偽勇者扱いされて冤罪をかぶせられた俺は、ただひたすらに復讐を続ける

大沢 雅紀

文字の大きさ
上 下
2 / 55

処刑

しおりを挟む
いつもはモンスターと人間との戦いを見世物にする施設だったが、本日は趣が違っていた。
広い会場の中央には十字架がかけられ、俺はそれに縛り付けられている。
「偽勇者に罰を!」
「勇者の血統を偽る詐欺師に裁きを!」
闘技場の観覧席いっぱいに集まった民衆は、あらんかぎりの罵声を俺に投げかけている。
中には石を投げつけてくる奴もいて、そのうちのいくつかが俺に当たって体のいたるところから血が流れた。
「あはは。やっぱりライトは偽物だったんだな」
「おかしいと思ったのよ。農民の分際で勇者の血をひいいているわけないじゃない。私は魔法学園に通っていたころから、あいつを偽物だと思っていたわ」
俺がコルタール公に引き取られて、貴族の習慣を学ぶために通っていた魔法学園時代の同級生たちも、俺をみて笑っている。
「静粛に!ただ今から、偽勇者ライトの罪状を告げる」
勇者光司が司会者となり、俺にかけられた嫌疑を大声で読み上げる。
奴の声が響き渡るにつれ、民衆の怒りのボルテージが上がっていった。
「偽勇者め。俺たちをだましやがって」
「教会の秘宝を盗むなんて、なんて罰当たりな!」
「お前のせいで、何人の冒険者が傷ついたとおもってるんだ。死んでわびろ」
「薄汚い横領者め。俺たちが苦労して高い税金払っているのに、それを着服したなんて。恥知らず」
「聖女様を襲っただと!処刑だ」
民衆の怒りを聞いた勇者光司は、満足そうな顔をして俺に話しかけた。
「くっくっく。ざまぁねえなあ。偽勇者さんよぉ。何か言い残したいことがあるか?聞いてやるぞ」
それを聞いた俺は怒りに震えるが、最後の力を振り絞って問いかける。
「なんでこんなことをするんだ!共に戦った仲間なのに」
「仲間ぁ?てめえみたいなハゲ、ただのダンジョンを照らすランプだよ」
光司は楽しそうにギャハハと笑いながら、俺を殴りつけてきた。
「で、でも、俺も役に立ったはずだ。魔王の闇の衣をはぎ取った」
「ああ。あれな」
光司は何を思ったか、俺だけに聞こえる小声で話し始めた。
「確かに、あれには感謝しているぜ。おかげで楽に魔王を倒せて、勇者の地位も手に入った」
「どういうことだ!」
その質問に光司は直接答えず、俺の目の前で指を一本たてる。その指に、ポっと火が灯った。
「見ての通り、俺は火属性だ。真の勇者の証である光属性の魔法は使えねえ。だから、俺が世界を救う勇者になるには一工夫必要だったんだよ」
光司はニヤニヤ笑いながら、観戦席にいたマリアを手招きして呼び寄せた。
「うふふ……私から話を持ち掛けたのですわ。いかに勇者の血を引くものだとしても、土臭い農民などと結婚するのはまっぴらです。だから、あなたの勇者の力が覚醒しないように、これを与えていたのです」
マリアが取り出したのは、婚約者の証であるブレスレットだった。
「まさか……そんな」
「くすくす……今だから教えてあげますわ。あなたの力は私が封印していたのです。あなたの得た経験値は、魔力に変換されてブレスレットに蓄積されました」
「そ、それが俺がレベルアップできなかった理由」
いくら俺が命がけで戦っても、ちっとも成長せず、レベル一の照明魔法しか使えなかった理由が判明して、俺はショックをうける。
「くすくす……思惑通りにことが進みましたわ。最後にあなたの魔力を使って、魔王の闇の衣をはぎとる。それであなたはお役御免ですわ」
マリアは俺の前で、楽しそうに笑う。俺は愛していたマリアの醜い本性を知って、怒りに身を震わせた。
「くそ……このビッチめ」
「黙ってろ!」
勇者光司は俺の口元を思い切りなぐりつける。鈍い音とともに、何本かの折れた歯が地面に散らばった。
「くすくす……今更くやしがっても遅いですわ。すでに魔王は倒され、この世界からモンスターは消えました。あなたは永遠にレベルアップできず、勇者にはなれないのです」
マリアは見せつけるように、光司に抱き着いた。
もう俺は永遠に勇者になれないのだと知って、底知れない絶望を感じる。
絶望の中で自ら舌を噛もうとしたが、歯が折れていたので噛み切れなかった。
「おっと。まだ死ぬんじゃねえ。これから面白い見世物が始まるんだからな」
光司が合図すると、三本の十字架が闘技場に運び込まれる。それを見て、俺は叫び声をあげた。
「おやじ!おふくろ!シャイン!」
それは、故郷に残してきた両親と妹だった。
「お兄ちゃん……助けて……」
幼い妹であるシャインは、恐怖のあまり泣きじゃくっている。
「貴様!何をするつもりだ」
俺は本物の憎悪を込めて光司をにらみつけるが、奴はせせら笑いながら言った。
「決まっているだろう。偽勇者の血筋は絶やしておかないとな。将来のために」
「よせ!俺は偽物でいい。家族だけは助けてくれ!」
すべてをかなぐり捨てて奴の足元で土下座するが、奴はからかうように民衆に向けて問いかけた。
「だってさ、どう思う?」
それを聞いた民衆たちは、一斉に俺たちに向けてブーイングを放った。
「偽勇者の血筋を絶やせ」
「真勇者光司様、万歳!」
民衆の完成を受けて、光司は非情にも命令を下した。
「仕方ないな。多数決だ。火刑にしろ」
光司の命令を受けて、拷問官たちが十字架の足元に薪をつみあげ、火をつける。
「やめろぉぉぉぉぉぉ」
俺の叫び声もむなしく、三本の十字架はあっというまに炎に包まれていった。
「……くそっ!殺せ!俺も殺すがいい!」
自棄になった俺が吠えると、拷問官が駆け寄ってくる。そのまま俺を切り捨てようとしたとき、光司が残酷な笑みを浮かべて言い放った。
「待てよ。勇者の名を騙ったこいつには死すら生ぬるい」
芝居がかった仕草で、民衆に向けて訴える。
「こやつは勇者の名を汚すものとして、一生さらし者として国中を引き回してやろうと思うが、どうだ?」
それを聞いた民衆は、大声で俺をあざけり笑う。
「それはいい」
「生きている限り苦しむがいい」
こうして俺は、国の恥さらしとして奴隷として各組織に売り渡されることになったのだった。

ライトの末路を見届けて、国王などの国の重要人物はほっと胸を撫でおろす。
「うまくいきましたな」
「ああ。光司殿が魔王を倒した以上、勇者の正統後継者などトラブルの元じゃ。勇者は二人いらぬ」
コルタール公爵と国王は、ワインを酌み交わして微笑みあう。
「しかし、いささか哀れでんがな」
「仕方ありません。正義の理不尽に弱者が踏みつぶされることなど、よくあることです。神もお許しになられます」
大商人ヨドヤと教皇マルタールは、そういってライトへの同情心を切り捨てた。
「では、これからは……」
「うむ。勇者光司を救世主とあがめ、その権威で民をまとめ、寄付や税を民から絞り上げる。たまった鬱憤は、偽勇者ライトを民衆の生贄にすることで解消させる。これでよいな」
「はっ」
国を指導する上層部は、そういって結論づけるのだった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

処理中です...