王道学園のモブ

四季織

文字の大きさ
上 下
24 / 28

第23話 文化祭の終わり

しおりを挟む
 最後に花火が何十発も上がって、文化祭は幕を閉じた。
 フェスの終わりみたい。さすが、金持ち学校、規模が違う。


「俺の部屋に来ないか?」

 花火を見上げていたら、先輩が繋いだままの俺の手をぐっと握った。
 囁くように耳元で言われて、ドキッとする。

 いくらどんくさいって言われる俺でも、意味は分かるから。
 
 俺は、真っ赤になった顔を隠すように俯いて。
 掠れた声で「はい」って言った。


 そこで終われば良かったんだけど。

 鞄も荷物も、全部、教室のロッカーに置きっぱなしだったことに気づいたので、俺達は教室に取りに戻ることにした。
 やっぱりしまらないなぁ、俺。

 途中、先輩宛に電話が掛かってきたので、俺は一足先に教室へ向かう。


 人気がない廊下をいくと、教室から何か音が聞こえてきた。 
 バキッグシャッていう破壊音と、何かを罵るような声だ。


 そうっと教室を覗くと。
 
 俺達のティラノサウルスは足から千切られ、無惨に横たわっていて。
 罵りながら、周りの物を叩きつける白い体は……。


 渋谷あおい、主人公だった。


 ウェディングドレス姿のままで、ダンボールを蹴りながらブツブツと誰かのことを罵っている。
 聞こえてきた名前は、加賀谷のことだ。
 物音を立てた俺に気づいて、ゆっくり顔を上げた渋谷の目が俺を捉えた。


「お前が、悪いんだ。お前が最初に俺の邪魔をしたから。モブのくせに」


 え?


「折角、主人公に転生したのに、なんでこうなるんだよ! 俺が愛されなきゃおかしいだろ!? 全部お前のせいだ!」


 こいつ。
 転生者だ、俺と同じ。


 息を飲む俺を勘違いして、モブだから分からないんだろ、と渋谷は笑った。
 苛つかせる笑い声だった。


「あーあ、お前なんか、ヤられて蒼に嫌われるはずだったのに」


 え。もしかして?


「お前がレイプの首謀者?」
「そうだよ? モブが邪魔するからだろ。蒼の試合イベントも邪魔しやがって!」

 渋谷の目は吊り上がって、可愛い顔が残念なほど歪んでいた。


「俺は主人公なんだよ! 選択肢も間違ってない! どうして、皆、ゲームと違う動きするんだよ! お前らのせいだろ?!」
「ふざけんなよ!」

 ここは、ゲームじゃない。
 いや、ゲームの世界なんだろうけど。

「ここで生きてんだよ! 俺達も先輩も、お前と同じ感情がある人間なんだぞ! 物じゃないんだ!」

 でも、これは。
 
 これまでの俺に対する言葉だ。
 ゲームと比べてばかりだった俺への言葉なんだ。


 渋谷は、一瞬、虚を突かれた顔をしたけど、頭を振って、

「うるさい! うるさいうるさい、モブが俺に口出しするな!」

 渋谷の手にナイフが握られていた。
 俺の方が大きいし、素手なら負けないと思うけど、刃物を持たれると分からない。


「小坂!」

 先輩の声がした。
 渋谷が怯んだ隙に、俺は足元にあったティラノサウルスの残骸の一つを掴んで投げる。
 その手からナイフが転がった。

 飛び込んできた先輩が、渋谷を拘束する。
 その間も、渋谷はずっと「なんで俺が!」と叫び続けていた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。 それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。 友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!! なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。 7/28 一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...