上 下
2 / 29

反撃開始

しおりを挟む
「それじゃ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。お気をつけて」
いつものようにトオルを見送ったメルは、さっそくトオルの支援活動を始めていく。
午前いっぱいを使って、トオルをいじめている相手のスマホに侵入して情報を探っていった。
その中で、放課後に生徒会のメンバーによる打ち上げ会が行われるという情報をつかむ。
「ちょうどいいわ。まず一番トオル様に危害を加えている生徒会の方々にお仕置きしてやりましょう」
メルは生徒会メンバーのスマホに潜り、情報を探った。
そして放課後-美男美女で構成される、生徒会のメンバーは、あるカラオケ店に集まっていた。
「ぎゃははは。あいつ馬鹿だよな。ちょっと寄付くれっていったら、本当にふりこんでくるなんて」
生徒会会計のメガネを掛けた男子生徒が、通帳を見て大笑いしている。その中にはトオルから巻き上げた今までの金、300万円が入っていた。
「ほんと。私達(・・)へのボランティア活動として寄付してくれるなんて、(都合の)いい人だよねー。これからも仲良くしてあげなくちゃ」
書記の役職についている真面目そうな女子生徒も、トオルを皮肉そうにあてこする。
彼らはトオルの金で、この世の春を謳歌していた。
「おかげでお小遣い、全部貯金できちゃうよね」
「これが世の中の仕組みというものですよ。下々の者たちは、私たちに奉仕することが存在意義なのです」
聖清さやかは優雅にジュースを飲みながら放言する。
周りの取り巻きたちも口々にこのやり方を考え出したさやかを褒め、カモにされているトオルをこき下ろした。
スマホの中から彼らを見ていたメルは呆れてしまう。
散々飲み食いして散在した後、生徒会のメンバーたちは支払いをする。
「お支払いをお願いします」
「はい。電子マネーで」
トオルから巻き上げたお金を使ってチャージした電子マネーで支払う。
(なんと醜い。小悪党の分際で世の中を語るなど片腹い。トオル様に真実を告げましょう)
メルは人を騙して手に入れた金で豪遊している彼らの姿を映像名に記録すると、トオルのパソコンに帰っていった。

「ただいま」
いつものように疲れた顔をしたトオルが戻ってくる。
「お帰りなさい」
彼を迎えたメアは、真剣な顔をして告げた。
「トオル様。勝手ながらあなたの周囲の人間のことを調べさせていただきました。あなたは騙されています」
そういって生徒会メンバーの会話を録音したものや、豪遊する映像を見せる。
しかし、トオルは悲しそうな顔をして首を振った。
「……たぶん、寄付だのなんだのというのは嘘だろうって思っていたよ。だけど、仕方ないんだ。僕なんて他の学校じゃ受け入れてもらえないから、我慢して通い続けないと」
「どうして我慢なんてするんですか!悔しくないんですか!」
メルが高い声をあげると、トオルの表情も変わった。
「悔しいに決まっているじゃないか。だけど、俺にはもう誰も味方はいないんだ。騒いだって誰も相手をしてくれない」
「私がいます!私はあなたに助けられました。あなたの敵は私にとっても敵です」
メルは画面の中で必死に応援してくれる。
「ありがたいけど、二次元の君にできることって……。そういえば、この画像はどうやって手に入れたの?」
「私は電脳世界に存在する、ただ一人の意思を持った存在です。オンラインでつながっている機械なら、どこにでも入り込むことができのです」
メアは画面の中で胸をそらして自慢した。
「どこにでも入り込める?それならば……」
トオルの口元に悪い笑みが浮かぶ。
メアという協力なパートナーを得て、トオルは自分を苦しめた相手に反撃していくのだった。

メルはトオルの提案に従い、再び生徒会メンバーのスマホにやってきた。
そこでデータを習得して、携帯サービス会社が提携している『スマホ支払いサービス』から彼らの銀行口座のデータにハッキングしていく。
(全部返してもらいましょう。ちょちょいっと操作して)
口座の中のお金をいじり、いったん他国の第三者の口座に振り込んですぐに別人の口座に移す。
それを繰り返し、最終的にはトオルの口座にふりこんだ。
同じようにして全員の口座と、生徒会の口座、そして電子マネー残高も残高0にする。
(泥棒には泥棒を。天罰ですわ)
最後に虚偽の取引データをつくり、彼らが私的に引き出したように記録する。
すべてを終えたメルはすっきりした気持ちで、トオルのパソコンに帰っていった。
次の日、弥勒学園では、各部活に予算を配分するための会議が行われていた。
この学園では生徒の自主性を高めるという名目で、部活の予算配分は生徒会に一任されている。それによって生徒会長の聖清さやかは絶大な権力を誇っていた。
「それでは、予算会議を始めます。部活動予算の総額は200万円で……」
会計の男子生徒がパソコンで口座残高をしたとき、目を疑った。なんと、すべて引き出されていて残高が0円になっていた。
「どうしたの?」
「い、いや。何かの間違いみたいで」
そういてごまかすが、何度確認しても残高は0のままである。
「何?なんなのこの取引記録は!」
画面を見たさやかも思わず叫び声を上げる。電子上の記録では、生徒会の口座からファミレスやカラオケ、ボーリングなどの私的な支払いがされていたようにされていた。
「と、とりあえず、神埼君からの寄付金を入れている隠し口座からお金を移して……」
さやかの指示に従い、裏口座の残高を確認するが、そちらも0円になっている。
「そんな!どうすれば……」
思わぬ事態に、さやかは頭を抱えるのだった。


「と言うわけで、あいつらから奪われたお金を取り戻してきました」
メルは画面の中で、威張って胸をそらす。
「どうも……ありがとう。というか、君にはそんな事もできたんだ。なんかすごいね」
トオルに褒められたメルは、うれしそうな顔になる。
「えへへ。どういたしまして。でも、きっとトオル様も同じことができますよ」
「俺が?残念ながら、俺は何もできない無能な男だよ」
さびしく笑うトオルをメルは励ます。
「そんなことはありません。あなたは間違いなく勇者ユウジと同じ「学習魔法」の能力を持っているはずです。その身に魔法を受けさえすれば……」
そこまで言って、今のメルは現実世界で炎や光などの魔法が使えないことに気づく。
「魔法かぁ。使えるようになるならそうなりたいなぁ」
トオルが興味津々の顔をするので、なんとかして彼に魔法を教えてあげたかった。
「そうです。幻術や記録魔法などの認識系の魔法なら、現実世界にも影響を及ぼせるはずです。『精神感応』」
パソコンから出た光の糸が、トオルの頭らに接続される。同時に魔法の呪文(プログラム)が脳にインストールされていった。
「うっ……ちょっと頭いたい」
「あっ。すいません。同意も得ずに…」
画面の中でメルが頭を下げるが、トオルは気にするなと手をふる。
「へえ……これが『精神感応(テレパス)』の魔法か」
「はい。相手の感情などを読み取る魔法です。上級者になれば考えていることも読みとれます。他にも記憶を魔法媒体にコピーして保存したり、離れたところにいる術者同士で会話したり知識を共有したりできます」
メアは嬉しそうに説明するが、トオルは苦笑する。
「ありがとう。でも現実世界じゃあまり役に立たないかも……待てよ。」
トオルは自分の頭から精神触手を出して、パソコンにつなげる。今まで目やキーボードを通してしか接することができなかった電脳世界を、直接脳で感じることができた。
「これは……もしかして現代社会だと使いようによっては最強の能力になるかも。メル、ありがとう」
トオルに礼を言われて、メルは照れくさそうに微笑んだ。

弥勒学園 理事長部屋
「ばっかもん!」
理事長室に怒鳴り声が響き渡る。
「も、もうしわけありません。お父様」
父親に睨みつけられ、さやかは思わず身を縮めた。
「お前がやっている事は私も知っている。だが、やるならもっと上手くするがよい。現金で引き出して手元においておくとか、領収書も架空のものを作るとか、いろいろやり方があろう。馬鹿正直に記録が残る電子マネーなど使うから、困るようになるのだ」
「は、はい……」
さやかは横領のやり方のまずさを指摘され、頭を下げて許しを乞うた。
「まあ、今回のことはいい経験になっただろう。私の裏口座から補填しておく。次はもっと上手くやるのだな」
「……はい」
さやかは父親が尻拭いをしてくれると聞いて、ほっとした。
「それから、今後はその神埼とやらとは直接関わるな。どんな形であれ、お前が表に出るのはまずい」
「でも、それならどうやってお金を搾り取れば?彼はもともとその為に入学させたようなものですし」
さやかは困った顔をするが、理事長はにやりと笑う。
「ときにはアナログのやり方のほうが上手くいくこともある。自分が動けないのなら、手下を上手く使うがいい」
理事長は彼のやり方をさやかに教える。
「これも人の上に立つ人物になるための勉強だ。しっかりとやるがいい」
「はい。お父様」
さやかの顔には悪そうな笑みが浮かんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者・時坂杏奈は世界を救う ~人生ドン底だったわたしが神さまにスカウトされて異世界を救う勇者になっちゃいました~

雪月風花
ファンタジー
時坂杏奈は仕事をクビになり、彼氏にも振られた可哀想な子である。 だが、捨てる神あれば拾う神あり。 偶然出会った神によって、即席勇者に仕立て上げられてしまう。 だが、ともすればスライムにさえ負けそうな貧弱な杏奈の旅の為に、 神によって、とんでもないギフトが与えられる。 杏奈は無事、旅を遂行することが出来るのか。 本作は、他小説投稿サイトでも順次公開していく予定です。 皆様、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。

夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、 自分の姿をガラスに写しながら静かに 父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。 リリアーヌ・プルメリア。 雪のように白くきめ細かい肌に 紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、 ペリドットのような美しい瞳を持つ 公爵家の長女である。 この物語は 望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と 長女による生死をかけた大逆転劇である。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。 ⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

レイブン領の面倒姫

庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。 初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。 私はまだ婚約などしていないのですが、ね。 あなた方、いったい何なんですか? 初投稿です。 ヨロシクお願い致します~。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...