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:彩葉、逃げる:
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その頃、生放送を終えた彩葉はウキウキしていた。テレビ局を出て、二人でのんびり町を歩く。
最寄りの駅まで僅かな距離だが、日頃オフィスに籠ってばかりの彩葉にとってはいい気分転換になる。
「雅和くん、マサくん。こうやって顔をあわせるのは久しぶりだね!」
おう、と雅和と呼ばれた青年が照れたように笑った。屈強と言っていい雅和と華奢な彩葉が並んで歩くと、その凸凹ぶりがやたら目立つ。しかも雅和がスマートに彩葉をエスコートするものだから、まるでお姫さまとボディーガードである。
道行く人が思わず振り返るのも、無理はない。
「俺がイギリスに連れていかれる前にアメリカで会ったのが最後かな?」
「うん。まさかあの後、世界中あんなにあちこち飛び回るとは思わなかったよ。毎回届く手紙の滞在先が違うんだもん。お返事の出しようがなかったのよ」
そうだよな、と雅和はけらけらと笑う。その横顔を彩葉が少し眩しそうに見る。
子どもの頃から知っている『泣き虫マサくん』が帰国した。どんな青年に育っているかと思えば、いい意味で予想を裏切り、かなり頼もしい青年となって帰国したのだ。
「彩葉は、すっかり経営者の顔だよな。おれ、親父の会社継いだばっかりで右も左もわかんねぇ」
「最初のうちなんて、そんなものだよ」
「そんなもんかなぁ……」
「うん。わけわかんないことだらけで……。だけど、わけがわからないままはんこを捺すことはしたくないなって思ってる」
お前らしい考え方だな、と雅和が頷く。
「雅和社長のとこは多国籍だから……」
他愛ない話をしながらも、お互いが気になる店の前で足を止める。口には出さないが、ライバル社のリサーチであったり、新商品の売れ行きチェックであったり……。
「マサくん、ずいぶん時間かかっちゃったね」
「ああ、ついうっかりリサーチに熱が入っちまった」
と、交差点に差し掛かったあたりで、彩葉がぎょっとしたように足を止めた。
「な、なんで……?」
「どした?」
彩葉の目の前には、見慣れた黒塗りの車がとまっている。運転席にはショッキングピンクの金髪男がいる。となれば助手席には……。
「彩葉! 何をしている」
「げっ……」
彩葉は、ほぼ条件反射で回れ右をした。「あ、おい?」と雅和の戸惑ったような声がする。「ついてきて」とジェスチャーで告げれば、雅和も走り出す。逃げれば逃げるほど獣のような変態男に追い回されることがわかっているのだが、なぜか、捕まってたまるか! という心地だった。
――なんで真昼間のビジネス街に、大人のオモチャ持参しているのよ! 変態!
辰之進が手にしているピンクのブツが何であるか、彩葉は嫌というほど知っている。
今朝も着替えをしているときにいきなり太ももに当てられたし、昨日は転寝をしている間に秘所に押し付けられていた。
なかなかに刺激が強く、彩葉は二度ともあっという間にいかされてしまった。
そのままくったり弛緩した体をベッドに運ばれて、服を脱ぐこともなく怒張した辰之進自身を受け入れた。とろとろに愛液が溢れるそこは、あっさり根本まで飲み込み、きゅうきゅうと辰之進を締め付けた。彩葉の反応の良さに辰之進が大満足、いつでも使えるようにと持ち歩いているのである。
アレをここで、しかも、雅和の前で使われてはたまらない。
「彩葉、なぜ逃げる」
「変態、こないで……」
足を少しでも緩めればたちまちこの場でオモチャを装着されてしまう――そんな危機感に煽られて、彩葉は懸命に走る。
「彩葉、止まれ!」
止まれと言われてあたしが止まることなんて殆どないでしょ、と心の中で返事をする彩葉である。
「お前、毎度ご主人様の命令に逆らうとはどういう了見だ」
「なにがゴシュジンサマよ。ならあたしは、オクサマね」
「い、彩葉、言うようになったな……」
辰之進は、憤った。彩葉の回答も面白くないが、けろっとして彩葉の横を走る屈強な男が気に入らない。
「マサくん 逃げるよ!」
「へ?」
「来て! あんな変態、構っていられないわ」
いいのか? 婚約者だろう? と、雅和が質問を口にする。
「婚約なんて所詮口約束よ。あんな男、知らないっ! こっち!」
「お、おう……」
彩葉が、屈強な男と手を繋いで路地へ飛び込んだ――ように、辰之進には見えた。実際は、彩葉が雅和の腕を掴んで角を曲がっただけなのだが。
「なっ、なんてことだ! あああ、彩葉!」
辰之進、呆然としてその場に立ち尽くす。道行く人が何事かと振り返るが、ようやく追いついた疾風が「気にしないで」と愛想よく野次馬を追い払う。
「辰之進、どうしたのさ?」
「い、彩葉、その男とどういう関係なんだ……」
「なに?」
「彩葉が……男と逃げた」
最寄りの駅まで僅かな距離だが、日頃オフィスに籠ってばかりの彩葉にとってはいい気分転換になる。
「雅和くん、マサくん。こうやって顔をあわせるのは久しぶりだね!」
おう、と雅和と呼ばれた青年が照れたように笑った。屈強と言っていい雅和と華奢な彩葉が並んで歩くと、その凸凹ぶりがやたら目立つ。しかも雅和がスマートに彩葉をエスコートするものだから、まるでお姫さまとボディーガードである。
道行く人が思わず振り返るのも、無理はない。
「俺がイギリスに連れていかれる前にアメリカで会ったのが最後かな?」
「うん。まさかあの後、世界中あんなにあちこち飛び回るとは思わなかったよ。毎回届く手紙の滞在先が違うんだもん。お返事の出しようがなかったのよ」
そうだよな、と雅和はけらけらと笑う。その横顔を彩葉が少し眩しそうに見る。
子どもの頃から知っている『泣き虫マサくん』が帰国した。どんな青年に育っているかと思えば、いい意味で予想を裏切り、かなり頼もしい青年となって帰国したのだ。
「彩葉は、すっかり経営者の顔だよな。おれ、親父の会社継いだばっかりで右も左もわかんねぇ」
「最初のうちなんて、そんなものだよ」
「そんなもんかなぁ……」
「うん。わけわかんないことだらけで……。だけど、わけがわからないままはんこを捺すことはしたくないなって思ってる」
お前らしい考え方だな、と雅和が頷く。
「雅和社長のとこは多国籍だから……」
他愛ない話をしながらも、お互いが気になる店の前で足を止める。口には出さないが、ライバル社のリサーチであったり、新商品の売れ行きチェックであったり……。
「マサくん、ずいぶん時間かかっちゃったね」
「ああ、ついうっかりリサーチに熱が入っちまった」
と、交差点に差し掛かったあたりで、彩葉がぎょっとしたように足を止めた。
「な、なんで……?」
「どした?」
彩葉の目の前には、見慣れた黒塗りの車がとまっている。運転席にはショッキングピンクの金髪男がいる。となれば助手席には……。
「彩葉! 何をしている」
「げっ……」
彩葉は、ほぼ条件反射で回れ右をした。「あ、おい?」と雅和の戸惑ったような声がする。「ついてきて」とジェスチャーで告げれば、雅和も走り出す。逃げれば逃げるほど獣のような変態男に追い回されることがわかっているのだが、なぜか、捕まってたまるか! という心地だった。
――なんで真昼間のビジネス街に、大人のオモチャ持参しているのよ! 変態!
辰之進が手にしているピンクのブツが何であるか、彩葉は嫌というほど知っている。
今朝も着替えをしているときにいきなり太ももに当てられたし、昨日は転寝をしている間に秘所に押し付けられていた。
なかなかに刺激が強く、彩葉は二度ともあっという間にいかされてしまった。
そのままくったり弛緩した体をベッドに運ばれて、服を脱ぐこともなく怒張した辰之進自身を受け入れた。とろとろに愛液が溢れるそこは、あっさり根本まで飲み込み、きゅうきゅうと辰之進を締め付けた。彩葉の反応の良さに辰之進が大満足、いつでも使えるようにと持ち歩いているのである。
アレをここで、しかも、雅和の前で使われてはたまらない。
「彩葉、なぜ逃げる」
「変態、こないで……」
足を少しでも緩めればたちまちこの場でオモチャを装着されてしまう――そんな危機感に煽られて、彩葉は懸命に走る。
「彩葉、止まれ!」
止まれと言われてあたしが止まることなんて殆どないでしょ、と心の中で返事をする彩葉である。
「お前、毎度ご主人様の命令に逆らうとはどういう了見だ」
「なにがゴシュジンサマよ。ならあたしは、オクサマね」
「い、彩葉、言うようになったな……」
辰之進は、憤った。彩葉の回答も面白くないが、けろっとして彩葉の横を走る屈強な男が気に入らない。
「マサくん 逃げるよ!」
「へ?」
「来て! あんな変態、構っていられないわ」
いいのか? 婚約者だろう? と、雅和が質問を口にする。
「婚約なんて所詮口約束よ。あんな男、知らないっ! こっち!」
「お、おう……」
彩葉が、屈強な男と手を繋いで路地へ飛び込んだ――ように、辰之進には見えた。実際は、彩葉が雅和の腕を掴んで角を曲がっただけなのだが。
「なっ、なんてことだ! あああ、彩葉!」
辰之進、呆然としてその場に立ち尽くす。道行く人が何事かと振り返るが、ようやく追いついた疾風が「気にしないで」と愛想よく野次馬を追い払う。
「辰之進、どうしたのさ?」
「い、彩葉、その男とどういう関係なんだ……」
「なに?」
「彩葉が……男と逃げた」
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