81 / 106
:身代わり国王は騎士の手で花開くー2:
しおりを挟む
それからマティスが『回復』するまでには、一か月近い日数が必要だった。
その間、宮廷騎士の肩書はいったん返上、ローテローゼの傍には多くの騎士たちが交代で詰めた。
「マティス、これはこれで……良いわね」
「え!」
当然彼らには、ベルナールの長期不在、身代わりとしてローテローゼが男装していることを説明しなければならない。
誰もが驚き、そして、ローテローゼが何も言わないのに誰にもしゃべらないことを速やかに誓ってくれた。
だが、マティスはそれが面白くないらしい。ローテローゼさまのお傍にいるのは自分の特権なのに、と拗ねている。
「何言ってるの。はやく元気になりなさい」
数多の裂傷や打撲、骨折、刀傷の治りも悪かったのだが、爆風による火傷、細菌感染による高熱がマティスをたびたび苦しめた。
それでもマティスは、
「陛下のお傍にいなくては……」
そういって早々と退院し、制服に身を包んでローテローゼの隣に立つ。立つものの、倒れては入院、を繰り返した。そのたびにローテローゼは病院に駆けつけ、必死で看病した。
「ローテローゼさま、申し訳ございません」
「大丈夫よ、マティス。お願いだから、無理はしないでね」
何度目の入院だろうか。横たわるマティスは医師から退院禁止を申し渡されてしまい、心底申し訳なさそうである。
「ヴァーン皇子は……城の離れに乳母殿と一緒に軟禁されていると聞きました」
「ええ。まだ刑が確定していないから独房へ放り込めなくて……。でもね、ヴァーン皇子も怪我が治っていないから入退院を繰り返してるわ」
女を抱きたいと部屋を抜け出すが、城内の人々は皇子の姿を見ると近くの女性を守りに走る。そのため、皇子は女を抱けていない。
飢えた獣のように城内を彷徨い、女性を襲ってみるが、力の限りの抵抗にあい、傷が開いたり熱が出たりしてタターニャの手によって回収され病院へ押し込まれるのがお決まりだ。
「はやくすべての裁判を終わらせて、刑期も終えて、国にお帰り頂きたいものです。俺はあなたの身が心配でたまらない……」
「大丈夫よ、あれから一度も、襲われていないから」
病室で二人きりで過ごす穏やかな時間は、身代わりの国王という重責に押しつぶされそうになっているローテローゼにとって潤いをもたらす時間であったらしい。
「マティス、こうしてゆっくり一緒に過ごせるから幸せよ」
「俺もですよ」
マティスの腕が伸びてきて、ローテローゼの体をベッドへ引っ張り上げた。ぴたりと抱き合うと、ローテローゼが艶めかしい吐息を漏らした。
「マティス、まだだめよ。あなたの体力が……」
わかっています、と、言いながらマティスの手はローテローゼの太ももからお尻を撫でる。柔らかく、マティスの手によくなじむ。
「姫、俺が触ってももう、平気?」
「ええ、大丈夫よ……怖くないわ」
「無理はしないで。俺は、姫と一緒にいられること、キスで十分だから……」
「ありがとう」
ローテローゼの方から、マティスにキスをする。
舌を絡ませているうちにローテローゼの呼吸が荒くなる。鼻から抜ける甘い吐息、紅潮した頬。
「姫、色っぽいなぁ……」
ローテローゼはきょとんとするが――その瞳すら潤んで艶めかしい。
くるりと体を入れ替えて、ローテローゼをベッドに寝かせる。
「姫……我慢できません」
マティスの手が、ローテローゼが着ているシャツを脱がせる。胸を押しつぶしている布を手早く取り去ると、待ちかねていたのか白い二つの膨らみがこぼれ出てきた。
「……姫、先端がもう起ち上っていますよ」
「いや、言わないでよ……」
片方の膨らみを揉みながら、もう片方を口に含む。
「ひゃあ……」
ころころと舌先で転がされ、くりくりと指先で捏ねられる。たちまちローテローゼの背中を快楽の波が走り抜ける。
「だ、だめ、片方ずつ……!」
かりっ、と先端に歯を立てられ、ローテローゼの体が震える。
「……敏感な体ですね、姫……きっと、こちらも潤っているのでしょうね」
いつの間にかローテローゼの下半身も剥き出しになっている。茂みをかき分けてすっと差し込まれた指。擽る様に、這いまわる。
「あ、あ、そこはっ……」
「ああ、やっぱり」
くちくち、と、卑猥な音がしている。かあ、とローテローゼの顔が朱に染まった。
「早くあなたを抱きたいーー」
確かにローテローゼは、このところ色気が増していた。そのため、
「王が女の色香をまとわりつかせてはなりません」
と、宰相は苦言を呈さねばならなかった。
「今は、大事な裁判を控えているのですぞ! 執務に集中願います。陛下、ヴァーン皇子の裁判準備がありえないほどのスピードで整いました」
「え! やっとこの時が来たわね……」
宰相から渡される山のような資料を手にしたローテローゼが、腕まくりをする。
「ようやくここまでこぎつけたのよ。徹底的に、やるわ……懲役が何年になろうとも、賠償金がいくらになろうとも、ひるんではだめよ。皆につたえて!」
言伝を受け取った裁判官たちは、誰もが承知しました、と、頷いた。
数日後ーー。
ようやくヴァーン皇子を裁くその時になって、想定外の事態が起きた。
「まずは氏名をどうぞ」
「……黙秘する」
「被告人? 氏名を……」
「黙秘する。国も年齢も名も言うつもりはない」
まさかの、人定質問での黙秘である。
「なんてこと……!」
ローテローゼの目の前が、真っ暗になった。
暴行、強姦、監禁などの罪を犯した人間がヴァーン皇子であると起訴状には書かれている。
だが、その起訴状の中の人物と目の前の人物が同一人物だと証明しようにも、顔は大怪我で人相が変わっている。
手足や胴体の包帯もおびただしく、更に車いすに乗っているため「犯人と同一人物です」とは言い難い。
「いったい誰に入れ知恵されたのでしょうね……」
と、傍聴席で、マティスと宰相が苦笑とともにため息を漏らした。
「我が国の内に、ヴァーン皇子の味方がいるってことよね……接見禁止措置を求めるわ」
「そうですね……それが良いでしょう」
その間、宮廷騎士の肩書はいったん返上、ローテローゼの傍には多くの騎士たちが交代で詰めた。
「マティス、これはこれで……良いわね」
「え!」
当然彼らには、ベルナールの長期不在、身代わりとしてローテローゼが男装していることを説明しなければならない。
誰もが驚き、そして、ローテローゼが何も言わないのに誰にもしゃべらないことを速やかに誓ってくれた。
だが、マティスはそれが面白くないらしい。ローテローゼさまのお傍にいるのは自分の特権なのに、と拗ねている。
「何言ってるの。はやく元気になりなさい」
数多の裂傷や打撲、骨折、刀傷の治りも悪かったのだが、爆風による火傷、細菌感染による高熱がマティスをたびたび苦しめた。
それでもマティスは、
「陛下のお傍にいなくては……」
そういって早々と退院し、制服に身を包んでローテローゼの隣に立つ。立つものの、倒れては入院、を繰り返した。そのたびにローテローゼは病院に駆けつけ、必死で看病した。
「ローテローゼさま、申し訳ございません」
「大丈夫よ、マティス。お願いだから、無理はしないでね」
何度目の入院だろうか。横たわるマティスは医師から退院禁止を申し渡されてしまい、心底申し訳なさそうである。
「ヴァーン皇子は……城の離れに乳母殿と一緒に軟禁されていると聞きました」
「ええ。まだ刑が確定していないから独房へ放り込めなくて……。でもね、ヴァーン皇子も怪我が治っていないから入退院を繰り返してるわ」
女を抱きたいと部屋を抜け出すが、城内の人々は皇子の姿を見ると近くの女性を守りに走る。そのため、皇子は女を抱けていない。
飢えた獣のように城内を彷徨い、女性を襲ってみるが、力の限りの抵抗にあい、傷が開いたり熱が出たりしてタターニャの手によって回収され病院へ押し込まれるのがお決まりだ。
「はやくすべての裁判を終わらせて、刑期も終えて、国にお帰り頂きたいものです。俺はあなたの身が心配でたまらない……」
「大丈夫よ、あれから一度も、襲われていないから」
病室で二人きりで過ごす穏やかな時間は、身代わりの国王という重責に押しつぶされそうになっているローテローゼにとって潤いをもたらす時間であったらしい。
「マティス、こうしてゆっくり一緒に過ごせるから幸せよ」
「俺もですよ」
マティスの腕が伸びてきて、ローテローゼの体をベッドへ引っ張り上げた。ぴたりと抱き合うと、ローテローゼが艶めかしい吐息を漏らした。
「マティス、まだだめよ。あなたの体力が……」
わかっています、と、言いながらマティスの手はローテローゼの太ももからお尻を撫でる。柔らかく、マティスの手によくなじむ。
「姫、俺が触ってももう、平気?」
「ええ、大丈夫よ……怖くないわ」
「無理はしないで。俺は、姫と一緒にいられること、キスで十分だから……」
「ありがとう」
ローテローゼの方から、マティスにキスをする。
舌を絡ませているうちにローテローゼの呼吸が荒くなる。鼻から抜ける甘い吐息、紅潮した頬。
「姫、色っぽいなぁ……」
ローテローゼはきょとんとするが――その瞳すら潤んで艶めかしい。
くるりと体を入れ替えて、ローテローゼをベッドに寝かせる。
「姫……我慢できません」
マティスの手が、ローテローゼが着ているシャツを脱がせる。胸を押しつぶしている布を手早く取り去ると、待ちかねていたのか白い二つの膨らみがこぼれ出てきた。
「……姫、先端がもう起ち上っていますよ」
「いや、言わないでよ……」
片方の膨らみを揉みながら、もう片方を口に含む。
「ひゃあ……」
ころころと舌先で転がされ、くりくりと指先で捏ねられる。たちまちローテローゼの背中を快楽の波が走り抜ける。
「だ、だめ、片方ずつ……!」
かりっ、と先端に歯を立てられ、ローテローゼの体が震える。
「……敏感な体ですね、姫……きっと、こちらも潤っているのでしょうね」
いつの間にかローテローゼの下半身も剥き出しになっている。茂みをかき分けてすっと差し込まれた指。擽る様に、這いまわる。
「あ、あ、そこはっ……」
「ああ、やっぱり」
くちくち、と、卑猥な音がしている。かあ、とローテローゼの顔が朱に染まった。
「早くあなたを抱きたいーー」
確かにローテローゼは、このところ色気が増していた。そのため、
「王が女の色香をまとわりつかせてはなりません」
と、宰相は苦言を呈さねばならなかった。
「今は、大事な裁判を控えているのですぞ! 執務に集中願います。陛下、ヴァーン皇子の裁判準備がありえないほどのスピードで整いました」
「え! やっとこの時が来たわね……」
宰相から渡される山のような資料を手にしたローテローゼが、腕まくりをする。
「ようやくここまでこぎつけたのよ。徹底的に、やるわ……懲役が何年になろうとも、賠償金がいくらになろうとも、ひるんではだめよ。皆につたえて!」
言伝を受け取った裁判官たちは、誰もが承知しました、と、頷いた。
数日後ーー。
ようやくヴァーン皇子を裁くその時になって、想定外の事態が起きた。
「まずは氏名をどうぞ」
「……黙秘する」
「被告人? 氏名を……」
「黙秘する。国も年齢も名も言うつもりはない」
まさかの、人定質問での黙秘である。
「なんてこと……!」
ローテローゼの目の前が、真っ暗になった。
暴行、強姦、監禁などの罪を犯した人間がヴァーン皇子であると起訴状には書かれている。
だが、その起訴状の中の人物と目の前の人物が同一人物だと証明しようにも、顔は大怪我で人相が変わっている。
手足や胴体の包帯もおびただしく、更に車いすに乗っているため「犯人と同一人物です」とは言い難い。
「いったい誰に入れ知恵されたのでしょうね……」
と、傍聴席で、マティスと宰相が苦笑とともにため息を漏らした。
「我が国の内に、ヴァーン皇子の味方がいるってことよね……接見禁止措置を求めるわ」
「そうですね……それが良いでしょう」
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる