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:厄介なお客さまー3:
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他国へ外交に赴いた自国の皇子が『厄介』の烙印を押されたとなると、国にとって一大事である。
場合によっては外交問題に発展する。ゆえに、自国にいる時以上に立ち居振る舞いには気を配る者が出るのが王族、ひいてはそれが外交の一歩である。
だが、ヴァーン皇子はそんなことはまったく気に留めない傑物であった。
「皇子! いい加減になされませ」
「うるさいぞ!」
皇子は、一挙手一投足フォークの上げ下げから服の着脱、挨拶や歩き方に至るまで一事が万事口うるさい乳母のタターニャを従えて、後宮をふらふらと勝手に散策していた。
周囲の人々より頭一つぶん飛び出た長身、肩幅も広くがっちりとしている。
全体に角ばった印象の顔立ちであり、目も眉毛もキリリと吊り上がっている。そこへきて、黒い髪をツンツンと天に向かって逆立てて、眉毛まで上向きにセットしているものだから、必要以上に『縦長』に見えてしまう。
「皇子! 案内も請わずに他国の宮を覗き込むとは無礼千万ですよ」
「何を言うか。案内してくれそうな美女を探しているんだ」
「美女である必要性は全く感じられません。正式に、宰相さまか議長さまに案内のものを頼むのが筋です。お部屋に戻りましょう」
「ふん、うるさい!」
そこへ運の悪いことに、この国の侍女が一人大荷物を持って走ってきた。まだあどけない、少女といって良い年齢だろう。大きな籠には布がたくさん入っている。どうやら前がよく見えていないらしい。
にやり、と、笑ってヴァーン皇子はわざとその少女にぶつかった。
「きゃあ! お客様――ヴァーン皇子殿下、失礼いたしました」
まっかになった少女は、慌てて廊下の隅に寄って異国の皇子に道を譲る。
「どうだ、婆! 道案内の者がみつかったぞ」
「――皇子、無作法が過ぎます。見つかったとは申しません」
皇子は、少女の前で仁王立ちになった。
「おい、女。名は何という」
「か……カタリナにございます」
「王女の部屋に案内しろ」
「え?」
「ローテローゼ王女だよ。巨乳で美貌の王女……あの体を味わいたくて、俺は遠路はるばるやってきたんだ。ドレスを剥いて王女の胸を揉むのは男としての外交作法だろう? ナカヨクなれる」
「お、お言葉ですが、ローテローゼさまは現在、お城にいらっしゃいません」
「そんなことはない。双子の兄が即位するというのに城をあける馬鹿はいないだろう。この城のどこかに必ずいる。探しだして俺に知らせろ」
当然タターニャがすかさず静止しカタリナに謝罪するが、その程度で言うことを聞くような皇子ではない。乳母に向かって悪口雑言を並べ立てる始末だ。カタリナはすっかり青ざめて固まってしまっている。
「いいか、カタリナ。お前が適当なことをすれば、俺は父上に、ノワゼット王国は礼儀知らずの国です、と、報告する。血気盛んな父上は、息子が粗略に扱われたと怒り、戦を仕掛ける――かもしれん。わかったな?」
そんなことがあるはずないでしょう、と、タターニャが言うが、少女の耳にも皇子の耳にも届かない。
「わかったな?」
襟をつかんで凄まれて、カタリナはこくこくと頷く。
「ふぅん……あんた、かなり可愛い顔をしているな――乳も大きい。よし、決めた。俺を楽しませろ」
ヴァーン皇子は、乱暴に侍女の体を担ぎ上げた。カタリナが抱えていた荷物が散乱する。
「きゃああ!」
「ローテローゼ王女が見つかるまで、お前で我慢してやる」
手近な部屋に転がり込み、ベッドに侍女を下ろす。
「いやぁ……!」
「他国の皇子を拒否するとは躾のなってない国だな。よし、俺が調教して淫らな雌豚にしてやろう。なに、すぐに俺の虜になるさ。俺に抱いてほしくて、いつでも腰を振ってねだるようになる」
あまりにあんまりな言い草に、少女はぶるりと震えた。
場合によっては外交問題に発展する。ゆえに、自国にいる時以上に立ち居振る舞いには気を配る者が出るのが王族、ひいてはそれが外交の一歩である。
だが、ヴァーン皇子はそんなことはまったく気に留めない傑物であった。
「皇子! いい加減になされませ」
「うるさいぞ!」
皇子は、一挙手一投足フォークの上げ下げから服の着脱、挨拶や歩き方に至るまで一事が万事口うるさい乳母のタターニャを従えて、後宮をふらふらと勝手に散策していた。
周囲の人々より頭一つぶん飛び出た長身、肩幅も広くがっちりとしている。
全体に角ばった印象の顔立ちであり、目も眉毛もキリリと吊り上がっている。そこへきて、黒い髪をツンツンと天に向かって逆立てて、眉毛まで上向きにセットしているものだから、必要以上に『縦長』に見えてしまう。
「皇子! 案内も請わずに他国の宮を覗き込むとは無礼千万ですよ」
「何を言うか。案内してくれそうな美女を探しているんだ」
「美女である必要性は全く感じられません。正式に、宰相さまか議長さまに案内のものを頼むのが筋です。お部屋に戻りましょう」
「ふん、うるさい!」
そこへ運の悪いことに、この国の侍女が一人大荷物を持って走ってきた。まだあどけない、少女といって良い年齢だろう。大きな籠には布がたくさん入っている。どうやら前がよく見えていないらしい。
にやり、と、笑ってヴァーン皇子はわざとその少女にぶつかった。
「きゃあ! お客様――ヴァーン皇子殿下、失礼いたしました」
まっかになった少女は、慌てて廊下の隅に寄って異国の皇子に道を譲る。
「どうだ、婆! 道案内の者がみつかったぞ」
「――皇子、無作法が過ぎます。見つかったとは申しません」
皇子は、少女の前で仁王立ちになった。
「おい、女。名は何という」
「か……カタリナにございます」
「王女の部屋に案内しろ」
「え?」
「ローテローゼ王女だよ。巨乳で美貌の王女……あの体を味わいたくて、俺は遠路はるばるやってきたんだ。ドレスを剥いて王女の胸を揉むのは男としての外交作法だろう? ナカヨクなれる」
「お、お言葉ですが、ローテローゼさまは現在、お城にいらっしゃいません」
「そんなことはない。双子の兄が即位するというのに城をあける馬鹿はいないだろう。この城のどこかに必ずいる。探しだして俺に知らせろ」
当然タターニャがすかさず静止しカタリナに謝罪するが、その程度で言うことを聞くような皇子ではない。乳母に向かって悪口雑言を並べ立てる始末だ。カタリナはすっかり青ざめて固まってしまっている。
「いいか、カタリナ。お前が適当なことをすれば、俺は父上に、ノワゼット王国は礼儀知らずの国です、と、報告する。血気盛んな父上は、息子が粗略に扱われたと怒り、戦を仕掛ける――かもしれん。わかったな?」
そんなことがあるはずないでしょう、と、タターニャが言うが、少女の耳にも皇子の耳にも届かない。
「わかったな?」
襟をつかんで凄まれて、カタリナはこくこくと頷く。
「ふぅん……あんた、かなり可愛い顔をしているな――乳も大きい。よし、決めた。俺を楽しませろ」
ヴァーン皇子は、乱暴に侍女の体を担ぎ上げた。カタリナが抱えていた荷物が散乱する。
「きゃああ!」
「ローテローゼ王女が見つかるまで、お前で我慢してやる」
手近な部屋に転がり込み、ベッドに侍女を下ろす。
「いやぁ……!」
「他国の皇子を拒否するとは躾のなってない国だな。よし、俺が調教して淫らな雌豚にしてやろう。なに、すぐに俺の虜になるさ。俺に抱いてほしくて、いつでも腰を振ってねだるようになる」
あまりにあんまりな言い草に、少女はぶるりと震えた。
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