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:束の間の休息―6:
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執務室の床に倒れているローテローゼを発見したのは、マティスだった。
「失礼します……って陛下!」
駆け寄ってその体を抱き起こす。その体が、軽い。公園でも思ったが、ローテローゼは少し、痩せただろうか。
「ん……顔色が悪い……」
執務室の長椅子に寝かせることも検討したが、ここは人がそれでもやってくる。万が一を考え、抱え上げて国王の私室へと運び込み、ベッドに寝かせた。
スカーフやシャツのボタンをはずし胸を押さえつけている布を緩める。トラウザーズのベルトも外せば、眠ったままのローテローゼが大きく息を吐いた。
相当、無理をしているのだろう。
――無理を強いているのは俺たちだ……
ローテローゼの、青いほどに白い頬をそっと撫でて、渇いた唇にキスを贈る。
「……ん、マティス?」
「……陛下、大丈夫ですか?」
「あ、わたし……」
「床に倒れていらしたのです。驚きました。勝手な判断で申し訳ないのですが、奥医師の診察を予約しました」
「だめよ、身代わりの国王ってバレちゃう! 急いでわたしの部屋に行きましょう……」
ベッドから降りようとするローテローゼの体がぐらりと揺れた。あわててマティスが押しとどめる。
「ま、マティス、足元が……ふわふわするわ」
「一度きちんと、診てもらいましょう。失礼ながら……大変な魘されようでした」
「ヴァーン皇子のことなら……そのうち、乗り越えられると思うから……」
「それもそうですが……身代わり、ということもローテローゼさまのお心に重たい影をおとしているのかと……」
そうね、と、ローテローゼは大きなため息をついて、ベッドの端に腰かけた。
「一人で、泥の池を進んでいる気分だわ。冷たくて暗くて、寂しいの」
思わず本音がこぼれてしまう。いけない、と思ったが、止まらなかった。
「わたしが何か失敗したら、国の威信にかかわるでしょ? 民の信頼を裏切ってもいけない。失敗を重ねたらあとでお兄さまが、尻ぬぐいに奔走することにもなるわ……。身代わりがこんなに大変だったなんて……」
何も言わずに聞いていたマティスが、ぎゅっとローテローゼの体を抱きしめた。
「ローテローゼさま、あなたはお一人じゃないんです」
「マティス?」
「俺を、頼ってくれ。一緒に玉座に座れるわけでもないし、御名御璽の重さは共有できない。いつでも一番近くにいたいんだ。頼りないと思うけど、あなたを支えると誓ったんだから……」
だめよ、と、ローテローゼが小さく首を横に振る。
「あなたは国王の騎士よ、忠誠はお兄さまに」
ローテローゼの手に、四角い箱がのせられた。
「これは?」
マティスが、箱を開けた。中から出てきたのは、先ほどジュエリーショップで見た指輪だ。
「……え? これ……?」
マティスが片膝をついてローテローゼの手を取った。
「王女……いえ、レディ・ローテローゼ・メリアメン・ノワゼット、俺と結婚してくれますか?」
こんなところでプロポーズする予定ではなかったんだけど、と、マティスは内心苦笑していた。
驚かせようと思って、サイズ調整に数日かかる、などとうそを吐いたが、さっき、ローテローゼが寝ている間に受け取ってきていた。
なぜなら、ローテローゼの指のサイズは前もってあの店に伝えてある。並んでいる指輪はローテローゼの指にあうものだけだった。そのため、本当に微調整だけで済み、店主がすぐに持ってきてくれたのだ。なんでも、いつでもローテローゼが社交界デビューできるようにと、ベルナールがあの店にデータを渡していたらしかった。
その指輪を持って、バルコニーか中庭に連れ出してプロポーズしようと思ったら――ローテローゼが倒れていたのだ。
「レディ――答えは?」
「イエス、よ。よろしくお願いいたします――」
よかった、ろ、マティスがローテローゼを強く抱きしめた。そのまま、ローテローゼの唇を塞ぐ。
ローテローゼの反応を伺うようにマティスの舌が唇を擽る。それにこたえたローテローゼが、少しだけ唇を開いた。
「んっ……」
ぬるりと侵入してきたマティスの舌は、遠慮がちにローテローゼの舌を突いた。ぴくん、と、ローテローゼの体が震える。
「は、んっ……」
頬の内側をなぞり、舌を絡める。湿った音とローテローゼの甘い吐息があたりに響く。
そのうちひとりで座っていられなくなったローテローゼが自らベッドに倒れ込み、マティスもそれを追いかけた。
「マティス……」
「はい」
「気持ちいい、もっと……」
承知、と、小さく頷いたマティスがローテローゼに覆いかぶさった。
「失礼します……って陛下!」
駆け寄ってその体を抱き起こす。その体が、軽い。公園でも思ったが、ローテローゼは少し、痩せただろうか。
「ん……顔色が悪い……」
執務室の長椅子に寝かせることも検討したが、ここは人がそれでもやってくる。万が一を考え、抱え上げて国王の私室へと運び込み、ベッドに寝かせた。
スカーフやシャツのボタンをはずし胸を押さえつけている布を緩める。トラウザーズのベルトも外せば、眠ったままのローテローゼが大きく息を吐いた。
相当、無理をしているのだろう。
――無理を強いているのは俺たちだ……
ローテローゼの、青いほどに白い頬をそっと撫でて、渇いた唇にキスを贈る。
「……ん、マティス?」
「……陛下、大丈夫ですか?」
「あ、わたし……」
「床に倒れていらしたのです。驚きました。勝手な判断で申し訳ないのですが、奥医師の診察を予約しました」
「だめよ、身代わりの国王ってバレちゃう! 急いでわたしの部屋に行きましょう……」
ベッドから降りようとするローテローゼの体がぐらりと揺れた。あわててマティスが押しとどめる。
「ま、マティス、足元が……ふわふわするわ」
「一度きちんと、診てもらいましょう。失礼ながら……大変な魘されようでした」
「ヴァーン皇子のことなら……そのうち、乗り越えられると思うから……」
「それもそうですが……身代わり、ということもローテローゼさまのお心に重たい影をおとしているのかと……」
そうね、と、ローテローゼは大きなため息をついて、ベッドの端に腰かけた。
「一人で、泥の池を進んでいる気分だわ。冷たくて暗くて、寂しいの」
思わず本音がこぼれてしまう。いけない、と思ったが、止まらなかった。
「わたしが何か失敗したら、国の威信にかかわるでしょ? 民の信頼を裏切ってもいけない。失敗を重ねたらあとでお兄さまが、尻ぬぐいに奔走することにもなるわ……。身代わりがこんなに大変だったなんて……」
何も言わずに聞いていたマティスが、ぎゅっとローテローゼの体を抱きしめた。
「ローテローゼさま、あなたはお一人じゃないんです」
「マティス?」
「俺を、頼ってくれ。一緒に玉座に座れるわけでもないし、御名御璽の重さは共有できない。いつでも一番近くにいたいんだ。頼りないと思うけど、あなたを支えると誓ったんだから……」
だめよ、と、ローテローゼが小さく首を横に振る。
「あなたは国王の騎士よ、忠誠はお兄さまに」
ローテローゼの手に、四角い箱がのせられた。
「これは?」
マティスが、箱を開けた。中から出てきたのは、先ほどジュエリーショップで見た指輪だ。
「……え? これ……?」
マティスが片膝をついてローテローゼの手を取った。
「王女……いえ、レディ・ローテローゼ・メリアメン・ノワゼット、俺と結婚してくれますか?」
こんなところでプロポーズする予定ではなかったんだけど、と、マティスは内心苦笑していた。
驚かせようと思って、サイズ調整に数日かかる、などとうそを吐いたが、さっき、ローテローゼが寝ている間に受け取ってきていた。
なぜなら、ローテローゼの指のサイズは前もってあの店に伝えてある。並んでいる指輪はローテローゼの指にあうものだけだった。そのため、本当に微調整だけで済み、店主がすぐに持ってきてくれたのだ。なんでも、いつでもローテローゼが社交界デビューできるようにと、ベルナールがあの店にデータを渡していたらしかった。
その指輪を持って、バルコニーか中庭に連れ出してプロポーズしようと思ったら――ローテローゼが倒れていたのだ。
「レディ――答えは?」
「イエス、よ。よろしくお願いいたします――」
よかった、ろ、マティスがローテローゼを強く抱きしめた。そのまま、ローテローゼの唇を塞ぐ。
ローテローゼの反応を伺うようにマティスの舌が唇を擽る。それにこたえたローテローゼが、少しだけ唇を開いた。
「んっ……」
ぬるりと侵入してきたマティスの舌は、遠慮がちにローテローゼの舌を突いた。ぴくん、と、ローテローゼの体が震える。
「は、んっ……」
頬の内側をなぞり、舌を絡める。湿った音とローテローゼの甘い吐息があたりに響く。
そのうちひとりで座っていられなくなったローテローゼが自らベッドに倒れ込み、マティスもそれを追いかけた。
「マティス……」
「はい」
「気持ちいい、もっと……」
承知、と、小さく頷いたマティスがローテローゼに覆いかぶさった。
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