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:若社長、勝ち取る:
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なぜだ、なぜだ、と辰之進は一日中考え込んでいる。
部屋から出てきてからも彩葉は辰之進を避け続けているのだ。
「やあ辰之進、彩葉ちゃんを諦めてぼくに譲る気になったかい?」
「何を言うか。俺はあいつと結婚する」
「あんな逃げられてるのに? 辰之進の気持ち、伝わってないんじゃないのかい?」
そんな! とナカゾノの御曹司に詰め寄った辰之進だがすぐ項垂れた。
「話し合いが必要なのだろうか?」
「会話せずどうやってわかりあうつもりなんだい? これはぼくたちが得意とする商談とは違うんだよ、馬鹿だね」
夕食後もものの見事に逃げられ、ついに思い余った辰之進は、赤い絹のロープを輪にし、通りがかる彩葉を待ち伏せて捕獲した。
「きゃー!」
「まさか、こんな罠で本当に捕まえられるとは思わなかった」
「どうして普通に声が掛けられないの、住良木辰之進!」
顔を真っ赤にした彩葉は、肩で呼吸をしながら喚いていた。己を抱え上げた不躾な腕から逃げようともがいて、失敗したのだ。
辰之進に捕まったらベッドに連れ込まれて快楽に溺れて蕩けてしまう。だから、結婚するかしないか心がきちんと決まるまで、全力で辰之進を回避しようとしはじめた矢先の出来事だっただけに彩葉を襲った衝撃は大きかった。
「え、普通に声をかけたら逃げ出すだろう? 全力で走って逃げられると、これまた捕まえられないことは学習済みだよ」
「だっ……それっ……」
「やっと、捕まえた。逃がさないから」
照れたように笑う辰之進だが、しかし彩葉の両手はしっかり拘束されている上、辰之進のベッドの上に放り出された。
「え、なんでベッドに……! 困ります!」
「あ、ごめん、つい……でも、いいか」
「何が!」
一人で何かを言いながら、ぎし、と辰之進がベッドに乗ってくる。ゆっくりと、動けずにいる彩葉に覆いかぶさった。
「な、なにする気……」
「返事を貰いに来た」
「は、い?」
「ナカゾノのあいつが……いや、なんでもない。彩葉、俺と結婚してくれるだろう?」
まっすぐ告げられて、彩葉の顔が瞬時に赤くなる。
「いや、あ、の、それは……その……」
こんなところでこんな体勢でする話ではないだろうと思わないこともないが、確かにこうでもされない限り、彩葉は走って逃げている。
「でも、あたしは……」
「彩葉には、俺と結婚する理由はないだろうけど、拒否する理由もない。違う?」
それはそうだけど、と、彩葉の目線が泳ぐ。
確かに拒否する理由はないのだが、かといって結婚するとなると「なんか違う」という思いが拭えないでいる。
「あたしは……好きな人同士で結婚するものだと思ってたから……」
やはり、と、辰之進が苦笑する。
「俺はね、気が付いたら彩葉のことが好きで好きで……可愛くて手放せなくなっていた」
「まさか……」
「こんなときに嘘は言わないよ。最初は――その、悪かったと思っている。まさか、処女で、純粋にうちで働くつもりで――その、俺の妻の座なんかまったく狙っていないなんて思わなかったんだ」
そうでしょうね、と、彩葉はくすっと笑った。たしかに愛されて処女を捧げたわけではない。
「けど――嫌だったわけでもなかったの」
「――知ってるよ。本当に嫌だったら、その後、徹底的に俺を避けただろうし、家に帰ったはずだから」
あ、と、彩葉は違う意味でうろたえた。
今更だが、辰之進を嫌っていない自分を認識してしまった。むしろ、身分が違うから辰之進に惹かれないよう、自制していた気さえする。
「嫌いじゃないないのよ、あなたのこと」
「ありがとう。嬉しいよ。死ぬときに、この男と結婚してよかったって思えるよう、彩葉を全力で愛して、全力で株式会社ユウキと彩葉を支えるから――俺と結婚しよ? っていうか、するって言うまで、逃がさないから」
スーツの上着を脱ぎ捨てた辰之進が、彩葉の耳朶に舌を這わせた。
「ひゃ……」
「いい声だ……」
かり、と歯を立てられて彩葉の肩が小さく震える。
そのまま辰之進の舌は、彩葉の首筋をなぞり鎖骨へと降りていく。
縛られたままの手は頭上に持ち上げられ、固定されてしまう。見上げると、辰之進は真剣な目で彩葉を覗き込んでいる。
真剣に見つめられると、心の奥底を見透かされそうで、慌てて目を閉じる。閉じた瞼に、キスが落ちてくる。優しく労わるような。
「彩葉、もしかして、俺に愛されてる自覚もないんだな?」
「……ない」
「迷うのも当然だ。よし、彩葉。次の休みは、デートしよう」
はい? と、彩葉の目が丸くなった。
「たっぷり愛して、楽しませてやるぞ」
ひょい、と抱き起こされて彩葉はまた目を丸くした。
「どうした?」
「このまま……流れ作業的に抱かれるのだとばかり思ってたから……」
う、と、辰之進が唸った。
「そうだな、いつも彩葉の意思を確認しなかったな……悪かったな、それも……」
そのまま彩葉の部屋まで送り届けた辰之進は、何もせずに回れ右をする。
「あ、あの……」
「ん?」
思わず呼び止めてしまい、彩葉は一人焦った。何を言えばいいかわからないし、どうしたいかもわからない。
でも、このまま別れるのは嫌だった。
「あ、あの、えっと……」
「うん?」
「……また、明日」
ぐっと背伸びをし、彩葉は辰之進にキスを贈った。
部屋から出てきてからも彩葉は辰之進を避け続けているのだ。
「やあ辰之進、彩葉ちゃんを諦めてぼくに譲る気になったかい?」
「何を言うか。俺はあいつと結婚する」
「あんな逃げられてるのに? 辰之進の気持ち、伝わってないんじゃないのかい?」
そんな! とナカゾノの御曹司に詰め寄った辰之進だがすぐ項垂れた。
「話し合いが必要なのだろうか?」
「会話せずどうやってわかりあうつもりなんだい? これはぼくたちが得意とする商談とは違うんだよ、馬鹿だね」
夕食後もものの見事に逃げられ、ついに思い余った辰之進は、赤い絹のロープを輪にし、通りがかる彩葉を待ち伏せて捕獲した。
「きゃー!」
「まさか、こんな罠で本当に捕まえられるとは思わなかった」
「どうして普通に声が掛けられないの、住良木辰之進!」
顔を真っ赤にした彩葉は、肩で呼吸をしながら喚いていた。己を抱え上げた不躾な腕から逃げようともがいて、失敗したのだ。
辰之進に捕まったらベッドに連れ込まれて快楽に溺れて蕩けてしまう。だから、結婚するかしないか心がきちんと決まるまで、全力で辰之進を回避しようとしはじめた矢先の出来事だっただけに彩葉を襲った衝撃は大きかった。
「え、普通に声をかけたら逃げ出すだろう? 全力で走って逃げられると、これまた捕まえられないことは学習済みだよ」
「だっ……それっ……」
「やっと、捕まえた。逃がさないから」
照れたように笑う辰之進だが、しかし彩葉の両手はしっかり拘束されている上、辰之進のベッドの上に放り出された。
「え、なんでベッドに……! 困ります!」
「あ、ごめん、つい……でも、いいか」
「何が!」
一人で何かを言いながら、ぎし、と辰之進がベッドに乗ってくる。ゆっくりと、動けずにいる彩葉に覆いかぶさった。
「な、なにする気……」
「返事を貰いに来た」
「は、い?」
「ナカゾノのあいつが……いや、なんでもない。彩葉、俺と結婚してくれるだろう?」
まっすぐ告げられて、彩葉の顔が瞬時に赤くなる。
「いや、あ、の、それは……その……」
こんなところでこんな体勢でする話ではないだろうと思わないこともないが、確かにこうでもされない限り、彩葉は走って逃げている。
「でも、あたしは……」
「彩葉には、俺と結婚する理由はないだろうけど、拒否する理由もない。違う?」
それはそうだけど、と、彩葉の目線が泳ぐ。
確かに拒否する理由はないのだが、かといって結婚するとなると「なんか違う」という思いが拭えないでいる。
「あたしは……好きな人同士で結婚するものだと思ってたから……」
やはり、と、辰之進が苦笑する。
「俺はね、気が付いたら彩葉のことが好きで好きで……可愛くて手放せなくなっていた」
「まさか……」
「こんなときに嘘は言わないよ。最初は――その、悪かったと思っている。まさか、処女で、純粋にうちで働くつもりで――その、俺の妻の座なんかまったく狙っていないなんて思わなかったんだ」
そうでしょうね、と、彩葉はくすっと笑った。たしかに愛されて処女を捧げたわけではない。
「けど――嫌だったわけでもなかったの」
「――知ってるよ。本当に嫌だったら、その後、徹底的に俺を避けただろうし、家に帰ったはずだから」
あ、と、彩葉は違う意味でうろたえた。
今更だが、辰之進を嫌っていない自分を認識してしまった。むしろ、身分が違うから辰之進に惹かれないよう、自制していた気さえする。
「嫌いじゃないないのよ、あなたのこと」
「ありがとう。嬉しいよ。死ぬときに、この男と結婚してよかったって思えるよう、彩葉を全力で愛して、全力で株式会社ユウキと彩葉を支えるから――俺と結婚しよ? っていうか、するって言うまで、逃がさないから」
スーツの上着を脱ぎ捨てた辰之進が、彩葉の耳朶に舌を這わせた。
「ひゃ……」
「いい声だ……」
かり、と歯を立てられて彩葉の肩が小さく震える。
そのまま辰之進の舌は、彩葉の首筋をなぞり鎖骨へと降りていく。
縛られたままの手は頭上に持ち上げられ、固定されてしまう。見上げると、辰之進は真剣な目で彩葉を覗き込んでいる。
真剣に見つめられると、心の奥底を見透かされそうで、慌てて目を閉じる。閉じた瞼に、キスが落ちてくる。優しく労わるような。
「彩葉、もしかして、俺に愛されてる自覚もないんだな?」
「……ない」
「迷うのも当然だ。よし、彩葉。次の休みは、デートしよう」
はい? と、彩葉の目が丸くなった。
「たっぷり愛して、楽しませてやるぞ」
ひょい、と抱き起こされて彩葉はまた目を丸くした。
「どうした?」
「このまま……流れ作業的に抱かれるのだとばかり思ってたから……」
う、と、辰之進が唸った。
「そうだな、いつも彩葉の意思を確認しなかったな……悪かったな、それも……」
そのまま彩葉の部屋まで送り届けた辰之進は、何もせずに回れ右をする。
「あ、あの……」
「ん?」
思わず呼び止めてしまい、彩葉は一人焦った。何を言えばいいかわからないし、どうしたいかもわからない。
でも、このまま別れるのは嫌だった。
「あ、あの、えっと……」
「うん?」
「……また、明日」
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