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:想定外は続くー6:
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あまりにも低評価だが、今回ばかりは宰相も議長も、ベルナールをかばいようがない。
「でね? お兄さまを助けるには、どうしたらいいの? まさか、囚われの男が本物の国王です、城にいるのは偽物です、と宣言するわけにはいかないし……」
その宣言はまずいです、と、マティスと宰相が声を揃えて言う。
宰相どの、と、元老院議長が重い口を開いた。
「ベルナールさまをお助けするには……慣例通りにするならば、しかるべき保釈金を持参せねばならんと思うのです」
「うむ、儂もそれを思ったところ」
「金額は……安くは、ありませんな……」
「……うむ。しかし幸いなことに、ここ数年我が国は農作物が豊作で余剰穀物が発生しているし、珍しい黒薔薇が豊作であるからそれらを売りさばいて――なんとかなるであろう。財務大臣と法務大臣と協議して特例を整備すれば、なんとかなろう」
「……もちろん、然るべき身分の者が行かねばならぬわけで……」
「然るべき……ローテローゼさまか、儂か、議長どのか……」
どうしたらいいのか、と、誰もが思った。
ただでさえ戴冠式とヴァーン皇子の件で忙しい。勝手に駆け落ちして勝手に囚われ人になった王のことなど知ったことではない――と、全員の顔に書いてある。
だからといって、本当にこのまま放っておくわけにもいかないが。
ぽん、と、ローテローゼが膝を打った。
「お兄さまのことは……しばらく放っておきましょう。先方には、お金を持っていずれそのうち迎えに行くからしばらく預かっておいてくれと、返信してちょうだい」
「ローテローゼさま!? なんと!」
「勝手に駆け落ちなんかするから、こうなるのよ! しばらく、囚人として暮らして反省してもらえばいいわ」
ふん、と腕を組む姿は頼もしさすら感じさせる。
「ちょうどいいわ、この際、国王不在を明かしてしまいましょう」
「し、しかし!」
「大丈夫よ、宰相。ヴァーン皇子がいつ、わたしが身代わりだってバラすかわからないものね。消息をたっていた国王の安否が判明するまで、妹であるわたしが男装で誤魔化していた。今回、兄の所在が判明したから男装を解いた。同時に兄が窮地に陥っていることもわかったため、妹が仮王として国を預かることになった、それでどうかしら?」
宰相と議長は顔を見合わせた。
「それならば――視察中に消息をたったことにすれば、外聞はいいでしょう」
「そうね。それならアナスタシアの名誉も守れるわね」
よし、と、ローテローゼは立ち上がった。
「宰相、議長、早急にわたしを仮王として立ててくれる? 本来の王が玉座に戻るまでの措置といった意味合いで設けられるのだと思うけれど……その権力や責任は本物の王のそれと大差ないのだったら、しかるべき手続きが必要なのでは?」
「ご理解が早くて助かります。仰る通り、元老院と臣、王家全員の許可が必要です」
感嘆したように元老院議長が言い、頭を下げた。
「それで、わたしは具体的に何をすればいいの?」
「仮王ローテローゼさま最初の仕事は、穀物や薔薇を売り払う書類をととのえ、特例を制定することでしょう」
宰相が告げると、ローテローゼは大きく頷く。
そして、ベルナール救助のための『特使』としての格も数段あがる。ローテローゼが仮王となることは、良いこと尽くしに思われた。
「すぐに、ローテローゼさま仮王就任の手続きをとります」
元老院議長が立ち上がり、宰相も立ち上がる。
「――仮とは言え王の伴侶、マティスを王族に組み入れる書類も、早急に進めないとならぬな」
「は、はぁ……俺が王族……?」
想像できないな、と、マティスが銀色の髪をかき上げる。
「さあ、マティス! 近いうちに、王女の結婚相手のお披露目晩餐会を開かなくてはならないわ。騎士の制服ではない貴族子弟の正装とーーけ、け、け、結婚指輪を買いに行きましょう」
「買い物ですか!? 今から?」
「今でも、明日でも……」
すっと立ち上がったローテローゼは、どこかぼんやりとした表情のマティスの腕に手を添えた。
「ね、マティス。ほんのちょっとだけでいいの。普通の女の子としてデートしてくれない?」
おねがい、と可愛らしく拝まれて、マティスの頬が緩んだ。
「仕方ありませんね。ほんの少しだけですよ。構わないでしょうか、宰相」
「――ああ。城の閉門までに戻ってくればいい。今宵は晩餐会も舞踏会もない」
やった、と、ローテローゼが飛び跳ねて喜んだ。
「でね? お兄さまを助けるには、どうしたらいいの? まさか、囚われの男が本物の国王です、城にいるのは偽物です、と宣言するわけにはいかないし……」
その宣言はまずいです、と、マティスと宰相が声を揃えて言う。
宰相どの、と、元老院議長が重い口を開いた。
「ベルナールさまをお助けするには……慣例通りにするならば、しかるべき保釈金を持参せねばならんと思うのです」
「うむ、儂もそれを思ったところ」
「金額は……安くは、ありませんな……」
「……うむ。しかし幸いなことに、ここ数年我が国は農作物が豊作で余剰穀物が発生しているし、珍しい黒薔薇が豊作であるからそれらを売りさばいて――なんとかなるであろう。財務大臣と法務大臣と協議して特例を整備すれば、なんとかなろう」
「……もちろん、然るべき身分の者が行かねばならぬわけで……」
「然るべき……ローテローゼさまか、儂か、議長どのか……」
どうしたらいいのか、と、誰もが思った。
ただでさえ戴冠式とヴァーン皇子の件で忙しい。勝手に駆け落ちして勝手に囚われ人になった王のことなど知ったことではない――と、全員の顔に書いてある。
だからといって、本当にこのまま放っておくわけにもいかないが。
ぽん、と、ローテローゼが膝を打った。
「お兄さまのことは……しばらく放っておきましょう。先方には、お金を持っていずれそのうち迎えに行くからしばらく預かっておいてくれと、返信してちょうだい」
「ローテローゼさま!? なんと!」
「勝手に駆け落ちなんかするから、こうなるのよ! しばらく、囚人として暮らして反省してもらえばいいわ」
ふん、と腕を組む姿は頼もしさすら感じさせる。
「ちょうどいいわ、この際、国王不在を明かしてしまいましょう」
「し、しかし!」
「大丈夫よ、宰相。ヴァーン皇子がいつ、わたしが身代わりだってバラすかわからないものね。消息をたっていた国王の安否が判明するまで、妹であるわたしが男装で誤魔化していた。今回、兄の所在が判明したから男装を解いた。同時に兄が窮地に陥っていることもわかったため、妹が仮王として国を預かることになった、それでどうかしら?」
宰相と議長は顔を見合わせた。
「それならば――視察中に消息をたったことにすれば、外聞はいいでしょう」
「そうね。それならアナスタシアの名誉も守れるわね」
よし、と、ローテローゼは立ち上がった。
「宰相、議長、早急にわたしを仮王として立ててくれる? 本来の王が玉座に戻るまでの措置といった意味合いで設けられるのだと思うけれど……その権力や責任は本物の王のそれと大差ないのだったら、しかるべき手続きが必要なのでは?」
「ご理解が早くて助かります。仰る通り、元老院と臣、王家全員の許可が必要です」
感嘆したように元老院議長が言い、頭を下げた。
「それで、わたしは具体的に何をすればいいの?」
「仮王ローテローゼさま最初の仕事は、穀物や薔薇を売り払う書類をととのえ、特例を制定することでしょう」
宰相が告げると、ローテローゼは大きく頷く。
そして、ベルナール救助のための『特使』としての格も数段あがる。ローテローゼが仮王となることは、良いこと尽くしに思われた。
「すぐに、ローテローゼさま仮王就任の手続きをとります」
元老院議長が立ち上がり、宰相も立ち上がる。
「――仮とは言え王の伴侶、マティスを王族に組み入れる書類も、早急に進めないとならぬな」
「は、はぁ……俺が王族……?」
想像できないな、と、マティスが銀色の髪をかき上げる。
「さあ、マティス! 近いうちに、王女の結婚相手のお披露目晩餐会を開かなくてはならないわ。騎士の制服ではない貴族子弟の正装とーーけ、け、け、結婚指輪を買いに行きましょう」
「買い物ですか!? 今から?」
「今でも、明日でも……」
すっと立ち上がったローテローゼは、どこかぼんやりとした表情のマティスの腕に手を添えた。
「ね、マティス。ほんのちょっとだけでいいの。普通の女の子としてデートしてくれない?」
おねがい、と可愛らしく拝まれて、マティスの頬が緩んだ。
「仕方ありませんね。ほんの少しだけですよ。構わないでしょうか、宰相」
「――ああ。城の閉門までに戻ってくればいい。今宵は晩餐会も舞踏会もない」
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