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番外編 バルザック視点
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宰相から俺へ連絡が来たのは、社交界が始まって、ふた月後のことだった。
社交界のシーズンは、地方の領主、貴族が王都に集まり、議会や夜会、晩餐会が開催される。
辺境領主である俺も、ちょうど王都のタウンハウスに滞在中だった。
極秘に宰相から聞かされたのが、「次男が王族の被害に遭っている」ということだった。
婚約者の第二王子から、一方的に婚約破棄を言い渡され、強姦教唆の罪で拘留されているという。
しかも、まともに議会や裁判が行われないまま、国王が判決を下し、俺のところの収容所送りが決まったのだそうだ。
第二王子といえば、評判の馬鹿王子か。
節操がなく、あちこちで男を食い散らかしては、権力で押さえ付ける馬鹿だ。
だが、一番の問題は、国王が第二王子の母妃を寵愛するあまり、妃と王子の言いなりになっていることだった。
「第二王子の母君の実家は、シュタイン候爵家でしたね」
「ああ、そして、シュタイン卿は保守派筆頭だ」
「はあ。で、宰相閣下は革新派筆頭、と」
「私は息子のことで、宰相の退任が決まってね。後任はレコンド候爵だ」
「確か、レコンド卿も保守派でしたか」
何のことはない。
宰相の次男は、第二王子の我が儘と政治の権力抗争に巻き込まれたのだ。
国王は、今、急速に民衆の支持を失っている。
が、王太子は聡明で人気も高く、革新派だった。
現国王在位中に、保守派の地盤を固めたいのか、或いは傀儡として孫である第二王子を国王に立てたいのか。
老害どもが。
もう、王族と貴族に権力が集中した時代じゃないことも分かってねえ。
「閣下には打つ手がおありのようだ。ご子息はお引き受けしましょう」
「ああ、恩に着る。勿論、礼はするよ」
固かった宰相の顔が緩む。
ああ、冷徹だのなんだの言われているが、人の親なんだな、と俺は思った。
□□□□
それから、俺なりに事件のことを調べてみた。
便宜を図ることは約束したが、派閥争いに加わるつもりはないし、話を鵜呑みにするつもりもない。
結果、シュタイン侯爵は真っ黒だった。
リュシオンが第二王子の婚約者に選ばれたのは、寵愛を受ける妃の実家への牽制だ。
第二王子のリュシオンへの態度は酷いものだったが、当の本人はけろっとしていたようだった。
断罪後、拘置所に収容された時は塞ぎ込んでいたが、その内、元気を取り戻したらしい。
食事もお代わりしていると報告を受けて、俺は思わず笑ってしまった。
「牢番達の人気も高いようです。貴族の子息なのに、腰も低くて丁寧だと」
「ふうん」
「最近は、牢番から聞く流行りの観劇の話が楽しみなようで」
「世間話してんじゃねえよ」
興味が湧いた。
宰相からは、便宜の礼に、自身の領地が持つ流通路から、南方領への塩の確保を優先的に行うことを提案された。
カインマート候爵領は大きな貿易港を持つ豊かな領地で、たとえ侯爵が宰相職を退任したとしても、十分な財力も権力もある。
その上、三年後には、優遇した量をさらに二倍にすると確約してきた。
つまりは、宰相には三年の内に、事態を解決する算段があるから、三年間は確実に子息を保護しろということだ。
南方領は内陸にあって、塩の確保が課題だったから、十分魅力的な提案だった。
それに、リュシオンにも興味が湧いた。
面白いと思ったら、首を突っ込まずにはいられない。
部下の騎士と、俺自身は囚人に扮して護送に潜り込むことに成功して。
そして俺は、リュシオンにハマってしまった。
素直で呑気で、貴族らしからぬ風変わりな性質は好ましいと思った。
無垢かと思えばエロく、そして、時折、縋るような寂しい表情を見せた。
本人に自覚がないのだろう。
深い部分で傷ついたそれを、俺が癒してやりたいと思った。
思えば、尻をひん剥いた時から気に入っていたのだ、俺は。
社交界のシーズンは、地方の領主、貴族が王都に集まり、議会や夜会、晩餐会が開催される。
辺境領主である俺も、ちょうど王都のタウンハウスに滞在中だった。
極秘に宰相から聞かされたのが、「次男が王族の被害に遭っている」ということだった。
婚約者の第二王子から、一方的に婚約破棄を言い渡され、強姦教唆の罪で拘留されているという。
しかも、まともに議会や裁判が行われないまま、国王が判決を下し、俺のところの収容所送りが決まったのだそうだ。
第二王子といえば、評判の馬鹿王子か。
節操がなく、あちこちで男を食い散らかしては、権力で押さえ付ける馬鹿だ。
だが、一番の問題は、国王が第二王子の母妃を寵愛するあまり、妃と王子の言いなりになっていることだった。
「第二王子の母君の実家は、シュタイン候爵家でしたね」
「ああ、そして、シュタイン卿は保守派筆頭だ」
「はあ。で、宰相閣下は革新派筆頭、と」
「私は息子のことで、宰相の退任が決まってね。後任はレコンド候爵だ」
「確か、レコンド卿も保守派でしたか」
何のことはない。
宰相の次男は、第二王子の我が儘と政治の権力抗争に巻き込まれたのだ。
国王は、今、急速に民衆の支持を失っている。
が、王太子は聡明で人気も高く、革新派だった。
現国王在位中に、保守派の地盤を固めたいのか、或いは傀儡として孫である第二王子を国王に立てたいのか。
老害どもが。
もう、王族と貴族に権力が集中した時代じゃないことも分かってねえ。
「閣下には打つ手がおありのようだ。ご子息はお引き受けしましょう」
「ああ、恩に着る。勿論、礼はするよ」
固かった宰相の顔が緩む。
ああ、冷徹だのなんだの言われているが、人の親なんだな、と俺は思った。
□□□□
それから、俺なりに事件のことを調べてみた。
便宜を図ることは約束したが、派閥争いに加わるつもりはないし、話を鵜呑みにするつもりもない。
結果、シュタイン侯爵は真っ黒だった。
リュシオンが第二王子の婚約者に選ばれたのは、寵愛を受ける妃の実家への牽制だ。
第二王子のリュシオンへの態度は酷いものだったが、当の本人はけろっとしていたようだった。
断罪後、拘置所に収容された時は塞ぎ込んでいたが、その内、元気を取り戻したらしい。
食事もお代わりしていると報告を受けて、俺は思わず笑ってしまった。
「牢番達の人気も高いようです。貴族の子息なのに、腰も低くて丁寧だと」
「ふうん」
「最近は、牢番から聞く流行りの観劇の話が楽しみなようで」
「世間話してんじゃねえよ」
興味が湧いた。
宰相からは、便宜の礼に、自身の領地が持つ流通路から、南方領への塩の確保を優先的に行うことを提案された。
カインマート候爵領は大きな貿易港を持つ豊かな領地で、たとえ侯爵が宰相職を退任したとしても、十分な財力も権力もある。
その上、三年後には、優遇した量をさらに二倍にすると確約してきた。
つまりは、宰相には三年の内に、事態を解決する算段があるから、三年間は確実に子息を保護しろということだ。
南方領は内陸にあって、塩の確保が課題だったから、十分魅力的な提案だった。
それに、リュシオンにも興味が湧いた。
面白いと思ったら、首を突っ込まずにはいられない。
部下の騎士と、俺自身は囚人に扮して護送に潜り込むことに成功して。
そして俺は、リュシオンにハマってしまった。
素直で呑気で、貴族らしからぬ風変わりな性質は好ましいと思った。
無垢かと思えばエロく、そして、時折、縋るような寂しい表情を見せた。
本人に自覚がないのだろう。
深い部分で傷ついたそれを、俺が癒してやりたいと思った。
思えば、尻をひん剥いた時から気に入っていたのだ、俺は。
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