偽勇者扱いされて冤罪をかぶせられた俺は、ただひたすらに復讐を続ける

大沢 雅紀

文字の大きさ
上 下
47 / 55

光司の逃走

しおりを挟む
俺は光司。たった今魔王に対して、俺の最大魔法をぶちかましてやったところだ。
盛大な噴煙が吹きあがり、闘技場を覆いつくす。手ごたえはあった。奴は逃げることもできずにまともに食らったはずだ。
「ははは、やったぞ!ついに魔王を倒した!」
俺は勝利のガッツポーズをする。俺の後ろにいた民たちから悲鳴が上がった。
「そんな!ライトが負けるなんて!」
「ここでライトが死んだら、俺たちはどうなるんだ!」
怯える奴らに、俺はいい笑顔で言い放った。
「ついでに、お前たちも殺してやるよ。『火炎砲(ファイヤーボール)』」
魔力不足で威力はしょぼいが、一般市民なら問題なく殺せる。
俺が観客席に炎魔法を放とうとした時、冷たい声が響き渡った。
「勝手なことをするな。そいつらは俺の獲物だ」
噴煙の中から水色の結晶に包まれた人影が現れる。
それは水の魔法で自らを包んだライトだった。
「なかなかの魔法だ。『水鏡盾(ミラーシールド)』を習得してなかったら危なかったかもしれん」
奴は余裕たっぶりに言い放った。
「てめえ……その力は……」
「お察しのとおり、コーリンの力だ」
ライトの手のひらにコーリンの顔が浮かぶ。彼女は苦しそうに顔を歪めていた。
「光司……もうあきらめて。こいつには誰もかなわないよ」
続いて、レイバンやデンガーナの顔も浮かび上がってくる。
「お前も罪を償うんだ……こっちにこい」
「光司はん……待ってるで」
奴らはまるで幽鬼のように暗い目で俺を睨んでいた。
勇者パーティとして命を預け合った仲間たちのそんな姿を見て、俺は怒りに震える。
「てめえ、奴らに何しやがった」
「別に?ただ殺して魂を吸収してやっただけだ。そうすることで、俺はさらなるレベルアップを遂げた。これが魔王の力だ。人間を殺せば殺すほどレベルアップしていく。今のお前なんて敵ではない」
奴の魔力が膨れ上がる。まるで巨人を相手にしているかのような、圧倒的な威圧感を感じた。
「く、くそっ」
俺は必死に炎魔法を放つが、奴の体に触れると同時にジュッとという音と共に消えた。
「な、なぜだ?なぜ燃えない」
「ふふふ。俺の光魔法にコーリンの水魔法が加わるということは、自力で聖水をいくらでも生成できるということだ。それを身に纏えば、魔力で作った炎など防ぐのは造作もない」
奴の体を、オレンジ色の水の膜が覆っていく。
「そんな!聖水を纏った魔王なんて反則だ!」
「聖水だけじゃないぞ。治療ポーションも作り出せる。『ヒール(自動回復)』」
水膜が奴の火傷を覆うと、俺が火炎砲でつけた傷がみるみるうちに治療されて消えていった。
それを見て、俺は心底恐怖を感じる。
「そろそろ死ぬか?『土重力(グラビティ)』」
立ち尽くす俺に重力魔法がかけられ、身動きが取れなくなる。
「『風刃(ウインドカッター)』」
奴の手から無数の風の刃が放たれ、俺の服を皮膚ごと切り裂いた。


くそっ。奴は殺した仲間たちの魔法を使えるのか。これじゃ俺一人で勇者パーティすべてを相手にしているようなものだ。いくら俺が勇者でも勝てるわけがない。
「うわぁぁぁ!く、来るな!」
俺は必死に腕を振り回すが、奴は口元に薄笑いを浮かべながら、ゆっくりと近づいてきた。
「やった!真の勇者であるライト様が偽勇者を倒した!」
「殺せ!殺せ!」
見物していた民たちは、俺を殺せと大合唱している。
「さて、どんな拷問にかけて殺してやろうか」
なぶるような笑みを浮かべて近づいてくる奴に、俺は絶望していた。
くそ。なんで俺がこんな目に。そもそも俺は勇者になんかなりたくなかったんだ。
俺がこんな目にあう原因は何だ?そうだ。シャルロットに召喚されてしまったからだ。
召喚なんかされなかったら、俺は日本で面白おかしくいきていけたんだ。全部奴が悪い。
「決めた」
奴が一歩足を踏み出したとき、恐怖のあまり俺は思わず小便を漏らしてしまう
俺がながした小便は俺の炎の魔力に反応し、蒸発していく。アンモニアガスとなって奴の顔面に噴出した。
「うわっ!くせっ。目に染みる」
奴が思わず一歩下がった時、俺を拘束してた土魔法が切れた。
「しめた!『爆煙流』」
俺は足元の地面に炎の魔法を使う。砂に含まれていた水分と反応して、すさまじい爆煙が巻き上がった。
「今だ!」
煙に紛れて、一目散に闘技場の出口に向かうのだった。
警備していた騎士たちが、慌てて俺を止めようとした。
「止まれ!」
「どけ!邪魔するな!」
フレイムソードで騎士たちを切り捨てる。
ライトならともかく、てめえらみたいな雑魚に俺が止められるかよ。
闘技場から脱出した俺は、一目散に王城に逃げ込む。王を始めとする多くの者たちが闘技場に集まっていたので、中にいたのはわずかなメイドや警備兵のみだった。
「きゃああああ!」
「偽勇者が来た!」
騒ぎ立てるメイドや立ちふさがる兵士たちを切り捨て、血だらけになりながらも目的の部屋にたどりつく。
「シャルロット!」
いきなり飛び込んできた俺を、シャルロットは驚いた顔で迎えた。
「光司様、どうされたのですか?そんなお姿で」
確かに今の俺は、素っ裸の上全身切り傷だらけ、火傷だらけの酷い有様である。
「ライトにやられたんだ。奴は今すぐにでもここに来るだろう」
それを聞いて、シャルロットの顔にも恐怖が浮かぶ。
「今すぐ俺を元の世界に戻してくれ!」
俺の頼みに、シャルロットは頷いてくれた。
「わ、わかりましたわ。ですが、その代わり私も連れて行ってください」
「そうだな。ここにいたら殺されるだけだ。二人で逃げようぜ」
俺たちは金になりそうな金貨や宝石とコカワインをバッグに詰め込むと、二人で城の奥にある「召喚の間」に行く。
そこは壁一面に白い文字で計算式のようなものが描かれていた。
「これはなんだ?」
「伝承によると、光の神コスモスのお姿の一部を壁に書き写したものといわれています」
シャルロットは壁の一部に手を触れて、呪文を唱える。
すると、白い文字が輝きだし、「召喚の間」に扉のようなものが浮かび上がった。
「さあ、いきましょう」
シャルロットが扉を開けると、そこには懐かしい日本の俺の家の映像が浮かぶ。
ああ、このオンボロ屋は間違いなく俺の家だ。俺は帰れるんだ!
「ああ、一緒に俺の世界に行こう」
次の瞬間、俺は宝が入った鞄を掴むと思い切りシャルロットを突き飛ばし、扉に飛び込んだ。
「光司様!」
「わりいな。元の世界じゃ俺はただの高校生なんだ。女連れていけるほどの身分じゃねえんだよ。うちは貧乏なんで、てめえみたいな役立たずの無駄飯ぐらいを養う金もねえしな」
中に入って内側から閉めると、扉が消えていく。
「そんな!私を見捨てるなんて!」
向こうからシャルロットの悲鳴が聞こえるが、もう俺には関係ない。
「あばよ。なかなかいい思いができたぜ」
そう言い捨てて、俺は異世界への扉が消えていくのを見守る。
こうして、俺は元の世界に帰ることができたのだった。


「逃がしたか」
煙が晴れると、光司の姿は闘技場から消えていた。
まあいい、どうせ奴はこの王都から逃げられない、あとはゆっくり追い詰めて殺すだけだ。
「勇者様の勝利だ!」
「勇者ライト様!万歳」
何か民衆が騒いでいるが、俺は無視して『耀きの球』を道具袋から取り出すと、天高く放り投げた。
「『防御結界モード』発動」
俺の命令を受け、空に浮かんだ『耀きの珠』からオレンジ色の光の結界が発動し、王都を覆う。
「これで王都は光の結界に包まれた。何人たりとも逃げ出せないだろう」
俺の言葉に、審判面で闘技場に残っていた宰相がおもねるように口を開いた。
「な、なるほど。奴を逃がさないように結界を張ったのですな。では、さっそく逃げた光司をつかまえて……」
「必要ない。奴は俺が追い詰めて殺す」
俺は宰相の言葉をピシャリと否定する。
「そ、そうですか?あ、あの。なぜ剣をお仕舞いにならないのでしょうか」
レーザーソードを掲げてジリジリと近づいてきた俺に、宰相は不安そうな目を向けてきた。
「それはな……次はお前たちだからだよ」
そういうと、俺は宰相の首を一気に刎ね飛ばすのだった。
「何をするのじゃ!」
貴賓席で見ていた国王が仰天したような声を上げるが、俺は無視して騎士たちに切りかかっていった。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

処理中です...