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:身代わりの復活ー7:

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「陛下、我が国の宮廷騎士だけに与えられた特権をご存知ですか?」
 マティスが突然、前を向いたまま言った。
「特権? 王の傍近くにいることではなく?」
「それも確かに特権ですが、それだけではありません」
「聞いたことないわね、何?」
「前提としてーーというか各国の共通認識でもありますが、原則、謁見の間には誰も武器の類は持ち込めません。我が国では、入室の際に帯剣が許されているのは宮廷騎士、つまりわたしだけです。それは陛下もご存知ですね」
「知っている。けど、それは形だけのもので護身用と称してたいていの武官が武器を持っている。ヴァーン皇子だって、見た目は丸腰だけれどもローブの下や懐に短剣を持っている可能性は高いだろう」
「はい。そこで我が国は――というか、先々代の国王陛下が、無礼討ちという制度を導入されました」
 ローテローゼが目を瞬かせた。
「それは、どういう……?」
「許可なく玉座に近寄る者や主君に対して耐えがたい屈辱を与えた者や、宮廷騎士が必要と判断した時、問答無用でその相手を切り捨てていいことになっているのです」
「知らなかった……」
「もちろん、誰が見ても『無礼』あるいは『危険』であった時しか使えませんし、正当な斬り捨てだったのか、厳しい取り調べが待っています」
「正当であると認められなかった場合は?」
「よくて投獄、最悪、死罪です。王のお傍で剣を抜いたのですから、それ相応の罰が下されます。特権とはそういうことなのです」
 マティスが、愛剣をちょっと掲げて見せた。その、落ち着いているが引き締まった表情にローテローゼは一瞬見惚れたが、マティスはそれに気付くことなく、剣の位置を直す。
「これは、代々宮廷騎士から宮廷騎士へ伝えられることなのです。ですので、あまり公にはなっていませんが、全く知られていないというわけでもないのです」
「わたしに喋っても大丈夫なの?」
 はい、と、マティスが頷く。
「身代わりとはいえ今は間違いなく国王陛下ですから。わたしがいる限り、陛下には何人なんぴとたりとも、指一本触れさせません。命を懸けてお守り申し上げます。ご安心ください」
 ローテローゼは、玉座の周りに布が垂らされていることに、心底感謝した。
 自分の顔は真っ赤だろう。マティスに守ってもらえることが、こんなに心強く、心地よいとは思いもよらなかった。
「マティス、ありがとう――」
「――御礼なら、あとでキスの一つでも下さい」
「わかった。あとでいくらでも……私室に来い」
 今度は、マティスが真っ赤になった。
「っ……冗談だったのに……」
「え、マティスは冗談でキスをするのか?」
「そ、そこですか!? いえ、わたしはいつだって陛下に対しては本気ですよ。本気でキスを賜りたく」
「わ、わかった……あとで、私室へ来て」
 二人の横にいた宰相は、盛大なため息をついた。
「これ……マティス、しっかりしなさい。宮廷騎士ともあろうものが、その程度でうろたえてどうする」
「は、はいっ……失礼いたしました!」
 マティスは、大暴れしはじめた己の心臓辺りをぎゅっと抑えた。
 宰相は、再びため息を吐いた。
 玉座の周りに垂らした布のおかげで陛下の様子はさっぱりわからない。そのため、傍から見ればマティスが一人慌てているように見えるだろう。
 何があったのか訝しんでいる人がいるのではないかと、宰相は素早く周囲を見渡したが、幸い、マティスの様子を気に留めた人は居ないようだった。
「マティス、布越しだけどあなたが動揺しているのがわかる。しっかりしなさい」
「へ、陛下こそ……声がひっくり返って……」
「だ、だって、キスの約束なんてしたの初めてだし……」
「キスの約束っ……」
 慌てたのか、照れたのか。布の隙間から見たマティスの頬が緩んで赤くなっている。
 珍しいものを見た、と、ローテローゼの悪戯心が刺激された。
 くいくい、と、ローテローゼがマティスの袖を引っ張った。はい、なんでしょう、と、マティスが腰をかがめる。そして、
「ね、マティス。全部片付いたらデートしない? 考えておいて」
 と、囁いた。
「しょ、承知いたしました!」
「うん、楽しい思い出作りましょう」
「は、はいっ」
「玉座で、何をいちゃついているのやら……」
 宰相の言葉に、今度こそ二人が揃って赤面して硬直した。
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