身代わりで男装した王女は宮廷騎士の手で淫らに健気に花開く

酉埜空音

文字の大きさ
上 下
37 / 106

:変な皇子は勘がいいー1:

しおりを挟む
 即位や結婚を祝いに来た女好きの国王が宴会の席で他国の美女を見初める――いかにもありそうなエピソードである。というか、古今東西この手のエピソードは枚挙に暇がない。
 だから、ローテローゼは普段以上にきつく布を巻いて胸を潰し、細い腰にも布を巻いて体形を補佐し、その上からゆったりとしたデザインのジャケットを羽織っていた。
 身代わりとはいえ国王である。弱小国、年若い国王と侮られないよう、かといって尊大だととられないよう、兄の振る舞いをなぞるようにして一挙一動に神経を払う。
「よし……大丈夫」
 宰相が、喉の不調により王がまともに会話できないことを詫び、代わりに挨拶を読み上げ、晩さん会は滞りなく始まった。
 敢えて王のテーブルの周りは薔薇の鉢や蔓薔薇を並べて近寄りがたくしてあるのだが、それでも使者はぞくぞくと挨拶にやってくる。
「ひー……マティス、誰が誰やら……」
 これまで兄とともに外交の場に出ていたから、顔を見た覚えのある人もいる。だが咄嗟に、それがどこの国のだれなのかが、出てこない。緊張も手伝って頭が白くなってしまう。
「ご安心ください。わたしと宰相の頭には入っております」
 宰相とマティスが、さっと視線を交わらせてローテローゼの傍に立った。
「陛下、ザルマ王国のマット王太子殿下と妃殿下のイヴァンナさまがご挨拶をなさりたいとのこと」
 宰相が告げ、三度目のご訪問、友好国です、と、マティスが付け加えてくれる。
 すでにザルマ王国の二人は、にこにこ笑いながらザルマ王国独自の挨拶をしてくれる。ローテローゼもすぐに彼らを思いだし、挨拶を返す。
 一瞬、マット王太子が動きを止めた。がローテローゼはそれに構わず、
「王太子殿下、再来年に王位におつきになると聞いております」
 と、続けた。
「はい。その時はぜひ、ベルナールさまと、ローテローゼさまもご招待しますのでゆったりと遊びにおいでください」
「楽しみにしております」
「その時にはぜひ、ベルナールさまもローテローゼさまも、伴侶をお連れください」
 え! と、ローテローゼの目が丸くなる。王太子は、声を落とした。
「ベルナールさまはレディ・アナスタシアと結婚してみせる! と、このところ書簡で張り切っていらしたから間もなくなのかと。ローテローゼさまは……騎士マティスがお相手だとか」
 返事に慌てるローテローゼにウインクを投げてよこした王太子は、
「ベルナールさまの治世が素晴らしいものになるよう心よりお祈りしております」
 と、はっきりと告げてくれた。

 その次は、明らかに険しい顔をした中年男性が二人。思わずローテローゼの腰が引けてしまう。誰だったかと思い出す前に、相手が勝手に名乗り始めた。
「ドルア連邦代表です。即位おめでとうございます、とだけ申し上げておく」
「遠路はるばる、ありがとうございます」
「ふん、このようなことでもなければ、二度とこの国に来ることはなかった。では失礼いたす」
 くるりと踵を返す態度は、はっきりいって失礼千万、ローテローゼとマティスはぽかんとしてしまうが、宰相や自国の大臣たちは、仕方ないと言った表情だ。
「宰相、何事?」
「そう遠くない昔に、かの国の王女と我が国の国王が大恋愛の末引き裂かれた経緯がありましてな。それ以来、仲直りできておらんのです」
「は、はぁ……」
「しかし、互いに冠婚葬祭や行事のたびに招待しあい、あのような挨拶をかわすのもお約束。交易も順調、民間レベルでの交流も盛ん……と、どこよりも友好国です」
 何とも興味深いその話をもっと詳しく聞きたいが、とりあえずは後回しで挨拶の列を消化していく。
 その挨拶の行列がいったん途絶えたところで、音楽が鳴り始めた。
「な、なに?」
 ローテローゼが思わずキョロキョロし、一か所で視線を止めた。いつの間にか広間の端に指揮者とオーケストラが姿を現しているではないか。
「しまった、陛下! ダンスの時間です」
「え!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...