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18 派手な半纏と灯さんと俺
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この世界に来て約8ヶ月目、俺は初めての冬を迎えている。
といっても、ここには四季がないようで、一気に寒さが来て体が追いつかない。
特に、今年は乾燥も酷いらしい。
そういや、俺が来てから全く雨が降ってないな。
このままだと、内陸部の水不足が深刻化しそうなんだって。
昼になっても気温が上がらないので、支給された半纏を着る。
綿が詰まってて快適なのに、お店の子達には不評だ。
派手だからだと思うんだよね。柄がうるさいのに目に痛い原色だから。
オーナーが選ぶと、どうしてこうなっちゃうんだろう。
本人は派手さに負けない顔の造りとオーラがあるからいいけど、普通の人のことを考えてほしい。
金剛さん達が「俺達も言ったんだけど」って申し訳なさそうに配るから、逆に申し訳なかった。
廊下をうろうろしていると、灯さんが仕事している姿を見かけた。
紺の着物にたすき掛けをして、背伸びして窓拭きをしていた。可愛い。
灯さんが来てから、半月が過ぎた。
痛々しかった傷もかさぶたになり、赤みも引いてきた。痕も目立たないといいんだけど。
灯さんは翌日からすぐに働き始め、あっという間にみんなから可愛がられるようになっていた。
気立てが良くて謙虚で可愛くて、一生懸命な姿が愛されないわけがない。
この街かこの世界の常識なのか。
ここの人達は、あまり体を売る仕事に悲観的じゃない。
むしろ、待遇のいいこの店で奉公できるのは喜ばしいことのようだし、誇りを持ってる人もいる。
灯さんから俺が体売ってることになにか言われたことはないけど、どう思ってるんだろう。
「ぽめ太くん!」
俺に気づいた灯さんが、手を止めて笑いかけてきた。可愛い。
「体は平気? ちゃんと食べた?」
「うん。いつもありがとう」
最初、灯さんは食も細かったんだ。ホントにどれだけ酷い目にあってたんだろう。
もし、豪商が逃げた灯さんを探してたらいけないから、灯さんは俺と同郷の出稼ぎの外国人ということにした。
逃げてきたことを知っているのは、オーナーとハザナさん、エルキドさんだけ。
そして、俺達が渡り人って知ってるのはオーナーだけだ。
「それでね、みんな僕のこと女だと思ってたみたいで……」
最近、灯さんの口から同じ下働きの小さな子達の話が出るようになった。
一緒に洗濯をしたり干し物をしている姿は、大男揃いの金剛さん達から「小さくて癒される」って密かに人気が高い。
その子達も灯さんに懐いてるし、灯さんも面倒見るのが上手い。妹弟とかいたのかな。
灯さんが急に話を止めて溜息をついた。
「どうかした?」
最近、話していてもつらそうな表情を見せるようになった。
「あ、ううん、ごめん。あれ? オーナーとハザナさんだ」
振り返った先に、廊下を曲がってくる大男二人の姿が見えた。
大男達もこっちに気づいたようだ。
「ぽめ太、お前、半纏着てるんだな」
「あ!」
着たままだった!
うわぁ、俺、こんなの着て歩いてたんだ。
にやにやしたハザナさんに言われるまで忘れてた。
「なんだ、あ!って」
「う、ううん、なんでも」
オーナーが怪訝そうに見てくるから、少し目を逸らす。
「アカリの邪魔してないだろうな」
助けのつもりなのか注意なのか、咳払いをしてハザナさんが口を挟んできた。助かった。
「あ、あの、ぽめ太くんは僕の手伝いをしてくれてて……」
「アカリはよくやってるってエルキドも褒めてたぞ」
ハザナさんがにこにこと笑みを見せて、灯さんの頭を撫でる。
扱いが違いませんかね! 人柄? 人柄のせい?
オーナーを見ると、ハザナさんの後ろでにやにやと俺を見ていた。
この根性悪そうな顔! でも、好き!
撫でられて戸惑ったように、でも頬を染める灯さんが可愛い。
そうだよね、21才で撫でられることってないから恥ずかしいよね。
といっても、ここには四季がないようで、一気に寒さが来て体が追いつかない。
特に、今年は乾燥も酷いらしい。
そういや、俺が来てから全く雨が降ってないな。
このままだと、内陸部の水不足が深刻化しそうなんだって。
昼になっても気温が上がらないので、支給された半纏を着る。
綿が詰まってて快適なのに、お店の子達には不評だ。
派手だからだと思うんだよね。柄がうるさいのに目に痛い原色だから。
オーナーが選ぶと、どうしてこうなっちゃうんだろう。
本人は派手さに負けない顔の造りとオーラがあるからいいけど、普通の人のことを考えてほしい。
金剛さん達が「俺達も言ったんだけど」って申し訳なさそうに配るから、逆に申し訳なかった。
廊下をうろうろしていると、灯さんが仕事している姿を見かけた。
紺の着物にたすき掛けをして、背伸びして窓拭きをしていた。可愛い。
灯さんが来てから、半月が過ぎた。
痛々しかった傷もかさぶたになり、赤みも引いてきた。痕も目立たないといいんだけど。
灯さんは翌日からすぐに働き始め、あっという間にみんなから可愛がられるようになっていた。
気立てが良くて謙虚で可愛くて、一生懸命な姿が愛されないわけがない。
この街かこの世界の常識なのか。
ここの人達は、あまり体を売る仕事に悲観的じゃない。
むしろ、待遇のいいこの店で奉公できるのは喜ばしいことのようだし、誇りを持ってる人もいる。
灯さんから俺が体売ってることになにか言われたことはないけど、どう思ってるんだろう。
「ぽめ太くん!」
俺に気づいた灯さんが、手を止めて笑いかけてきた。可愛い。
「体は平気? ちゃんと食べた?」
「うん。いつもありがとう」
最初、灯さんは食も細かったんだ。ホントにどれだけ酷い目にあってたんだろう。
もし、豪商が逃げた灯さんを探してたらいけないから、灯さんは俺と同郷の出稼ぎの外国人ということにした。
逃げてきたことを知っているのは、オーナーとハザナさん、エルキドさんだけ。
そして、俺達が渡り人って知ってるのはオーナーだけだ。
「それでね、みんな僕のこと女だと思ってたみたいで……」
最近、灯さんの口から同じ下働きの小さな子達の話が出るようになった。
一緒に洗濯をしたり干し物をしている姿は、大男揃いの金剛さん達から「小さくて癒される」って密かに人気が高い。
その子達も灯さんに懐いてるし、灯さんも面倒見るのが上手い。妹弟とかいたのかな。
灯さんが急に話を止めて溜息をついた。
「どうかした?」
最近、話していてもつらそうな表情を見せるようになった。
「あ、ううん、ごめん。あれ? オーナーとハザナさんだ」
振り返った先に、廊下を曲がってくる大男二人の姿が見えた。
大男達もこっちに気づいたようだ。
「ぽめ太、お前、半纏着てるんだな」
「あ!」
着たままだった!
うわぁ、俺、こんなの着て歩いてたんだ。
にやにやしたハザナさんに言われるまで忘れてた。
「なんだ、あ!って」
「う、ううん、なんでも」
オーナーが怪訝そうに見てくるから、少し目を逸らす。
「アカリの邪魔してないだろうな」
助けのつもりなのか注意なのか、咳払いをしてハザナさんが口を挟んできた。助かった。
「あ、あの、ぽめ太くんは僕の手伝いをしてくれてて……」
「アカリはよくやってるってエルキドも褒めてたぞ」
ハザナさんがにこにこと笑みを見せて、灯さんの頭を撫でる。
扱いが違いませんかね! 人柄? 人柄のせい?
オーナーを見ると、ハザナさんの後ろでにやにやと俺を見ていた。
この根性悪そうな顔! でも、好き!
撫でられて戸惑ったように、でも頬を染める灯さんが可愛い。
そうだよね、21才で撫でられることってないから恥ずかしいよね。
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