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勇者の暴虐

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俺は光司。いずれはこの人間国の王になる男だ。
国王から「魔王ライトを殺せば王位継承者にしてやる」という言質を取った俺は、いい気分で城下町を歩いていた。
「ふふふ、いずれはこの国のすべては俺のものか」
俺はニヤニヤ笑いながら、王都を散策する。この道路も、建物も、住人たちもすべて俺のものになると考えると、楽しくて仕方がない。
王になったらどんなことをしようかと考えながら歩いていると、豪華な馬車が通りかかった。
「そこの男、邪魔だ!どけ!」
馬車の御者から怒鳴りつけられる。
「なんだと?俺を誰だと思っているんだ!」
「そっちこそ、この紋章が目に入らないのか?メルトカール公爵家のものだぞ!」
御者の男は恐れ入らないどころか、反対に身分をひけらかしてきやがった。
気に入らねえな。この俺様に歯向かうとはいい度胸だ。
「なに?何かおこったの?」
馬車のドアが開いて、勝ち気そうな貴族令嬢が降りてくる。よく見たら、パーティで王子を取り巻いていた女の一人だった。
その女は俺を見ると、高飛車に命令してくる。
「あんた、光司とかいう奴ね。いいからそこをどきなさい!」
「ふざけんな!てめえがどきやがれ」
勇者の威厳をもって命令してやったが、女は鼻で笑いやがった。
「ふん。いかに勇者とはいえ、正式な爵位も与えられていないただの平民でしょ?私たち貴族に逆らおうなんて、100年早いのよ」
その女は俺を見下してくる
「てめえら、いい度胸だな。よりによって俺を平民扱いするとは。覚悟はできているんだろうな」
俺がフレイムソードを抜いて威嚇すると、その女は悲鳴を上げた。
「きゃあああ!狼藉者よ!みんな、私を守りなさい」
後続の馬車から武装した兵士たちがどんどん降りてくる。俺は護衛していた兵士に取り囲まれた。
一触即発の雰囲気になるところに、相手側の隊長から声がかけられる。
「ここは王都の中だ。刃傷沙汰は禁じられている。わが屋敷にご同行願おう」
「いいだろう。きっちり話をつけてやろうじゃねえか」
こうして、俺はメルカトール公爵の屋敷に招かれるのだった。


豪華な屋敷に入った俺たちは、メルカトール公爵の応接室に招かれる。
「勇者様、娘が失礼をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
バーコードハゲの公爵は、必死に俺に向かって土下座していた。
対照的に娘の方は、ふくれっ面をして俺を睨んでいる。
「お前も謝らんか!」
公爵は娘をどなりつけると、無理やり土下座させた。
「なんで私がこんな奴に……」
「いいから、黙っていろ。勇者様はシャルメット姫の夫になられるお方だぞ。無礼があってはならん」
卑屈に頭をさげつづける公爵に、俺はもったいぶって言ってやった。
「公爵、娘の教育がなってないな」
「は、はい。娘は私がきつくしつけ直しますから、今日の所はこれでご勘弁を」
そういいながら、ずっしりと重い金貨が入った袋を渡してきた。
もっといびってやりたかったが、相手が誠意を見せたので許してやった。
「公爵の誠意は受け取った。今日の所は帰ってやろう」
「あ、ありがとうございます。こら、衛兵たちよ。何をしておる。勇者様をお屋敷までお送りしろ」
悔しそうな顔をした衛兵たちが馬車を用意する。俺はいい気持になりながら、馬車の中で考えていた。
(あれ?これっていい小遣い稼ぎになるんじゃねえか?)
こうやって貴族や金持ちの商人たちに因縁つければ、奴らに金を出させることができる。
それに俺をバカにしていた貴族の娘たちに仕返しもできるしな。
「よし。決めた。明日から貴族たちに絡んでやろう」
俺は貴族街の屋敷を見ながら、どの貴族をターゲットにするか考えるのだった。

俺の思惑は当たり、それから何人もの貴族に因縁をつけて、大金を巻き上げることができた。
「大変失礼いたしました。これはお詫びです」
「世界を救ってくださった勇者様への、感謝の気持ちです」
どいつもこいつも俺が絡んでやると、恐れ入って金を出すのが気持ちいい。ボガードのバイトに比べはるかに効率がいいしな。
味を占めた俺は、貴族だけじゃなくて富裕な商人もターゲットにする。金をだししぶる奴に対しては、その代わりに娘を差し出させてやった。
そうしていると、なぜか俺が街を歩いているだけで皆がおそれて近寄ってこなくなった。
「勇者が来たぞ」
「みんな、家に入れ。ちょっとでも因縁をつけられると、娘をさらわれるぞ」
そんな噂が広まって、俺の姿をみるだけで民たちは逃げでしてしまう。
困ったな。こうなると、新しい可愛い子を探せないぞ。
何しろ俺の顔をみるだけで貴族も平民も逃げていくので、新しいメイドを探すこともできなくなったのだ。
それでも因縁をつけられる相手をさがして歩いていると、ある娼館の前でずんぐりしたドワーフの男に声をかけられた。
「これは勇者さま。ようこそいらっしゃいました。いい子がいますよ」
ヘラヘラと笑いながら客引きしてくる。無視して歩き去ろうとしたが、その男はやけにしつこかった。
「新しい奴隷が入荷したんですよ。なんと合法ロリッ子ですよ。しかも誰の手もついてない清らかな乙女です」
「ロリッ子かぁ……」
そういえば、ドワーフの女はロリッ子が多いと聞く。たまには気分を変えて、人間じゃない女にも手を出してみるか。
「決まりましたね。一名様ごあんなーい」
男に導かれて店内に入る。出迎えたのは、中学生くらいの元気少女だった。
「お兄ちゃん。初めまして。来てくれてありがとう」
無邪気にニコッと笑って手を引いてくる。最近、すれっからしの女ばかり相手していたんで、たまにはこういうのも新鮮でいいな。
「さ、お部屋に行こ!」
俺はそのロリッ子に手を引かれて、部屋に入っていった。
そして数時間後、俺は満足して娼館を出る。
「よかったぜ。これはチップだ」
「わーい。お兄ちゃん。ありがとう。チュッ」
ロリッ子ドワーフは俺がくれてやった金貨を無邪気に喜んでいる。いい子だな。これから贔屓にしてやるか。
頭をひとつ撫でて、俺は屋敷に戻っていった。
光司が帰った後、娼館ではドワーフの男とロリドワーフの娘が笑いあっていた。
「お嬢、うまくいきましたわね」
男はロリッ子に笑いかける。
「ああ、あなたにも苦労をかけました」
ロリドワーフは、大人っぽい口調で男をねぎらった。
「ふふふ。奴は女好き勇者として有名ですからな。ですがお嬢、よろしいのですか?あんな奴に身をささげて」
「かまいません。わがドワーフ一族は未だ蛮族扱いされており、一つにまとまることもできていません。それは、王家となるべき特別な血を引く存在がなかったせいです」
ロリドワーフは、外見に似合わない幼い容姿ながら、大人びた笑いを浮かべる。
「ですが、これで勇者の血を盗むことができました。やがてこの血が王家として崇められ、ドワーフの各部族を統一することになるでょう。そうなれば、わがドワーフは繁栄することができます。やがては人間やエルフを制して、ドワーフが世界を征服することもできるでしょう」
奴隷のふりをして人間の王国にやってきたドワーフ族の姫は、夜の闇にまぎれてひそかに王都を脱出する。
やがてその血筋が、未来において新たな戦乱を招くことになることは、この時点では誰も知る由はなかった。
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