身代わりで男装した王女は宮廷騎士の手で淫らに健気に花開く

酉埜空音

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:想定外は続くー4:

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 とそこへ、あわただしく扉がノックされ、
「元老院議長です、入れてくだされ。至急お耳に入れたいことが!」
 議長が扉の外で喚きながら足踏みしている気配がした。沈着冷静さでは宰相といい勝負の彼が珍しい。
 ローテローゼが慌ててマティスから離れて、執務机に戻る。
 それを確認した宰相が扉をゆっくり開けると同時に、元老院議長が飛び込んできた。額に汗が浮いている。
「議長、何か……」
 マティスがいい終わらないうちに、議長が大きく頷く。
「一点目、――例の自称先王の異母兄殿下、正体がすぐに割れましてございます。二点目、駆け落ち中のアナスタシアから宰相さま宛の書簡でございます!」
「なに? 異母兄殿下の正体とは?」
「元は墓荒らしだそうです。墓荒らしとして指名手配されており行方を追っていた者が多数いたため、警備隊と書庫に詳しい資料があり、それらもすぐ手に入りました」
 であろうな、と、宰相は一つ頷いた。
「それも――夭折された殿下の墓を荒らしたそうで……」
「やはりそうであったか。まこと許しがたい……」
 ぎりり、と、宰相が唇を噛んだ。
 どういうこと? と、ローテローゼとマティスが二人の老人を見る。元老院議長が口を開いた。
「ローテローゼさまはご存じないことでしょうかな。ローテローゼさまのお父上さまには、幼くして天に召された兄王子がいらしたのです」
 そうだったの、と、ローテローゼが身を乗り出す。
「ただし、あの男が言うような異母ではなく、同母でいらっしゃいましてな。待望の第一子であらせられたので、誕生後すぐに、王位継承権とペンダントが授けられたのです。が、病弱なお方で、たびたび病を得られ、治療や祈祷の甲斐もなく、幼くしてお亡くなりになりました。その後、先王がお生まれになって無事にご成長あそばされたのです」
「知らなかったわ……。わたしの、おじさまにあたるのよね。お墓はどこに?」
「『王家の渓谷』のはずれにございますが、あまり公にはなっておりません。その男も、墓を偶然見つけたそうにございまして、そこからペンダントを盗み出し、ふと思いついて先王の異母兄として十年ほど暮らしていたそうです」
「十年も? どうして誰も気付かなかったの?」
「北の土地の領主として少人数で暮らしておったのですな。近隣住民には、病弱な王族が療養がてら領主に就任していると吹き込んでいたそうで……そのあたりは、これから人をやって調べます」
 お願いね、と、ローテローゼが神妙な顔で頷く。
「で、アナスタシアからの書簡、って言ったわね? なんて言って来たの?」
 先に書簡を披いた宰相が、ぶっと噴き出したかと思うと、やれやれ、と、苦笑を浮かべた。そして、ぽん、と、マティスの肩を叩いた。
「マティス、一つ、言っておかねばならんな」
「は、はい」
「ローテローゼさまと結婚し、ローテローゼさまの夫になるということは――そなたは王族の仲間入りをすることになるだろう。なぜならば、王の配偶者は王族でなければならない」
「……まって、わたしは王ではないわ。王女よ?」
「――ベルナールさまは、しばらくお戻りにならない。仮の王を立てねばならん」
「仮、の王? 身代わり、ではなくて?」
「はい」
「というか、お兄さまがしばらく戻らない?」
「はい」
 わけがわからない、と。ローテローゼもマティスも、目をパチパチさせて宰相と元老院議長を見た。
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