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15 中央市役所1
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その翌日、俺達は早速、中央市役所に行った。
総合窓口で「結婚と渡り人の申請です」と告げても、事務的に担当課とそこへの行き方を示されただけだった。
ここ十数年、渡り人が来すぎて珍しさが減ってるって聞いてた通りの反応だ。
そうは言っても、ちょっとは驚かれるかなと気構えてた俺には拍子抜けだった。
それどころか、お役所的な対応に郷愁を感じるなんて。
社畜体質に涙が出そう。
「あ、あそこだよ、オル」
通路をうろうろして、やっと目的の担当課を見つけた。
広い部屋の中には、渡り人申請課と並んで住民課がある。住民課で婚姻の届け出を提出するようだ。
本籍地じゃなくてもいいっていうのがいいよな。
そもそも戸籍がどうなってるのかも分からないし。
オルはこの石造りの建物が苦手なようだった。
オルにしたら、窓も小さくて通路も狭く天井もそう高くないのは、閉塞感が増すんだろう。
早く手続きして外に出よう。
俺は、手前の受付に座っていたやる気なさそうな女性事務員に声をかけた。
「結婚と渡り人の届け出に来たんですが」
「あーはい、婚姻届ですね」
爪をいじっていた事務員は、俺達の顔も見ないで受付番号の札を取り出した。
それから、と言いかけて手を止める。
「渡り人の届け出、ですか?」
「はい。そうですけど?」
「あの、どちらが渡り人ですか?」
「俺です」
女性事務員がガタンッと椅子を引いて立ち上がった。
まじまじと俺の顔を見たあと、こちらへ、と俺達を誘導する。
なんだろう、この対応。
何か問題でもあるのかな?
通されたのは、立派な応接間らしきところだった。
しばらくして、さっきの事務員がお茶を運んできた。
「あの?」
「もうしばらくお待ちください」
「担当の方が来られるんですか?」
「あ、はい、そうです」
その間、オルは飲み慣れないお茶の匂いを嗅いでいた。動物か。
村長が紹介してくれた彫り師のところへ行く予定もある。
結婚届と同時に提出すれば、すんなり終わるんじゃなかったのか?
「オル、大丈夫?」
「ん?」
「気持ち悪いだろ、ここ狭いから」
一瞬ぽかんとしてから、オルの口元が緩んだ。
「あ、ちょっちょっと」
オルが俺の体を寄せて、頭にチュッてしてきた。
誰がいつ来るか分からないのに!
案の定、ドアがノックされ、眼鏡をかけたイケメンが登場した。
彼女の上司で担当の人だろうか。
それにしても、正統派美形だな。
金の長い髪を後ろで束ね、眼鏡の奥は青い瞳で、腰の位置も高いし組まれた足も長くすらっとしている。
フリフリな衣装を着てくれれば、ファンタジー世界の王子様みたいだ。
ほうっと息を漏らしたら、オルが臨戦体制で相手を睨んでた。なんでだ?
総合窓口で「結婚と渡り人の申請です」と告げても、事務的に担当課とそこへの行き方を示されただけだった。
ここ十数年、渡り人が来すぎて珍しさが減ってるって聞いてた通りの反応だ。
そうは言っても、ちょっとは驚かれるかなと気構えてた俺には拍子抜けだった。
それどころか、お役所的な対応に郷愁を感じるなんて。
社畜体質に涙が出そう。
「あ、あそこだよ、オル」
通路をうろうろして、やっと目的の担当課を見つけた。
広い部屋の中には、渡り人申請課と並んで住民課がある。住民課で婚姻の届け出を提出するようだ。
本籍地じゃなくてもいいっていうのがいいよな。
そもそも戸籍がどうなってるのかも分からないし。
オルはこの石造りの建物が苦手なようだった。
オルにしたら、窓も小さくて通路も狭く天井もそう高くないのは、閉塞感が増すんだろう。
早く手続きして外に出よう。
俺は、手前の受付に座っていたやる気なさそうな女性事務員に声をかけた。
「結婚と渡り人の届け出に来たんですが」
「あーはい、婚姻届ですね」
爪をいじっていた事務員は、俺達の顔も見ないで受付番号の札を取り出した。
それから、と言いかけて手を止める。
「渡り人の届け出、ですか?」
「はい。そうですけど?」
「あの、どちらが渡り人ですか?」
「俺です」
女性事務員がガタンッと椅子を引いて立ち上がった。
まじまじと俺の顔を見たあと、こちらへ、と俺達を誘導する。
なんだろう、この対応。
何か問題でもあるのかな?
通されたのは、立派な応接間らしきところだった。
しばらくして、さっきの事務員がお茶を運んできた。
「あの?」
「もうしばらくお待ちください」
「担当の方が来られるんですか?」
「あ、はい、そうです」
その間、オルは飲み慣れないお茶の匂いを嗅いでいた。動物か。
村長が紹介してくれた彫り師のところへ行く予定もある。
結婚届と同時に提出すれば、すんなり終わるんじゃなかったのか?
「オル、大丈夫?」
「ん?」
「気持ち悪いだろ、ここ狭いから」
一瞬ぽかんとしてから、オルの口元が緩んだ。
「あ、ちょっちょっと」
オルが俺の体を寄せて、頭にチュッてしてきた。
誰がいつ来るか分からないのに!
案の定、ドアがノックされ、眼鏡をかけたイケメンが登場した。
彼女の上司で担当の人だろうか。
それにしても、正統派美形だな。
金の長い髪を後ろで束ね、眼鏡の奥は青い瞳で、腰の位置も高いし組まれた足も長くすらっとしている。
フリフリな衣装を着てくれれば、ファンタジー世界の王子様みたいだ。
ほうっと息を漏らしたら、オルが臨戦体制で相手を睨んでた。なんでだ?
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