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追放

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「失礼します。正人様と真理亜様がお戻りになられています」
執事の報告に、源人と勇人は顔を見合わせる。
「さて、どうしたものかな。下手に温情をかけると、将来の禍根になりかねぬ。あれでも一応南方家の血をひくものだからな」
二人の処分に悩む源人に、勇人は同意する。
「無気力で無能なら飼い殺しにしてやってもいいけど、分をわきまえず反抗的な無能なら、再起不能になるまで排除するしかないですよね」
「うむ。その通りだ。織田信行しかり、徳川忠長しかり、当主に従わない親族ほど家にとって有害なものはないからな」
源人はそういって、二人を切って捨てる。
「ワシの方はすでに財閥に命じて、正人の全役職を解任しておる。残るは奴の個人資産だが……」
「正人の銀行口座と高級時計や自動車などの現物資産の没収、クレジットカードやスマホの信用枠の解除など、すでに処置は終えております。奴は南方家から追放されたら、無一文の中年男になるしかないでしょう」
勇人はそういって、暗く笑った。
「それで、真理亜はどうする?」
そう祖父に聞かれて、勇人は考え込む。
「腐っても俺の妹です。将来、政略結婚の駒として使えるかもしれない。最後の情けとして、どこか田舎の戒律が厳しい女子高にでも転校させましょう」
「うむ……今までわがまま放題に育てられた真理亜にとって、つらい生活になるだろうな」
源人は少し同情してしまうが、勇人は首を振った。
「仕方ない事です。あいつは兄である俺に対して、尊敬の念も親愛の心も持てず、むしろ蔑んでいたのですから。妾の子の分際で身の程を弁えないということが、どれだけ罪深いか、これから身をもって知る事になるでしょう」
こうして二人の処分を決めると、彼らは玄関に向かうのだった。

「いったいいつまで待たせるんだ」
「そうよ。早く中に入れなさいよ」
我慢の限界を迎えた正人と真里亜が執事たちと揉めていると、扉が開いて勇人が出てきた。
「正人、お前は財閥からも南方家からも追放になった。すぐに出ていけ」
冷たく言い放つ勇人に、正人は激昂する。
「なんだと!誰に向かって言っているんだ!」
「誰にだと?家も職もなくした哀れな中年男にさ」
そういうと、正人に一枚の紙きれをみせつける。それは正人がすべての公職を解任されたという通知書だった。
「バカな!社長である私を誰が解任できるんだ!」
「ワシだ」
しぶい声が響き渡り、再び扉が開く。中から執事長である正盛に車椅子を押された源人が出てきた
入院しているはずの父親が現れて、正人は動揺する。
「お、お父さん。お体はよろしいのですか?」
「ああ。勇人のおかげで完全に復調した」
源人は勇人に親愛のこもった視線を向ける。
「そ、それで、なぜ後継者である私を解任など?」
「決まっておる。貴様は南方家の後継者にふさわしくないからだ」
じろりと正人を睨みつけると、重々しい声で言い渡した。
「貴様が今まで勇人にしてきたことは、すべて聞いた。正直、ワシは腸が煮えくり返る思いだ。なぜ実の息子でワシが後継者と定めた勇人に対して、ああも冷たい態度をとれるのか、理解できぬ」
「そ、それは……誤解です。無能な勇人に厳しく躾をしているだけで」
言い訳をする正人を、勇人は嘲笑う。
「俺が無能か。まあ確かにそうだったかもしれないが、少なくとも今は違う。与えられたチャンスをモノにして、南方家を継ぐだけの力は得たつもりだ」
「な、なにをたわけたことを……」
正人がそうつぶやいたとき、勇人が片手をあげて合図する。同時に執事たちが、正人と真理亜を羽交い締めにした。
「は、放せ!」
「痛い!さわらないで!」
必死に抵抗する二人だが、屈強な執事に抑え込まれて手も足もでない。
「このように、屋敷の使用人たちは全員俺に従っている。お前はすでに見限られているんだよ。もうお前は無一文の中年男だ」
勇人は正人が所有していた個人の資産がすべて売却されていることを示す書類を見せる。それを見て、正人は慌てて源人にすがりついた。
「お、お父さん。なぜ勇人ごときにこんな横暴を許すのですか?あなたは身体が不自由な身。私がそばにいて支えないと南方家の統制が取れないはずです」
「貴様ごときに心配されるいわれはない」
そういうと、源人は車椅子からすっくと立ち上がった。
「な、なぜ……」
「これも勇人のおかげだ。ワシの弱った足腰を治してくれた。これからはワシが南方財閥の総指揮を執る」
そう言うと、源人は執事に抑え込まれている正人を冷たく見下ろした。
「そしてワシの後継者は勇人じゃ。貴様は南方家から追放する」
父親に切り捨てられ、正人はがっくりとうなだれる。
「最後に聞いておこう。なぜ貴様は実の息子である勇人に憎しみをぶつけていたのじゃ」
そう聞かれ、正人はやけになって本音を語る。
「わ、私は政略結婚なんてしたくなかった。お父さん、あんたが無理やり押し付けてきたから仕方なく……私はずっと不幸だったんだ」
涙ながらに訴える息子に、源人は冷たく答える。
「女遊びはある程度許していたはずだ。真理亜の母である女優の桜井純子と不倫した時も、何一つ咎める事なく娘も引き取って養育を許した。なんの不満がある。高貴な血を引く名家の子に生まれたのなら、政略結婚の義務程度は果たすべきだろう」
「あんたのそういう古臭いところが我慢ならないんだよ!」
ついに正人は駄々っ子のような叫びをあげると、次に勇人を睨みつけた。
「私はお前も気に入らなかった。望みもしない子供まで生まれて、愛してもいないお前を跡継ぎにしないといけない私の苦しみがわかってたまるか」
「はっ。あんたが俺をどう思っていようが関係ない」
正人の憎しみを、勇人は鼻で笑って受け流す。
「それに、政略結婚を嫌がっておきながら、結局あんたは南方家に留まって富裕な生活を享受しているじゃないか。なぜ桐人の母である詩織おばさんみたいに駆け落ちしなかったんだ」
「そ、それは……」
「どうせ南方財閥を離れて生きる気概がなかったんだろう。情けない男だ」
息子から見下されて、正人の顔が憤怒に染まる。
「なんだと!」
「違うというのなら、これから自分の力だけで生きてみるがいい。執事達、このホームレスをここから離れた適当な場所まで連れて行って放逐しろ」
「はっ」
執事たちはうやうやしく頭を下げると、わめきたてる正人を引きずって車に押し込んだ。
「さて……真理亜。お前はどうする?」
「ひっ」
目の前で父親が連れていかれるところを見て、真理亜は恐怖する。
「お、おねがい。許して。お兄ちゃん」
「お兄ちゃん……か。初めて俺をそう呼んでくれたな」
勇人がにっこりと笑うので、真理亜は許されたのかと勘違いしてほっとなる。
「い、今までごめんなさい。これからは妹として、お兄ちゃんを支えるから」
「そうか。なら南方家の令嬢としての品格と礼儀作法を身に着けてもらう必要があるな」
勇人がバチンと指を鳴らすと、一つのトランクを携えたメイドたちが進み出る。
「これからお前には、九州の聖トーマス学園に転校してもらう。日本一校則が厳しいといわれている全寮制の女子高だ。そこで甘え切った精神を叩き直されてこい」
「い、いやぁっ!」
真理亜は必死に抵抗するが、メイドたちに連れていかれてしまった。
「これで次の段階に移れますね」
「うむ。膿をすべて出し切って、南方家は新たな時代にはいるのじゃ」
こうして、勇人は南方家の実権を手に入れることになるのだった。


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