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12 渡り人?1

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 お菓子屋さんは、店からほど近い大通りにあった。
 洋館風な建物に、明治時代の女給さんみたいな衣装の店員さんがいて、ショーケースにお菓子が並んでいた。

 ハザナさんが店長さんらしき人と商談してる横で、俺はショーケースを物色していた。
 色とりどりのきらびやかなお菓子が並んでいる。
 こういうのは見てて楽しいもんだな。

「お取りしましょうか?」

 若い店員が俺に声をかけてきた。

 そうなんだ。
 お使いと別に、イシュレイ達に頼まれたおやつを探してるんだけど、俺は文字が読めない。

「あー」

 とりあえず、頼まれたお菓子の名前を順番に言っていく。

 店員が次々とトレイにお菓子を並べて行く。
 みたらし団子とバームクーヘンもどきだ。渡り人がもたらしたものだったりして。

「ん? どうしたの」

 注文を終えたハザナさんが、感心したように俺の隣で頷いていた。
 
「お前、ちゃんと覚えられるんだな」

 馬鹿にしすぎ!
 俺は文字が読めないけど、記憶力は普通なんです!

「いや、数も数えられないからてっきり……」

 てっきり何?! 頭足りないって思ってたってこと?
 10進法じゃないらしいから戸惑ってただけで、慣れたら計算だって出来るはず! 文字より全然まし!

「こちらで宜しいですか?」
「あ、あとお土産に何か欲しいんだけど、良さげなものありますか」
「そうでございますねぇ」

 店員さんに勧められたお菓子は、見た目はかりんとうだった。
 甘いのと辛いのがあるらしい。
 ハザナさんから「店の連中は割と好きだぞ」と聞いたので、小袋に分けて詰めてもらう。
 それを受け取って、俺はほくほくと外に出た。
 お客さん用のお菓子は、あとから納品されるそうでハザナさんは手ぶらだ。

「お土産って、誰に買ったんだ」
「サファス兄さんとイシュレイ達。サファス兄さんは俺の先生だし、お世話になってるから」

 こんなのがお礼になるか分からないけど、気持ちは伝えたい。

 そう言ったら、ハザナさんは目を細めて俺の頭を撫でた。オーナーにしろハザナさんにしろ、よく俺の頭を撫でる。
 ホントに足りない子だと思われてそうで怖い。

 あとは、馬車が停めてある停車場まで歩く。

 陰間茶屋がある風俗街は裏通りにあるから、部屋から見える景色も割とごちゃごちゃしてる。
 夜は賑やかできらびやかだけど、昼間は静かすぎるんだよね。

 だから、昼に人で賑わって馬車が行き交う大通りを歩くのは、珍しくて楽しい気持ちになる。
 特に店が並ぶ大通りは基本的に洋館が建ち並んでて、道も石畳に鋪装されているから綺麗だ。
 なのに、道行く人の服装が和装もどきだから、余計に異国情緒っていうか不思議な感じがする。

「あ……」

 きょろきょろ見渡してると、小柄な子が道を横断しようとしているのが目に入った。
 その後ろに馬車が迫ってるのに、その子は気づいていない。

「おい! ぽめ太!」

 急に走り出した俺の後ろでハザナさんの声がした。

 俺はその子の手を引いて、懐に抱えた。間一髪で、転がった俺達の横を馬車が駆け抜ける。
 御者の「気をつけろ!」と言う声が俺たちの上を流れていった。

 おいおい、止まらないのかよ。

「す、すみません、ありがとうござい……」

 腕の中で顔を上げた子は、俺に視線を釘付けにしていた。

「え」

 互いに見つめ合う形になる。

 黒髪黒目のいかにもアジア系の顔立ち。この街では珍しいあっさりした顔で、でも、俺より遥かに美人のこの子は……。

 え、渡り人?


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