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:外道は許しません―4:

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「ああん? 俺の女になるんじゃねぇのか?」
「お断りします」
 ぎりっ、と、奥歯を噛み鳴らした皇子な大ぶりなナイフが取り出した。勢いよく振り下ろされたそれはローテローゼの顔の横にぐさりと突き立てられた。
 タターニャが悲鳴をあげて皇子に飛びかかるが、振り払われて壁に頭部を打ち付けた。
「乳母殿!」
 マティスがあわててタターニャに駆け寄る。
「大変だ……意識がない! なんてことをするんだ……」
「騎士の小僧、その婆なんぞ、捨て置け」
「そうは参りません」
 マティスがてきぱきと、タターニャを長椅子に寝かせ、応急手当てを始める。
「王女さまよ、もう一度言うぞ。おとなしく、俺の女になれ」
「お断りします」
「ちっ……可愛くねぇな……」
 ナイフの刃で頬を撫でられ、びくり、と、ローテローゼが震える。
 その、小さく震える頬や顎、喉を、ヴァーン皇子がねっとりと舐める。ぺちゃり、と、卑猥な音がローテローゼの耳に届く。
「いいのか? 玉座に座ってる王が実は女で、兄の身代わりをしている――つまりは周辺諸国を騙しているぞ、そう言ってまわっても」
「どうぞご自由に」
「ならば……今日こそ、最後まで貫いてやる。痛みに泣いて喚いて、許してくれと冀っても途中でやめないからな……。俺の女になると言うまで、犯し続けてやる。なに、お前の淫らな体も、俺が教えた快楽に飢えてるころだろう? ん? さあ、ベッドで俺のために、淫らに喘げ」
 言い終わるか終わらないかのうちに、ヴァーン皇子の体が大きく吹っ飛んだ。
「ぐはぁ!」
「……え!?」
 何事かと見れば、憤怒の形相のマティスがヴァーン皇子を殴り飛ばしたらしかった。
「き、貴様! 小僧!」
「さすがにこれ以上は、黙って聞いていられないーー我が王を愚弄するにも程がある」
 床に倒れたまま二発、三発と殴られたところでヴァーン皇子がようやく反撃に出る。が、怒り狂ったマティスの相手ではなかった。ごろごろと床を転がった末に、あっさりと床にねじ伏せられる。
「くそっ……」
 馬乗りになり、さらに二発、三発とマティスの怒りが炸裂する。ごきっ、ばごっ、と鈍い音が立て続けにする。だが、宰相がその腕を掴んだ。
「宰相、どうして止めるのですか! この外道のために何人の女性が泣いたと……」
「馬鹿者が! 落ち着きなさいマティス。それはお前が個人的に下した制裁でしかないのだよ。この男には、きちんと国家や社会が制裁をくわえなければならない。お前の悔しさ、怒りもよくわかるが、堪えろ」
 拳を振り上げたまま、ぎりり、と、唇を噛んだマティスの肩を、宰相が宥めるように叩いた。
「……ヴァーン皇子、我が国の法に従い収監させていただきます」
 きっぱりと、ローテローゼが告げた。
「な、なんだと?」
「現行犯逮捕です」
「なんの罪だ!」
「そうですね、わたしに対する迷惑防止条例違反、公然と侮辱されました侮辱罪、脅されたので脅迫罪……とでも申しましょうか」
 マティスが廊下にいる衛兵を呼ぶ。彼らが持ってきた手枷足枷をつけ、衛兵に前後左右をかためられたヴァーン皇子は、物でも運ぶかのように連行されていく。
「皇子」
 それを呼び止めたのは、マティスだった。
「んが!?」
「――決闘を申し込みます。外道を許すことはできません」
「外道? それは、俺のことか?」
「はい」
「本気なんだな? 本気で俺に決闘を申し込んでいるんだな?」
「はい。あなたを衆人環視のもと、倒します」
 皇子の目が丸くなり、ローテローゼは息を呑んだ。
「おもしれぇ。この国には決闘文化が残ってんのか」
「そうですね、三日後。場所は我が国最古の円形闘技場。あなたが勝てば、わたしはこの首を差し出します。わたしが勝てば、二度と腕力に物を言わせて女性を犯したり手荒くあつかったりしないと誓ってください」
 どうですか? と、マティスが問えば、皇子の目に怒りの炎が宿った。
「小僧、偉そうに……」
「是、ならこの手袋を拾ってください」
 ぽん、と床に投げられた白い手袋。このあたりで古来より行われている決闘の申し込みだ。しばらくそれを眺めたあと、ヴァーン皇子はゆったりと手袋を拾った。
「小僧、お前の命はあと三日だ」
「では、三日後。コロッセオでお会いしましょう」

 大変なことになった、と、ローテローゼは真っ青になっていた。
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