75 / 106
:外道は許しません―4:
しおりを挟む
「ああん? 俺の女になるんじゃねぇのか?」
「お断りします」
ぎりっ、と、奥歯を噛み鳴らした皇子な大ぶりなナイフが取り出した。勢いよく振り下ろされたそれはローテローゼの顔の横にぐさりと突き立てられた。
タターニャが悲鳴をあげて皇子に飛びかかるが、振り払われて壁に頭部を打ち付けた。
「乳母殿!」
マティスがあわててタターニャに駆け寄る。
「大変だ……意識がない! なんてことをするんだ……」
「騎士の小僧、その婆なんぞ、捨て置け」
「そうは参りません」
マティスがてきぱきと、タターニャを長椅子に寝かせ、応急手当てを始める。
「王女さまよ、もう一度言うぞ。おとなしく、俺の女になれ」
「お断りします」
「ちっ……可愛くねぇな……」
ナイフの刃で頬を撫でられ、びくり、と、ローテローゼが震える。
その、小さく震える頬や顎、喉を、ヴァーン皇子がねっとりと舐める。ぺちゃり、と、卑猥な音がローテローゼの耳に届く。
「いいのか? 玉座に座ってる王が実は女で、兄の身代わりをしている――つまりは周辺諸国を騙しているぞ、そう言ってまわっても」
「どうぞご自由に」
「ならば……今日こそ、最後まで貫いてやる。痛みに泣いて喚いて、許してくれと冀っても途中でやめないからな……。俺の女になると言うまで、犯し続けてやる。なに、お前の淫らな体も、俺が教えた快楽に飢えてるころだろう? ん? さあ、ベッドで俺のために、淫らに喘げ」
言い終わるか終わらないかのうちに、ヴァーン皇子の体が大きく吹っ飛んだ。
「ぐはぁ!」
「……え!?」
何事かと見れば、憤怒の形相のマティスがヴァーン皇子を殴り飛ばしたらしかった。
「き、貴様! 小僧!」
「さすがにこれ以上は、黙って聞いていられないーー我が王を愚弄するにも程がある」
床に倒れたまま二発、三発と殴られたところでヴァーン皇子がようやく反撃に出る。が、怒り狂ったマティスの相手ではなかった。ごろごろと床を転がった末に、あっさりと床にねじ伏せられる。
「くそっ……」
馬乗りになり、さらに二発、三発とマティスの怒りが炸裂する。ごきっ、ばごっ、と鈍い音が立て続けにする。だが、宰相がその腕を掴んだ。
「宰相、どうして止めるのですか! この外道のために何人の女性が泣いたと……」
「馬鹿者が! 落ち着きなさいマティス。それはお前が個人的に下した制裁でしかないのだよ。この男には、きちんと国家や社会が制裁をくわえなければならない。お前の悔しさ、怒りもよくわかるが、堪えろ」
拳を振り上げたまま、ぎりり、と、唇を噛んだマティスの肩を、宰相が宥めるように叩いた。
「……ヴァーン皇子、我が国の法に従い収監させていただきます」
きっぱりと、ローテローゼが告げた。
「な、なんだと?」
「現行犯逮捕です」
「なんの罪だ!」
「そうですね、わたしに対する迷惑防止条例違反、公然と侮辱されました侮辱罪、脅されたので脅迫罪……とでも申しましょうか」
マティスが廊下にいる衛兵を呼ぶ。彼らが持ってきた手枷足枷をつけ、衛兵に前後左右をかためられたヴァーン皇子は、物でも運ぶかのように連行されていく。
「皇子」
それを呼び止めたのは、マティスだった。
「んが!?」
「――決闘を申し込みます。外道を許すことはできません」
「外道? それは、俺のことか?」
「はい」
「本気なんだな? 本気で俺に決闘を申し込んでいるんだな?」
「はい。あなたを衆人環視のもと、倒します」
皇子の目が丸くなり、ローテローゼは息を呑んだ。
「おもしれぇ。この国には決闘文化が残ってんのか」
「そうですね、三日後。場所は我が国最古の円形闘技場。あなたが勝てば、わたしはこの首を差し出します。わたしが勝てば、二度と腕力に物を言わせて女性を犯したり手荒くあつかったりしないと誓ってください」
どうですか? と、マティスが問えば、皇子の目に怒りの炎が宿った。
「小僧、偉そうに……」
「是、ならこの手袋を拾ってください」
ぽん、と床に投げられた白い手袋。このあたりで古来より行われている決闘の申し込みだ。しばらくそれを眺めたあと、ヴァーン皇子はゆったりと手袋を拾った。
「小僧、お前の命はあと三日だ」
「では、三日後。コロッセオでお会いしましょう」
大変なことになった、と、ローテローゼは真っ青になっていた。
「お断りします」
ぎりっ、と、奥歯を噛み鳴らした皇子な大ぶりなナイフが取り出した。勢いよく振り下ろされたそれはローテローゼの顔の横にぐさりと突き立てられた。
タターニャが悲鳴をあげて皇子に飛びかかるが、振り払われて壁に頭部を打ち付けた。
「乳母殿!」
マティスがあわててタターニャに駆け寄る。
「大変だ……意識がない! なんてことをするんだ……」
「騎士の小僧、その婆なんぞ、捨て置け」
「そうは参りません」
マティスがてきぱきと、タターニャを長椅子に寝かせ、応急手当てを始める。
「王女さまよ、もう一度言うぞ。おとなしく、俺の女になれ」
「お断りします」
「ちっ……可愛くねぇな……」
ナイフの刃で頬を撫でられ、びくり、と、ローテローゼが震える。
その、小さく震える頬や顎、喉を、ヴァーン皇子がねっとりと舐める。ぺちゃり、と、卑猥な音がローテローゼの耳に届く。
「いいのか? 玉座に座ってる王が実は女で、兄の身代わりをしている――つまりは周辺諸国を騙しているぞ、そう言ってまわっても」
「どうぞご自由に」
「ならば……今日こそ、最後まで貫いてやる。痛みに泣いて喚いて、許してくれと冀っても途中でやめないからな……。俺の女になると言うまで、犯し続けてやる。なに、お前の淫らな体も、俺が教えた快楽に飢えてるころだろう? ん? さあ、ベッドで俺のために、淫らに喘げ」
言い終わるか終わらないかのうちに、ヴァーン皇子の体が大きく吹っ飛んだ。
「ぐはぁ!」
「……え!?」
何事かと見れば、憤怒の形相のマティスがヴァーン皇子を殴り飛ばしたらしかった。
「き、貴様! 小僧!」
「さすがにこれ以上は、黙って聞いていられないーー我が王を愚弄するにも程がある」
床に倒れたまま二発、三発と殴られたところでヴァーン皇子がようやく反撃に出る。が、怒り狂ったマティスの相手ではなかった。ごろごろと床を転がった末に、あっさりと床にねじ伏せられる。
「くそっ……」
馬乗りになり、さらに二発、三発とマティスの怒りが炸裂する。ごきっ、ばごっ、と鈍い音が立て続けにする。だが、宰相がその腕を掴んだ。
「宰相、どうして止めるのですか! この外道のために何人の女性が泣いたと……」
「馬鹿者が! 落ち着きなさいマティス。それはお前が個人的に下した制裁でしかないのだよ。この男には、きちんと国家や社会が制裁をくわえなければならない。お前の悔しさ、怒りもよくわかるが、堪えろ」
拳を振り上げたまま、ぎりり、と、唇を噛んだマティスの肩を、宰相が宥めるように叩いた。
「……ヴァーン皇子、我が国の法に従い収監させていただきます」
きっぱりと、ローテローゼが告げた。
「な、なんだと?」
「現行犯逮捕です」
「なんの罪だ!」
「そうですね、わたしに対する迷惑防止条例違反、公然と侮辱されました侮辱罪、脅されたので脅迫罪……とでも申しましょうか」
マティスが廊下にいる衛兵を呼ぶ。彼らが持ってきた手枷足枷をつけ、衛兵に前後左右をかためられたヴァーン皇子は、物でも運ぶかのように連行されていく。
「皇子」
それを呼び止めたのは、マティスだった。
「んが!?」
「――決闘を申し込みます。外道を許すことはできません」
「外道? それは、俺のことか?」
「はい」
「本気なんだな? 本気で俺に決闘を申し込んでいるんだな?」
「はい。あなたを衆人環視のもと、倒します」
皇子の目が丸くなり、ローテローゼは息を呑んだ。
「おもしれぇ。この国には決闘文化が残ってんのか」
「そうですね、三日後。場所は我が国最古の円形闘技場。あなたが勝てば、わたしはこの首を差し出します。わたしが勝てば、二度と腕力に物を言わせて女性を犯したり手荒くあつかったりしないと誓ってください」
どうですか? と、マティスが問えば、皇子の目に怒りの炎が宿った。
「小僧、偉そうに……」
「是、ならこの手袋を拾ってください」
ぽん、と床に投げられた白い手袋。このあたりで古来より行われている決闘の申し込みだ。しばらくそれを眺めたあと、ヴァーン皇子はゆったりと手袋を拾った。
「小僧、お前の命はあと三日だ」
「では、三日後。コロッセオでお会いしましょう」
大変なことになった、と、ローテローゼは真っ青になっていた。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる