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:メイド、落ち込む:

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 その日の夜、お風呂上がりの彩葉は、つけっぱなしになっていた大きなテレビ画面の前で硬直していた。
「え……これ、ど……ゆ、こと……?」
 熱愛スクープとして辰之進の写真がアップになっている。
 なんでも、辰之進と美人社長がカフェで待ち合わせをしたあと、美人社長の家を訪れたと言うのだ。
「いつのことだろ……?」
 辰之進はこのところずっと、屋敷内でナカゾノ工業の御曹司と一緒に仕事をしていたのだが――。
 さらに報道は面白おかしく続く。
 関係者の話として二人は幼馴染、物心つくかつかないかの頃からの付き合いがあり、婚約を発表した辰之進の相手は彼女だと見られるーーとコメンテーターが言う。
「あ、この人……知ってる。レイナさん!」
 道場で何度かすれ違ったことがある。その都度丁寧に挨拶してくれるはつらつとした美人なので彩葉も覚えていた。
「あの若さで有名な社長さんとは聞いてたけど……」
 辰之進の幼馴染だったとは知らなかった。
「二人が……熱愛?」
 そんなまさか、と、笑い飛ばそうとして顔が強張った。足元がふわふわとし、よろめくようにソファに座る。太ももに置いた自分の手が細かく震えていることに気付いて、ぎゅっと握る。
「まさか……そんなわけないよね……」
 辰之進が愛してると言ってくれたのも、婚約指輪をくれたのも、自分にだ。
 ついさっきまで、辰之進の膝の上に乗せられて辰之進を受け入れていた。辰之進は、急なオンライン会議とかでお仕事モードになってしまったが、彩葉の体にはまだ辰之進の『余熱』が残っている。首筋にも胸元にも、派手にキスマークがついている。
「婚約者……あたし、だよね?」
 急に自信がなくなり、テレビを消してスマホを取り出す。
 二人の関係について検索をするまでもなく、熱愛報道がトップニュース扱いで目に飛び込んできた。こんなとき、辰之進は有名人なのだと、いやでも想い知らされてしまう。
「……ほんとに、仲がいいんだ……」
 二人寄り添い、笑いあっている。彩葉の前では見せることのない顔つきの辰之進。体を寄せて笑いあい、恋人同士と言われても違和感なく受け入れられる。ニュースのコメント欄も賑やかだ。
 二人の経歴から、それぞれが経営している会社の年商までもが赤裸々に暴露され、二人が結婚したら資産がいくらになるかを試算した人まであった。
「……あたしより、彼女の方がお似合いだよ」

ーーどうしてあたしなの?

 消えたはずの思いが湧き上がってくる。辰之進の隣に立つのが自分で本当にいいのか。辰之進の愛情を信じないわけではないが、ほかに相応しい人がいるのではないか。一度吹き出した不安はたちまち彩葉の心を黒く染めていく。
「……とりあえず……帰ろ……」

 特に考えがあったわけではないが、荷物をまとめた彩葉はタクシーを止めるために大通りへと歩いていた。自室のベッドで転々と寝返りをうち、ウトウト微睡んだが、気持ちは沈むばかりだった。
 辰之進に話を聞こうと思ったものの、会議が白熱しているらしく声をかけるのをやめた。
 
ーーこんな時でも、英語で議論する姿はかっこいいって思うなんてあたしも……

 頭を一つふって、その場をしずかに後にする。
「どう、しよう?」
 誰に相談すればいいのかわからない。
けど、このお屋敷にいるのは苦しい。

「あーあ。満車ばっかりね……」
 何台のタクシーを見送っただろうか。とそこへ、白いスポーツカーが滑り込んできた。運転しているのは派手なピンクスーツに身を包んだ金髪の男性だ。
「女王様! こんな時間に一人で何やってんの?」
「あ、ナカゾノ工業の御曹司……こんばんは……」
「こんばんは。今日も可愛いね……ってそうじゃなくて。まさか、辰之進をフッてお家に帰るのかな? だったら嬉しいな」
 違います、と、彩葉は力なく笑う。
「これ、見ました?」
「んー?」
「熱愛スクープ」
 彩葉が差し出したスマホの画面を見た瞬間。
「な、なんてこった! 辰之進はどこ?」
 と、慌てはじめた。
「え? お屋敷でお仕事してますけど……英語でオンライン会議の真っ最中です」
「ああ、あの件だろうな……時間かかりそうだから……彩葉ちゃん、乗って。もう一人の話を聞きに行くよ」
 へ? と彩葉が目を丸くする。
「大丈夫、今はきみの体をじっくり味わっている余裕はないんだ、一大事だから」
「はぁ……」
 手早くスマホを操作したピンクスーツは「辰之進、彩葉ちゃんとレイナのとこへ向かうから」と告げて一方的に通話を切った。
「えーとね、後ろに座って。魅惑的なエロボディが隣にあると、胸をむき出しにして揉みまくってローター装着して喘がせたくなるから」
 揉みしだくジェスチャーをされて、彩葉は慌てて後部座席へ飛び込む。
「よし、じゃあ出発!」

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