも平民の苦しい生活から救い出そうという愛情を感じた。
その手紙を読んで、リトネはだんだん冷静になっていった。
(でも、やはり愛だけじゃだめだな。幸せな生活はちゃんとした経済基盤あってのことだ。それがないから親父は堕落し、母さんは苦しんだ。貧乏なままじゃ、世界どころかリン一人ですら救えない)
そう考えて、リトネは隣にいるリンを見つめる。妹も同然の愛しいリン。彼女は泣きながらリトネに寄り添っていた。
(俺は絶対、親父のようにはならない。自分の力になるものならなんでも受け入れてやる。キチクゲームの勇者の敵役で、甘やかされたお金持ちのお坊ちゃんだって? 上等じゃないか。俺は祖父さんの元に行って、『貴族のお坊ちゃん』になる!)
母からもらった短剣を取り出して見つめ、リトネはそう誓うのだった。
そのとき、いきなり家のドアが開かれる。入ってきたのは村長と数人の村人。彼らは全員武器を持ち、怒り狂った顔をしていた。
「この糞餓鬼を捕らえろ!」
村長がそう命令すると、男たちはリトネを殴りつけ、縛り上げて床に転がす。
「お父さん! お兄ちゃんに何するの!? ひどいことはやめて!」
リンが慌てて頼み込むが、村長は冷たかった。
「リン! こいつはお前の兄ちゃんなんかじゃない。村人を襲ったグールの息子だ! まったく、昔からこいつの親父のズークは気に入らなかったんだ。ただ強いだけの役立たずが、俺を差し置いて村の代表気取りで都会に行きやがって! それで兵士を首になり帰ってきたと思ったら、よりによってグールになって村人を襲うとはな!」
村長の顔には憎しみが浮かんでいた。リトネを拘束している村人たちも同様である。彼らはズークによって怪我を負わされた者たちだった。
怒り狂う村長に、リトネが尋ねる。
「それで、俺をどうするつもりだ」
縛り上げられているのにもかかわらず、ふてぶてしい態度を取るリトネに気分を害し、村長はますますいきり立つ。
「ふん! 親も気に入らないが、お前はもっと気に入らねえ! どこの馬の骨かも知らない奴隷女の子供の癖に、俺の可愛いリンに手を出しやがって」
村長はさらにリトネを痛めつける。それでもなお、怯むことなくリトネは告げる。
「……こんなことをして、あとで後悔するなよ」
いたたまれなくなったリンが泣いて父親に懇願する。
「やめて! お父さん! お兄ちゃんを離して!」
「だめだ! こいつは奴隷商人に売り飛ばしてやる!」
村長の命令で、リトネは地下牢に連れていかれるのだった。
村の外から遠視の魔法ですべてを見ていたカイザーリンは、にんまりとほくそ笑む。
「ふふふ……うまくいったな。これで奴は人間を信じなくなる。満たされない思いは奴を邪悪へといざない、勇者と敵対し、人間そのものを内部から滅ぼす我らの駒となるのだ」
笑みを浮かべるカイザーリン。
やがて、彼女に強烈な眠気が襲ってきた。
「くっ……もう夜明けか。また眠りにつかねばならぬ」
忌々しげに沈みかけた青い月を見て、カイザーリンはつぶやく。
「魔皇帝様……かならず、魔族を復活させ、世界の支配を……」
高笑いしながら、カイザーリンは消えていった。
もちろんそんなことが起きていようとは知る由もないリトネは、牢の中でじっと考え事をしていた。
そのとき、誰かが地下牢の前にやってくる。
「お兄ちゃん……」
リンはふらふらと入ってくると、冷たい牢の床に座り込んだ。
「ごめん……なさい。あのとき、私が声をかけなければお兄ちゃんのお母さんは死なずに済んだのに。それに、お父さんがこんなことをして……ほんとうに、ごめんなさい! これを持ってきたの」
リトネの前で頭を下げて、取り上げられていた短剣と手紙をリトネに返す。
リトネは優しい笑みを浮かべた。
「……リンのせいじゃないよ。僕が油断したのが悪いんだ」
リトネは牢の鉄格子の間から手を伸ばして、リンの頭を撫でる。
「でも……」
「……僕にもっと力があれば……大切な人を守れたのに。もうこんな失敗を繰り返したりしない。リンは俺が守ってみせる」
リトネは、すでに母親の死から立ち直っていた。
カイザーリンの作戦は成功したように見えたが、二つの点で誤算があったのである。
一つは、リンという彼を愛する存在がいたこと。大切な人がいる限り、どんなにひどい仕打ちを受けてもリトネは人間に絶望したりはしない。
もう一つは、リトネの精神年齢は十二歳の未熟な少年ではないということ。今のリトネは前世の記憶を継承した三十オーバーの大人なのである。
子供ならば絶望したかもしれない。しかし、彼は大人である。どうしてこんな悲劇が起こったのか、その原因が自分の無力さにあることをちゃんと受け止めることができた。
そして、自分が今置かれている状況を冷静な目で見ることもできる。
(やれやれ。ほんとリトネの人生ってハードモードなんだな。子供のときにこんな悲惨な経験してたら、歪んで育つのも無理ないか。でも、これはたぶん祖父さんと出会うフラグなんだな)
未来を知っているリトネは、この状況を客観的に見る余裕もあった。
(大貴族である祖父さんに気に入られるためには、どういう態度を取ればいいかな……)
リトネは狡猾な大人らしく、これからの作戦を練るのだった。
リトネを捕まえた村長が、嬉々として知り合いの奴隷商人と会っている。
「村を騒がせた鼻つまみ者の少年を売りたい」
「……そいつの親の許可は得ているんだろうな?」
いかにも奴隷商人といった、暗い目をした男が慎重に確認する。
「そんなものは必要ない。親はすでに死んでいるからな。その親というのも村を襲った罪人だ!」
村長は憎々しげに、村を襲ったグールの事件を話した。
「親は死んだ罪人で、本人も目障りなごくつぶしなんだ。さっさと連れていってほしい」
「……わかった。とにかく見させてもらおう」
村長と奴隷商人が村の地下牢に行くと、そこでリトネは静かに瞑想していた。彼の体からは、真っ黒い闇の魔力が立ち上っている。
「こいつは……魔力持ちか?」
「そうだ。魔力持ちの奴隷は価値があるんだろ? 高く買い取ってくれ」
そう言いながら物すごく嬉しそうにする村長に対し、奴隷商人は慎重な態度を崩さなかった。万が一奴隷にした人間が貴族につながりがあったりすると、身の破滅だからである。
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