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19 渡り人コミュニティ
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ユーシスさんから、宿屋に俺宛の伝言が届いたのは紋を彫った翌日だった。
前に言ってた渡り人コミュニティへのお誘いだ。
集いの日は、3日後だった。
正直、有り難い。紋を彫ったせいか、翌日俺は熱っぽくて一日起き上がれなかったんだ。
朝、目覚めて、慌てているオルの姿が目に飛び込んできた。
俺の額に手を当てたり、紋を彫った腕を見たりしたあと、おろおろと宿屋の奥さんを呼びに行った。
奥さんから貰った熱冷ましで冷やしていると、オルがイオさんを引き摺って飛び込んできた。
寝起きを叩き起こされたそうだ。申し訳ない。
結局、煎じ薬と熱冷ましのおかげか、夕方には痛みも怠さも楽になった。
彫ったその日にエッチしたせいもあると思うんだけどね。
俺が「楽になったよ」というと、オルは安心したように息を吐いた。
お父さんの死を目の当たりにしてるから、人が弱る姿に弱いのかもしれない。
「渡り人の集いだって。行っていい?」
オルは、ユーシスさんというと不機嫌をあらわにする。
渡り人コミュニティに対しても不満げだったので、なんとか宥めて、当日はイオさんに預かって貰うことにした。
新婚旅行を兼ねてるから、俺の単独行動にオルが怒るのも無理はない。熱も出して心配もかけた。
わがままかもしれないけど、でも、同郷と会う機会があるなら会いたいんだ。
突然、異世界に来て帰れないこと。こちらで暮らしていくことへの不安。
同じ境遇の人達と話せたら、悩みを分かち合えたら、少しは解消できるんじゃないかって思ったんだ。
でも。その日。
案内された料理屋の個室にいたのは、勇者とユーシスさんだけだった。
え、同郷とは言ったけど。
俺、そんな大物を望んでなかったのに。
勇者は、北小路颯人くんと言った。
年は17歳、背も高くて、名前も顔も爽やかなイケメンだ。
17歳といえば高2だよな。
まだ高校生なのに、勇者として異世界に召喚されて、魔王討伐の旅にまで行かされるなんて。
きっと不安でいっぱいだったろう。
「うーん。魔王って言っても、新開さんが想像するようなのじゃないんですよ」
北小路くんが言った。
要するに、永い年月を経て魔物同士が融合してしまった集合体を、この世界では魔王と言っていた。
キメラの方がイメージに近いのかな。
知能は高くないが、周囲の魔物の魔力をあげてしまうため討伐が必要なのだそうだ。
「この世界、人型の魔物はいないそうです。ゲームのラスボスみたいのを倒してみたかったんですけどね」
「でも、魔王は強かったんだろ?」
「んー、この世界の騎士も冒険者もすごく強いんですよ。俺、勇者として来た意味あったのかな?」
それは、北小路くんが最強の「勇者」だから言えるんだと思う。
魔王討伐の旅と道中の魔物狩りという、まさしく異世界ならではの話を聞いて、渡り人の集いは予想以上に盛り上がった。
お互い、突然、異世界に来た葛藤や不安も吐き出せたから余計にだ。
「新開さんも召喚されたんですよね?」
「違うよ。召喚されたら何かの能力があるんだろ? 俺にはないし」
「そうなんですか?」
ちなみに、彼は人なのに魔力を持っていて魔法が使えるそうだ。
いいなあ! 十分、異世界らしさ堪能してるよ。
礼儀正しいし楽しいし、王都にいる間にまた会おうと約束して、俺はオルが待つイオさんの仕事場に向かった。
はずだった。
まさか、俺が拉致されるなんて、思わなかったんだ。
前に言ってた渡り人コミュニティへのお誘いだ。
集いの日は、3日後だった。
正直、有り難い。紋を彫ったせいか、翌日俺は熱っぽくて一日起き上がれなかったんだ。
朝、目覚めて、慌てているオルの姿が目に飛び込んできた。
俺の額に手を当てたり、紋を彫った腕を見たりしたあと、おろおろと宿屋の奥さんを呼びに行った。
奥さんから貰った熱冷ましで冷やしていると、オルがイオさんを引き摺って飛び込んできた。
寝起きを叩き起こされたそうだ。申し訳ない。
結局、煎じ薬と熱冷ましのおかげか、夕方には痛みも怠さも楽になった。
彫ったその日にエッチしたせいもあると思うんだけどね。
俺が「楽になったよ」というと、オルは安心したように息を吐いた。
お父さんの死を目の当たりにしてるから、人が弱る姿に弱いのかもしれない。
「渡り人の集いだって。行っていい?」
オルは、ユーシスさんというと不機嫌をあらわにする。
渡り人コミュニティに対しても不満げだったので、なんとか宥めて、当日はイオさんに預かって貰うことにした。
新婚旅行を兼ねてるから、俺の単独行動にオルが怒るのも無理はない。熱も出して心配もかけた。
わがままかもしれないけど、でも、同郷と会う機会があるなら会いたいんだ。
突然、異世界に来て帰れないこと。こちらで暮らしていくことへの不安。
同じ境遇の人達と話せたら、悩みを分かち合えたら、少しは解消できるんじゃないかって思ったんだ。
でも。その日。
案内された料理屋の個室にいたのは、勇者とユーシスさんだけだった。
え、同郷とは言ったけど。
俺、そんな大物を望んでなかったのに。
勇者は、北小路颯人くんと言った。
年は17歳、背も高くて、名前も顔も爽やかなイケメンだ。
17歳といえば高2だよな。
まだ高校生なのに、勇者として異世界に召喚されて、魔王討伐の旅にまで行かされるなんて。
きっと不安でいっぱいだったろう。
「うーん。魔王って言っても、新開さんが想像するようなのじゃないんですよ」
北小路くんが言った。
要するに、永い年月を経て魔物同士が融合してしまった集合体を、この世界では魔王と言っていた。
キメラの方がイメージに近いのかな。
知能は高くないが、周囲の魔物の魔力をあげてしまうため討伐が必要なのだそうだ。
「この世界、人型の魔物はいないそうです。ゲームのラスボスみたいのを倒してみたかったんですけどね」
「でも、魔王は強かったんだろ?」
「んー、この世界の騎士も冒険者もすごく強いんですよ。俺、勇者として来た意味あったのかな?」
それは、北小路くんが最強の「勇者」だから言えるんだと思う。
魔王討伐の旅と道中の魔物狩りという、まさしく異世界ならではの話を聞いて、渡り人の集いは予想以上に盛り上がった。
お互い、突然、異世界に来た葛藤や不安も吐き出せたから余計にだ。
「新開さんも召喚されたんですよね?」
「違うよ。召喚されたら何かの能力があるんだろ? 俺にはないし」
「そうなんですか?」
ちなみに、彼は人なのに魔力を持っていて魔法が使えるそうだ。
いいなあ! 十分、異世界らしさ堪能してるよ。
礼儀正しいし楽しいし、王都にいる間にまた会おうと約束して、俺はオルが待つイオさんの仕事場に向かった。
はずだった。
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