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:若社長、思案する:
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その日は、眠り込んだ彩葉を部屋へ送り届け、女性警備員を呼び寄せる。
「誰も近づけないでくれ」
と頼み、辰之進も自室へと戻る。
ピンクの塊は縛り上げて廊下に転がしておいたが、姿がない。大方、見回りに来た誰かが回収していったのだろう。
「これで帰宅してくれたらいいんだけどな……」
しかしナカゾノの御曹司はなかなかしぶとい。屋敷から撤退しなくても、彩葉から手を引いてくれればいい。
「彩葉は俺のものだ……他の誰にも渡さない……」
彩葉は絶対俺が幸せにする、辰之進の目が鋭くなった。
それから3日ほど彩葉は自分の部屋でゆっくり休んだ。ナカゾノの御曹司は、自宅ビルへ強制連行されたと言う。しばらくは、ここへは来ないだろう。メイド頭を通して彩葉に伝えたところ、夕食後、わざわざ辰之進の部屋に来た。
「彩葉!」
「明日からメイド頑張りますね!」
と、頭を下げた彩葉は白いTシャツにピンクのフレアスカートという格好だった。珍しい普段着姿に辰之進の頬が緩む。
「そんな格好も可愛いな、彩葉」
「ありがとうございます」
少しはにかんだような笑みを浮かべ髪を耳にかける。それが初めて見た彩葉の素顔のような気がして、辰之進は小さくうめいた。
「俺は今まで無理をさせていたのかな」
「え?」
「いや、なんでもない。ゆっくり元気を取り戻してくれたらいい」
辰之進らしくないセリフね、と彩葉が笑う。
「あなたなら、早く元気になれって言いそうなのに」
「あ、いや、まぁ……そうかもしれないな……。よければお茶でもどうだ?」
「はい」
ソファーに案内し、向かい合って座る。隣に並ぶと彩葉を抱きしめてしまいそうになるからだ。
そのまま彩葉には開発中の紅茶をふるまい、他愛もない話をして過ごした。
「彩葉とこうしてゆっくり喋るのは……面接以来か」
「これ、いいお紅茶ね。飲みやすくて好き」
「む、そうか……俺はインパクトが足らないから却下しようと思っていたけど……」
「あ、商品なの? 女の子は好むと思うけど……」
「だがうちのメイン層はそこじゃないんだ」
「あら、じゃあこれが当たれば新規顧客獲得ね」
ふーむ、と、辰之進は唸った。
「何かおかしなこと、いいました?」
「いや、参考になる」
「へ?」
「……ほんとに、いい女だよ。お前は俺だけのものだ」
ぽかんとした後、彩葉が真っ赤になった。
「な、何真顔で言ってるのよ、ばか!」
「ぐはーっ!」
「わかってるわよ、そんなこと!」
床に伸びた辰之進は、腰を押さえながら立ち上がった。
「お前は……技をかけるの……」
やめろ、と言う言葉は出なかった。素早く彩葉が辰之進の顔を固定し、唇にキスをした。
「……また明日ね!」
その翌朝、住良木辰之進は、すっきりした気持ちで朝を迎えた。
一つの案が浮かんでいた。
スーツに着替え、今日の予定をざっと確認する。
午前中は会議に次ぐ会議、午後は、モデルとしての撮影が入っている。
「そうだ、彩葉に音楽教室再建をきちんと説明しないとな……」
パソコンを立ち上げ、寝る前に作った資料をプリントアウトする。ざっと確認してファイルに入れて、彩葉へのメモを添えておく。
「よし」
辰之進は、あらゆる面において勝利を確信していた。
彩葉はこれを承諾してくれるだろうし、多少時間はかかるが音楽教室は黒字になるだろうという計算もできていた。ただ、これまでの辰之進なら「時間をかけて黒字転換」という選択肢はとらなかった。
少なからず、彩葉に影響をうけてしまったのだ。彼女と、経営についての深い話をしたことはないのだが、彩葉なら時間をかけてじっくりと立て直すだろうと確信に近い直感があった。
そして次は、彩葉を嫁に貰う件である。最難関であるかに思われたが、辰之進の「お前は、俺だけのものだ」という言葉を否定はしなかった。
「よし、これであいつは俺と結婚するはずだ!」
花嫁衣装はドレスだろうか、和装だろうか。それとも――。
指輪も用意しなくてはならないが、これは彩葉と一緒に選びたい。披露宴に誰を招待するか、悩ましい。
ふと、ジャケットの内側にローターが入れっぱなしになっていたことに気付いた。あの変態が使ったアイテムは、彩葉に対してしばらくは控えた方がいいだろう。
「そうだな……そろそろ新しいラブグッズを買わねばな……」
いつもいつも手足を縛って放置するのではバリエーションが乏しくなって飽きてくる。
思えば一緒に湯船に浸かったことがない。
ぬるぬるになる入浴剤を入れてみるのはどうだろうか。普段と触感が異なって興奮の度合いが高まるかもしれない。
案外、四方が透明のバスルームに連れていくだけで真っ赤になるのかもしれない。
いやいや、と、不埒な妄想を振り払う。ナカゾノの御曹司にひどい目にあわされて日が浅い。男なんか見たくもないだろうし、そっとしておいてほしいかもしれない。
「朝食前に彩葉に会いたいなぁ……」
「誰も近づけないでくれ」
と頼み、辰之進も自室へと戻る。
ピンクの塊は縛り上げて廊下に転がしておいたが、姿がない。大方、見回りに来た誰かが回収していったのだろう。
「これで帰宅してくれたらいいんだけどな……」
しかしナカゾノの御曹司はなかなかしぶとい。屋敷から撤退しなくても、彩葉から手を引いてくれればいい。
「彩葉は俺のものだ……他の誰にも渡さない……」
彩葉は絶対俺が幸せにする、辰之進の目が鋭くなった。
それから3日ほど彩葉は自分の部屋でゆっくり休んだ。ナカゾノの御曹司は、自宅ビルへ強制連行されたと言う。しばらくは、ここへは来ないだろう。メイド頭を通して彩葉に伝えたところ、夕食後、わざわざ辰之進の部屋に来た。
「彩葉!」
「明日からメイド頑張りますね!」
と、頭を下げた彩葉は白いTシャツにピンクのフレアスカートという格好だった。珍しい普段着姿に辰之進の頬が緩む。
「そんな格好も可愛いな、彩葉」
「ありがとうございます」
少しはにかんだような笑みを浮かべ髪を耳にかける。それが初めて見た彩葉の素顔のような気がして、辰之進は小さくうめいた。
「俺は今まで無理をさせていたのかな」
「え?」
「いや、なんでもない。ゆっくり元気を取り戻してくれたらいい」
辰之進らしくないセリフね、と彩葉が笑う。
「あなたなら、早く元気になれって言いそうなのに」
「あ、いや、まぁ……そうかもしれないな……。よければお茶でもどうだ?」
「はい」
ソファーに案内し、向かい合って座る。隣に並ぶと彩葉を抱きしめてしまいそうになるからだ。
そのまま彩葉には開発中の紅茶をふるまい、他愛もない話をして過ごした。
「彩葉とこうしてゆっくり喋るのは……面接以来か」
「これ、いいお紅茶ね。飲みやすくて好き」
「む、そうか……俺はインパクトが足らないから却下しようと思っていたけど……」
「あ、商品なの? 女の子は好むと思うけど……」
「だがうちのメイン層はそこじゃないんだ」
「あら、じゃあこれが当たれば新規顧客獲得ね」
ふーむ、と、辰之進は唸った。
「何かおかしなこと、いいました?」
「いや、参考になる」
「へ?」
「……ほんとに、いい女だよ。お前は俺だけのものだ」
ぽかんとした後、彩葉が真っ赤になった。
「な、何真顔で言ってるのよ、ばか!」
「ぐはーっ!」
「わかってるわよ、そんなこと!」
床に伸びた辰之進は、腰を押さえながら立ち上がった。
「お前は……技をかけるの……」
やめろ、と言う言葉は出なかった。素早く彩葉が辰之進の顔を固定し、唇にキスをした。
「……また明日ね!」
その翌朝、住良木辰之進は、すっきりした気持ちで朝を迎えた。
一つの案が浮かんでいた。
スーツに着替え、今日の予定をざっと確認する。
午前中は会議に次ぐ会議、午後は、モデルとしての撮影が入っている。
「そうだ、彩葉に音楽教室再建をきちんと説明しないとな……」
パソコンを立ち上げ、寝る前に作った資料をプリントアウトする。ざっと確認してファイルに入れて、彩葉へのメモを添えておく。
「よし」
辰之進は、あらゆる面において勝利を確信していた。
彩葉はこれを承諾してくれるだろうし、多少時間はかかるが音楽教室は黒字になるだろうという計算もできていた。ただ、これまでの辰之進なら「時間をかけて黒字転換」という選択肢はとらなかった。
少なからず、彩葉に影響をうけてしまったのだ。彼女と、経営についての深い話をしたことはないのだが、彩葉なら時間をかけてじっくりと立て直すだろうと確信に近い直感があった。
そして次は、彩葉を嫁に貰う件である。最難関であるかに思われたが、辰之進の「お前は、俺だけのものだ」という言葉を否定はしなかった。
「よし、これであいつは俺と結婚するはずだ!」
花嫁衣装はドレスだろうか、和装だろうか。それとも――。
指輪も用意しなくてはならないが、これは彩葉と一緒に選びたい。披露宴に誰を招待するか、悩ましい。
ふと、ジャケットの内側にローターが入れっぱなしになっていたことに気付いた。あの変態が使ったアイテムは、彩葉に対してしばらくは控えた方がいいだろう。
「そうだな……そろそろ新しいラブグッズを買わねばな……」
いつもいつも手足を縛って放置するのではバリエーションが乏しくなって飽きてくる。
思えば一緒に湯船に浸かったことがない。
ぬるぬるになる入浴剤を入れてみるのはどうだろうか。普段と触感が異なって興奮の度合いが高まるかもしれない。
案外、四方が透明のバスルームに連れていくだけで真っ赤になるのかもしれない。
いやいや、と、不埒な妄想を振り払う。ナカゾノの御曹司にひどい目にあわされて日が浅い。男なんか見たくもないだろうし、そっとしておいてほしいかもしれない。
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