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:変な皇子は勘がいいー1:

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 即位や結婚を祝いに来た女好きの国王が宴会の席で他国の美女を見初める――いかにもありそうなエピソードである。というか、古今東西この手のエピソードは枚挙に暇がない。
 だから、ローテローゼは普段以上にきつく布を巻いて胸を潰し、細い腰にも布を巻いて体形を補佐し、その上からゆったりとしたデザインのジャケットを羽織っていた。
 身代わりとはいえ国王である。弱小国、年若い国王と侮られないよう、かといって尊大だととられないよう、兄の振る舞いをなぞるようにして一挙一動に神経を払う。
「よし……大丈夫」
 宰相が、喉の不調により王がまともに会話できないことを詫び、代わりに挨拶を読み上げ、晩さん会は滞りなく始まった。
 敢えて王のテーブルの周りは薔薇の鉢や蔓薔薇を並べて近寄りがたくしてあるのだが、それでも使者はぞくぞくと挨拶にやってくる。
「ひー……マティス、誰が誰やら……」
 これまで兄とともに外交の場に出ていたから、顔を見た覚えのある人もいる。だが咄嗟に、それがどこの国のだれなのかが、出てこない。緊張も手伝って頭が白くなってしまう。
「ご安心ください。わたしと宰相の頭には入っております」
 宰相とマティスが、さっと視線を交わらせてローテローゼの傍に立った。
「陛下、ザルマ王国のマット王太子殿下と妃殿下のイヴァンナさまがご挨拶をなさりたいとのこと」
 宰相が告げ、三度目のご訪問、友好国です、と、マティスが付け加えてくれる。
 すでにザルマ王国の二人は、にこにこ笑いながらザルマ王国独自の挨拶をしてくれる。ローテローゼもすぐに彼らを思いだし、挨拶を返す。
 一瞬、マット王太子が動きを止めた。がローテローゼはそれに構わず、
「王太子殿下、再来年に王位におつきになると聞いております」
 と、続けた。
「はい。その時はぜひ、ベルナールさまと、ローテローゼさまもご招待しますのでゆったりと遊びにおいでください」
「楽しみにしております」
「その時にはぜひ、ベルナールさまもローテローゼさまも、伴侶をお連れください」
 え! と、ローテローゼの目が丸くなる。王太子は、声を落とした。
「ベルナールさまはレディ・アナスタシアと結婚してみせる! と、このところ書簡で張り切っていらしたから間もなくなのかと。ローテローゼさまは……騎士マティスがお相手だとか」
 返事に慌てるローテローゼにウインクを投げてよこした王太子は、
「ベルナールさまの治世が素晴らしいものになるよう心よりお祈りしております」
 と、はっきりと告げてくれた。

 その次は、明らかに険しい顔をした中年男性が二人。思わずローテローゼの腰が引けてしまう。誰だったかと思い出す前に、相手が勝手に名乗り始めた。
「ドルア連邦代表です。即位おめでとうございます、とだけ申し上げておく」
「遠路はるばる、ありがとうございます」
「ふん、このようなことでもなければ、二度とこの国に来ることはなかった。では失礼いたす」
 くるりと踵を返す態度は、はっきりいって失礼千万、ローテローゼとマティスはぽかんとしてしまうが、宰相や自国の大臣たちは、仕方ないと言った表情だ。
「宰相、何事?」
「そう遠くない昔に、かの国の王女と我が国の国王が大恋愛の末引き裂かれた経緯がありましてな。それ以来、仲直りできておらんのです」
「は、はぁ……」
「しかし、互いに冠婚葬祭や行事のたびに招待しあい、あのような挨拶をかわすのもお約束。交易も順調、民間レベルでの交流も盛ん……と、どこよりも友好国です」
 何とも興味深いその話をもっと詳しく聞きたいが、とりあえずは後回しで挨拶の列を消化していく。
 その挨拶の行列がいったん途絶えたところで、音楽が鳴り始めた。
「な、なに?」
 ローテローゼが思わずキョロキョロし、一か所で視線を止めた。いつの間にか広間の端に指揮者とオーケストラが姿を現しているではないか。
「しまった、陛下! ダンスの時間です」
「え!」
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