偽勇者扱いされて冤罪をかぶせられた俺は、ただひたすらに復讐を続ける

大沢 雅紀

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反逆開始

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私はララ―シャ。誇り高きエルフ王国の王女だ。今私は、配下の騎士団と共に捕虜とされ、民衆の面前でなぶり殺しにされようとしている。
わが王国を滅ぼした、憎き邪戦士レイバンの風魔法によって全身を切り刻まれ、槍で貫かれようとした時、突如謎の男が乱入してきた。
黒いローブを纏ったその男は、空に浮きながら私たちを見下ろしている。
「貴様は……偽勇者ライト!」
レイバンがうなり声をあげる。偽勇者だと?いったい何者なんだ?
「神などいない。いたとしても地上に干渉しない。もし神がいるのなら、俺が冤罪に落とされることはなかった」
その男は静かな声で、冤罪をかぶせられて国の上層部と勇者バーティに貶めらたことを話す。
なんてひどい話なんだ。人間どもは私だけではなく、自らの同胞をも貶めることを平気で行う種族なのか。
「俺は復讐のために、魔王に転生した。そして既にコルタールとオサカを破滅させた。次はこの冒険都市インディーズだ」
魔王を名乗る男は、堂々と冒険者ギルドを敵に回すことを宣言した。
それを聞いた、闘技場にいた冒険者たちが嘲笑う。
「ふざけんじゃねえ。ライトの分際で!」
「この都市にいたころは、ただの照明係として俺たちにへいこらしていたくせに、偉くなったものだな」
「降りてこい。エルフたちの前に、お前を殺してやるよ」
そんな彼らを冷たく一瞥すると、魔王は軽く腕を振ってオレンジ色の稲妻を放つ。
「ぎゃああああ!」
雷に打たれたレイバンと冒険者たちは、たった一撃で吹き飛んでいった。
すごい。あれだけ強かったレイバンたちを一掃するなんて。もしや、彼こそが私たちエルフの救世主なのかもしれない。
そう期待する私たちに、魔王は冷たい笑みを向けてきた。
「俺と同じく人間に復讐心を持つエルフたちよ。俺に魂を売るなら、復讐するための力をさずけよう」
魂を売れだと?誇り高きエルフの心を売り渡せと言うのか!
……だが、私たちにちは力も武器もない。もし……本当に力が与えられるなら……この身がどうなっても。
「わかった。魂でもなんでも捧げる、私に力を与えてくれ」
私は上空の魔王に向かって願った。
「姫様だけに魂を売らせたりしない。俺たちも!」
まだ生き残っていた忠実なエルフの騎士たちも声をあげる。魔王はくくっと笑うと、私たちに向けて黒い闇を放った。
「いいだろう。『魔化(イビルフィギュア)』」
私たちの魂が、暗い闇の力に浸食されていく。肌が黒く染まり、鋭い爪が生えてきた。闇の力によって傷が癒え、すさまじい破壊衝動が湧き上がってくる。
「ウォォォォォ―ン」
いつしか、私たちは獣のような叫び声をあげていた。
「さあ、わが眷属『アイアンウルフ』たちよ。人間たちに復讐しろ。冒険者も一般人も、女も幼児も見逃すな。一人残らず皆殺しにしろ」
魔王の言葉が心地いい。私たちは力強くジャンプすると、観客席に飛び込んでいった。
「な、なんだこいつら!ぎゃっ!」
私の爪の一振りで、屈強な男の首がちぎれ飛ぶ。
「きゃあああああ!助けて!」
悲鳴を上げて逃げようとする女の腹を、私は食い破った。
「こ、こいつら、モンスターなのか?」
「ひるむな!殺せ!」
闘技場を警護していた冒険者の剣が私を襲うが。黒く染まった肌がそれを跳ね返した。
「なんだこれは!剣が通じない!」
私たちの身は、固い闇のシールドでおおわれて、まるで鋼のようになってた。
ああ、魔王様。感謝いたします。私たちを守ってくださるのですね。
動揺する冒険者たちの喉笛にかみつき、その魂をすする。私たちはどんどんレベルアップしていった。
「これがモンスターの力……」
なんてすばらしいのだ。人間を殺せば殺すほど強くなれるなんて!
私と仲間たちは、今まで虐げられてきたエルフの恨みを晴らすべく、この冒険都市インディーズを思うさま蹂躙するのだった。

「いったい、何がどうなっているの?」
私の名前はミナ。レイバンの幼馴染で、冒険者ギルドの受付嬢。
今、私はパニックを起こし、街中を逃げ回っていた。周囲では突如暴れだしたエルフの捕虜たちによる街の人への虐殺が行われている。
「た、助けてくれ。俺は民間人だ。関係ないんだ」
「お願い!子供に罪はないでしょ!」
「ママ―!どこなの?怖いよう」
周囲には命乞いをする人たちでいっぱい。エルフたちは、そんな彼らを情け容赦なく殺戮していった。
なんてひどいことを!私たちが何をしたっていうの?
「ははは、思い知ったか!これがお前たちが私たちにしたことだ!」
エルフの王女の高笑いが聞こえてくる。これが冒険者たちがエルフの国を攻めたことの報いなの?
今まで私は、冒険都市インディーズにずっといて、エルフ国との戦争も遠い国の物語としか思えなかった。レイバンがエルフ国を滅ぼし、捕虜を連れてきたことも、武勇伝として誇らしく感じていた。
だけど、実際の戦場はこんなにひどい事が行われていたなんて。私は自分の都市が戦場になって、はじめてその悲惨さを思い知らされた。
「これで自由だ!魔王様、ありがとうございます」
「今まで俺たちを虐げてきた人間たちよ。正義の裁きをうけろ!」
今まで捕虜になり、街の人たちに奴隷として売られていたエルフたちが、主人を殴りつけている。
正義?彼らにとって私たち人間が悪なの?だとしたら、人間をモンスターから守ってきた私たちは、なんだったの?
混乱した思いを抱えながら逃げ回っていると、いつしか人気のない路地に入り込んでいた。
「はあはあ……ここまでくれば……」
荒い息をついてへたり込む私に、上空から何かが襲い掛かってきた。
「死ね!」
真っ黒い肌をしたエルフの王女が、鋭い爪を振り下ろしてくる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
恐怖のあまり、叫び声をあげる。その時、胸のペンダントが輝き、私の周りに風の結界を張った。
「チッ。殺せなかったか!」
結界に爪をはじかれた王女が、悔しそうに舌打ちする。
「まあいい。獲物はいくらでもいる。貴様は後回しだ!」
エルフの王女はそうつぶやいて、去っていく。殺されかけた私は、恐怖のあまりその場に座り込んだ。
「レイバンが助けてくれた……!」
ペンダントを握りしめて感謝の涙を流す。
「そうだ。レイバンなら、なんとかしてくれるかもしれない……」
そう思った私が闘技場のほうに戻ろうと歩き出したとき、突風が吹いて空からレイバンが降りてきた。
「ミナ!無事だったか!」
飛んできた彼の姿は、あちこち火傷ができてひどい有様だった。こんな大けがをしながら、私のことを探しに来てくれたんだ。
「レイバン……」
私は彼の大きな胸の中で涙をながすと、彼はとまどったように顔を赤くした。
「と、とりあえず、話はあとだ。ここは逃げるぞ。『風舞(フライ)』」
レイバンの心地いい風に包まれ、私は空を飛ぶ。こうしてインディーズから逃げ出すことができたのだった。

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