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ゼフィロス解放

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アルカードの体が消滅すると同時に、玉座のクリスタルが砕け散る。
同時に玉座に座っていた少女が、ゆっくりと立ち上がった。
「あーーーっ。やっと解放されたわ。んーっ」
その少女は、思い切り背伸びをした。
「ああ、われらが神ゼフィロス様。ご無事でよかったです」
それを見たエウロスは、感極まって少女に抱き着く。彼女を抱き留めた少女は、よしよしと頭を撫でた。
「君は僕の系譜を継ぐ者かい。ボクを解放してくれてありがとう」
「い、いや、私ではなくて、ヘリックが……」
慌ててエウロスがヘリックを紹介しようとすると、ゼフィロスは顔をしかめた。
「うっわ。汗臭い。むさくるしい」
「わるかったな」
こき下ろされて、ヘリオスは憮然とする。
「でもまあ。僕を解放してくれてありがとう。君はお母さまの眷属かい?土の臭いがする」
「ああ。そうだ」
ヘリックが頷くと、ゼフィロスは納得顔になった。
「そうか。また新たなギガントマキアが始まるんだね、よし、それなら僕も力を貸すよ」
そういうと、ゼフィロスはエウロスの胸に手を当てる。すると、緑色の光が輝いて、エウロスの胸に木星のマークが浮かんだ。
「これで、今まで以上に風の魔法が使えるようになるよ」
「ゼフィロス様……ご加護を授けてくれてありがとうございます」
新たな力を授かり、エウロスは感激するのだった。
「とりあえず、僕も母様の所に行くよ」
ゼフィロスがそう言うと同時に、ゴゴゴゴという音が響き渡り、洞窟全体が浮き上がっていく。
「な、なんだ?」
「僕の城である『木星城』をオリンポスの神々が支配する地上から切り離しているんだよ」
ゼフィロスはあっけらかんと言い放つのだった。

風の村
いきなり地面が震えだして、村人たちが動揺する。
「な、なんだ?」
「地震?助けて!」
風の魔力がつよいこの森では、めったに起きないはずの地震が起こり、ハーピー族たちは動揺する。
「皆、うろたえるな。とりあえず空に避難するんだ」
族長のボレアスに従って、皆は空に舞い上がる。
すると、近くの「結晶洞窟」が崩れていくのが目に入った。
「ど、洞窟が崩れていく」
「いったい何が起こったんだ。もしかして、ゼフィロス様に何か起こったのか?」
恐れを感じながら見守っていると、崩れた洞窟の中から何かが現れた。
「あれは……」
「まさか……伝説の『木星城』?」
バーピー族たちの間で伝説に残っている、風神ゼフィロスの居城として知られるクリスタルでできた城が、地中から浮き上がっていく。
巨大な城は、ハーピー族が見守る中、木星城は飛び去って行った。
「木星城が解放されたということは……」
「やった!私たちの守護神であるゼフィロス様の封印が解けたんだ!」
互いに抱き合って喜ぶハーピー族。
「しかし……木星城はどこに行ったんだ。私たちの守護神が行方不明になってしまったとしたら、これからバーピー族はどうしたらいいんだ……」
思い悩むボレアスに、澄んだ声で話しかけられる。
「ご安心を。木星城の行先は分かっておりますわ、お父様」
振り向いたボレアスが見たものは、満面の笑みで棍棒をもったたくましい男を抱えて飛んでいるエウロスだった。

「英雄ヘリック様、どうぞ。ギョクロ―の新芽で作ったお茶でございます」
ヘリックは、風の村の村長の家で歓待を受けていた。
「いただこう」
一口飲んだヘリックは、その芳醇な香りに思わず感嘆の声を漏らす。
「美味いな」
「ありがとうございます。王宮に献上する予定の最高品質のものを用意させていただきました」
ボレアスはそういうと、ヘリックに頭を下げた。
「改めて御礼申し上げます。われらが守護神であるゼフィロス様を解放していただきまして、誠にありがとうございます」
「礼には及ばない。俺だけの力ではない。エウロスや他のハーピー族も協力してくれたおかげだ」
ヘリックにそういわれて、エウロスやハーピー族の若者たちも誇らしそうな顔になった。
「そうですか……ゼフィロス様は母である大地神ガイア様の所に戻られたのですか……」
ボレアスは嬉しそうになりながらも、どこか寂しそうな表情を浮かべる。
「お父様。どうなされたのですか?」
「いや、ゼフィロス様が解放されたことは嬉しいのだが……この地から守護神がいなくなってしまった。そうなると、次第に風の魔力も弱まり、いずれ我々も空を飛べなくなるかもしれぬ」
それを聞いて、喜んでいた村の人々もハッとなる。彼らが空を飛べるほどの魔法が使えるのは、ゼフィロスの影響下にあるこの地で生まれ育ったからである。その守護神がいなくなれば、これから生まれてくる子供たちの魔力が衰退していくのは自明だった。
将来のことを考えて苦悩するボレアスに、エウロスが提案する。
「それなら、私たちもゼフィロス様の後を追いませんか?」
「えっ?」
ボレアスはキョトンとした顔になる。
「ゼフィロス様が解放されたので、私たちがこの地にいる必要がなくなりました。彼女の後をおって、私たちも土星城に行きましょう。もちろん主であるヘリック様のお許しを得られればですが」
それを聞いて、ヘリックもうなずいた。
「俺は構わないぞ。どうせ土星城にはほとんど住人がいないからな」
「ありがとうございます。偉大なる英雄ヘリックよ」
ボレアスは頭を下げて、自分たちの一族を受けいれてくれたヘリックに感謝する。
「もしよろしければ、わが娘エウロスを嫁として傍においてはくださらんか?」
そんなことを申し出てくるボレアスだったが、ヘリックは首をふって断った。
「ありがたい申し出だが、俺は当分嫁を持つ気はない」
その言葉には、深く心を傷つけられた悲哀が漂っていた。そのことを感じ取り、ボレアスも無理にとはいわなくなった。
「ならば、せめて従者として侍らせてくだされ」
「……わかった。従者としてでよければ受け入れよう」
こうして、ハーピー族はジュピター子爵領を去ることになるのだった。

土星城
女神ガイアと風神ゼフィロスに、ハービー族が移住してくることを伝えると、二人は笑みを浮かべた。
「いいでしょう。私たちティターン神族所縁の者が集まることは望ましいです」
「僕も眷属たちと一緒にいたいしね。それなら、木星城と土星城を融合させようか」
ゼフィロスがそういうと同時に、二つの城が融合していく。空に浮かぶ小惑星は、また一回り大きくなった。
「あはは。このままティターン神族が解放されていったら、また新たに楽園タルタロス山が復活するかもね」
「タルタロス山?」
「僕たちティターン神族がすんでいた場所だよ。天界とされるオリンポス山とちがって、人間たちには暗黒の地だとか魔界だとか言われているけどね」
ゼフィロスはそういって苦笑した。
「ですが、住めば都というように、その場所が天国のようになるか地獄のようになるかは、そこに住む者たち次第です。ドワーフ族やハーピー族たちには、この地を豊かにして、やがてはオリンポス山にも負けない楽園にしてくれることを期待します。
大地神ガイアはそういってほほ笑むのだった。
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